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I don't know  作者: 河内音子
3/12

3

今日は約束の日曜日、7月3日。

待ち合わせの場所に着いたのは約束の五分前だったのにもう秀悟は来ていた。

「ごめんね、待たせちゃった?」

「まだ時間じゃないし。俺が早く来すぎた」

今日の秀悟はもちろん私服で、なんだかいつもと感じが違う。

なんか大人っぽい。

外であんまり男子と会う機会が無いせいかもしれないけど。

「じゃぁ行くか、なんで水族館行きたいの?」

私は今日どこに行きたいかって聞かれて水族館を選んだ。

「最後に行ったのが12年前だから。だって行きたくてもあんまり友達同士で行かないでしょ? デートでもなきゃ」

パパと最後に遊びに行ったのが水族館だった気がする。

といっても、他にどこか連れて行ってもらった記憶がないけど。

「確かに友達とは行かないな。カップルか家族で行くってのが多いだろうな」

秀悟は今日はデートだろ?って言って私の手を引いて歩き出した。

……何か気恥ずかしいなぁ。


日曜日の水族館は思った通り家族連れとカップルでかなり込んでいた。

でも中は夏なのにひんやりしていて涼しいから、動物園にしないで良かったなぁなんて思ったり。

「絵美、あそこ、アザラシ」

秀悟はアザラシの水槽を指さしてる。

さっきから妙に秀悟が浮かれている。それとは反対に……

「ホントだ、アザラシかわいいね」

私の心はだんだん冷めていってます。

だって……来たいって言ったのは私だけどパパとの来たときのことを思い出しちゃって。

「何かさっきから元気ないけど絵美具合悪い?」

「え、考え事してただけ……」

デートの途中に考え事っていうのも失礼な話かもしれないけど。

秀悟は少しかがんで私の顔をのぞき込んできた。

「ホントに?具合悪いんだったら言えよ?」

つきあい始めて六日目になる。

その間にわかったんだけど、秀悟はけして俺様系だなんてこと無かった。

初日のことが嘘みたいに優しいし。

「本当に大丈夫だよ、ちょっと思ってたより人が多くてびっくりしただけだよ」

「……そうか、それならいいけど……あんまり無理するなよ?」

そう言って微笑む。

そんな甘い笑い方されるとどうして良いかわからなくなるんでやめて欲しい……。

普段の笑い方と違うんだもの。

ホントに心配してくれてるんだなーって思えちゃう笑い方。

「……うん。それよりさ、ペンギン見に行こっ」

もうそれ以上心配かけたくなくてとりあえずアザラシの水槽を離れることにした。

話題を変えるのよ、こないだの咲みたいに上手に!!

秀悟の手をつかんでペンギンの水槽の方向へ行こうとする。

でも、私はペンギンの水槽の近くへは行けなかった。

なぜなら見つけてしまったから。

「…………パパ……?」

パパは幼い女の子ときれいな女の人といっしょにいた。

四年ぶりに見たパパは幸せそうだった。



それ後はあんまり覚えてない。

気づいたら一番うちに近い駅の前にいた。

……私の動揺ぶりを見て秀悟が連れてきてくれたのは覚えてるけど。

まだ時間はお昼過ぎだ。秀悟には悪いことしちゃったな。

「ごめんね……せっかくデートなのになんか帰って来ちゃったね」

「……別に絵美が謝ることじゃ無いよ。まぁ急に固まって顔が真っ青になったのにはびっくりしたけど」

「……ホントに具合が悪い訳じゃないよ? 大丈夫だよ」

そんな風に話しながら歩いていると、私の住んでいるマンションが見えてきた。

「あれが私の住んでるマンション」

「へー、きれいなマンションじゃん。じゃ、絵美の具合も悪いみたいだしお母さんに挨拶して帰ろうかな」

あ、言ってなかったきもする……

「私ひとり暮らしだから」

「えっ?」

「だから、気兼ね無く上がっていって。お茶ぐらい用意するし!」

秀悟の反論をゆるさずに半ばひきずるようにしてうちの中までひっぱっていった。

せっかくの初デートで、いろいろ考えてくれた秀悟に半日で帰ることになってしまって悪いなって言う気持ちと……今はちょっと独りでいるのが辛かったから。



「……絵美ここに1人で住んでるの?」

リビングに入って秀悟の一言目がそれだった。

「うん。セキュリティーもばっちりだし、まだできて4年だからきれいで良いでしょ?」

まぁ、秀悟が驚くのも無理はないかも。

だってこの部屋、家族で住むようの2LDKだから結構広い。しかもロフト付き。

実際二つも部屋いらないからひとつは物置部屋になってるし。

「ま……確かにセキュリティーは凄かったけど……」

まだきょろきょろしてる秀悟の前にウーロン茶をだして自分も秀悟が座っているソファの向かい側に座る。

「ここなら安心だろうって親が買ってくれた。広くてきれいなところを選んだのはきっと罪悪感からだよ」

そう言ったら秀悟はびっくりしたようだ。

「……なんで独り暮らししてんの?」

まぁ次はこうくると思ったさ。

「うちは離婚家庭でさ、私が中一の時に離婚したんだけど……そのときには二人とも愛人がいたらしくてね、今はその人と再婚してるの。それでどっちにもついて行きたくなくて……邪魔になるのわかってたし。それでこのマンションを買ってくれて……月々両方から生活費が入ってくるから私はかなりリッチな独り暮らしをしているのです」

こういう話って重いかな……

しばらくしゃべらなかった秀悟が口を開いた。

「……なぁ、絵美はじゃぁ中一の頃から独り暮らしってこと?寂しくない?」

寂しい、か……

「ん~独り暮らししてるのは中一からだけど、小学校上がったくらいからあんまりパパと話した覚えってないし。ママもね、帰ってこない時ばっかだったから慣れちゃった」

「そっか。でもたまに不安にならない?そういうときは俺のこと呼んでくれればいつでも来るから。電話しろよ」

そう言ってまた甘く微笑む。

「……うん。ありがとう」

自分の顔が赤くなるのがわかった。

ホントは全く秀悟に頼る気なんて無いんだけど、なんだかこの笑い方されるといつもの用に返せなくなる。

肯定すると秀悟がうれしそうな顔になること知ってしまったからなおさらかもしれない。

その日は結局うちでゲームしたりビデオ見たりして過ごした。

私が作ったお昼ご飯をいっしょに食べて。

そとに行くのもいいけど、秀悟とならこんなのもありかなって思った。

まぁ咲とはいっしょにいるだけで何してても楽しいけどね。


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