第4話 【悲報】管理ちゃん「カモ」扱いされる
■地下迷宮「ユリカゴ」第10階層(上層):行商人のテント
「……はぁ。困りました」
Cランク探究者の配信者アスカは、リュックの中身を確認してため息をついた。
視聴者に向けて、困り顔を見せる。
「回復薬が切れちゃいました。やっぱり、魔物を倒さずに進む『不殺プレイ』だと、探索に時間がかかって消耗が激しいです」
『アスカちゃん、無理しないで』
『引き返したほうがいいんじゃ?』
『あ、あそこにテントあるぞ!』
コメントの指摘通り、岩陰にやたらと豪華なテントがあった。
中には、爬虫類の姿をした大男――リザードマンの商人が、怪しげな素材を並べて座っていた。
「いらっしゃい。見ない顔だね、お嬢ちゃん」
リザードマンの商人『ゴズ・ヴェン』が、愛想よく、しかし目は笑わずに声をかけてきた。
「あ、あの!ポーションを売っていただけませんか?」
「あいよ。対価は?」
アスカは財布から一万円札を数枚取り出した。
「あの、ここでお金(円)は使えますか?レートはいくらでも構いません!」
ゴズはアスカの手にある紙切れを見て、フンと鼻を鳴らした。
「その紙切れ、魔力もねぇ。鼻もかめねぇからいらねぇよ」
「で、でも、何とかなりませんか?」
「何ともならない。ウチの支払いは金貨か銀貨、銅貨。無ぇならドロップ素材で払いな」
ゴズが顎でしゃくる。
アスカは言葉に詰まった。
今回の探索では「魔物を殺さない」という縛りで潜っているため、交換できるドロップアイテムを持っていないのだ。
「ど、どうしよう……」
アスカが途方に暮れていた、その時だった。
音もなく、テントの入り口に黒い影が落ちた。
「へっ、毎度!今日も来たかい、上客の姉ちゃん!」
ゴズの声色が、明るくなった。
(ヒヒッ、今日も来やがった。世間知らずのいいカモが)
アスカが振り返る。
そこに立っていたのは――銀髪に漆黒のドレス、そして冷たい瞳。頭の片側から生えた歪な黒い角。
「えっ……か、管理ちゃん!?」
『うおおおお!管理ちゃん降臨!』
『ここで会うとか豪運すぎ』
『店主、急に愛想良くなったな』
リザレはアスカを一瞥すると、慣れた様子でカウンターに近づき、短く告げた。
「おやじ、いつもの。甘いやつお願い」
「あいよ!『ドライフルーツの袋詰め』だ。ちょっと酸っぱいが、構わねぇだろ?」
ゴズはしわくちゃの袋をドンと置く。
とても上等なものだとは思えない。
リザレは虚空の穴に手を入れると、「黒光りする硬い鱗」を一枚取り出し、カウンターに置いた。
ゴズの目が、欲望でギラリと光る。
(ヒヒッ!キタキタ!この鱗、王都で家が建つぜ!相場に無知なこの姉ちゃんのお陰で、俺の子孫は末代まで安泰よ!)
「ヒヒッ!毎度あり!」
リザレは損得など気にする様子もなく、商品を受け取る。
その時、リザレの視線がアスカに向いた。
「ん?……あなた、困ってる?」
アスカはビクリと肩を震わせた。
「え、ええと……ポーション買いたいんですけど、お金が使えなくて……」
リザレは数秒アスカを観察し、ゴズに向き直った。
「店主。この娘のポーション代も、私が払う」
「へ?あねご、太っ腹だなぁ!」
リザレは虚空から、「輝く銀色の毛束」を取り出し、ゴズに渡した。
「ひいいっ!こ、こりゃまた上等な!!」
ゴズは腰を抜かさんばかりに驚き、「持ってけドロボー!」と最高級のポーションをアスカに押し付けた。
アスカは慌ててリザレに向き直る。
「あ、ありがとうございます!あの、これ!お礼です!」
アスカは震える手で、もしもの時のために忍ばせておいた、地球産の『チョコレート』を差し出した。
リザレは眉をひそめ、その黒い塊を見つめる。
「……なにこれ?」
リザレは警戒しつつ、一粒つまみ、口に入れた。
その瞬間。
「…………ッ!!」
リザレの目が、限界まで見開かれた。
滑らかな口溶け。
洗練された砂糖とカカオの調和。
ドライフルーツとは次元の違う、まさに、甘味の暴力。
「これ!何て言うの?!」
「チョコレートです!地球では普通のお菓子なんですけど……」
「チョコレート……」
リザレは大事そうに箱を抱えた。
「……また来てね。絶対に」
それだけ言い残し、彼女はふわりと姿を消した。
アスカは呆然と立ち尽くす。
「……管理ちゃんと、話せた……!」
『すげー!!神回確定!!』
『アスカ、やったな!』
『管理ちゃん、立替払www』
『チョコが刺さった?』
◆ ◆
【ネットの反応】
アスカの配信コメント欄は、当初、笑いに包まれていた。
『ドライフルーツにあんなデカい鱗払うとか』
『管理ちゃん、ボラれてね?』
『いいカモで草』
『トカゲ親父の腹黒顔よwww』
しかし数分後。
インターネット掲示板にて、『ダンジョンアイテム特定班』が画像を解析した結果が投下されると、空気は一変した。
【速報】管理ちゃんが支払いに使ったアイテム、鑑定結果判明
>1.黒い鱗
>映像の波長解析、および硬度(カウンターに置いた音)から、討伐難易度S『エンシェント・ドラゴン級の逆鱗』と断定。
>地球での推定取引価格:1000万円以上。
>
>2.輝く銀糸の束
>艶や滑らかさ、神聖な魔力光からして、討伐難易度S『フェンリル級の毛束』の可能性大。
>地球での推定取引価格:2000万円以上。
この投稿は瞬く間に拡散された。
『は??????』
『1千万でドライフルーツ買ったの!?』
『あのトカゲ商人、ボロ儲けじゃねえか!』
『管理ちゃんにとっては「ドラゴンの鱗=500円」レベルなのか……』
『3千万持ってるトカゲ商人……』
『アスカのポーション代、2千万wwww』
『価値観バグりすぎワロタ』
そして、欲望は連鎖する。
映像を見たあまねく探索者や、彼らを雇う者たちが、血眼になって色めき立ったのだ。
「おい見たか!あのトカゲ、大金持ってるぞ!」
「管理ちゃんはあの商人の上客なんだろ?トカゲを襲えば、億万長者じゃね?」
「管理ちゃん倒すのは無理ゲーそうだけど、あのトカゲならいけるんじゃね?!」
世界中の「悪意」のターゲットが、リザレから、あの哀れな商人へとロックオンされた瞬間だった。
■地下迷宮「ユリカゴ」第96階層(深層)、竜の寝床
「……ん~、これ(チョコ)美味しい。幸せ……」
私はオハナ(古竜)の鼻先に座り、チョコを囓っていた。
オハナが物欲しそうに鼻を鳴らす。
「はい、オハナも」
私はオハナの巨大な舌の上に、チョコを一粒乗せてやる。
オハナは目を細めて、嬉しそうに喉を鳴らした。
膝の上のサクラモチにも一粒分けてあげる。
「ぷるぷる!」
サクラモチが嬉しそうに跳ねる。
「オハナの古い鱗とモフ(巨狼)の抜け毛が、こんな美味しいお菓子になるなんて……」
私はニコニコしながら、もう一粒口に入れた。
あの店主は、廃棄物を処理してくれる良い人だ。
私がオハナやモフのケアをして出た「不要品」を、喜んで引き取ってくれる。
それに、良い子とも出会えた。
「また来てくれないかなぁ。あの子」
私はまだ気づいていない。
私の行動が、あの店主を世界一の資産家にしてしまい、異界の強欲な探究者たちを引き寄せる「餌」にしてしまったことに。
そして私の大事な駄菓子屋が、危機に瀕してしまうことも。
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【現在のダンジョン状況】
■人類到達領域
第10階層:行商人のテント(上層)
■友好関係
・サクラモチ(E級 ピュア・スライムLv48→52)
・オハナ(S級 古竜Lv91)
・藍野アスカ(Cランク探索者、チャンネル登録者5→10万)
■BAN対象
・狭間キョウヤ(Dランク探索者)
罪状:スライムへの執拗な虐待
・臼井クロト(Bランク探索者)ほか4名
罪状:冒険者達への陵虐
■管理者コメント
ドライフルーツが黴臭い
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1千万円(鱗)でドライフルーツ(駄菓子)を買う女、リザレ。
ゴズ店主、人生の絶頂期です。
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(ゴズの運命が気になる方もぜひ……)
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