TZDの話。
TKG(タマゴかけご飯)みたいですね(笑)
私は、去年の春に高校へ進学した。学校は私の住む町から三駅またいだ所にあり、私は毎日のように電車通学を強いられる身となった。私には通学を共にする友が三人いるが、そのメンバー内では『立ち安泰』という暗黙の了解が成立している。つまりは、セールス前で乱れあう主婦達のように席を奪い合うのではなく、せめて良い立ち位置を取得しようという考えである。
ひとたび座れば、ゆりかごのような心地よい車体の揺れに眠気を誘われるものだが、立っていればそういうこともなく、必然的に会話が飛び交うことになる。この話は、その『立ち安泰』において私達が結束に結束を固めたTZD計画の話である。
TZD計画。まずはそれが何なのかを説く。簡単に言えば、Tは『テストの』、Zは『上位』、Dは『独占組』となる。
話を始めるにあたって、まずは『テストの上位独占組』のメンバーの紹介をしなくてはならない。
まずは私である。成績優秀、運動神経抜群、文武両道、博学多識、天地あまねく至高の貴公子。四千年に一度の逸材とされた不況の時世に虹を架ける万人が夢想した近代戦士である。と記したいのは山々であるが、実際はただの高校生である。
次に紹介するのは『トレイン』である。もちろん本名ではない。これは彼が愛してやまないフレーズであるらしく、ゲームのキャラなどは全て『トレイン』で統一している。まさに全世界の『トレイン』を司るべき人物なのである。ちなみに十人の女性がいたとしたら十人がうなずく美男子である。成績も優秀。
次に紹介するのは『たっくん』である。もちろん本名ではない。彼は隠れ毒舌と陰で危惧され、とくにその先天からの能力は数々のコンプレックスを容赦なく打ちのめし、不特定多数の男女に辛酸の涙を湧かせたという。
最後に紹介するのは『とうし』である。これは本名である。なぜなら、彼にはこれ以外の呼び名がなく、新しく作ろうにも思い浮かばない。女でも男でも、白髪の目立つおじいちゃんでも、あおっぱなたらした子供でも、誰一人として隔たりなく『とうし』と呼ぶのである。
そんな彼らと共に『テストの上位独占組』はある日の帰りに結成した。
「今度の期末テストで、クラスの奴らをあっと言わせようぜ」
それを言い出したのは、トレインである。彼はクラスでもトップで拮抗する成績優秀な男子だが、それに比べ何とも言えない成績層をただよっていた私達を見かねてそう言ったのであろう。
しかし、皆様。ここで、言っておこう。私達は『成績を上げる心構え』ではなく、『成績を上げる心構えを持つ心構え』が必要であり、もっと言えば『成績を上げる心構えを持つ心構えを持つ心構えを持つ心構え』が必要だったのである。なぜならば、私達は毎回の電車通学で「今度のテストは面白くなるぞ」「寝ずに勉強しよ」「分からない所は電話でやりとりな」「トレインに訊けば早いわ」「燃えてきたぜ」とかお互いがお互いの言葉で刺激しあって、気分を高揚させたのは良いものの、それは全てうわごとであり、私達には成績を上げる心構えは愚か成績を上げる心構えを持つ心構えすら持っていなかったのである。つまりは勉強には微塵も興味なかったのである。
帰宅し、テレビを見て、晩飯を食べ、風呂に入って、歯磨きして、布団に入る。それを期末テストまで繰り返し、結局のところ成績は全く変わらないものとなった。
協力しあえば出来ないことはない。という正論を手繰り寄せて我のものとし実行したまではいいが、どんなことにも例外があるというのを忘れてはいけない。私達の場合は「赤信号皆で渡れば怖くない」へと変化してしまったのである。
共感求ム。