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今日は6月29日
昨日の夕方から私には彼氏がいる。
1ヶ月後、7月28日の彼の誕生日まで。
昼休み
いつも教室でご飯を食べるんだけど、今日は中庭まで咲に話があるって連れてこられた。
「ね、絵美? 今日なんか変だよ? 何か私に言わなきゃいけないこと、あるわよねぇ?」
ぎくり。咲は勘が鋭い……
何も言ってないのになんでわかっちゃうんだろう。
「あの、えーっと、昨日の帰りに告白されたの。それは知ってるよね?? それ、でね、木本君と付き合うことになった」
咲が無表情でこっち見てる。
咲は怒ると怖いし、頭いいから私じゃ勝ち目ない。
嘘とかつくと怒るし……
「じゃあなんでメールくれないの?」
そう言ってにっこり笑った。
急に笑わないでーー怖いからーー!!
別に内緒にしようなんて思った訳じゃないのー(泣
「はぁ……別に怒ってるわけじゃないから、そんなにビクビクしなくても平気よ。だけど、意外だった。またどうせテキトーに断るんだとばっかり思ってたから」
私のことはお見通しってことか。
でも咲が怒ってないみたいで良かった。
「私もね最初は断ったんだよ。だけど木本君……あ、今は秀悟って呼んでるけど、がね1ヶ月だけお試しで付き合ってって言うから、俺のこと1ヶ月で好きになるよって言うから……」
「あいつそんなこと言ったの? それで付き合うことにしたってこと?」
「うん」
「あいつ……」
急に咲は黙りこんで、何か考えこんでるみたい。
こうなっちゃうとなかなかしゃべり出さないのは今までのつきあいで知ってる。
今のうちにお弁当食べちゃおう。
ふと、咲のほうから反対側のお弁当を置いておいた方を見ると、ひとつのカップルがキスをしてるのが見えた。
うわっここ学校ですよー!?まだ昼休みですよー!?
よく見るとうちの学年じゃん。
まだキスしてる、長いよ!!
はっ、もしかしなくても1ヶ月お試しで付き合うってことはその先はなくとも秀悟とキスぐらいはするってこと!?
どうしよう……あんまり深く考えてなかったなぁ。
「あら、あんまり人のラブシーンをじろじろ見ちゃだめよ」
いつのまにか思考から帰ってきてた咲がお弁当を食べながら注意してきた。
「だってあれうちの学年の生徒だよ? 誰だろって思うじゃん。しかも長いし」
「うちの学年? いっぱいいるじゃない、遊んでる人。こんな誰かに見られてるかもしれないような所でちゅーなんかしてんのあいつらぐらいでしょ……金持ちの真面目クンが多いからね、うちの学校って」
そう言って顔を上げてカップルをみた咲の顔が固まった。
「……亮」
「?? ……咲の知り合い?」
「あ、うん、幼なじみってやつ。あいつ昔はあんなんじゃなかったのになぁ」
ため息をつきながらまつげを伏せた咲の顔は切なくて。
もしかしたら、あの人のこと好きなのかなぁなんて思ったけど聞けなかった。
「それよりさぁ、1ヶ月付き合うって言っても絵美の初彼だね、おめでとっ。あーでも私と遊ぶ時間とかなくなっちゃったら嫌だわぁ」
「絶対そんなことにならないよぅ、1ヶ月だけだし」
急に話題を変えて、それでもう亮って人の話にはならなかった。
きっと聞かれたくない話なんだと思う。
「短くないでしょう、1ヶ月って。早い人はエッチぐらいしちゃうんじゃない?」
「え、エッチなんてしないしっ」
「わかんないじゃない、向こうはどう思ってるか。付き合ってるんだったら押し倒されても文句は言えないわよ?」
うぅ、確かに。
どうなんだろう向こうはその気なのかな、今日帰りに聞いてみよう。
いっしょに帰る約束してるし。
「絵美が木本君のこと好きになるといいな」
咲がつぶやいた声は小さくて私にはなんて言ったのか聞こえなかった。
昨日に引き続き秀悟と帰る。
途中でジュースを買って飲みながら駅まで歩く。
そのときに丁度思い出して昼休みの話を聞いてみることにした。
「ねぇ、秀悟はエッチしたい?」
とたんに秀悟は飲んでたコーヒー牛乳を吹き出して、むせてる。
「?? 大丈夫?」
顔をのぞき込めばかなり慌ててる様子。
「だ、ダイジョーブ。だけど何で急にそんなこと言い出すの?」
「へ? 昼休みに中庭でキスしてる人達がいて、咲が1ヶ月付き合ったらエッチもするかもよ? 聞いてみれば? って言ったから、かな?」
「はぁ、岡本さんがねぇ。……予防線はろうってわけか」
咲がなんだって?ひとりで納得してるけど……。
「で、エッチしたいって思うの? お試しでも?」
「まぁ、そりゃ、俺は絵美が好きだからね。でもお試し期間中はキスもエッチもしたくない。絵美が俺に惚れるまで何にもしない。だってああいうことってお互いの気持ちがだいじだろ?」
ふーんそう言うものなのか。
よくわからないなぁ、したことないし?
こんな意見が言えるってことは秀悟は経験者なのかな。
「なんか難しそうな顔してるけど、どうかした? あ、それとも期待してた?」
「なっ、してないよ!! ちょーっとね、秀悟は経験したことがあるからそんなこと言えるんだろうなぁって思っただけ!!」
って私、本音がただ漏れじゃん。
本人に聞くことじゃないよなあ……困った顔してるし。
「まぁ、それなりに中学の時とか彼女はいたけど……」
秀悟は微笑みながら付け足した。
「でも今好きなのは絵美だから。彼女いたのなんてもう1年以上前だし」
「ねぇ、その、前の彼女のこと好きだったんだよね? でも今は私のこと好き? そんな簡単にひとの心って変わっちゃうものなの??」
私だって人の心は変わることぐらい知ってるけど。
友達だって急に馬が合わなくなることもあるし。
でも、恋愛に関しては変わってしまう気持ちなら伝えなきゃいいのにって思う。
「人の心っていうか気持ちって結構簡単に変わるもんだと思ってるよ、俺は。じゃないと1ヶ月の間に絵美に好きになってもらおうなんて馬鹿なこと考えないだろ」
……自分でも馬鹿なことって思ってるのか。確かに良い方向に心が動くこともあるけど……。
「もし私が秀悟のこと1ヶ月で嫌いになったら?」
「ならない」
自信満々に斬り返された。
「なんでよ、先のことなんかわかんないでしょ!?」
秀悟はふっと笑ってこう言い返してきた。
「だって嫌われないように頑張るし? むしろ好きになってもらわないと」
「……よっぽど自信がお有りなんですね」
「自信と言うよりは、先のことはわからないからこそ今の自分の行動って大事だってことを昨日の放課後学びましたから」
それは私と付き合うことになったことを言ってるのかな?
まぁ確かに昨日告白されなかったら、お試し期間なんて言われなかったら、秀悟と今こうしていっしょに帰ったりしてないだろうし。
今の行動が大事か……。
「確かに先のことは自分の頑張り次第かもね。うんうん」
ちょっと納得。いいこと聞いた気分。
「じゃあそういうことで日曜デートしよう」
んん?デート?ってなんだっけ?
あ、あれだ恋人が二人で遊びにいく、通称逢い引き……?
「な、なんで!?急に話し飛びすぎだよっ」
「飛んでないって。だから俺は好きになってもらうために頑張ってんじゃん」
「あぁ、そっか」
確かに話の流れにそっているといえばそっているきもする。
「納得して頂けた? じゃ、日曜日どこ行くか考えとくから。行きたいとこあったら言って?」
いつの間にか駅に着いていて、秀悟はバスなのでじゃあなっていって去っていった。
っていうか日曜日デートは決定ですか?