山姫
流れに身を任せ、そのまましばらく歩いていると川が見えてきた。
そこには、腰あたりまで髪をのばした綺麗な女性が困った顔で辺りを見回していた。
「先生、私達以外にも人がいますよ。迷っていそうですし助けた方がいいのではないでしょうか。」
迷子ならあの方も連れてここから脱出した方がよさそうだ。
「そう、あれが人に見えるならもっとよく見てみなさい。貴方に霊力があれば多少は見えてくる。渡辺もね。」
ということはあの女性は幽霊なのだろうか。
先生の目には何が見えているのかも気になる。
「うーん。僕には霊力がないから一見綺麗な女性に見えるけど、よく見れば荷物もないしあの顔も演技っぽいよね。」
言われてみれば確かに荷物がない。
表情からの推理はまだ難しいが、持ち物から分かることもあるのは盲点だった。
「そして私達をここまで誘導していたのもあの山姫。ここら辺では有名な話のはず。」
なるほど、やはり幽霊だったのか。
有名な話だというのに知らなかった。
完全なる僕のリサーチ不足だ。
「そうだね、ちなみに最初に先生が言ってた森を通ってはいけないっていうのは車に乗った状態で山姫に会わないためだよ。」
最初から2人とも分かっていたのか。
自分の未熟さが申し訳ない。
しかし、なぜ車に乗って山姫に会ってはいけないのだろうか。
「あの、車に乗った状態で山姫に会うとどうなってしまうのですか?」
「あーそれは…って先生、お願いね。」
ん?お願いとはどういうことだ?
「分かってる。」
そう言って先生は僕に向かって紙を投げてきた。すると背後から低いうめき声が聞こえ、肩に塵が積もった。
「いやー危なかったね康介君。」
危ないと言う割には余裕がある。
「今山姫があんたに飛びついて来てたの。誰も気づかなかったら魂を吸われて終わりなんだから少しは気を付けておいて。」
自分は見てなかったから分からないが、後少しで死んでしまったのかもしれない。
想像するだけで恐怖だ。
「すみません。善処します。」
「それでさっきの質問の答えだけど、山姫は飛びついて襲ってくるからかな。山姫は車の中にある魂を吸えてしまうけど、先生の形代は障害物がある限り効果が無い。だから車に飛びつかれてしまうと僕達は終わりだよ。」
穏やかな顔をして自然に恐ろしいことを言うな。形代は先生が僕に投げた紙のことだろうか。とにかく、助かってよかった。
この後僕達は渡辺さんのおかげで無事に車まで戻ることができた。
今日はそのまま車で寝泊まりをするらしい。




