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第20話 カレーにうんちくはいらん

 買い付けを終えた俺たちはその日の宿へ戻った。

 バザルの町で予約した宿は一言で言えば「簡素」だった。 石造りの壁に使い込まれた木のベッド、華美な装飾はないが掃除はしっかり行き届いている。俺は重い腰を浮かせてようやく一息つこうとしていた。


「ふはぁ~~」


 グッと腰を伸ばして、息を吐く。

 さて、明日の出発まではのんびりだ。


 小一時間程ぼぉ~っとした。何も考えない時間もまた良きだ。

 働きづめだった前世では考えられない時間の使い方だが、これがまたたまらんな。


 さて、そろそろ夕食か。


 ルリアたちを誘って一階の食堂へ降りようとしたその時だった。


 外が、やけに騒がしい。


「……なんだ?」


 怒号とけたたましい足音。

 窓から顔を出すと、複数の人影が走り回っている。誰もが武装しているな……。


 ルリアたちも異変に気付いて、宿のロビーに降りてきた。

 ほどなくして宿の扉が勢いよく開く。


「騎士団の方々! 魔物が出ました!」


 息を切らして入って来たのは町の自警団員だった。

 周囲の森から魔物が群れで出たらしい。その規模は不明だが、近年では一番の大事らしい。


「申し訳ありませんが、至急応援をお願いします!」


 ……まあ、そうなるよな。


「了解だ。これは騎士団の仕事でもある。みんな行くぞ。自警団を手伝おう」


「はい! タケオさん」

「おっけ~タケ!」

「筋肉、あったまってきたぜ!」


 俺たちは休息を切り上げ、装備を整えて宿を飛び出した。




 ◇◇◇




 辺境の町は基本的に城壁に囲まれてる。そこまで魔物が出ない地区であっても、今回のようなこともあるからだ。

 もちろん城壁と言っても、最前線や王城のようなごついモノではなく簡素なものだが。


 町の守備は北門と南門の二手に分かれることになり、俺たち4人は南門へと配置された。


 南門に到着すると、そこには怯えた表情の自警団員たちが十数名、槍を構えて待機していた。

 魔物の群れとはまだ距離があるようで、いまのところ森の手前からは出てくる動きはないとのこと。


 夕暮れ時の城壁前。緊張感が漂う中―――



「……くぅ」



 静寂の中、不意にかわいらしい音が響いた。


「……ううぅ」


 隣を見るとルリアが頬を赤くして、そっとお腹を押さえている。


「す、すみません、ちょうどお夕飯の時間だったので」

「いや、気にすんな」


 見ればスリーナもゴンスもそして周囲の自警団員たちも、どこか元気がなかった。まあみんな飯前に駆り集めれたんだから、そりゃそうか。


 ほどなくして、自警団のひとりが大きな籠を運んできた。


「皆様、お疲れ様です! 今のうちに食事を取っておいてください」


 配られたのは、石のように硬いパンだけだった。

 スリーナが絶望的な顔でパンを叩く。カチカチと虚しい音がする。


「……まあ、そうだよな」


 準備なんてしてる暇もなかっただろう。

 配ってくれるだけありがたい。


 とはいえ。


「出張飯が硬いパンだけって、ちょっと泣けるな……」


 この世界特有のパンをかじかじと口に押し込んでいく。

 噛みしめるたびに、テンションが下がっていくのは否めない。周りの団員たちも、げっそりした顔で硬いパンをかじっていた。


 これじゃあ戦う前に顎が疲れちまうな。


 ……よし。ここはおっさんが一肌脱ぐか。


 俺は小さく息を吸い、静かに魔力を練った。



「―――現代フード召喚!」



 ポンッ、ポンッと召喚されたものが目の前に現れる。


「……なんか、刺激的な匂いがするんだけど」

「でも……すっごく食欲そそります」


 スリーナが鼻をひくつかせて、ルリアがこちらに寄って来た。


 俺が召喚した現代フード。

 そう、カレーである。


 ルリアとゴンスがスプーンでカレーを一口運ぶ。


「……んむっ!? ―――はふぅ! 辛い、辛いですタケオさん!」

「うわっ、なんだよこれタケオっち! おれっちの舌がヒーヒーいってるぜ」


 まあたしかに辛いだろうな。

 この世界には刺激のある食べ物は少ない。いや、現実的には存在するんだろうけど食べ物と認定されていない。


 たが俺は知っている。カレーの本領はここから発揮されるということを。


「なにこれ、超美味しいんだけど! 身体が芯から熱くなってくるじゃん!」


 スリーナが汗をかきながらも、カレーをバクバクと食べ進める。

 やはり彼女からか。スリーナは現代フードの受け入れ順応が早い。味に対する先入観が薄いのだろう。


「辛いっ……で、でも。お肉と野菜の甘みとこのドロッとしたスープが……ご、ご飯が止まりません!」

「おおおぉ! 俺っちの筋肉が喜んでるぜ! この熱さ、力がみなぎってくる!」


 ルリアがカレーの魅力に堕ちていく。

 ゴンスに至っては、豪快にカレーを飲み込むような勢いだ。


 さて、俺も頂くか。


 とろりとしたルーが温かいご飯と絶妙に絡み合い、口の中で一体となって完成される。このバランスの良さが最高。そしてジャガイモやニンジンなどの具材もよい。

 が、そんなウンチクよりも……


 うまいっ!


 普通にうまいっ!


 それだけで他の言葉は不要。

 そう、こいつは老若男女問わず愛される最高のフードなんだ。


 ガツガツ食うぞ~~~!


 夜の冷えた空気の中で、スパイスの香りが広がる。

 俺たちの周囲からでるにおいにつられて、自警団員たちも一人また一人とこちらを振り返る。彼らの口からは、隠しきれないヨダレが垂れていた。


「お、おい……なんだその匂い」

「なんかわかんないけど……うまそう……(じゅるり)」


 自警団員たちが、ちらちらとこちらを見始める。

 よし、まあいいか。


「みんな、カレー食うか」


「え、いいんですか!?」

「マジかよ! 騎士様最高!」」


 俺は魔力を込めて、現代フード召喚を連発する。

 ぽぽぽんっと出てきたホカホカのカレーたち。即席の配膳が始まった。


「こんなうまいもん、初めて食べた……」

「辛いけど、止まんねぇ」

「う、うめぇえええ! 腹の底から力が出てくる!」


「ご飯が苦手なら、パンにつけてもいいぞ」


 自警団員たちも先ほどの渋い顔はどこへやら、次々と笑顔になる。


 野外で食うカレー。

 ちょっと肌寒い感じが、逆に身体の中からポカポカになって心地よい。


 冷え切っていた南門の空気が、カレーの熱気とスパイスの香りで一気に「野外キャンプ」のような楽しい雰囲気に包まれていく。

 やはりカレーはどんな状況でも人々を笑顔にする「王様」の料理だな。


 そんな中、誰よりもカレーに夢中になっている奴がいた。


「キュア! キュアキュア~~♪」


 ルリアの精霊、サラマンダーのサラだ。


「おいおい、サラ……」


 気付けば三杯目。


「サラちゃん。それ、食べすぎじゃ―――」

「キュアッ、キュア♪」


「もう、あとでお腹痛くなっても知らないからね。はい、もう戻りなさい」


 ルリアが召喚魔法陣を展開する。

 どうやら、いったんサラを収納するようだな。たしかに現状魔物たちに大きな動きはないようだし、戦闘が起こるのかもわからんし。


「……ん? サラ、そのカレー持ち帰るのか?」


 サラは複数のカレーを小さな手足で器用に抱え込んでいる。


「ええぇ……サラちゃん、そんなに夜食持っていって大丈夫?」と ルリアが心配そうに声をかける。


「キュア♪」


 サラは満足げに短く鳴いて、カレーと共に召喚魔法陣の向こう側へと消えていった。

 火の精霊だからか、スパイシーな味が気に入ったのかもしれんな。


 まあ、深く考えてもしゃーないことだ。

 その後もみんなでカレーを食って、大満足な夕飯の時を過ごした俺たち。


 心と腹が満たされ、士気は最高潮。


 さぁ~~魔物どもめ。来るならきやがれ。


【読者のみなさまへ】


第20話まで読んで頂きありがとうございます!

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※本作はカクヨムにて先行公開中です。


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