第5話 【急募】トカゲ商人襲撃計画について
【動画配信サイト:チューブ】
その日、日本の動画配信ランキングは、二つの対照的な動画によって占拠されていた。
一つは、暴露系兼ニュース配信者『ヌマキン』のチャンネル。
サムネイルには、『【ランカー】天才攻略者ウラマ、話題の管理ちゃんを完全攻略!?』という煽り文句が踊っている。
動画が再生される。
場所は、都内某所にある探索者専用のトレーニング施設。
重力が数倍に設定された部屋の中で、眼鏡を掛けたインテリ風の青年――世界ランキング上位『チーム・クロノスタ』のリーダー、ウラマが、高速で飛び交う標的を、最小限の動きで回避し続けていた。
「――それで、ウラマさん。最近話題の『東海X-2』については?」
ヌマキンがガラス越しにマイクを向ける。
ウラマは、飛来する火球を紙一重でかわしながら、息も切らさずに答えた。
「データ不足ですね。興味はありますが、今はまだ『味見』をする段階ではない」
彼は指先を振る。
覚醒したスキル【不可視の刃】により、彼の指先の動きとほぼ同時に、標的が真っ二つに割れた。
無駄のない、機械のような挙動。
彼は、地球上にダンジョンに通じるゲートが出現し始めた初期に「覚醒」した青年。徹底した訓練と論理的アプローチで、あらゆるダンジョンを最短探索記録(RTA)で攻略してきた「効率の化身」。
「あの『管理ちゃん』と呼ばれる個体についても?」
「ああ。映像は見ましたが……単なる高出力の魔物でしょう。私の『距離支配』の理論なら、3分14秒。それ以上は彼女の体力が持ちません」
ウラマは眼鏡の位置を直しながら、冷徹に言い放った。
「接近戦特化のようですが、近づかなければどうということはない。我々が行けば、それは攻略ではなく、ただの『処理』になりますから」
『さすがウラマw』
『世界ランカーが言うことは違うわ』
『管理ちゃんも攻略されちゃうかー』
『いや、管理ちゃん舐めすぎだろ』
◆ ◆
もう一つの動画は、悪名高い『アクノシン・イン・ザ・ダーク』。
場所は『関東A-3』ゲート内のダンジョン最深部。
「オラァッ!!」
ドゴォン!!
映像の中で、シルバーアクセをジャラジャラとつけたストリート系の男――探索者『アクノシン』が、ダンジョンボス、オーガの顔面を素手で地面に叩きつけていた。
覚醒したスキル【金剛不壊】による圧倒的な暴力。
彼の拳がめり込むたびに、岩盤が砕け、オーガが悲鳴を上げる。
「ギャハハ!いい声で鳴くじゃねぇか!もっと絶望しろよ!」
アクノシンは、端正な顔を嗜虐的な笑みで歪ませていた。
その周りには、『アクノシン・ファミリー』の面々がオーガの悲惨を嘲笑っている。
彼らは「攻略」には興味がない。
ただ、強者が弱者を蹂躙する時の「絶望顔」を見るためだけに潜っている狂人集団だ。故に、実質日本1位と言われながら、国内外のランキングから除外されている。
「オメーらは魔物が溢れるのが怖いんだろ。だから俺が教えてやってるんだよ。『人間様は怖いぞ』ってな。恐怖を刻み込めば、奴らは穴から出てこねぇ。俺は『教育者』なんだよ!」
彼は瀕死のオーガにトドメの一撃を振り下ろした。
そのコメント欄に、ある情報が流れた。
『アクノシン様!東海のダンジョンのトカゲ商人がレアアイテム持ってるって!』
『管理ちゃんが払った激レア素材だ!』
『殺して奪えば数億円になるかもよ』
アクノシンは、返り血を拭いながら画面を覗き込んだ。
「あ?金?」
彼は鼻を鳴らし、カメラに中指を立てた。
「……興味ねぇわ。俺が見たいのは『絶望顔』だけだ。金なんてスパチャで腐るほどあるんだよ。貧乏人は消えろ」
しかし、直後に嗜虐的な笑みを浮かべる。
「だがな、あの管理者、俺様の『殺すリスト』には入れとくぜぇ」
そう呟いた彼は、画面の向こうに消えていった。
■関東A-3:第30階層:セーフエリア
アクノシンの配信が終了した直後。
セーフエリアで配信を見ていた『アクノシン・ファミリー』の腰巾着パーティー、『ジャッカル』のメンバーたちが、顔を見合わせた。
「……聞いたか?『東海X-2』のトカゲ、数億持ってるってよ」
リーダー格の男――『ジャック』が、舌なめずりをする。
「アクノシンさんは興味ないみたいだし……俺たちがいただいちまおうぜ」
「でも、あの『管理ちゃん』が出るんだろ?大丈夫か?」
別のメンバーが不安そうに言う。
「へっ。動画を見た限り、あの女は『物理攻撃』しかしてねぇ。遠距離からスキルで狙えば楽勝だって」
「違いねぇ!俺たち全員『スキル持ち』だ。物理攻撃しか脳がない魔物ごとき敵じゃねぇよ」
彼らは覚醒しスキルを保有する、Bランク探索者。一般人から見れば超人だが、トップ層には及ばない「半端者」。だからこそ、金への執着は強い。
「アクノシンさんには内緒だぞ。バレたら殺される」
「当たり前だ。さっさと行って、さっさと稼ぐ」
欲望に目をくらませたハイエナたちは、意気揚々と「東海X-2」へと向かった。
しかし、動き出したのは彼らだけではなかった。
配信やインターネットの情報を見た、無数の野良パーティーやソロの強欲な探索者たちも、ギラついた目で武器を手に取っていた。
「早い者勝ちだ!」
「出し抜け!トカゲを狩るぞ!」
「未開の亜人ごときが、Sランク素材を持つのが間違ってるんだよ!」
まさに、地獄の釜の蓋が開いた瞬間だった。
■地下迷宮「ユリカゴ」外縁の森
同じ刻。
冷たい雨が降る森の中。
「はぁ、はぁ……ッ!」
一人の男が、泥まみれになって走っていた。
彼はある「諜報組織」から重要機密を持ち出していた。
背中の傷が熱い。だが、止まれば死ぬ。
目の前に突如現れた遺跡には、闇に通じる石造りゲート――地下迷宮の入り口が見えている。
「あそこに入れば……!」
男が希望を見出した、その瞬間。
ヒュッ。
風を切る音すらせず。
頭上の枝を、左右異なる色の目を光らせた、黒い影が跳躍した。
枝のしなりを利用し、重力を無視するかのように音もなく移動する歩法。
それは、この地下迷宮の管理者――リザレが使う「音のない歩法」と、不気味なほどに酷似していた。
「……ッ!?」
追われている男は恐怖に顔を引きつらせ、ゲートの中へと転がるように飛び込んだ。
黒い影――フードを被った男『ザイル』は、表情一つ変えず、音もなくその後を追って闇の中へと消えた。
嵐が、近づいていた。
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【現在のダンジョン状況】
■人類到達領域
第13階層:地下草原(上層)
■友好関係
・サクラモチ(E級 ピュア・スライムLv56)
・オハナ(S級 古竜Lv91)
・藍野アスカ(Cランク探索者、チャンネル登録者10万)
■BAN対象
・狭間キョウヤ(Dランク探索者)
罪状:スライムへの執拗な虐待
・臼井クロト(Bランク探索者)ほか4名
罪状:冒険者達への陵虐
■管理者コメント
私の出番なし!
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死亡フラグ建築士の皆様(ウラマ、アクノシン、ジャッカル他)のご入場です。
「誰が一番派手に飛ぶか」
予想しながら、次回の「お掃除」をお待ちください。
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