壱、非現実と隣り合わせな君のセカイ
仁坂国とは
世界有数の先進国。技術クラスは世界トップクラスで世界中の企業が仁坂国に工場を建設し、その経済効果によって発展している。
国の頂点には皇帝が君臨しているが、主な行政などは総理大臣が皇帝に代わって勤めている。
冬木原市とは
仁坂国に中央に位置する市。
総人口は約二千五百万人。
国で一番発展している都市で、経済発展地区として制定されている。よって地方から様々な人々が冬木原市にやってくる。
大型ショッピングモールやオフィス街、住居地区がこの冬木原市には混在している。
そればかりではない、この冬木原市は国の重要機関も設置されていることから、国の心臓部という役割を担っている。
そのような理由から冬木原市独自の条例が国によって制定されている。他の地区とは違った法もあるので、このガイドブックを隅から隅までよく読んで、注意していただきたい。
《冬木原市ガイドブックより》
あれから妃沙羅と別れて二週間ほど経ったが特に変わったことは特に無く、俺はいつも通りの日々を送っていた。
「さて、運命の開封タイムゥ。ドンドンパフパフ。……はぁ」
重苦しい雰囲気で俺は今日届いた企業からの六通の封書を一通ごと開封する。
【神崎出版にエントリーありがとうございます。大変申し訳ありませんが、不本意ながら貴殿の採用を……】
それまで見て通知の紙を破り捨てる。気を取り直して次の封書を開ける。
【誠に申し訳ありませんが、採用を……】
ビリッ。
【申し訳ありませんが……】
バリッ。
【採用を……】
グシャ。
【ご期待に添えない……】
ビリビリ。
【小売業の観点から貴殿を選考しましたが……】
モグモグ。
「ウメェエエエエエ……って、もう嫌だこんな生活」
俺は床に手を付き、絶望のポーズ。
今なら土下座が世界一うまく出来そうな……気がする。
「これで三十五連敗かぁ。また情報誌を片っ端から探して面接を受ける生活が始まるのかぁ。
ああ、もう! いつなったらマシなご飯が食べられるのだろうぉぉぉぉぉおおおおおお!」
チクショウ! とか言いながら床を拳でガンガン叩く。
「ちょっと勝原さん! 下にまでひびいてるんですけど!」
大家がいきなり扉を開けて怒声を発する。
これだから防音が皆無に等しい安い賃貸アパートは困るんだ、しかも大家さんの声のほうが絶対煩い。
「あとね勝原さん、今月の家賃の請求もうすぐだからきちんと払ってくださいね!」
バタンとドアを勢いよく閉め、大家は去っていった。俺はため息を漏らす。
「嗚呼、今月払えるかなぁ。お袋に掛け合ってみるか」
俺は親に交渉する為、携帯電話を取り出し、実家に電話を掛けた。
「はい、勝原ですけど?」
若々しい声が電話の先から聞こえてきた。妹の実鶴の声だ。
「実鶴、俺だ、お袋にかわってくれ」
そう言った途端、妹の声が一変する。
「お兄ぃ、私はお兄ぃのこと信じていたのに……」
涙交じりの声、俺には何が起こったのか見当が付かない。
「おい、泣くなよ。俺が何かしたか?」
「お母さんに代わる」、と涙交じりの妹はお袋に受話器をバトンタッチした。
「あんたぁ! なんで警察さんがあんたを捜索ような事を仕出かしたのよ! わたしゃ、あんたをそんな子に育てた覚えがありません!」
お袋からの罵声に、俺はいよいよ何が起こっているのか分からなくなった。
何で警察が俺のことを捜してるんだ? 俺には全然覚えがないのだが……
「ちょっと待てお袋。話が全然見えないのだけど?」
「言い訳は必要ありません! とにかくお前の居場所は教えておいてあげたからね! 一回牢屋でもぶち込まれて反省してこい!」
ブチッと電話は切れた。
なんでだよぅ、とまた俺は絶望のポーズ。
「これで仕送りの道が途絶えたのか。絶望的だぁ……」
はぁ、と重いため息をつく。
ため息をつくと幸せが逃げると言っていたなぁ。俺の幸せはもうすでに在庫切れということか? 嗚呼、考えるだけで嫌気がさす。
「仕方がない、気晴らしにコンビニへ買出しにでも行って来ようか」
そう思い、俺は財布を持って外へ出る。
暦はもう九月だと言うのに暑さが残る。俺はじっとりと汗をかきながらコンビニへ向かう。
ふと、辺りを回すとなんだか皆が俺をじろじろ見ている気がする……気のせいか?
「あの……でしょ……ぜっ……うよ」
「そう……な……した……けど……最近ぶっ……よね」
「最近の若い子は……する……ないからね」
「そういえば、向かいの……さんの息子さん……に手を出したらしいわよ」
「まぁ、それ……さんの奥さん泣いている……ね」
井戸端会議中のおばさんの横を通り過ぎると、ヒソヒソ声が聞こえてきた。どうやら俺を見てヒソヒソ話をしている様子だった。なんでだろうと俺は首をかしげた
「お母さん。なんでみんな、あのお兄ちゃんのことをじっとみつめているの?」
前方で幼稚園の服に身を包んだ男の子が俺に指を指し、母親に訊ねているのが見えた。俺がそれに気づいて男の子の方を見ると、母親が慌てて男の子を叱る。
「こらっ、人に指を指しちゃいけません。ついでに、このお兄さんに関わっちゃいけません」
男の子は不満そうな声を上げる。母親はお菓子買ってあげるから行きましょうと男の子を引っ張るように去っていった。
一体全体、何がどうなっているんだ? そんな疑問を残しつつ、俺はコンビニへと辿り着いた。
「いらっしゃいま……あ……」
コンビニの店員が俺の顔をみて、『あ』と声を漏らす。俺が店員の顔を見ると店員は慌ててレジ袋を積み重ねる作業を始めた。
「ここでもか、俺何か悪いことでもしたかな」
そう俺は考え込むが、とくにそんな目立ったことはした記憶はない。最も、目立つことは大の苦手だから、目立とうとは絶対に考えないけど。
「考えても仕方ないか……さて、買出しっと」
俺は必要最低限の食料と飲料をカゴの中へと入れていく。次第にカゴの中は携帯食料と水で埋め尽くされていく。少しは栄養のある弁当などを買えばいいのだが、高いので俺はなかなか手が出せない。
「自炊すべきなんだろうなぁ。でもなぁ、スーパー遠いから米が買えない事がネックだな」
そう思いつつ、粗方買いたいものが買えたのでレジへと歩みを進める。俺が近づいてきたことを察知したらしく、挙動不審な動きを始める。
「い、いらっしゃいまーせー。一名様ごあんなーい」
あまりにも混乱しているせいか、店員がさらに暴走を始めた。これは早く店を出たほうがいいよな、店員さんのためにも。
レジ会計を手早く済ませ、俺は店を出る。最後に店員をちらりと見ると、口から煙を出して崩れ落ちた。ごめん、店員さん。これは何かの陰謀なんだ。だから俺は一切悪くないんだ、と心の中で思いながらコンビニを後にした。
コンビニを後にした俺は家へと歩みだす。また周辺住民の皆さんにじろじろ見られながら帰らないといけないか、そう思うと憂鬱になるな。
予想通り、周辺住民の皆さんは俺に熱い視線を注いでくる。
しかし、それから先の現実は俺の予想の遥か上をいっていた。
「さっきは君のこと噂してゴメンね。おばさん、罪な女よね」
「君がそんな人だったなんて知らなかったから疑ったりしてごめんね。これ今さっき作った煮っころがしだからよかったら食べて?」
いきなり、井戸端会議をしていたおばさん達が俺のところまで歩み寄ってきて煮物が入った容器を手渡して謝罪をしてきた。
あれ? コンビニへ入る前とえらい違いだなぁ。しかも、食料もくれるし。
「あっ、どうもすいません」
俺も一応煮物をくれたお礼を言う。お礼を言われたおばさん達は、キャーと黄色い声を発し、家へと逃げ込んでいった。
「いきなりこの変わりようはなんだろう? 俺がコンビニへ入店していた間に一体何が……」
そんなことを考えていると、誰かに服を引っ張られる。振り返るとそこには、さっき俺のことを指差していた男の子が立っていた。
「お兄ちゃんって凄いんだね! 颯太、大きくなったらお兄ちゃんみたいにカッコイイ人になる!」
男の子が目を輝かせて俺のほうを見る。俺、そんなにカッコイイことなんかしたか? 先日のオタク狩りを捕まえたことかな? でも、あれは新聞にも取り出されていなかったから、知っている人はそんなにいるわけ無いよなぁ。
色々と疑問が残る中で男の子は笑顔で俺に手を振って去っていった。俺はつられて手を振り返す。
「さて、これ以上人に遭遇したら大変なことになりそうだから、急いで家へ帰ろうっと」
俺は駆け足で自分の家へと帰り、薄い布団に転がる。
「コンビニへ買出し行っただけなのに今日は疲れたなぁ。ちょっとだけ寝ようかなぁ」
そうして俺は布団に寝転がり、掛け布団を掛けると眠りへ堕ちた。
カンカンカンカンカンカンカン……
「ん? 何の音? というか今何時……」
俺はもぞもぞと手探りで目覚まし時計を捜索する。やっと目覚まし時計を捕まえると、まだ完全には覚めていない目で懸命に時計の針を凝視すると、午前七時。
「うわっ! ちょっとどころか結構寝てた!」
嗚呼、深夜アニメを見忘れた……今日は主人公の出生について触れる重要な回だったのに、こういうときに限って見逃すなんて、最悪だ。
カンカンカンカンカンカンカンカン……
「それにしても朝から騒がしいなぁ……階段で運動にしては音量がデカイし」
俺がそう考えていると鉄製の階段特有のカンカンという足音は多重和音になって、この部屋に迫ってきた。
音から察するに一人二人っていうレベルではないらしい。
「うわっ、何かの大群が迫ってくる。もしかして、昨日お袋が居場所を教えたという警察か! ど、どうしよう。いや、俺は何にもわるいことなんてしてないし、落ち着け、落ち着くんだ俺」
気持ちを落ち着かせようと目を閉じるが大群がこの部屋まで迫ってくると考えるとさらに気持ちが焦りだす。すると、ノック音。
「勝原柊次君いるかね? いるのだったら、大人しくこのドアを開けなさい!」
男の声でドアを開けるように催促する。大人しく開けたらきっと俺は何処かに連行されていくという最悪のシナリオが頭の中を駆け巡る。
「ぼきゅ、ちゅうじじゃないお。おへやをまちゅがえちゃんじゃにゃいのでしゅか?」
ドアを開けたくないので嘘をつく。しかし、あまりの緊張感で呂律がまわっていない為、何を言っているのか分からないからか、相手側には全く伝わっていないという様子だった。
「三つ数えるうちに我々の要求に応じないのであれば、強行突破する!」
強行突破ですと! 駄目それは絶対に駄目。
「いくぞ……一・二・三! では、これから強行突破を開始する」
ドア越しの男はリズム良く数字を刻む。普通、ゆっくり数字を言いませんか? こういう場合……という俺のツッコミは聞き入れてくれる雰囲気ではなかった。俺、人生最大のピンチ!
「あぁぁぁあああああ! なんかもう嫌だぁぁぁあああああ!」
そう俺が叫んだとき、ドア越しから突撃という号令。
すると俺の玄関のドアをぶち破って二十人位の軍人が銃を持って押し入って来た。
俺はさらに焦る。軍人の長らしき立派な鼻髭を蓄えた目には黒い眼帯を付けた人から構えという声が……
「ご、ご、ごめんなさぁぁぁぁあああいぃぃぃいい。もう悪いことなんてしないから許してぇぇええええええ」
無実を晴らすどころかありもしない罪の自首をする。
お、俺の人生終わったな。と俺は下を向きに倒れこむ。
「やっほー柊次。お礼を言いに来たよ♪」
俺が絶望に浸っていたそのとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声に顔を上げると、そこには妃沙羅が立っていた。
「チャオ、元気?」
妃沙羅が俺の目の前にやってくる。
そして俺に向けてニコッと笑う。俺は一気に涙目。
「こ、こ、こ……怖かったよぉぉおおおおおおおうううううぅうぅぅ……えぇぇぇぇえええええんんん」
一気に緊張が解け、ついでに涙腺も崩壊。妃沙羅に抱きつき、えんえんと泣く。
ったく、少女に抱きつき号泣するいい歳した男って俺くらいなんだろうなぁ……情けないな俺。
「よしよし、ちょっと吃驚させようと思って来たのだけど、ちょっと吃驚させすぎちゃったね。ごめんなさいね」
妃沙羅が俺の頭をやさしく撫でる。それに感動し、また号泣。
「いい加減泣き止んで離れないと、マジで頭を打ち抜いちゃうぞ☆」
なかなか泣き止まない俺に妃沙羅はイラつき、軍人から奪った拳銃を俺のこめかみに突きつけドスの効いた声で脅す。
俺は反射的に妃沙羅から離れる、気づけば頬には冷や汗が伝っていた。
「す、すみましぇん。自重します」
「よろしい……えへへ☆」
妃沙羅がにっこりと微笑みかける。
お、女って怖ぇえええええええええ!
この日を境に俺は、女が世界一恐ろしいという世間の常識をようやく身を持って実感することが出来た。
お、俺、大人の階段を上ったのか?
「今日訪ねてきたのは他でもありません。前のお礼に来たのでありますよ」
妃沙羅がかしこまった口調で告げる。妃沙羅さーん、かしこまった口調というのは分かるのだが、言い方変ですよ。
そうとは言えず、そうなんだ……わざわざありがとう。と返す。
「あ、そうだ。何点か質問があるんだけど、いいかな?」
俺が妃沙羅に質問を投げかける。
「はい? 何でありますか?」
「俺の実家に警察から電話が来たらしいのだけど、それって妃沙羅の仕業?」
「そうですが、何か問題でもありんす?」
妃沙羅がサラッと答える。いやいや、サラッと答えられたらこっちも返しに困るのだが。この様子だと、きっと周辺住民の皆さんの様子がどことなくおかしかったのもきっと妃沙羅のせいなんだろうなぁ……と俺は考えていた。
「いやぁ、お袋と妹に俺が犯罪犯したと勘違いされているっぽいのだよねぇ。誤解を解いて欲しいなぁ~なんて思ってみたりして」
俺がそう返すと、妃沙羅は表情が今までの笑顔から一変、おぞましい顔に変わる。そして無言で携帯を取り出しどこかに連絡を取る。
「サラだけど、柊次の実家に電話を掛けたのはアンタよね? 一体なんて言ったの?」
ドスの聞いた声で電話の相手を脅す、妃沙羅。あれ? 俺、もしかして、もしかしなくても、言ってはいけないことを言ってしまいまちたか?
「事情聴取をするから住所を教えろと言ったですって? それじゃ、誤解するのも当然じゃない! ちゃんとそこら辺は配慮しろって私何度も言ったわよね?」
妃沙羅を纏うオーラが徐々にどす黒いものへと変化していく。電話の相手はきっとその瘴気に当てられて今頃必死に妃沙羅に謝っているのだろうというのが容易に想像できた。ごめん、誰かも知らぬ人、俺の一言で妃沙羅の瘴気に当てられて。
「ちゃんと、柊次の実家には謝罪の電話をいれること! いいわね? 出来なかったら防衛隊が管理しているアンタの会社の機密文書、外資企業に売りつけるわよ! 分かったらとっとと行動すること!」
そういって妃沙羅は勢い良く電話を切る。はぁ、とため息をつき、俺に謝罪する。
「ごめんね。実家には連絡して柊次の居場所を尋ねようをしたのだけど、何かの手違いで変なことを親御さんに言ったみたいなの。ちゃんとこれから謝罪の電話を入れておくように脅しておいたから誤解も解けるはずよ。本当にゴメンね」
そ、そうなんだ。いいよ気にしなくて、としか俺はいえなかった。
「も、もう一つ質問なんだけどさ。俺がコンビニへ入る前と入った後に周囲の状況がガラっと変わったんだけど、何かやったの?」
俺のもう一つの質問に妃沙羅は目線を逸らし、顔を掻く。
「それはえーっと、なんと言ったら良いかしらねぇ。……で……をしたからよ」
妃沙羅の声は後半になってドンドン小さくなり、俺は聞き取ることが出来ない。
「え? 後半聞こえなかったんだけど、なんだって?」
「あっ、そうだ。今日は持ってきた物があったんだわ!」
妃沙羅は俺の言葉を遮って、鞄から何かを取り出す。
「これ、つまらない物ですが、どうぞであります」
と妃沙羅はまた変な口調を戻して茶封筒を俺に差し出す。完全に俺の質問ははぐらかされた訳だ。
「何コレ?」
「ふふふ……開けてみてよ」
妃沙羅が満面の笑みで俺に封筒を開封するように急かす。
い、一体何が入ってるんだ? と不安交じりで茶封筒を開封すると、そこには一枚の紙切れが入っていた。
【勝原 柊次殿
能力等を判断いたしまして、貴殿におきましては是非とも『冬木原第一防衛隊』に入隊して欲しいと思い、採用とさせていただきます。
冬木原第一防衛隊 隊長 金平純作】
え? と俺の頭にはクエスチョンマークがびっしりと並んでいる。
「い、一体コレはどういうことっすか? 妃沙羅たん」
突然のことに妃沙羅のことを『たん』付けする俺。
「何って……内定通知だけど?」
妃沙羅はあたかも当然のように言う。
な、な、な、な、な、内定通知だってぇぇぇえええええ!
生まれて初めて貰う内定通知に驚いて俺のキャラがおかしくなってしまう。
「な、な、な、な、な、なんでぼくちんに仕事が無いってこと知っているのぉぉぉおお」
「え? 冬木原第一防衛隊の情報収集能力を甘く見てもらっちゃ困るわねぇ」
えーっとねぇ……と言いながら、妃沙羅は携帯電話を取り出し、ピコピコと操作をする。
「勝原柊次。七月二日生まれの二十五歳。B型。頭脳明晰で名門国立大学と大学院に通うが、就職活動に失敗し、現在無職。
今になっても採用試験に度々トライするが、会社サイドからは扱いにくいという理由だけで、不採用にされることが多い」
妃沙羅がペラペラと俺の個人情報を話し始める。
知られたくない物ばかりだぁ。特に後半。本人に知らされていない情報まで公開されたものなら、誰だって凹むよ、本当に。
「どう? これでも情報収集能力を信用しないと言うのなら、さらに恥ずかしい情報まで公開しちゃうぞ☆」
妃沙羅がさらに携帯電話をピコピコ弄り、俺の個人情報情報を閲覧していく。
「きゃっ、こんなものまで調べられちゃうんだねぇ。言っちゃっていいのかなー? でも、サラこんなこと言えないなぁ」
妃沙羅が少し顔を赤くして携帯電話を眺めている。
俺の体中には焦りの汗が滲み出る。
一体なんの情報なんでしゅか、妃沙羅たん。
「えーっと、彼女が出来たことがなく、未だに童て……」
「あぁぁぁああ。信じる、信じるからそれ以上言わないでぇええええ」
俺は涙目で妃沙羅の話を静止させる。
俺の一番知られたくない情報を……。俺、お婿に行けない。
「ふふっ、分かればよろしい」
妃沙羅は不敵な笑みを浮かべる。
やっぱり女って怖い。
「内定をもらえたのは嬉しいのだけど、受けてない企業に合格するっていうのはちょっとなぁ。俺で本当にいいの?」
俺は恐る恐る妃沙羅に訊ねる。
「そこら辺は大丈夫よ。ちゃんと能力とかの調査もしたし、柊次には実績があるでしょ?」
「へ? 実績?」
「忘れたの? 例の高校生を追っかけていたやつよ。アレを隊長に報告したら、入隊して欲しいって言ったのよ」
妃沙羅がそう答える。
俺は、なんだそうなんだ、と安堵のため息。これで、定職に就けるのか、やっと俺の苦労が報われる時が来たんだな、と俺は心の中で感動に浸っていた。
親にも心配かけたし、これから親孝行もしないとな……
だがしかし、妃沙羅はさらに話を続ける。
「そう、言ったら綺麗な話になるわよね」
「え? 今なんて?」
と俺は妃沙羅に問う。
「だから、そんな美談だったら涙をそそるじゃない?」
妃沙羅が爆弾発言を放った。
「え、えーっと、つまりどうゆうこと?」
再び俺が妃沙羅に問い返すと、妃沙羅は恰も当たり前だと言う表情でこう告げた。
「隊長が入隊して欲しいって言ったのは丸っきりの嘘。隊長に言ったらちゃんと段階を踏んでない奴をいきなり入らせることは許さん! とか言っちゃってダメだったの。
ちなみにその内定通知は私が偽造で作っちゃったぜ☆」
てへっ☆と、右手で後頭部に沿え、舌を軽く出してぶりっ子をアピールする妃沙羅。
くっ、可愛くアピールしても、だ、ダメなんだからね。
「だったら、内定通知も紙切れ同然じゃないか。ちょっと喜んで損したような気が」
俺が深いため息をつく。
「大丈夫、秘策があるから」
妃沙羅の顔には何かを目論んでいるかのような表情を浮かべる。
秘策って、すげぇ不安だ。
「取りあえず、行ったら分かるから」
妃沙羅が大きいずだぶくろ頭蛇袋と取り出しニマニマとした表情。
妃沙羅しゃん、まさかその中に入れとか言いませんよね、と俺は冷や汗を流しながら後ろに下がる。
「その、ま・さ・か☆」
そう言って、妃沙羅は俺を頭蛇袋で包む。そして入り口をキュッと閉じる。
コレでは文字通り拉致である。
閉所と暗所に対して恐怖心がある俺にはこれが効いた。
「いやぁぁああああ、出してぇぇぇぇえ。狭いし、暗いし、怖いよぉおおおおおおお」
俺は恐怖のあまり頭蛇袋の中で暴れる。
そうだ、またゲートを作って脱走しようと俺はポケットから油性ペンを取り出して脱出口を作り出そうとしたが、そのことを妃沙羅はすばやく察知したらしく、
「マイケル、トドメを」
妃沙羅がそう言うと、イェッサ! と男の声が聞こえ、俺のみぞおち鳩尾を的確に攻撃する。
「マイケルって……だ……れ?」
俺は意識を手放した。
それは深い、俺の中の奥に秘められた記憶。
暗い……怖い……
体も重い……
目の前に見えるのは体に繋がれて居るたくさんの管。
その管からは体内へ何かが注がれている。
何が……注がれているの?
目で管を追って行くとそこには【固定液】という文字が映る。
固定液ってなに?
何を固定したの?
周りの黒い影達は俺の体に触れたりしている。
一体コレは何?
そんなことを考えていたら腹部に疼きが走る。
な……に、お腹が痛い……
ふと、腹部に目をやれば、
腹部の傷口が次第にめくれていって……
大きな隙間が出来……
そこからは……
子供らしき顔がこちらに顔を覗いていて、俺に向かって手招きをしてくる。
『ネェ? オ兄チャンアソボウヨ?』
「うわぁぁあああああああああ」
俺は勢いよく飛び起きる。
「いたたたたた……」
マイケルに攻撃された鳩尾が飛び起きた瞬間響いて、うずくまる。
「ってか、マイケルって一体誰だったんだよ! あれ、ここは何処だ?」
起きて辺りを見回してみると、周りにはベッドが五台ほど並べられてあった。
また消毒液等の特有の匂いが立ち込めていることから、どうやら医務室らしき場所で寝かされていたらしい。
「薬品の匂いを嗅いでいたから、またあの夢を見たのか、最近見てなかったのになぁ。
久々に見るとさすがに効くな」
俺の頬には一筋の涙が伝う。
おっといけない、と流れた涙を袖でゴシゴシと拭う。
ところが袖の材質に違和感。
「うぉっ、袖の質感が違うなぁとか思っていたら、着替えているじゃん!」
いつの間にかヨレヨレの部屋着からパリッとした病院着らしい服装に着替えさせられていた。
「それにしてもあの夢は一体何だろうな。腹部から子供が出てくるあの夢……」
そう思って右わき腹の手術痕をそっと手で触れる。
「というか、この手術痕がいつから出来たか覚えてないんだよなぁ……気がつくと出来ていたしなぁ……不思議だよなぁ、手術した覚えなんてないのに」
まじまじと手術痕を見る。
すると、手術痕から黒い手が伸び、俺の顔を覆おうとする。
「うわぁあああああ」
俺は悲鳴を上げる。
「きゃっ。だ、大丈夫ですか?」
はっと我に返り振りかえると、そこには黒髪セミロングの女の子が心配そうに立っていた。
右わき腹の手術痕を見ると特に変わった変化は無かった。
気のせいだったのか?
「え、えーっと、大丈夫だと思うよ」
「そ、そうですか。寝ているときも随分うな魘されていたみたいだったので心配だったんですよ。大丈夫なら良かったです」
女の子が黒髪を揺らし軽く微笑みかける。
彼女の可愛らしさに俺は思わず見とれてしまう。
「私、尾崎未来と申します。冬木原第一防衛隊で事務の仕事や医務室の管理をしています。
初めまして、勝原柊次さん」
未来ちゃんが面識の無かった俺の名前を読んでいることに俺は驚いてしまう。
「え? 初めて会ったのに何故俺の名前を知っているの?」
俺の驚いている表情を見て、未来ちゃんがクスリと笑う。
「あなたを袋詰めで持ってきた、サラちゃんからあなたの名前を訊いたんです」
なるほど、妃沙羅から訊いたのか。
あれ? そういえば妃沙羅の姿が見えないなぁ、アイツ何処いったんだ?
「サラちゃんだったら、あなたを入隊させるかどうかについての話し合いを純作隊長としている真っ最中だと思います。もう少ししたら、医務室に来られると思いますよ」
未来ちゃんがニコリと俺に微笑みかける。
やべぇ、かわいいなぁ。かわいい過ぎるよ、未来ちゃん。暴力的な妃沙羅とは違って可愛いというオーラが全体から出てきているし。
「誰が、かわいすぎるですって?」
ドーンという音とともに扉が勢いよく開き、妃沙羅がドシドシという足音を鳴らし、俺の元に歩み寄って来る。妃沙羅しゃま、何故そんなに殺気を纏っておられるのじゃ?
「私がいない間に柊次は未来と随分と仲が宜しくなったようで……
おかげで柊次の息子さんも随分とテンション上がっているわね。テント張っているくらいだから」
妃沙羅が俺の下半身に目を落とし、俺の息子を凝視。
俺は急いで息子を手で覆う。
「男のさが性だから仕方ないことなんですぅ、というか凝視しちゃらめぇ」
妃沙羅はその滑稽な光景を見て笑う。未来ちゃんも妃沙羅につられて笑っていた。
うぬぅ、女の子に馬鹿にされるなんて何たる不覚ですにゃ。
「ところでサラちゃん、隊長との協議はいかがでしたか?」
未来ちゃんが妃沙羅に尋ねる。
「最初は駄目だの一点張りだったわよ。何を言っても聞こうとしなかったし、全く頑固はこれだから困るわよね」
妃沙羅がため息を漏らす。
「でもやってみるものね、しつこく頼んでみたらとうとう折れたみたいだわ。条件付で柊次を入隊させることを許可してくれたの」
これも私の執念のおかげね、と妃沙羅は自慢げに言う。
「柊次さん良かったですね。一緒に働けますね」
やっほーい。未来ちゃんと一緒に働けるなら俺このまま昇天しちゃいます。
「なんか、私の存在忘れていません? 一応言っておくけど、ここで働けるのは私の働きがあってのことなんだからね!」
妃沙羅がじぃーっと俺の方を凝視。乙女の視線を猛烈に浴びすぎて俺、あまりの恥ずかしさに妊娠しちゃいそうだ。
「男は裏技を使わない限りは子どもは出来ないから安心しなさい。それより、入隊条件聞かないでいいわけ? 結構重要なんだけどなぁ」
妃沙羅がツンとそっぽを向く。
「す、すいましぇん、教えてくだしゃい」
俺は土下座で妃沙羅に頼み込む。妃沙羅ははぁ……とため息を漏らし、俺に呆れた顔で話を続ける。はぁ……俺ってなんでこんなキャラなんだろう。
「条件っていうのは、これから出す任務をこなす事よ。それが出来れば隊長が入隊を許可してくれるらしいわよ」
妃沙羅が指令の書かれているらしき紙を見ながら俺に告げる。
「で、その指令内容とは?」
俺は妃沙羅に訊ねると妃沙羅は紙をまじまじと見ながらこう答えた。
「指令というのは……アイドルの護衛らしいわね」




