第3話 【朗報】粛清したら神回扱いされた件
■地下迷宮「ユリカゴ」第8階層(上層):地下森林
「――おいおい、聞こえてんのか?このNPC!」
アングラ系Bランク探索者『クロト』をリーダーとするパーティー『マッドドッグ』――5人組が、地下迷宮内で素材集めをしていたエルフ族の女剣士を囲んでゲラゲラと笑っていた。
女剣士の腕や脚には生々しい傷跡。
彼女の足元には、老魔術師が転がっている。
そのローブは泥だらけで、足からは血が流れている。
「が、あ……っ」
「うっせぇよジジイ。映ねぇし、演出の邪魔だ」
クロトは、抵抗できない老人の顔面を、泥のついたブーツで容赦なく踏みつけた。
カメラが、その光景を克明に映し出している。
『うわぁ……』
『胸糞』
『これアウト』
『通報案件』
『↑は?面白いだろw』
『異世界人もNPCってことにしとけば何しても許される件』
「や、やめろ!!止めてくれ!!」
必死に懇願する女剣士。
彼女の剣は、既にクロトの仲間によって取り上げられていた。
「へへっ、いい悲鳴だ。同接(視聴者数)が爆上がりだぜ」
クロトはドローンカメラに向かってニヤリと笑うと、散弾銃の銃口を女剣士の眉間に突きつけた。
「なぁ、お前ら見たいよな?このエルフ女の生肌」
『見たいw』
『恒例の剥ぎ取りタイムきたー!!』
『R指定?』
『NPCに人権はない』
『いや可哀想だろ……』
クロトはコメント欄の反応を見る。
「おいおい、可哀想とか言うなよ視聴者ども!こいつは『擬態魔獣』かもしれないんだぜ?放置したら人間に化けて地上に紛れ込むかもしれない。だから俺たちが『尋問』して安全確認してやってるんだよ!」
クロトは嗜虐的な笑みを深めた。
「よし、命令だ。今すぐ全部脱げ」
「な……ッ!?」
「嫌か?嫌ならこのジジイの頭、弾くぞ?」
クロトは靴底に力を込め、老魔術師の頭をさらに踏みにじった。
「ぐおぉぉっ!」
老魔術師の悲鳴。
女剣士の顔が、屈辱と恐怖に歪む。
「……わ、わかった。脱ぐ!……脱ぐから、やめて……」
「声が小さい!」
仲間達もゲラゲラ笑う。
「それに、ただ脱ぐだけじゃつまんねぇよなぁ?」
彼は泥だらけのブーツを、女剣士の目の前に突き出した。
「全裸になって土下座して、俺の靴を綺麗に舐めろ。そうすりゃ許してやるよ」
「っ……!」
女剣士の目から涙が溢れる。
彼女は震える手で、鎧の留め具に手を掛けた。
カチャリ、と胸当てが外れ、地面に落ちる。
晒される薄い肌着。
カメラがその胸元を執拗にズームアップする。
「ギャハハ!最高!ほら遅せぇぞ!カウントダウンしてやる!」
クロトは銃を構え直し、楽しそうに叫んだ。
「さぁ~ん(3)!」
女剣士が慌てながら、震える指で装備を外していく。
「にぃぃ~いぃ(2)!」
老魔術師は血を流しながら、必死にクロトの足首に手を伸ばした。
「やめろぉぉぉ!……お嬢様ッ……逃げてくだされ!!」
最後の力を振り絞って、老魔術師は女剣士が逃げる隙を作ろうとした。
「あ?」
クロトは面倒くさそうに、老人の顔面を蹴り飛ばした。
ゴキィッ!
鈍い音。 老人の身体が地面に転がる。
「じ、爺ッ!!」
女剣士の悲鳴。
「ひゃははは!続きだ、いぃぃ~ちぃぃ~(1)!」
その彼の指がトリガーにかかり――。
「――ゼェェロォォ(0)!」
女剣士が額を地面に擦り付け、クロトのブーツに顔を近づけようとしたその瞬間。
バァン!!
乾いた音が響いた。
しかし、誰も撃っていない。
◆ ◆
「何が楽しいの?」
私は一番うるさかった男が握っていたアーティファクトを、指で弾いた。
奴が握っていた鉄細工はひしゃげ、腕ごと不自然な方向に曲がった。
「あ、が……え?」
奴は何が起きたのか分からず、ひん曲がった自分の腕を見て呆けている。
私は、彼の顔面に冷え切った視線を落とした。
侮蔑する。
本当に、心の底から。
「ぎぃやぁぁぁぁぁああ!!いでぇ!!て!てめぇ!!何しやがる!!」
「クロトさん!こいつ噂の管理者だ!!」
「やべぇ!マジで出てきた!」
奴の取り巻きたちが慌てて武器を構える。
剣、斧、そしてさっき壊した鉄細工と同じアーティファクト。
私はため息をつき、背後の女剣士と老人に向かって掌を向けた。
『全治』
『浄化結界』
管理者権限の行使。一瞬で二人の体を光の膜が包み込む。
女剣士と老人の傷が塞がっていく。
これでもう、外部からの干渉は一切受け付けない。
「あ、あの……貴女は……」
脱ぎ捨てた鎧を慌てて拾い上げながら、女剣士が涙目で私を見上げてくる。
私は彼女の目を見て、静かに答えた。
「……ここの管理者」
そして、再びゴミどもに向き直り……一歩、踏み出す。
男が尻餅をつきながら後ずさった。
「ひっ……く、来るな!俺たちは配信中だぞ!世界中が見てんだ!」
「配信?」
私は首を傾げた。
「……ああ、あの羽虫?」
私は周囲を飛ぶドローンを一瞥した。
また、視られている。
不快。でも……
「あれで、世界中が見てるんだ?」
少し考えて、頷いた。
「じゃあ、ちょうどいい」
私はクズの汚い顔を見下ろした。
「ひ、ヒィッ!!」
私は人差し指にふっと息を吹きかける。
「次は……私達が楽しむ番だね」
「た、助け――」
「排斥・武装解除」
魔力を込めて男の額を弾く。
バン!
「ブベラッ!!」
「次」
バン。
「ヒョゲッ!!」
「逃げんな」
バン。
「ヒギャッ!!」
「……まだいた」
「ヒィィィ!!止めっ!!」
バン。
「アゴオォォッ!!」
奴らの身体が後方へ吹き飛ぶとともに、その装備は崩壊。素っ裸のまま木々にぶつかり、床を跳ね、虚空の彼方へ光って消えた。
「最初のやつか。一番飛んだの」
◆ ◆
【チューブ:コメント欄の反応】
『【速報】空飛ぶ全裸中年男性、大量発生』
『↑絵面が汚すぎるwww』
『規約守ってる探索者が一番得する世界』
『NPC扱いしてた奴が、一番NPCだったな』
『エルフ娘助けた時の目、優しすぎて泣いた』
『管理ちゃん、マジ天使』
『一生ついていきます』
『これが秩序の執行者……』
最低最悪の胸糞配信が、一瞬にして「神回」へと変わった瞬間だった。
この映像は瞬く間に拡散され、管理者の慈悲深さと、敵に回した時の絶望的な恐怖が世界中に刻まれることとなった。
■地下迷宮「ユリカゴ」第8階層(上層):地下森林
「……ふぅ。片付いた」
私は結界を解く。
老人の傷は、私の回復魔法で既に塞がっている。
女剣士も、鎧を着直し終えていた。
二人は震えながら、地面に額を擦り付けるように平伏した。
「あ、ありがとうございます……!慈悲深きお方……!」
「儂らの命を、尊厳を救っていただき……なんと御礼を言えば……」
別に、感謝されたくてやったわけじゃない。
ただ、目の前のゴミを排除しただけ。
でも……言い表せない、安堵に似た感情がこみ上げてきた。
「排除対象者を追い返しただけだから」
私は懐から、深層で採れた果実を二つ取り出し差し出した。
「はい。今日は帰ったら?疲れてるでしょ」
「こ、これは……!?」
果実を受け取った二人が何かを言いかける前に、私は早足で、地下迷宮の影の中へと溶けるように沈んでいった。
(早く帰って、サクラモチとお風呂入ろ……)
◆ ◆
配信者アスカは、少し離れた場所から、一部始終を見ていた。
彼女のドローンカメラも、その光景を捉えていた。
「……すごい」
アスカは呆然と呟いた。
「本当に、管理者だ……」
彼女の配信は、今回は録画モードにしていた。
リアルタイムではなく、後から編集してアップする予定だった。
だが、今撮れた映像は――。
「これ、アップしていいのかな……」
アスカは悩んだ。
管理ちゃんの姿。その優しさと、圧倒的な力。
「……いや、アップしよう。ちゃんと編集して、敬意を込めて」
アスカは決意した。
そして、荷物から取り出したチョコレートの箱を見つめた。
「……今度、ちゃんと会えたら渡そう」
彼女は小さく笑って、探索を再開した。
■地下迷宮「ユリカゴ」第96階層(深層):竜の寝床
「ただいまー」
私は竜の寝床に戻ってきた。
オハナが嬉しそうに鼻を鳴らす。
「ちょっと面倒なことあったけど、片付けてきた」
私はオハナの鼻先に座り、サクラモチを膝に乗せた。
「……今日も疲れたなぁ」
オカリナを取り出し、静かな旋律を奏で始める。
魂の光が、無数に私の元へ還ってくる。
今日倒された魔物たち。
彼らはまた、このユリカゴの深淵で転生する。
「おかえり。またね」
私は光に手を伸ばし、微笑んだ。
そして私が旋律を変えると、異界の探索者達と、その背後の無数の存在から流れ込む膨大な魔力が集まってくる。
異界人らを一律に排除しない理由。
それは、異界人たちの探索活動が、この地下迷宮から彼らが持ち去る以上に、多くの魔力を流入させているから。それらは、「ユリカゴ」の輪廻転生を支え、新たな血肉や資源を生み出し、私達に甘味を齎してくれるのだ。
魂と魔力の還元を終えたところで、業務日誌を取り出す。
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本日の業務日誌
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■場所
第8階層
■排除者
5名(知能レベル:最低)
■被害
・冒険者2名への暴行
・著しい尊厳の侵害
■対応
永久排除(+武装解除)
■備考
当該個体群は境界の向こうへ送還
次回以降の侵入不許可
(めっちゃ走ったから汗かいた。臭ってないよね。自分じゃわかんない)
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書き終えて、虚空にしまう。
「……ふぅ」
私はブーツを脱いで、足をブラブラさせた。
「ねえ、サクラモチ。異界の連中って、なんであんなにマナー悪いのかな」
「ぷるん?」
「全員じゃないのは分かってるんだけどさ。でも、たまにホントに酷いのが混ざってるんだよね」
サクラモチが慰めるように、私の手のひらに乗ってきた。
「……ありがと。優しいね」
私は蜂蜜飴を一粒、サクラモチにあげた。
そして、もう一粒、自分の口に入れる。
甘い。
「……平和が一番だよね」
私はオカリナを再び吹き始めた。
懐かしい旋律。
ここの皆は知らない、私だけの歌。
――一仕事を終え、至福の時を過ごしている私は、まだ知らなかった。
地球と呼ばれる異界で、『管理ちゃん』という存在が、どれほどの熱狂を生んでいるのかを。
そして、さらに多くの冒険者たちが、私に会うために、この迷宮に押し寄せてくることも。
「……ん?また寒気が」
私はブルリと肩を震わせた。
「……気のせい、だよね?」
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【現在のダンジョン状況】
■人類到達領域
第8階層:地下森林(上層)
■友好関係
・サクラモチ(E級ピュア・スライムLv30→48)
・オハナ(S級古竜Lv90→91)
■BAN対象
・狭間キョウヤ(Dランク探索者)
罪状:スライムへの執拗な虐待
・臼井クロト(Bランク探索者)ほか4名
罪状:冒険者達への陵虐
■管理者コメント
エルフの剣士の髪、綺麗だった
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物理BANで武装解除!
寒気の正体が気になる方はぜひページ下部の【★で称える】から応援をお願いします!
読者様からの★が、リザレの甘味代(おやつ代)になります。
★★★いただけると、作者とサクラモチが喜びの舞を踊ります!
次回、勘違いが加速する「お買い物」回です。
★カクヨム様にて先行配信しております。
https://kakuyomu.jp/works/822139843894075364




