HAPPY CHRISTMAS
HAPPY CHRISTMAS
始まりは一本の電話だった。
『美緒、うちに来て一緒にクリスマスやらないか?』
そんな内容の。
時は12月の初めの昼休み。
最近咲は忙しいらしく今日は秀悟と二人でご飯を食べていた。
「秀悟、24日暇?」
世の中のカップルが二人で過ごすであろう24日に暇じゃないって言われたら問題なんだろうけど一応聞いてみる。
「昼間は暇。っていうか絵美を誘おうと思ってたんだけど何か用事あんの?」
逆に聞き返されてしまった。私の彼氏、秀悟は私が関心するぐらいマメでよく出来た素晴らしい彼氏なのでクリスマスっていう行事を外すわけない!って思ってたんだけどやっぱり誘ってくれるつもりだったみたい。
「用事っていうか……実はパパから電話があってクリスマスに来ないか? って。秀悟も一緒に連れておいで~って言ってた。でもそれ夜なんだよね。夜は用事があるの?」
「んー……夜はうちもクリスマス祝うらしくて、絵美連れて来いって言われたんだけど」
そう言って秀悟が苦笑する。
どっちも行くわけには行かないもんね。
「よし! 秀悟のうち行こう! パパのとこはまたの機会でってことで」
「いいのか? それで。折角仲直りしたんだからおじさんとこ行った方が良いんじゃない? まあ、うちの両親は喜ぶけどさ」
痛いところを突かれてしまった。
でも、正直あまりパパのところには行きたくないんだ。だってパパの今の家族を見てると私とママの時と違い過ぎてちょっと悲しくなるから。
私が物心ついたころには両親の間はもう修復も出来ないほどにこじれていたから仕方がないっていうのはわかってるつもりなんだけど。
「絵美が行きにくいのもわかるけど、おじさん喜ぶと思うよ? 俺も一緒に行くから。行こう、な?」
「……うん」
顔に出ていたのか、諭すように言われて私はうなずいたのだった。
☆ ☆ ☆
クリスマスイブ当日。
私は午前中に秀悟と駅前で待ち合わせをしていた。
夜はパパのところに行くけど昼間は二人でどこか遊びに行こう、ということになってるから。
クリスマスに出かけるって初めてかもしれない。今までこんな日に出かけたがる人の気がしれなかったけど、今はちょっとわかるかも。
なんか街全体が浮き足立ってるっていうか。
カップルが多い。いろんな人にとって今日は特別な日なんだなぁ。
「お待たせ。俺より絵美の方が早いなんて珍しいじゃん」
私がぼーっと街を眺めていたら秀悟が急いでやってきて言った。
「もぅ!そんないつも私が遅刻して来るみたいに言って」
「だって本当のことだし?」
「違うよ! いつも秀悟が早いだけで実際遅刻するのは三回に一回ぐらいだよ!」
「十分違くないじゃん」
くっ。確かに秀悟が遅刻して来たことは一度もないけど!
私が言い返せないでいると秀悟が笑って手を差し出した。
「ほら、寒いし行こ」
その手を取って歩き始める。最近やっとこういうことに慣れてきた。
付き合い始めた頃は、手を取るときのドキドキも秀悟と付き合うまで感じたことのないものだったし、戸惑ったけどね。
差し出された秀悟の手はとっても温かかった。
☆ ☆ ☆
ショッピングモールに行って、パパと彩さんと繭ちゃん(妹)にプレゼントを選んだ。
秀悟も一緒に選んでくれて、良いものが見つかったと思う。良かった~。
それで今、二人で某有名コーヒーショップにて休憩中。
「ねぇ、今日は私に付き合わせちゃうわけでしょ? 秀悟はホントに良かったの? 自分の家のパーティー出なくて」
結構今更だとは思うけど、やっぱり気にせずにはいられない。
「別に。この歳になってそこまで気にすることでもないっしょ。母さんは絵美が来ないことにがっかりしてたけど」
「私も秀悟のお母さんに会いたいよ~……あ、今日7時ぐらいに抜けて秀悟のうち行こうよ!」
「はぁ?」
「だってパパに呼ばれたのが5時。2時間も居れば十分じゃん?」
どうして気付かなかったんだろう? 名案だ。
「あ、それともそんな遅くにお邪魔したら迷惑かな……」
「それは大丈夫だと思うけど、そんな遅いわけじゃないし。ちょっと待ってて、家に電話してみるから」
秀悟はそう言って席を立ち、店を出て行った。
ガラス張りの店内から外で電話している秀悟の姿が見える。ちょっと眉根を寄せて話をしてるけど……やっぱり迷惑だったかなぁ。
戻ってきた秀悟にちょっとしょんぼりしながら尋ねる。
「急に、やっぱり迷惑だった?」
「……。いや、すっごい喜んでた。遅くなると心配だし是非泊まって行ってってさ。どうする?」
「えぇ!?いいの?……お言葉に甘えて泊まっちゃおうかな」
「どうぞどうぞ」
そう言いながら微笑んだ秀悟に少し安心した。
迷惑って思われてないってことだよね?
「じゃ、木本家の皆さんにも何か買って行かなきゃ!」
せめてお土産ぐらい用意して行った方が良い気がする。
「あ、そういえば誰かの家に泊まりに行くのって初めてだ」
「そうなの? 岡本さんちとかは?」
「んーよくうちに泊まりには来るけど、行ったことないなぁ。そう思うとちょっと緊張する~」
お互い飲み終わったカップを持って立ち上がりお店を出る。
「違うところで緊張してほしいところなんだけどなぁ」
隣を歩きながらそう言って秀悟はため息をついた。
けど、意味がよくわからなかった。
☆ ☆ ☆
――――ピンポーン
たぶん高級住宅街と呼ばれるであろう場所にある一軒家のチャイムを鳴らすのにすっごいドキドキした。
「絵美、手が震えてる」
って秀悟に言われてしまう始末。
「だって、実は来るの初めてなんだよね、ここ」
「そうなんだ? 夏に仲直りしてからは結構マメに連絡とってるんだと思ってたんだけど」
ちょっと驚いたような呆れたような様子で言われてしまった。
「うん、連絡はね。でも外で会ってばっかりだったし……」
玄関のチャイムから彩さんの声らしきものがして話を止める。
『はい』
「あ、こ、こんばんは、絵美です」
その時、扉が急に開いて小さいものが飛び出してきて秀悟に飛びついた。
「お姉ちゃんいらっしゃい!!」
……。
「絵美、俺はどうしたら……」
秀悟が喋ったとたん足元にしがみついていたちっちゃいものは顔を上げて飛びのいた。
「きゃあ、まゆまちがえちゃった!? お姉ちゃん!」
改めて私に飛びついてくる、ちっちゃいものこと繭ちゃん。私の異母妹。
「メリクリ、繭ちゃん。秀悟、この子が噂の妹です。繭ちゃん、このお兄ちゃんは私の彼氏の秀悟お兄ちゃんです」
「こんばんは、いらっしゃいまて、しゅーごお兄ちゃん。間違えてごめんなさい」
繭ちゃんが言いながらペコリとお辞儀をする。
秀悟はクスクス笑いながら繭ちゃんに「こんばんは」と挨拶を返した。
五人で話をしながらご飯を食べて、繭ちゃんと一緒に人生ゲームをして。
小池さん家は私が思っていたより大きかった。まぁそうか、うちもなかなか大きいマンションだし。そういえば両親は金持ちなんだっけ。
秀悟とパパは学校の話をしていた。パパは初めて電話した時から何かというと秀悟のことを聞きたがる。何か気になることでもあるのかな。
彩さんと料理の話をしていたらかなり驚かれた。そんなに私は家事が出来なさそうに見えるのか。でも小さい頃からずっとやっているから家事全般の基本的なものは出来ると思ってるんだけどなぁ。
プレゼント交換もした。昼間秀悟と買ったものを渡して、私もなんだか大きな包みを貰ったんだけど、時間だったからそのまま解かずに持って帰ることにした。
時計を見て「そろそろお暇しようかな……」って言ったら驚かれてしまった。
「だってまだ七時だぞ?」
「お姉ちゃん、もう帰っちゃうの? もっと遊ぼうよぅ」
繭ちゃんにウルウルした目で見つめられるとなんとも断りづらいけど。
「ごめんね。この後用事があるんだ」
「繭、お姉ちゃんを困らせたりしたらダメよ? クリスマスイブだし邪魔しちゃ悪いわ」
彩さんがそう言って二人を説得してくれた。
☆ ☆ ☆
着替えを取りに一回うちに帰った。
「それ、中身何?」
秀悟に言われてもらった包みを開けたら出てきたのは真っ白なコートだった。
「かわいいー……」
でもタグを見てちょっと引いた。
「このブランドって……めっちゃ高!! こんな高いの一着買うんだったらもっと色々なもの沢山買えるのに!!」
なんで毎年毎年こう高級品を贈ってくるんだか。
「着てみなよ。絵美に似合うと思うな、そのコート」
秀悟だってこのブランド知っているはずなのに凄く落ち着いた様子でそう進められた。
私だけ慌てててちょっと恥ずかしい。
真っ白で肌触りの良いコートに袖を通す。
「似合うかな?」
「うん、似合ってる。きっと考えて買ってくれたんだよ。それ着て行こうか」
「うん。」
こんな高いもの!って思ったけど、そうかパパも昼間私がプレゼント選んだ時みたいに悩んで選んでくれたのかな……。
いつも色んなことに気付くことが出来る、秀悟といると。
「秀悟と一緒にいると幸せだなぁ」
私がしみじみ言ったら、
「何、急に変なこと言ってるんだよ!?」
って秀悟の顔が真っ赤になった。
「本当にそう思ってるんだよ? いつもお世話になってるし。もっと私も秀悟に何かしてあげられたらいいのにって思うくらい。それに、秀悟と付き合い始めてから寂しくないんだ。心細いな~とか思うとタイミング良く秀悟来てくれるし。まさか心の中繋がってるの!? って思うときがあるぐらいで不思議……」
私が喋っている途中なのに秀悟にぎゅうって抱きしめられた。
「秀悟?」
「……絵美、それ以上言わないほうが良いと思うよ?」
「へ?」
「うちに行けなくなるから」
「はあ。確かに時間ないね。急がなきゃ」
秀悟の肩が揺れて、秀悟が声を立てないで笑っているのが見て取れた。
「なんで笑ってるの?」
「わかんない?」
「わかんない」
「即答じゃん。考えてないだろ? 絵美はたまに本心語り過ぎ。ああもうホントに。……早く行こう、母さんと父さんが首をながーくして待ってるから」
そう言って私を解放した。
「訳わかんないよ」
「わかんなくって良いよ」
たまにこうやって教えてくれないことがある。意地悪なのか、なんなのか。
今度咲に聞いてみようかな。でも雰囲気的に馬鹿にされる質問っぽい気がしなくもない。
「絵美? そうだ、今渡してとこうかな。ハイ、これクリスマスプレゼント」
秀悟はそう言って差し出された小さな箱を私は手のひらにのせた。
「うち行ってから二人になれるかわかんないしね。さすがに親の前だと照れくさいし」
「じゃあ私も」
足元にあった紙袋をそのまま秀悟に差し出す。
実はいつ渡そうかとずっと悩んでいて一日中持って歩いていたんだけど……うちで渡すことになるとは。
二人とも渡されたプレゼントの包装を開けていく。
私の貰ったプレゼントは包みをとっても中から箱が出て来た。
ちょっと高級そうな箱。たぶんアクセサリーが入っている。よくドラマのプロポーズとかでリングが入っている箱。まさか……。
「ごめん、それ指輪じゃないから」
「なんで私の考えてることわかるの!? やっぱり繋がってる!?」
「そんなじっと見てたらわかるって。指輪はサイズもわかんないし。とにかく開けて」
言われて箱を開ける。
中にはピンクの石の付いた小さいクロスが二つ入っていた。
「これ、ピアス? 可愛い」
「こないだ穴開けたって言ってたからさ。あんまり高いものじゃないんだけど」
今度は私が秀悟が全部言い終わる前に抱きついていた。
「嬉しい! もうずっと付けてることにする」
「学校で没収されないようにしてよ」
秀悟は言いながら私の頭をガシガシなでた。
「そんなヘマはしません!……もししても咲に取り返してもらう」
「確かに、岡本さんなら余裕で取り返してきそうだよなぁ。俺も、マフラーと手袋ありがと」
「……定番でごめんね。でも、いつも秀悟帰り手袋なくて寒そうだったから。ちなみに手作りだよ? そして私も色違いの手袋を持ってるの。でも無地でシンプルだし色違いだからペアルックにはならないと思うし安心して使ってクダサイ」
そうだ、渡してから気付いたけど私も自分で作ったの使ってるしペアルックになっちゃう。
嫌がられるかな。
「別に俺はペアルックでも何でもいいけど? 手作りってこれ売ってるのみたいじゃん。すごい、暖かそう」
言いながらマフラーを巻いて、手袋をはめている。
秀悟は手袋をした手で私の顔を包み、上げさせた。
そのまま唇が重なる。
「メリークリスマス」
秀悟がキスの合間にぼそっとささやいた。
「メリークリスマス、秀悟。大好き」
こんなに幸せなクリスマスは生まれて初めてだ。
たぶん去年の今頃の私にはさっぱりわからなかったことを今の私は沢山知ってる。
恋人のおかげ。好きって気持ちとか。
だけど反面依存しすぎているという自覚もある。
秀悟が今居なくなってしまったらきっと私は昔のママみたいになってしまうだろう、そう思うと少し怖い。
だから来年もまた秀悟とこうやって居られたらいいな、そう思っても決して口にはしなかった。
「来年もこうやって一緒にお祝いしよう?」
秀悟がそう言ったとき、私は嬉しさのあまりに泣いてしまった。
来年の約束なんて、守られるかまだわからないけど。
その約束が凄く嬉しかった。
「やっぱり、繋がってるんだ」
☆ ☆ ☆
結局うちでのんびりしすぎたせいで秀悟の家に着いたのは八時半をまわったころだった。
木本家の皆さんと一緒にテレビのクリスマス特番を見て、お母さんとはおせち料理の話をし、実くんと秀悟と三人でテレビゲームをやった。
実くんは秀悟とは仲良く話すのに私に対してはややそっけなく。
でも優しいし、良い子だと思う。
秀悟と二人きりになったときに「やっぱり小池さんちじゃなくて木本さんちのほうが居心地がいいなぁ」って言ったら、「パパに泣かれるよ」って言われた。
繭ちゃんは可愛いし彩さんもとってもいい人だしパパだって昔と違って私を気にかけてくれてるのがわかる。けど。
やっぱり繭ちゃんを羨んでしまう気持ちはどこか抜けないし、それに彩さんがどんなに良くしてくれたってそれに甘えては悪いと思ってしまう。
それに何より。
「木本さんちには秀悟くんがいるから、仕方ないね」
答えながら私はにっこり微笑んで見せた。
**おまけ**
初めてお泊りというのを体験。
人んちのお風呂に入るのがあんなに緊張するものだとは思わなかった。
パジャマ代わりに秀悟に学校のジャージを借りて、居間の隣にある和室に布団をお借りして眠る。
居間にはツリーがあって、夜中ピカピカしていたけどいつも以上にぐっすり眠ることが出来た。
一人で部屋にいても、家に人がいる気配がして安信できる。
本当に今日ほど幸せなクリスマスって体験したことがない。
メリークリスマスっていうけど今日はホント、ハッピークリスマスって感じだな。
と一人納得して私は夢の世界へ意識を飛ばした。




