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I don't know  作者: 河内音子
10/12

咲の策略

咲の作略


あたしは友達の絵美が大好きだ。

小学校のころ親友が引っ越してから親友って呼べる友達なんていなかった。

だけど絵美は違う。

だから絵美には幸せになってほしい。



ある日あたしは気づいてしまった。

クラスメイトの絵美を見つめる熱い視線に。

絵美の口癖は、“私は絶対恋愛なんてしない”で、彼氏もいたことがない。

でも何人かに告白されてるみたい。

だって小動物系で女の子らしくてかわいいから。外見は。

中身もかわいいっていえばかわいいけど……天然でかなり変わってる。

だから本人は、“告られたときに本音を言うとみんな引く”って気にしていたけれど。

今回の熱―い視線の彼、木本君は絵美と直接仲が良い訳じゃないけれどグループでは割とつるんでるし、絵美の性格も含めて好きなんだろうと思う。

それに彼の視線は愛しそうに、大事そうに絵美を見ていた。

あたしはこの視線を前に見たことがある。

その、木本君と同じように、愛しそうに、大事そうに彼女を見つめていた彼は、彼女がいなくなってから変わってしまった。

ホントに急にいなくなった彼女。

あたしたちには何も言わないで、手紙だけ残して。

彼女が思っていたより、あたしたちにとって彼女は大切な存在だったのに。

残された彼が、相談もしてもらえなかった彼がどれほど傷ついたか。

……彼女も彼が好きだったのだと今は思う。

ただ、恋に気づいていないだけで。

あの時の彼を見ていたから、どれだけ彼女のことが好きだったのかわかっているから、同じ視線を持つ木本君なら絵美を幸せにできるんじゃないかって思った。

大きなお世話でいらぬお節介だっていうのはよ~くわかっているけれど、絵美に幸せになってほしいから。

こんなのあたしのただのエゴだけど……。




その日は日直で、いっしょに帰るために絵美に教室で待っていてもらってた。

全く働いてくれない男子の代わりに日誌を職員室に届け、今日生徒会に出れなかったことのお詫びを入れるために会長に電話する。

電話しながら歩いていて下駄箱にさしかかった時、丁度木本君が校舎に入ってきた。

ふと思った、これはチャンスだ。

待っててくれてる絵美には申し訳ないけど放課後の教室に二人きりになることなんて呼び出しでもしない限り滅多にないし、邪魔するようなやつはとっくに帰ってしまった。

このチャンスを生かすべくあたしは声をかけた。

「木本君、部活終わって鍵返しに行くところ?」

「あれ、岡本さん? ……あぁ今日日直だっけ。ご苦労様です」

……わりと礼儀正し人なのだ、木本君という人は。

だから普通に告ったんじゃ振られちゃうけど、しつこく迫ったりできるひとじゃない。

「何? そんな人の顔じっと見て、何かついてる?」

そうだ、良い案がある。

「ねぇ、木本君ってさ、絵美のことすっごい好きだよね?」

「えっ! 何で? しかも急に」

「あれだけ見つめてればねぇ。そりゃ絵美は鈍感だし気づかないけど」

木本君は一気に顔が赤くなった。

ばれてないと思ってたのか……クラスメイトの中では結構噂になってるのに……。

「それでさ、告白とかする気ないの? 今丁度絵美ひとりで教室にいるの。良い機会だとは思わない??」

彼は少し考えるようにした後、こういった。

「岡本さんも知ってるじゃん、小池は“恋なんてしない”だろ? 俺が告っても振られるだけだよ」

それでは全くあの時といっしょだ。

「……あたしは、振られるってわかってても告白すれば良かったって後悔してた、たぶん今も後悔してる人を知ってるよ……突然いなくなっちゃうこともあるんだよ?」

木本君はびっくりしたように目を見開いた。

あたしに理由があってこんなことを言い出したことを察したみたいだ。

「……それでその人はなんで告白しなかったの?」

「彼女が自分に恋してないのを知ってたから。まだ時間はあると思いこんでたから」

木本君は困った顔をしてため息をついた。

「……今の俺と全くいっしょって訳ね。だから岡本さんは世話やいてくれるの?」

「それもそうだけど、それだけじゃない。木本君なら絵美を幸せにしてくれそうだもの。どっちにしろただのあたしのエゴだけどねっ」

言った後、自分で自分がおかしかった。

こんなこと言える立場じゃない。絵美に頼まれた訳でもない。まして木本君と彼は別人だ。

わかってるのにあまりにも思い出と今を混同しすぎてる。

「小池は愛されてるね。わかった、岡本さんも応援してくれることだしダメもとで告ってきますか」

後悔しないようにねって言って笑った。

「……木本君は優しいわね。絵美が恋をするのがあなたなら安心だわ。あぁもぅ娘を嫁に出す気分」

「たぶんうまくいかないと思うんで嫁には行かないんでない?」

「ふふ、あたしは木本君を応援するわ。あのね、絵美はあなたのことをそんなによく知らないと思うの。それにあの子は男子のことをなんていうのか意識しなさすぎてるし。そこで良い案があるの。あの子は押しに弱いし、もしかしたらうまくいくかも。その作戦っていうのは―――――――――」



「でもそれってうまくいくかなあ」

「ちょっと強気にでれば、ね。絵美って絶対将来怪しいセールスとかにひっかかりそうだもん、説得されやすいというか何というか」

それでもなんだか腑に落ちない顔をしている。

「あたしと共謀して、なんか絵美を騙すみたいって思ってるでしょ?でもやっぱり相手のこと知らないと好きになんかならないでしょ、女子には一目惚れって滅多にないし。自分を知ってもらう期間だって思えばいいのよ。やましいことなんてないわ。それにこうでもしないと絵美は本当にこのまま恋愛しなさそうなんだもの」

「確かに……。じゃあ有り難く岡本さんの入れ知恵は使わせていただくことにするよ。早く行かないと、小池待ってるんだよな?」

「うん、教室にいると思う。生徒会室よってくって言ってあるし。」

「じゃ行ってくる。うまくいくように祈ってて。」

「おうよ、頑張って! 健闘を祈る!!」

木本君は大きいリュックを背負った後ろ姿のまま手を振って歩いていった。

あたしがしたことが絵美のためになるのかどうか今はまだわからないけれど、絵美だけじゃなくて木本君も幸せになれるといいなと思った。



後日、あたしの立てたお試し期間作戦は成功し、絵美と木本君は付き合うことになった。

木本君は『1ヶ月で俺のこと好きになる』とまで言ったらしい。

強気に押せ、とは言ったけど俺様でいけとはいってないぞ!?

あいつ……相当告白した時、てんぱってたんじゃないかなぁ。

まぁうまくいったんだし、この先どうなるかは二人次第だけどね。

とくに木本君の頑張りしだい、か。

「絵美が木本君のこと好きになるといいな」

あたしは絵美に聞こえないように小さな声でつぶやいた。

二人の幸せを祈りながら。


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