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承前3

「じゃ、お金の魅力?」

「だから無理があるだろう。バレたら、養育費をせびれない」

「元々せびれる程近くないってのも」

「論点外れ、じゃないな。矛盾解消その一、だ。お前の挙げるあの人の性格特性が間違っている」

「二もあるんだ?」

「お前の母親の性格側で矛盾解消しても良い」

「三は?」

「無いと言いたいがある。が、其処は今は抜かせ。少なくとも、口喧嘩している訳じゃないんだろう?」

「成程、じゃ、俺抜きでの解答一挙両得編。まず母親の方ね」

「まずは一挙じゃねぇよ」

「でした。まぁ、お前等とおんなじ。他人の見方が甘い」

「解った。俺が間違っていたな。外出るか」

「返礼だよ? あの母親に計画性があるなんて言ってくれた人に喧嘩売れないって。お前の見方で見るなら、あれも善人になるなぁ、と。他人の言うこと鵜呑みにするのって、善人なんだろ? 子供が欲しいって実際言われたことがあるのか如何かは知らないけど、まぁ、悪人がペット可愛がるってのもよくある例だし? 彼是疑う前に、弱点発見って一足跳びに思う素直さも持ち合わせていた訳よ。近親のいない老人の狙い処じゃあるよな? で、息子に指令出す訳だ。っと、ごめん、俺登場しちゃったけど、今の俺じゃないから良いよな? 健気で可愛い子供だったから、今の俺とは別人ってことで見逃してもらうとして、その愛くるしさで以て火急速やかに老人の心を溶かしてみせろと無茶振りで。嘘と解ったときにはもう遅い。がっちり爺ぃのロンリーハートを鷲掴みにして、目指せ養子の座。やっぱり呆れた?」

「呆れた場は違うがな。しかし、それならそれで、御老人の性格特性が俺の見方で合っているということだろう? 下手な嘘にも絆されてしまう」

「別人ってとこを忘れちゃ困る。あの餓鬼は嘘がとびきり巧かった。邪気無い笑顔から泣きの演技迄、芸域も幅広く総浚え。いっそステージママに鞍替えしなよって、母上様に言わなかったのが唯一の心残りという。お茶の間の皆様を感動の嵐に包み込む自信はあったのにさぁ、ほんと心が無いよ、あの爺ぃ」

「簡潔にと聞いたが」

「言ったね」

「つまり?」

「どんだけ可愛い子供が胸きゅんきゅん仕草でねだろうと、相好崩してお年玉弾んじゃう爺様じゃないってことは確か。性向が淡泊なのは知られ渡っている所為かな、小児愛好者って説は聞いたことは無いし、大方の見解では、媚び(へつ)う大人は見飽きたから、彩りに餓鬼子も、媚び媚びコレクションに加える気になったってとこ? 踏ん反り返る質じゃないけどさ、心の涙を押し隠しての、取り繕ったおべっか顔をせせら嗤う趣味嗜好じゃあるし。そういう爺ぃの敵に言わせれば、今更ながらの嫁取りも、ひたすら悪意だね。爺ぃが国庫に金を納める筈も無し、うちにもお零れが、と取らぬ狸のなんとやらの取り入り取り巻き狸共に、残念賞、と――」

「おい、酔払い」

「酷ぇ」

「お前が饒舌になるのは、酔っているときだろうが」

「流石我が友、よく御存知で」

「唯解らないのは」

「何でしょう」

「お前、何処にいる」

「お手前に?」

「身体の所在はな。お前は、素面でも思考を妄想空間だろうと電脳空間だろうと、飛ばし捲るんだ」

「要するに?」

「現実の話か?」

「現実というか、現実に存在する脳マッピング。機能的脳磁気共鳴画像法をこの世の数十個の脳に、いや、三桁突入突破かな? まぁ、適用すれば、現実に手に取って見れる図は取れるぐらいの現実性はある。で、言語解釈すれば、たぶんこんな感じってとこ」

「つまり」

「一説に依れば」

「本当のことか」

「心の所在は知らないよ?」

「その前だ。媚びての諂いの」

「見たことない?」

「ある訳が無い。お前に可愛い気の欠片も見たことは無い」

「あれ?」

「指令だ。するなよ」

「……いやさぁ、突込み処が違うんだけど」

「何処だ」

「其処はやっぱり嫌がらせで結婚したってとこじゃない?」

「当然訊く。が、その前と言っているが? させられたのか、本当に?」

「……マザコンと言った。一説と言った」

「翻訳が足りねぇよ。意訳しろ」

「嫌じゃなかった」

「したってことか?」

「まあね。媚びて諂いましたよ。今とおんなじ」

「だから欠片も見えねぇだろうが」

「そりゃ、一欠片も無いからね、実際。阿諛追従したところで、疵付くような心臓は持ってない。まぁ、餓鬼の頃は今とは違うけど、それでも、嫌々してたってのとも違う。ゲームみたいなもんで、巧く金一封せしめれば、脳内麻薬が報償に? 勿論金の恩恵にも与るし、母親に誉めて貰えるしってのの前にね」

「お前の心配は其処か」

「それはお前の心配」

「おいっ」

「俺、本気で爺ぃの肚は読めないんだけど、で、間違ってもあれを子供好きとは呼ばないけど、俺が隠々鬱々爺ぃに取り入ってたんじゃないことが、追い出されなかった一因かな、とは。皿回しの巧い仔猿が偶に視界入ってくるぐらいなら面白がれんのかな、なんてことは、餓鬼の頃から思ってた訳よ。結論、子供ってのはしぶとい」

「跳び過ぎると何度言えば?」

「確かに般化して纏めちゃ世界中の子供達から反論を喰らう。みんなおんなじ仲良しねってより、孤高の存在を気取りたがるお歳頃。俺も思ったなぁ。あの餓鬼に限れば、他人が心配するだけ莫迦を見るというお話で、そんな過去を持つ大人は、未来の子供のことなんか心配しないという心無いお話に発展する。特にユニークネスに注目すれば、余程の遺伝子変化が無い限り、その未来のお子様も結構タフなんじゃない? 嘘と欲のど真中だろうと、産み出す以外のことを思い付かない女とさ、そんな――と、御本人眼の前に失礼って話だったね、まぁ、頼りに成るかは知らないけど、頼りに成る気たっぷりの親がいる子供の心のケアなんて俺には畏れ多いってもんで。世界の中心で唯一人ってな自己中野郎は、身体面は多いに気に成るって話はしたいけどさ」

「どっちだ」

「心より躰が欲しい」

「下ネタに走るな。莫迦話は止せ。与太話と実話を混在させるな」

「禁止条項、あといくつ?」

「現実を真面目に語れ」

「小咄で口火切った奴の言う台詞じゃないよ? まぁ、でも、実際生きてる人間の死にネタ笑って語っちゃ拙いか。喝采挙げたい奴多いんだけどね。あんまりなぁ、他人を喜ばすようなお忿りしてると、油、打掛けたくなっちゃうよ? お前も爺ぃの死で喜ぶ口かって」

「怒るぞ。いや、もういい。外出るぞ」

「拳の語り合いって、そんな寒い友情嫌だって。冷凍保存だって考えに入れるような爺ぃ相手にしてるってこと、真面目に語りたいんじゃないの? 俺にとっても切実問題なんで、どつき合っての怒鳴り合いじゃ、と、そうだった、ひそひそ話で宜しく。此処だけの話。外に出さないでねって真面目なお願い言い忘れてた」

「何の話だ」

「躰のお話」

「な、ん、の、は、な、し、だ」

「死体の話って言えれば解り易いんだろうけど、コールドスリープ迄入れると死体って言い切って良いか微妙じゃない」

「外へ出ろ」

「暑いって。子供だってさ、あったかい母親の胎から外出てきてからの方が大変よ? いつ迄もだっこして抱え込んでられる訳じゃ無し。外出て遊びだすようになったら如何すんの」

「誰がそんな長――後で覚えてろ」

「お前が悪役台詞吐いて如何すんのって話。悪の魔の手から守ってあげるヒーロー役だろ? で、お前の気が短くたって、爺ぃは長いんだ。言ったろ? 死んで花実咲いちゃうよ?」

「聞かせやがれ」

「えー? 今は、有難うは言っても良いけど、謝る気無いよ?」

「後でシベリア寒気団迄蹴り上げてやる」

「足長自慢は女のいるとこでやんなって」

「拳が嫌だっていうお前の意の汲んでやった俺にまず礼を言え」

「有難う? でもさ、それだと、雨と共に落ちてくるってオチだけど?」

「だから優しさだろうが」

「巡り巡って本日のお題に戻った、と」

「戻ったか?」

「その優しさで黙ってて? 取り敢えず、俺は優しくない」

「取り敢えずで片付けるな」

「俺の心の在処は関係無いだろ? 俺の関与は躰だけ。一応爺ぃの優しさは関係あるかな? でも無いで済むから――」

「一言で済ますな。焦点だろう」

「蹴りだって嫌だし。さくさく進めたいんだろ? あってもトンネル効果頻発サイズで終わらせようよ」

「無いの類義語で進展するか。本気で無いなら……待てよ、話は何処からだ」

「始めから?」

「終わり迄というのはもう終わらせた。仮定は何処だ。お前が黙って……」

「いる? 優しさを根底に於かなきゃ、仮は抜いても良い。で、この先もとなると未来のお話で誰であっても仮想。で、現時点迄爺ぃが黙ってたのは過去からの現実で、その理由候補の単に知らないからとなると証拠は無いから、否定は仮定に留まる。証拠、欲しい? 病院か弁護士事務所或いは興信所で、誰か、誑し込んでくれば? 子飼いは無理でも、それぐらいは出来なきゃ困るだろ」

「本気でマグマ溜まりに落とされたいらしいな」

「お空の彼方じゃなかった? 女の方が金も男もなんて空想してんだから、お前は地に足着けとかなきゃ、色男? お前が一番しなきゃなんないとこって、其処じゃないの? 爺ぃの金より力より? 金も力も無かりけりって言ったらヒモに失礼だから、爺ぃに負けるで留めるとして――」

「誰が金が欲しいなんて言った」

「あのヒトを哀しませたくないの? 声も結構中々好いけどね、極め技はやっぱり上眼遣いのうるうる眸? はいはい後々。まずは議論で終わって一転――」

「待ち受けているのが乾杯だと思うなよ」

「嘘とは言ってませんよ? 思ってもない。其処はお前とおんなじ、仲良くね? でもさ、お前だって、嘘じゃないけど、それだけじゃないってのは見抜けてるんだろ」

「俺は――っ」

「だあから、爺ぃ配下の女誑し込んで俺様の魅力とやらに自信付けてこいってんの。お前の方が寝技で説得されて如何するよ」

「本気で一度死んでこい。引け目感じさせたのは俺だろっ。最後の最後に誠実でなかった証拠叩き付けて死なせたくないって本気で――」

「そういうバトルは爺ぃとやんな。マジでそうも思っちまう女だから、争奪戦になってんだろってぐらいは、一観客でも解るっつーの。女に嵌まるのは愉しいけどさ、爺ぃの思う壷に嵌まるのって愉しくないと思うよ? 墓穴に嵌まる方がきっと未だ愉しい」

「お前まさか……」

「具象で?」

「お前の悪口、軽口じゃなかったのか」

「突込み処が違うって俺も言い飽きてきた。先廻りして言っとくけど、残念ながら子役が嵌まり過ぎてイメージ焼き付いちゃった俺には、大人の魅力で惹くドラマ主演の役はお呼びでないみたい」

「論文調子でいけと言った」

「ドラマ調の方が解り易いんじゃない? ふふふ、爺ぃめ、楽に死ねると思うなよ。今こそ昔年の恨みを晴らすとき、なんてな台詞、俺が吐いて極まると思う? ノワール好みはそっちだし?」

「誰がするか、恥ずかしい」

「たった今のは」

「良い、もう、気が抜けた。軽口と採る」

「お前好みの事実ってもんでもあるよ?」

「も、と言う辺りが信用ならん」

「じゃ、此処でお題をひとつ」

「未だやるのか」

「やりますよ。金の最大の魅力は何か」

「金の問題じゃない」

「という人も金の巡る世に住んでいるのです」

「が、最大?」

「近い。有難くもひとつところに留まらず巡ってくれもする。何故か? 誰が持っても金は金」

「最大多数の意見とは思えない」

「じゃ、局所観点で。有徳の人以外も所有できる」

「全然魅力じゃない」

「死んでく悪人には魅力だろ? 法人設立のエキスパートってとこ、忘れてない? 墓場に金は持ってけない。あ、墓には持ち込めるか。一緒に埋まって墓場荒らしに益してやる優しさは爺ぃには無いってことで眼を瞑ってもらえる? ともあれ、地獄には無理。正に其処が金の怖さの一面ってもんで、爺ぃが死んだってこの世に金は留まる。所有者がヒトで無くなったって、その魅力も力も健在よ? 金の争奪戦が爺ぃの死で終わりなんて考えて――」

「金なんか要らんと何度言わせる」

「そう思ってるのは一人だけ」

「お前だって――」

「甘いって。俺に利害関係が無いってあっさり認めちゃ、お前が欲しいってのだって呆れるよ? あの女の胎蹴る筆頭候補だろ?」

「冗談でも言うな」

「冗談で済ませられない厳しい世に生きているのが俺等という」

「なら、実際問題として」

「そりゃさ、この歳にもなってお小遣いねだるって恥ずかしいからね。いい歳してお小遣いねだって、子供の小遣い巻き上げる女もいなくなったことだし、まぁ、今は良いよ。でも、餓鬼の頃ねだった分を返せとなったら、借金持ち決定。うーん、やっぱ欲しいかな。俺、全然貯金してないし、口止め料ねだろっかなぁ」

「意味が無いというのを漸く受け入れてやったところなのに、亦蒸し返す気か? 借用証書があるとでも?」

「書いた覚えは無い。けど、明細自署名入り、どっかの弁護士から衝き付けられたって眼を瞠らない自信もある」

「……偽造?」

「お手のもの? もっとはっきり言っちゃうと、爺ぃの好物よ?」

「解った、お前評価での性格特性は受け入れる」

「嫌そうだ?」

「そりゃ」

「それじゃ未だ未だ足りないよ? あれを善人なんて――」

「喩え話だ」

「仮令妄想話の中でも爺ぃを美しい修辞で喩えては口が穢れるってな人、いるよ? まぁ、そういう真当正義の人より、あらまほしき慈善家とにっこり言えちゃう人を警戒しなきゃならないんだけどね」

「最早耳の穢れという気がしてきたが。お前が悪役爺ぃと呼ぶのは、それだけの根拠があるんだろうから受け入れるが、誰彼構わず悪口言って良い理由には成らない」

「理由あれば言っても良いんだ?」

「其処迄高潔じゃない」


お読みくださり有難うございます。

束の間且あなたの貴重なお時間の、暇潰しにでも成れたら幸いです。


承後5

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