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第47話 「とりあえず生!」とお通しの魔法(枝豆&たこわさ&ポテサラ)

 夕闇が騎士団の演習場を包み込み、魔法の灯火がぽつぽつと灯り始める頃。俺の体内の魔力は、先ほどの魔力回復合戦のおかげではち切れんばかりに充填されていた。

 いや、正確には充填されすぎて、何かを出さないとこっちが爆発しそうなレベルだ。


「……よし、やるか」


 俺は演習場の中央、一段高くなった仮設調理台の上に立った。

 目の前には空腹で今にも暴動を起こしそうな各地から集まった騎士たち。昼間の交流会における激闘を終え、鎧を緩めた彼らの顔には隠しきれない疲労の色がある。


「みなさん、今日はお疲れさまです! ……いや、堅苦しい挨拶は抜きだ。ここからは無礼講でいかせてもらう。まずは……こいつで乾杯だ!」


 俺は両手を広げ、有り余る魔力を一気に解放した。


 イメージするのは……都会の喧騒の中、駅前のガード下で輝く赤提灯。仕事終わりのサラリーマンたちが吸い込まれていく、あの「聖域」の空気だ。



「現代フード召喚―――居酒屋タケオ、グルト演習場店、開店だ!!」



 その瞬間、魔法の光が弾け演習場につらなるいくつものテーブルの上に「それ」が同時出現する。


 うぉ……思いっきり広範囲にしかも同時召喚できた。こりゃ、新記録だな。

 さすが魔力ギンギンだわ。


「わぁ~~綺麗なガラス器ですわ~~♪ これは?」

「タケオ、中に入っている黄金の液体はエールか?」


 ステア王女と剣姫シュトリアーナが目の前のジョッキを凝視している。

 まあ木製ジョッキが主流のこの異世界で、キンキンの透明ガラスジョッキは珍しいだろう。


「はい、ステア王殿下。これは生ビールというお酒です」

「まあ、私にはまた違う色の飲み物が入ってますわね」


 ステア王女など酒を飲めない人には各種ジュースを召喚したからな。


 俺は自分の手元にも自分用のジョッキを召喚した。

 またミーシャやじいさん、そして配膳の手伝いをしてくれるルルア、スリーナにも。

 はじめは食堂課や配膳チームは飲まないで仕事のつもりだったが……やめだ。


 ラストの夕食会は全員で楽しむと決めた。


 その全員にミーシャやルリアたちも含まれる。


 そして俺も。


「では王女殿下、乾杯の音頭をお願いします」


「ふふ、ここはタケオさんのお声が欲しいですわ♪」


 ふむ、王女のお願いとならば―――


 俺の合図に、騎士たちがジョッキを掴む。「おおぉ、冷たい……」と声を漏らす騎士たち。氷を魔法で生成するのが贅沢なこの世界において、キンキンに冷えたジョッキの冷たさはそれだけで一つの驚愕だった。


「では、みなさん。今日は飲んで食って、死ぬまで楽しんでくれ! ―――乾杯!!」


 俺の音頭に合わせて、数百のジョッキがぶつかり合う。 直後、会場に響いたのは喉を鳴らす音と言葉にならない呻きだった。


「……っはぁあああ! な、何だこれは!?」


「この喉ごし……そしてこの冷たさ……エールと全然違うぞ!」

「疲れが洗い流されていくようだ!」

「くぅ~~たまんねぇえ~~!」


「ぷはっ~~! タケオ、このビール、苦味があるのに後味が最高に爽やかだな! 止まらんぞ!」


 剣姫シュトリアーナも気に入ったようだ。口の周りに白いヒゲをつけたまま目を輝かせている。

 ふむ、ジョッキを煽る姿が様になってるな。


 さて、まずは生ビールを楽しみつつも、軽く口に入れたいものがあるよな。


「―――現代フード召喚!」


 俺は特設調理台に召喚したものをミーシャたちに配膳してらう。


「タケオさん、これは豆ですわね。早めに収穫したものかしら?」

「ふむ、姫様の言う通りだ。青いな……タケオ」


 ふふふ、ただの未熟な青豆だと思ったら大間違いだぜ。


「さやの豆を指で押し出しつつ食べてください。絶品ですよ」


「えっと、こうかしら……あ! 美味しいですわ!」

「ああ、これはいい! ほんのりとした塩気の若豆にこのビールがあう!!」


 王女と剣姫がガツガツ枝豆を行く姿を見て、まわりの騎士たちも動き出す。


「豆……? 茹でただけの豆がそんなに旨いわけが……んんっ!?」


 疑いの声を漏らしていた騎士が、殻から飛び出した豆を口にした瞬間、動きを止めた。


「うひゃっ! これうまいっ!」


「絶妙な塩気が、ビールの苦味と合わさって次のひと口を呼ぶ……!」

「かぶりついて、この指で豆を弾き出す感覚~~なんだか癖になるぞ!」


 そうだろうそうだろう、枝豆とビールとかもはや神の組み合わせだからな。


 だが、お通しが枝豆だけじゃ物足りない。



「―――現代フード召喚! お通し2連発!」



 再び調理台に召喚された大量の小鉢。

 お通し、第2弾と第3弾である。


 演習場を埋め尽くす騎士たちが、あらたな小鉢に手を付けはじめた。


「ぶふふっ!!」

「つ~~ん!!」

「な、なんだ? 鼻を抜けるこの痛みは!?」


 突然、屈強な騎士たちが鼻を押さえて口を抑える。


 彼らが食べたのは、小鉢に盛られたヌルヌルとした白い物体―――「たこわさ」だ。


「おい、大丈夫か!?」 周囲がざわつく中、鼻を押さえていた騎士がなぜかふたたびたこわさに手を伸ばす。そして、直後にビールをぐいっといく。


「う、旨い。なんだこれ、最初は鼻がもげるかと思ったが、このツーンとする刺激の後に来る、タコの甘みと塩辛さ。そしてビール……っ。こ、この組み合わせはいいっ!」


「な、何だと……? 私にも!」

「……っぐおおおおお! 鼻が、鼻がああああ! ……ぷはぁ! びーる、びーるをくれ!!」


 阿鼻叫喚と歓喜の連鎖。ワサビの洗礼を受けた騎士たちが、悶絶しながらも次々と「たこわさ」の虜になっていく。未知の触感、未知の刺激。それは淡白な味付けが多いこの世界の料理にはあまり存在しない、酒のための味だった。



「……タケオさん、この白いおいもですか? 優しい味がしますね」


 屈強な騎士たちがたこわさに興奮するなか、ルリアが静かにスプーンで白いかたまりを口に運んで頬をさすっている。


「それはポテトサラダだ。ジャガイモを潰して、マヨネーズっていう魔法の調味料で和えてある。中にはキュウリやハムも入ってるぞ」


「濃厚なのに、どこか酸味があって……あぁ、安心する味ですぅ。このポテトで優しく包み込まれるみたい……」


 ルリアの言葉通り、ポテサラは会場のクッション材となっていた。たこわさで刺激された舌をポテサラのまろやかさが癒やし、またビールへと向かわせる。無限ループの完成だ。


 むふふ、やはり外さないな。この3種(枝豆、たこわさ、ポテサラ)は居酒屋でも定番メニューだからな。

 ビールもだが、なんにでも合うんだ。


 気がつけば演習場の空気は完全に変わっていた。

 数時間前まで命を懸けて戦っていた騎士たちが、今は肩を組みジョッキを鳴らし、枝豆の殻を山盛りにしている。ネクタイじゃなくて……鎧の襟元を緩め、背広じゃなくて……マントを脱ぎ捨てて笑い合うその姿は、どこからどう見ても仕事終わりの居酒屋に集うサラリーマンそのものだ。


「先輩~~3卓、5卓、18卓さまから生ビールおかわり入りました~!」

「タケオさん、こっちも10卓以上からおかわりきてます!」

「タケ~~~ジョッキ大はないのかって、騎士団の連中が騒いでるぞ。もっとデカいのでグイッといきたいとか言ってるし。あたしもそっちがいいかな♪」


 ミーシャがジョッキを両手に抱えて走り回る。

 ルリアはお酒を飲まない人たちに、オレンジジュースやコーラ、そしてウーロン茶を運ぶ。

 スリーナが自分もジョッキを片手に、景気よく笑いながら催促してくる。


「あいよ! メガジョッキ召喚だ。好きなだけ飲め!!」


 俺はデカめのジョッキをバンバン召喚した。

 たしかに、次のおかわり待ちはなかなかに辛いものがあるからな。


「……ふぅ」


 一段落したところで、俺は自分用に召喚したキンキンのジョッキを手に取った。


 喧騒を眺めながらグイッと煽る。

 喉をグッと通る炭酸の刺激。鼻を抜ける麦の香り。そして、ちょっと塩気の強い枝豆をひとつ。


「……だよなぁ。やっぱり、仕事が終わったらこれだよなぁ」


 異世界だろうがなんだろうが、必死に働いた後のビールは裏切らない。王女はすべてに興味津々で「これはなんですの?」と叫んでいるし、シュトリアーナは枝豆とジョッキを両手に抱えている。


「さて……いつまでもお通しだけじゃあ、グルト三等騎士食堂課の名が廃るってな」


 俺は最後の一口を飲み干し、ジョッキを置いた。

 手に残る心地よい冷たさと、腹の底から湧き上がる熱い魔力。



 よしよし、ではメインを出すとしますか。


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第47話まで読んで頂きありがとうございます!

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※本作はカクヨムにて先行公開中です。


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