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気が付けば季節も秋になり、肌寒くなった。
とある休日、私レナは、彼氏のレイジと一緒にファミレスに来ていた。二人で談笑しながら、注文した料理を待っていた。
やがて、料理が来た。運んでくれたのは、運搬用のロボットだった。その形状といい動きといい可愛かったので、私は思わず笑顔で料理を受け取った。最後にはロボット相手とはいえ、軽く頭を上げ微笑みつつ見送った。ロボットは背中を向け、颯爽と去っていった。
その時私は気になった。白を基調としたボディのロボットの背中に赤い小さなボタンがあった。よく見ると、そのボタンには「EMO」の文字が。
「レナ、どうしたんだ?」
一点を見詰めている私に、レイジは心配そうに言った。
「何でもないよ」
私はロボットから目を離し、届いた料理を食べ始めた。
「ねぇ、レイジ」
私は思っていたことを口に出した。
「何だ?」
「EMOってどういう意味?」
「どういう意味って?」
「さっきのロボットの後ろにあったボタンに、そう書いてあった」
レイジはフォークを置いた。
「それは、非常停止ボタンじゃないのか?」
「非常停止ボタンって、何かあった時に押す?」
「そう、例えば機械が何かしらのトラブルで暴走したり発火したりした際に押して止めるんだよ」
「へぇ」
私は心の底から興味が湧いた。
「それって何かあるまでは、押しちゃいけないやつ?」
私はレイジに訊いた。
「押すなよ、絶対に押すなよ」
レイジは怖い顔で念を押すように言ったのだった。
翌日は仕事の日である。毎週月曜日は本当に憂鬱になる。前日の仕事に行きたくない感がどれほど高かったことか。
朝礼で部長からアナウンスがあった。
「明日はオフィスの避難訓練がある。このような計画で行う」
明日って、唐突だよね。しかし、部長は平然と避難訓練の計画について説明した。
「そして、火災報知機を押して火災を知らせる係を決める。誰かやりたい者はいないか?」
誰も手を上げない中、私一人だけが思わず手を挙げていた。
「篠田さんか。じゃあ、明日は頼むな」
部長は納得したようだったが、他の人達は不思議そうだった。
「篠田さん、大丈夫なの?」
「ボタンを押して、みんなに知らせられるの?」
「大丈夫です」
左右の二人の女性社員の心配を押し切り、私は自信を持って言った。
昨日から、あのボタンが押したくて仕方なかったのだ。
【注意】この物語はフィクションです。非常停止ボタン等を何の理由も無く押すのは迷惑行為です。絶対にやらないように。筆者は、一切の責任を取りません。




