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がつがつ。
むしゃむしゃ。
ぱくぱく。
見ているこっちが気持ちよくなっちゃうくらいのハイペースで、弟くんは消し炭を噛み砕いていく。その行為は「食べる」っていうより、無理やり喉に押しこんでいるっていったほうがいいんじゃないかな。まるで邪念を払うかのように一心不乱にむさぼりつつ、時折いきおいよくグラスの水をあおっている。なかなか男気あふれる飲み方だ。ボーナスカットをくらって、居酒屋でヤケ酒かっくらうサラリーマンを思い起こさせる。
ちゃぶ台の前に並んだ三皿分の発ガン性物質を目の当たりにし、わたしはげんなりとした。
「本当に、こんな料理でよかったの……?」
ため息をつき、自分の分のお皿に目を落とす。「五百円あげる」とでも言われない限りは、こんな物、食べたいとも思わない。
「いいわけないだろ。ほかに食えそうな物がないから、しかたなく食べてるんだよ。わかった?」
「こら。せっかく作ってもらったのに、失礼だろう。謝りなさい」
先輩が腕を組み、どっしりとちゃぶ台の前に構える。
「だが不思議だな。あれほどピーマンを嫌っていたお前が、なぜ急に? しかもそんな、こげた物を」
「べつに。とくに理由はないけど」
言って弟くんは、固く組まれた先輩の腕をチラリと見た。かすかにだけど、やけどの痕がついてるのがわかる。火柱から弟くんをかばった際に、負った傷だろう。
「にしてもさあ」
弟くんは小さく口をとがらせた。
「ピーマンを食べろとか、テストでいい点を取れとかさ。なんで大人はいちいち、子どもをむりやりしたがわせようとするんだ?」
わたしと先輩は、顔を見合わせる。
ええと? 弟くんはいったい、なにが言いたいんだろう。
「べつにピーマンを食べなくても、死にはしないんだろ。だったらいいじゃん。いやがってるやつに理由とかせつめいしないまま、むりやりやらせようとするなんてさ。そんなのおかしいだろ。子どもが自分らの言うとおりにするの見て、そんなにうれしいのか?」
「さあな。俺も鹿野も、当然ながら子を持ったことなどない。親の気持ちなどはこれっぽっちも理解できん。わが子には自分よりも立派な人間になってほしい、という考えがあるのかもな。まあ、こんなことを詮索しても詮無きことだ」
弟くんがお皿を突き出した。乗っていた消し炭は、見事に片づけられている。ハムスターみたいにふくらませた口をもごもごさせ、剣呑な目つきでわたしをにらんだ。
「まずい。もういっぱい」
(おわり)