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第50話 しめのお茶漬け、そして交流会の終わりと日常のはじまり

 好きなだけ飲んで好きなだけ食って、心地よい疲れと満足感に包まれはじめている夕食会。

 強制的に爆上げされた俺の魔力も、ギンギンに激しいものからじんわりと周囲を温めるようなものへと変化していた。


 さて、おっさんの居酒屋タケオ。最後の締めにいくとするか。



「―――現代フード召喚」



 現れたのは小さな茶碗に盛られた白飯、その上に鎮座する焼き鮭、そして急須に入った熱々の出汁だ。


「タケオ、これはなんだ?」


 剣姫シュトリアーナが、少し酔いの回った顔で首を傾げる。


「出汁茶漬けだ。酒を飲んだ後の胃袋をこいつが優しく整えてくれる。その熱い汁を器に注いで食べてくれ」


 俺の言葉を合図に、騎士たちが茶碗に出汁を注ぎ始めた。

 黄金色の出汁が鮭の脂と混ざり合い、湯気と共に芳醇な香りが立ち上る。最後の食欲をそそるいい香りだ。


「ほう……あんなに脂っこいものを食べた後なのに、この出汁が全てを許してくれる気がするな。胃の奥に染み渡るようだ……」

「マジこれ神。タケオ、あんた天才すぎ」


 シュトリアーナがほっと一息つき、スリーナもお茶漬けを掻き込んでいる。

 周囲の騎士たちも無言でお椀をかき込んでいた。これぞ締めの光景ってやつだな。


 そしてもうひとつ、締めのデザートに召喚した小さく丸く盛られた黄色の氷菓子。

 ゆずシャーベットをみんなに配る。


「まあ、お口の中に春の風が吹いたような爽やかになりますわ」

「はい姫様。柚子の酸味が心地よく食後を和ませてくれますね」


 ステア王女とリリィさんが、小さなスプーンで静かにシャーベットを口に運んでいる。


 お茶漬けもいいが、アイス系で締めるのもありだな。


 お通しからメイン連発、そして最後に出汁と爽やかな酸味。居酒屋フルコースという名の完璧な包囲網に、この場にいる全員が完全に降伏していた。


「……ふぅ。俺たちも食おうぜ」


 俺は隅っこの調理台で、ミーシャとルリアを誘って腰を下ろした。

 自分用に用意した鮭茶漬け。サラサラと流し込むと、黄金色の出汁が五臓六腑に染み渡り昂っていた神経がふにゃりと解けていくのが分かった。


「ふあぁ~~ほっこりしますね先輩。今日一日の疲れがこれ一杯で帳消しです」

「本当に……優しい終わり方ですね。タケオさん、みんなあんなに笑ってますよ」


 ミーシャが幸せそうに目を細めて安堵の息を漏らす。

 ルリアはお茶漬けの湯気の向こうで、少しだけ瞳を潤ませていた。


 その後はお茶漬けをすすりながら、俺たちは沈黙の中で宴の余韻を味わう。誰かが話し出すわけでもない。ただ飯を食い、満ち足りた心で夜空を見上げる。




 ◇◇◇




 翌朝。演習場に差し込む朝日は、昨夜の狂乱を夢だったかのように静かに照らしていた。


 今日の朝飯はいたってシンプルだ。この異世界の硬いパンに、カリカリに焼いたベーコン、そして温かいコーンスープ。

 胃を休めるにはこれぐらいがちょうどいい。



 朝食の片付けを終えた俺の元に、侍女のリリィさんが慌てた様子でやってきた。


「タケオさん、すみません来ていただけませんか? 王女殿下が……その、少々手こずっておりまして」


 手こずる? どうしたんだ?


 案内されたのは、フルノラ団長の部屋だった。扉を開ける前から中から「嫌ですわ~~!」という絶叫が聞こえてくる。


「やだやだ~~まだ帰りたくありませんわ~~!」

「落ち着いてください姫様」


 部屋の中ではステア王女が床に突っ伏して駄々をこねていた。 それをフルノラ団長と剣姫シュトリアーナが困り果てた顔で眺めている。


「こうなったら視察期間をのばします!」

「そもそも~~今回の訪問は視察ではないですよ~~ステアさま~」


 フルノラ団長がど正論を正面から王女殿下にぶつけた。

 まあ現代フードを気に入ってくれたのは嬉しいが、あんた王女なんだからいつまでも辺境にいちゃダメでしょう。


「タケオさんが来ましたよ、しゃんとしてください姫様」


 リリィさんがそう告げると、王女は「はっ!」と動きを止めた。のそりと起き上がり、乱れたドレスを整えスッと居住まいを正す。さすがに通らないわがままだとは知っていたのだろう……切り替えが早いな。


「……失礼いたしました、タケオさん。お見苦しいところを」


 王女は少し鼻を赤くしながら、真剣な瞳で俺を見た。


「はは、随分と三等騎士団食堂のご飯を気に入ってくださったんですね」

「はい。ここのご飯が美味しすぎて、まだ帰りたくなくてつい全力で泣いてしまいました……でも、もう大丈夫です。わたくし、王族としての義務を果たしに戻りますわ」


 その潔い表情に俺は思わず苦笑した。


「わがままな王女殿下も物分かりのいい王女殿下も、どちらも魅力的ですよ。あそうだ……これ、お土産です」


 俺はこっそりと二つのパンを召喚した。

 ふわふわの生地の中に甘い小豆が入ったアンパンと、甘酸っぱいジャムパンである。


「王都への道中のお楽しみにしてください」


「まあ……これは楽しみですわ!」と言いながら王女は、宝物を受け取るようにパンを抱きしめた。




 ◇◇◇




 グルト辺境騎士団の正門前。各騎士団の馬車が連なり、出発の刻が来た。


 門の両脇にはグルト辺境騎士団の面々が整列している。そして帰路に就く他騎士団の連中もまた、馬上で背筋を伸ばしていた。


「「「敬礼!!」」」


 ガシャン、と鎧が鳴る音が響く。それは交流会の成功を祝うものであり、同時に胃袋を掴まれた男たちがグルト辺境騎士団に贈る最大級の敬意だった。


「フルノラ団長、シュトリアーナ、グルト辺境騎士団のみなさん、お世話になりました。……そして、タケオさん!」


 王女は満開の笑顔で、声を張り上げた。


「とっても、とっても美味しかったですわ! また来ますから、覚悟しておいてくださいね!」


 馬車が動き出す。

 手を振る王女、それを追う騎士たちの背中を見送りながら俺は大きく伸びをした。


 交流会はこれにて無事終了である。


 過労死して異世界に転生して、さらに左遷されたおっさんのたどり着いた場所がこのグルト辺境騎士団。はじめはどうなることかと思ったが……ここは美味いものをみんなと食って得た俺の「居場所」となった。


 肩をぐるっと回した俺は、食堂へと足を向ける。


 さて、昼飯の準備でもするか。



「むふふ、今日は何を召喚するかな」



 また新しい一日が始まる。


【読者のみなさまへ】


いつも読んで頂きありがとうございます。


これにて第一部完結となります。


今まで長きにわたりご愛読頂き、本当にありがとうございました。

たくさんの応援、作者の励みになりました。お礼申し上げます。


最後のお願いです。

少しでも面白かった~と思って頂けましたら、


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めちゃくちゃ嬉しいです! ありがとうございます! 


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これからも面白いお話を投稿できるように頑張りますので、

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