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第34話 突撃バウンド王女とフライドチキン

「はいっ! 申し遅れましたが、わたくしステア・ロイ・レガンと申しますわ」


 先程までのまるでピンポン玉のような突撃バウンド娘が嘘のように一変した。

 床から立ち上がったその少女は、服の皺をスッと払い非の打ち所がないほど優雅なカーテシーを披露した。金糸のような髪がさらりと揺れ、気品溢れる香りが食堂の脂っこい空気を優しく浄化していく。


「せ、せんぱい……レガンって。レガンってことは、まさかの王女様ってことですかぁ!?」


 ミーシャが俺の袖を掴んで激しく揺さぶる。眼鏡がガクガクと上下し、彼女の脳内処理が追いついていないのがよくわかる。


「ああ、そうみたいだな……」


 俺たちの住むレガン王国。この国の名を冠する姓を持つのは直系の王族のみだ。俺もかつて本部の事務方にいた頃、書類の上では何度も目にした名前だが……


 実物にお目にかかるのはこれが初めてだよ。


「は~~いっ! 第三王女にして、現在は王国特別騎士団長も務めていま~す♪」


 ステアと名乗った王女は、茶目っ気たっぷりにヴィヴィ~♪と、ピースサインをしてみせる。


 そうだった。王都の特別騎士団長は王族が順繰りに持ち回りで受け持つのがこの国の慣例だ。俺が本部にいた頃は、確か第二王子殿下だったはずだが……どうやら代替わりしたらしい。

 まあ実質的な総指揮権は総騎士団長が握っているので、特別騎士団長とはいわば名誉職ではあるのだが。


 ちなみに、今回の交流会(運動会)に国王陛下は来ない。その代わり特別騎士団長は必ず参加することになっている。王族の誰かは来るってことだ。


 つまり今年の一番偉いゲストは、目の前のこの桃色ドレス様ってこと。


「あああ~~っ! 思い出したぁ~~どこかで見たことあると思ったら、新聞に載ってた人だぁ!」


 ミーシャが指を差して叫ぶ。

 こら、失礼だぞミーシャ。だが、王女様はちっとも気分を害した様子もなく「えへへ」と笑っている。


「あ、それはたぶん、騎士団長就任式の時のものですわね」


「そうそう! なんか王国で人気ナンバーワン、可憐でキュートな美少女騎士団長!ってデカデカとと一面の見出しに載ってました!」


「うふふ~それはちょっと新聞社の方が盛っているかもしれませんわ。お恥ずかしい……」

「ふはぁ~~でもでも実物は新聞よりずっと可愛らしくて、本当にお綺麗です!」


「ミーシャさんでしたわね? あなたもとってもかわいいですわ~メガネがキュート♪」

「ふははあぁ~やた~王女様に褒められた~~♪」


 ……おい。


 なぜか速攻で王女と交流を深め出すミーシャ。


 お前さっき「この無駄乳おんな」って言ってなかったか? 女子の友情の構築速度はおっさんの理解を超えている。


 にしても。


 なんで王女様がわざわざこんな食堂に一人で(メイドはいるが)乗り込んでくるんだ?  開催は10日後だぞ。それに王族が三等騎士団の俺たちにこんなに丁寧な挨拶をするなんて、普通はありえない。


 そんな俺の疑問に気付いたのか、王女様がズズいと俺の方に寄って来た。


「ああ~~ようやく、ようやく会えましたわ~タケオさん!」


 ステア王女が、俺の手をぎゅっと握りしめてくる。なんか柔らかい……そして、その瞳には一点の曇りもない熱意が宿っている。


「ええぇ……なんで先輩みたいなおっさんに、こんなキラキラした王女様が興味をもつんですか。もしかして王女様って、かなりのおじ専なんですか?」


「ミーシャ、少し黙ってろ。不敬罪で首が飛ぶぞ」


 が、ミーシャの言う通りで、こんな超絶美少女王女がおっさんに興味があるとははなはだ信じがたい。だが、彼女の口から出た言葉は意外なものだった。


「シュトリアーナから、い~~っぱいお話を聞いていましたの! タケオさんの生み出すお食事がどれほど魂を揺さぶるものかって。わたくし王都にいた頃はまだ騎士団長ではなかったので、なかなかタケオさんの元へは伺えなくて……ずっとずっと、この日を夢見ておりましたのよ!」


 ああ……。


 あの剣姫さまか。シュトリアーナのやつ、自分の懐いてる王族に俺の話をバラ撒きやがったな。たしか懇意にしている王族がいるとは聞いていたが、まさかこんな食いしん坊の暴走王女だったとは。


 白馬の王子さまではなく、食堂のおっさんに興味をもってしまった王女。

 そんな彼女がニンマリと笑みを深めた。


「で、タケオさん……まだですの?」


「え、まだって何がですか?」


「決まってますわ! わたくし今日はお昼も抜いて、護衛の馬車を置き去りにして爆速で駆けつけたのですわよ! すべては、タケオさんのグルメを一番乗りで堪能するために!」


「…………」


 いや、普通に馬車の中で優雅に軽食でも食べてきてくれよ。

 王女殿下ともあろう方が、空腹で辺境の食堂に突撃してくるなんてどんな食欲の化身だ。


「ですが殿下。いくらなんでも、勝手に食事を取るのはいがかなものかと」


 そう、さすがに王族の食事とか俺知らんぞ。

 毒見とか食べちゃダメな物とかいろいろややこしそうじゃん。



「ワクワクですわ~~♪」



 だめだ。人の話を聞いちゃいない。


 金髪を揺らす美少女の瞳は、獲物を狙う猛獣のように……いや、おやつを待つ子犬のようにキラキラと輝いている。


「……はぁ。しゃーない、やるか」


 俺は覚悟を決めてて腕をまくった。このままお帰りいただくのも無理そうだし。


「―――現代フード召喚!」


 黄金色に輝くクリスピーな衣を纏ったチキン。その横には、ホクホクとした厚切りのフライドポテトが山盛り。さらにシャキシャキのキャベツと酸味が効いたマヨネーズが絶妙なコールスローサラダ。そして、ふんわりと焼き上げられたスコーンのようなビスケット……。


「ふあぁ……な、なんですの……!? これ、なんですの……!?(ゴクリ)」


 そう、俺が召喚したのはフライドチキンセットだ。


 クフフ……だしてしまった以上はもう止められんぞ。


 王族でも容赦なしだ。現代ジャンクフードの恐ろしさ、とくと味わってもらおうか。


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※本作はカクヨムにて先行公開中です。


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