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I don't know  作者: 河内音子
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5

その日の夜に夢を見た。

私が小学生の頃の嫌な記憶。

そして、水族館でみたパパの笑顔……。


起きたら時計はすでに十時を指していた。

うなされたせいで汗かいて気持ち悪いし、今日はもう休もう……。

学校にもう大分遅いけど休むって電話して一日だらだらして過ごすことにした。

一日ゆっくりできるっていうのになんだか夢のせいもあって気分がさえない。

それに……なんだか寂しくて誰か来ないかなぁなんて思ってみたり。

だけど絵美は学校だし、秀悟も学校だし誰も来てくれるはずがない。

遅刻しても学校行けば良かったかなぁ……。


そんな時急にエントランスのところに人が訪ねてきたチャイムの音がした。

こんな平日の昼間から何だろうと思いながら受話器をとる。

「はい、小池ですけどどちら様ですか……」

『木本ですが……絵美?』

「あぁいらっしゃい……ん? 秀悟!? 学校は? とりあえず上がってきて」

急いでロックをはずした。

まさかとはおもうけど学校さぼったのかなぁ……?

今度は玄関のチャイムの音。あけてみればやっぱり秀悟がいる。

「ねぇ、何で秀悟がいるの??」

「せっかく見舞いに来たのに一言目がそれ?」

そうか、見舞いに来たのか……

「ありがとう。とりあえずどうぞ……何もございませんが」

一度うちに来たことあるし、お邪魔しますっていってリビングに向かっていく秀悟。

「風邪で休みって聞いて駆けつけたんだけど元気そうじゃん」

って言って頭ガシガシされた。

それで気づいたんだけど、さっき感じた寂しさとか不安みたいのが秀悟が来てから無くなってる。

なんか安心して気分悪かったのも治ってる。恐るべし秀悟マジック。

「秀悟、来てくれてありがとう」

「ん? 絵美が寂しい思いしてるかもって飛んできた」

それにしてもタイミング良すぎるよ……なんで来て欲しいって思った時に丁度来るかな。

しかもなんで私こんなに安心してるの? もぅわかんない。

「わっ、何泣いてんだよ。そんな俺が来たことに感激?」

言われて気づいた。目から水でてる。

いつものちょっとからかうような秀悟の物言いに私はただうなずくことしかできなかった。

そうしたら、秀悟の腕が抱きしめてくれた。

「1人で不安だった? 調子悪いと思ったらすぐ学校じゃなくて俺に電話しろよ。来てやるって約束したじゃん」

温かい。秀悟はなんでこんなに色々してくれるんだろう。

「風邪じゃないの、具合悪い訳じゃなくて……あのね、昔の夢を見たの。そしたら嫌なこと全部思い出しちゃって……気持ち悪くて」

「大丈夫か? 昔の夢? 言いたくなかったらいいけど、話すと楽になるかもよ?」

「聞いてくれるの? 夢というより暗―い昔話なんだけど」

「もちろん聞くよ。絵美の昔話なら喜んで」

そう言ってまた甘―く微笑んでくれた。私は秀悟に話し始めた。

パパとママが離婚する前の話……私が恋愛をしたくないわけ……



私の両親はわりと金持ちの家の出で、高校生の時にお見合いをし、結婚をした。

両親の薦めもあってのことだけど、二人とも好きあっていて幸せな結婚だったらしい。

だけど私の記憶の中の二人はいつもけんかばかりだった。

家に帰らなくなったパパ。笑った顔なんて見たことない。

それでもパパのことが好きでいつも深夜まで待っているママ。

でもパパはもうママのこと好きじゃないってまだ小さかった私にもわかっていた。

そのうちにママも家に帰らなくなった。

思い続けることに疲れてしまったんだと思う。

仕事が忙しいって言ってたけど、パパが帰ってこない家にいるのが怖かったのかもしれない。

私が六年生になった頃、パパが離婚しようって言い出した。

理由は愛人に子供ができたから。私は不思議でしょうがなかった。

なんで今まで離婚しなかったの? パパはとっくにママのこと好きじゃなかったのに。

家にだって帰って来なかったじゃない。ママだってパパの悪口ばかり言っていたじゃない。

そう言ったらパパは絵美のためだったんだよって言った。

わからない。パパが、ママが、私のために何をしてくれたの?

離婚が決まって、どっちについて行くかって話になった時私は言った。

どっちも嫌いだって。いままで通り1人でいい、そう思ったから。

三人でどこかに行ったことなんて記憶にない。

五歳の時にパパが水族館に連れて行ってくれたのを覚えてるけど……。


「このあいだね、水族館いっしょに行ったでしょ? あの時パパがいたの。再婚した人といっしょに来てたみたい。ちっちゃい女の子連れてて……笑ってた。すっごい仲良し家族ってかんじ。私とはまともに話したこともないのに……。幸せそうだったなぁ」

一回止まったのにまた涙が出てきた。

話しをするのにソファに移動して二人並んで座ってたんだけど秀悟がまたぎゅって抱きしめてくれた。恥ずかしいけど温かくて落ち着く。

秀悟はう~んってうなりながら考え事をしてる。

「独り暮らし始めてさ、そのパパとママから電話とか手紙とか来たことないの?」

急に秀悟が質問してきた。

「ないよ……あ、誕生日にいつも二つ小包が届くけど。中身はいつも同じ。ママからはクマのぬいぐるみ。パパからはブランドの鞄。別に欲しくないのに」

そういつもいっしょ。

「それには手紙とかついてないの?」

「ついてないよ……?送り主のところ見て誰からかはわかるけど」

「それってさ、いつもぴったり誕生日に届いたりする?」

「うん、そうだけど……?」

秀悟は少し困った顔をしてこっちを見てた。

「あのさ、俺思うんだけど……俺と絵美の両親ってもしかして似たもの同士かも。お前のパパもママも、もしかしたら話したいけどどうすれば良いのかわからなくなってるんじゃないか?」

……よく意味がわからない。秀悟とパパとママが似てる??

「私と話しがしたいわけないよ。だっていっしょに住んでても会話らしい会話なんて無かったし、私のことなんて気にかけたことも無かったもん」

「だから、だよ。今更仲直りしようって言えなくなってるんじゃない?? だって気にかけてなかったら誕生日だって忘れてるはずだろ?」

「それはそうだけど……」

「俺が絵美に告白したときのこと覚えてるだろ? あの時、実は岡本さんに後悔することになる前に告白するべきだって言われて……俺、それ言われるまでは絵美に好かれて無いこと知ってたし、振られるぐらいならって告白する気なんて無かった。今思うとかなりの腑抜けなんだけど。それといっしょなんじゃないかな……たぶん絵美のこと心配してるんだけど、拒否されるのが怖くて電話も手紙も無いんじゃない? プレゼントもさ、何あげたらいいかわからないんだよ。それでも何かしたくて送ってきてるんじゃないかって思うんだけど」

そんな風に考えたこと無かった。プレゼントのことも特に意味なんて考えたことなかったし……。

「でも……二人とも今は幸せに暮らしてるんだよ? お祖父ちゃん達言ってたもん」

「幸せだからこそ絵美のことが気になってくるんじゃない? 虫のいい話かもしれないけど。絵美は二人と仲直りする気はないの? 両親のこと嫌い?」

「……わかんない。昔は、けんかばかりしてる二人は嫌いだったけ……もう何年も会ってないもん。嫌いかなんてわかんない」

でも会いたいかもしれない……。

「じゃぁ会ってみればいいよ」

心の中読まれたのかと思って秀悟の顔を見あげた。

「会ってみて嫌いかどうか確かめればいいじゃん。電話番号ぐらい知ってるんだろ?」

別に心の中読まれたわけじゃないのか。びっくりした。

「でも、二人とも仕事忙しいし、再婚してるし迷惑かも……」

「迷惑がられてもいいじゃん。実の娘なんだから電話もしてくるななんて言わないだろ。それに絵美自身夢に見るくらい気になってるんだし」

「でも、何話したら良いかなんてわからない」

「とりあえずプレゼントのお礼言えば? なんでそんな後ろ向きに考えるんだよ、普段みたいに気軽に思ってればいいって。絵美には俺がいるし? 少なくともあと2週間ぐらいは」

そうかあと期間は2週間ぐらい……あぁーっ!!昨日秀悟とは距離を置こうって決めたのに……。

そうだよ、わ、よく考えたらくっつきすぎだよ、離れなきゃ。

思い切り秀悟から離れて床に座り直す。

「絵美?」

「しゅ、秀悟、もう夕方だよ、帰らなくて大丈夫? きょ、今日もしかして学校早退したの? だめだよさぼっちゃ。ほら、今から学校戻ったら部活ぐらい出れるかも」

ほらほらって秀悟を追い出そうとする。なんか秀悟が不思議そうにしてるけど。

「?? よくわからないけど元気になったみたいだし、学校戻るよ。じゃーな。」

そう言って玄関を出て行った。あ、言い忘れた。

扉を開けたら、エレベーターに向かって行く秀悟の後ろ姿が見えた。

「しゅーご!」

秀悟が振り向く。なんかわざわざ言うのって恥ずかしいんですけど……。

「今日は来てくれてありがと!」

それだけ言って玄関を閉めた。

秀悟が今日してくれたことにはきちんとお礼を言わなきゃいけないと思った。

夜、パパとママに電話してみることにした。



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