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スロースタートが直せず、3迄は読み進んで欲しいな、と甘えたことを思ってしまっています、が、なにはともあれ、一目でもお会いできて嬉しゅうございます\(^^)/

「死に瀕して旦那が鯛を喰ってみたかったと言いました。女房が鯛を求めて奔走したが、やっぱり手に入れられず、金目鯛を鯛と偽って喰わせたのですが、ある人が、あれは鯛ではなかったと真実を告げました」

「キンメも旨い」

「趣旨は味覚じゃなくて」

「味覚で区別つかなきゃ同じもんって趣旨でも無いことぐらいは解ってる。唯余りにも聞いたような聞き過ぎた話で、つい。日本昔話か?」

「知らん。要は、嘘は吐く可からずという問題は、古典になるぐらいの問題だということで、解答編がこのお話である、と」

「暗黙の前提を入れて考えれば、嘘は吐く可からずという解答になるけど?」

「何でだ」

「まず……鯛は拙いな、苺にしよう」

「鯛の方が旨い」

「のはお前の味覚で俺の味覚でもある、けど、問題は其処に無い。入手困難を金銭の問題にしちゃうと、問題が複雑、いや、逆に簡単か? まぁ、筋がずれるから――」

「何でだ」

「やっぱり複雑に成る方だな。まず、この夫婦の経済状態で分類しなきゃならない」

「金は――じゃない、鯛だしな、お話としては貧乏人設定」

「貧乏ね。でも、古典世界でも、借金という手はあるだろ? で、女房なら女で、若いなら――」

「日本昔話なんだよ」

「性の倫理という、これ亦議論を呼ぶ観点を持ち込まずに済ませようってこと?」

「元々関係無いだろう」

「関係はある。昔話だと親の為に旦那の為に身売りするっつー話が満載じゃなかった?」

「まぁ」

「だから身売りして金作って何が拙いんだ、って逃れ方も出来る。でも、現代社会で道徳観念抜きで金を語るのは難しい。若い女ならまず躰だし、卵子ってのもある。他も諸々。臓器売って金を作る。保険金詐欺ならずとも弱点を狙う。違法漁船に乗り込む。無理を押すならそれなりに金は手に入る」

「解った。抜かそう。借金は無し」

「了解」

「古典に拘りは無いんだよ。現代迄連綿と続いてきた問題と言いたかっただけで。単純に、キャビアを最後の晩餐にとすると、極まらないというかぎらぎら感が」

「現代物語にするなら、庶民だって喰えんだろ?」

「いや、やっぱり本物黒海産は高い」

「それに倫理問題のハードル上げるもんだしな」

「キャビアで?」

「ってより黒海ベルーガが。レッドデータリスト種に入ってたか入りそうだか、キャビア業界と保護団体が綱引きしてるとか、聞いたことない?」

「絶滅バーサス食欲は現代の難問だな。俺も生臭戒律にはけちを吐けられても、ビーガンに喧嘩売るのは怯む。で、植物か? でも、換金植物栽培にも問題があるぜ? 特に苺なんつー高付加価値販売狙いだと、けち吐ける狙い処もわんさかある」

「白状すると、単純に、鯛の旬が解らなくて苺が春だって知ってただけって話。金の問題じゃなく、時節柄手に入らないってことにしたかった、よな?」

「技術革新と季節逆転南北間商品流通を無視して現代は語れんが?」

「だよなぁ」

「冬に西瓜なら? オーストラリア産ってのは流石に聞いたことがないような」

「渋谷の某有名店ならありそうじゃないの?」

「贈答用だろ、あそこは。まぁ、でも西瓜でもあんまり絵に成らないし、店頭物は避けて……桑の実なんて如何だ?」

「知らないんだけど」

「これで決めろ。古典というより古代中世に遡らんで、昭和で手を打つ」

「だったらバナナでも」

「莫迦。それこそ金の問題になる」

「そっか?」

「奴隷制度プランテーションってとこ迄いくぞ。絵に、というよりお話に成らん。良いから聞けよ。現代物で懐かしネタでいくんだ。死に瀕した御年輩者が、子供の頃を回想する。無理が無いだろう? 何でも手に入れられるように成ったが今は何喰っても味気無い」

「それは、味蕾等が老化したということ?」

「老化するのか、そんなとこ」

「する。舌が効かなくなって――一般人からすりゃ大した違いじゃないのかもしれないけど、まぁ、それで引退を決める料理人がいるって」

「へぇ。うーん、それでも良いが、話としたら、心理面でいきたい。それにグルメも駄目だ。色々旨いものも食べてきたが、子供の頃腹空かしで失敬した桑の実が一番旨かったなぁ、と」

「成金か」

「……問題が?」

「たぶん」

「出たら出たで変更しろ。今の時代且つ俺達の生息地なら金持ちじゃなくても、大体何でも喰えるんだ。全然進んでないじゃないか」

「だ、ね。でも、問題は金じゃないんだよ。それじゃ女房っと現代だから奥さんの方が良いか」

「その呼称は差別という激烈問題に抵触するが」

「いや、名称の問題じゃないんだ。まずカップルの女側――これもアファーマティヴアクションに反しそうな、となると……」

「昭和の香り漂わせる為に、との言い訳で許してもらおう」

「ペナがあったらお前が受けるということにしてもらって話の問題点に集中すると、瑕瑾は絶滅種ということ。妻が夫騙して、それから誰かが嘘を暴くって話なんだから、致命的だ。絶滅種じゃ騙せないだろ?」

「勝手に絶滅させんな。お前が聞いたことも見たこともなくたって桑はある」

「あるんだ?」

「俺も喰ったことは無いし、昔より減り捲っただろうが、絶滅には程遠いんじゃないかな。稀少なら劫って商品になりそうだし。俺、年寄り――も、問題か? つまり、御年配の方が喜んでんだか嘆いているんだか、どっちだよって調子の説教みたいなの喰らいながら、売ってたっていう木通(あけび)だったか馬酔木(あせび)だったかを相伴したことがある」

「誰?」

「年寄りってことしか覚えていない」

「ふーん? つまり、本当に旬じゃないって問題に絞れる、と。爺ぃは豪華特別個室の病床で、いや、豪邸内でも同じか? まぁ、暑さ寒さに過敏になっちまう貧乏年寄りとは訳が違う。季節感を感じることもない」

「貧乏は関係無いだろ」

「室内温度調節器の恩恵に与れるか奈何(いかん)は生死に直結しない? 越冬地を求めて南下するのは俺等の生息地でも鳥に限ったことじゃないし、熱波でばたばた人死に出る中、クーラー効かせたオープンカフェで茶ぁするのがステータスっつーおっそろしい国もある」

「心温まる好い話ってのをしたいんだよ、俺は」

「寒くない? 季節感皆無で無理言ったって方が、惚けた所為で何喰っても騙されるって話より、心は冷えないけどな、俺は」

「……まあな。話を戻そう。桑の実は……商売物じゃないというだけで、でも、そうだな、確か日本産のでなければ、カリスマ主婦だったかカリスマシェフだったかが取り上げたとか」

「して一攫千金?」

「さあな。トロピカルフルーツもパッションの種は儲けとは聞くが、とにかく、似ている商売物なら見つかるだろうと言いたかったんだ。同じ科でなくとも何とかベリーとかな。そっくりじゃなくても、其処は、贋食業界の手腕に乞う御期待ということで」

「金持ちだし? って初手から丸々作っとけって」

「いや、其処も話の盛り上げ処なんだよ。奥方がまずは慣れぬ御御足を棒にして探し回り」

「ググって終わらせない有閑マダムならではの時間潰し」

「人情話なんだよ。検索一発じゃ話に成らん。まずは近場だな。でも、それでも無くて、離れ難きを押して遠く夫の田舎に足を運んでもやっぱり無い。時間は迫る。あぁ、如何しよう。あの人の最後の望みを叶えてあげるには。如何して貴方は実を成らして下さらない。幼きときの友でしょうとの詰り節で一句、東風吹かば――いや、南国は駄目だな、やっぱり北国で、寒枯れの木に語り掛ける」

「落葉樹?」

「拘るなよ。俺が知るか」

「でも、南は嫌なんだろ? 北国だったら針葉樹じゃ?」

「亦末期(まつご)の水の種から始めるのは嫌だ。仕方無い、落葉樹希望だが、でなかったら、トーンを揃えるんじゃなくて、コントラストでいこう。青々水々しい木に向かって、その生命力を何故分けてくれないのかと嘆く妻」

「で、木石に文句を言うだけ言って責めたところで、悪魔の囁きが」

「人情を介せよ、お前は」

「教訓話だろ? 論理譚だ」

「情味が入ってない教訓話は単なる説教という」

「説教は嫌だな」

「だろう?」

「解ったよ。まぁ、何方にせよ、夫婦共に善人設定なんだ?」

「正に其処が暗黙の前提というやつだが」

「だが?」

「一捻りしたいってところでもある。出てくる全員が善良じゃあ、嘘も方便って当然だろう?」

「前提を忘れてない? 俺は其処に異議を申し立てたんだけど?」

「……そうだったか?」

「だった。というか、その後、な。もう一人登場人物がいただろ? 嘘だってバラしちゃう莫迦が」

「莫迦とは言っていない。奥様の心を汲んで、騙した儘あの世に逝かせてやれよ、と」

「奥様?」

「いや、奥様もあるが、主題は旦那というか、旦那の心境だよ。偽りでも、焦がれたものを食べられて満足して死んでいける。対して、真実は不満に繋がる。嘘に水さして邪魔する程の価値が真実にあるのか」

「上から目線」

「何だ?」

「いーや? お話なら、それもアリか」

「話じゃなかったら?」

「お話だろ? 仮に現実のことで、仮に仮に俺がその爺ぃなら、勝手に決めつけるなこの莫迦、とは言わないかな? せせら嗤う? 如何しても現実の身近な金持ち爺ぃが言いそうなことを考えちゃってね。って、それこそ、勝手に他人の台詞を作るなって言われそうなんだけどね」

「お前――」

「お話だろ?」

「あぁ」

「だから仕方無いよ。如何したって、お前が作る話ならお前が心境も作らないといけないんだから」

「お前が作る話なら?」

「この設定で?」

「あぁ」

「意外だなぁ」

「意外なことというか異常なことを持ち出しているのはお前だろうが。単純なこの喩え話で如何やったら可怪(おか)しな筋を付けられるのか知りたいよ」

「喩え話?」

「御伽話だって寓話だって良い。一聞納得の単純さだろう?」

「得てして単純さは深淵なものってさ。研ぎ澄まされた数式一式には宇宙の深淵が潜むという。美しい純粋公式一本にごちゃごちゃ醜い人間関係を押し込んじゃ無理が出るだろうけどね。問題は其処じゃないというか、正に其処というか」

「美々しく一文で」

「フレーミング問題じゃ?」

「成程無理がある」

「お前が俺に考えさせるつもりはないだろうな、と思っていたから意外と――」

「前提の前提が違っていたな。思考しろ」

「だから、フレーム違い。俺に考えろっていうのは、嘘を指摘する第三の男に限ってだろ? お話世界全体じゃなく」

「男に限れば登場人物は二人だ」

「友情出演してくれよ、脚本家」

「監督は?」

「んー? 俺、途中入場者って迷惑者だから、エンドロール待たないと」

「で?」

「だから、設定に迄口突込んで良いのかって訊いてんだけど」

「一から遣り直ししたいって?」

「奥さんの方は心象風景も撮っちゃってるから」

「そう、もう其処は変更不可。旦那の為を思って仕方無しに嘘を吐いてしまう。此処変えたら、もう全然違う話に成る」

「夫に尽くす妻ねぇ?」

「不満でも?」

「だから許可取ってんじゃないよ。まぁ、良いか、其処は信じよう」

「お話だが?」

「お話だねぇ、でもさ、お話の中の第三の男」

「二人だ」

「や、二、ってか、夫婦に続く二人目の男となると、もうそれだけで間男っぽくないか?」

「……三で」

「だろ? 暗黙の前提のひとつで、この男、空気読めよってな性格に問題があっても利害関係は無いってことだよな?」

「性格は前提に入れることは無いだろう?」

「いや、肝だし要だろ? こいつ悪人にしちまうと」

「話に成らん」

「そ。すっごく良い奴で」

「他にも必要か?」

「必要だねぇ。どっちの味方?」

「あ?」

「だからさ、単なるでしゃばり野郎?」

「それも話に成らん。そう……だな、一応、旦那の味方って方にしておくか。あぁ、でも奥さんの方の敵というのでもない。それだとまた違う話に成っちまう。遺産相続を巡ってのどろどろドラマ系にありがちじゃないか。奥方は旦那様を此迄欺いてきたのです。これが正しく証拠です等々」

「違うんだ?」

「違うだろう。人情話って設定は、そうだよ、もうお前、設定は変更するな。ややこしいどころか、どんどんずれていきやがる」

「でもなぁ、夫妻は善人、で、表のもひとりも夫妻の嫌がらせをしない、じゃあ、嘘は吐く可からずになるんだよ」

「何でだよ」

「一捻りしたいって言ってたから、旦那の方は悪人にしとかない? 奥さんじゃなきゃ良いんだろ?」

「拘ってないって――」

「なら、奥さんの方は――」

「一からの遣り直しが嫌だと言っただろう? 其処変えると全然違った話に成るだろうが。あぁ、だからって夫の方を悪人にしたい訳じゃない。こう、改悛した、とかだと一層人情話が深まるかもな、と、まぁ、そういう感じの捻りだ、飽く迄も」

「実際、あれ、悪人と違う?」

「実際――ってお話だろうが」

「そ、お話として。偽物と解ってがっくりきちまうって設定なんだろ? 酷ぇ奴だと俺は思うね。そんな奴なら、そりゃもう真実告げてがっくりさせてやりたいよ。あ、仮に俺が第三の男だったならって仮定でね」

「待てって。こいつも善人設定なんだよ」

「そ、良い奴。とってもとってもね。で、良い奴なら、酷ぇ旦那をがっくりぽっくり逝かせてやる為に、あれこれ打撒かすよ」

「待てって、夫が酷いって設定を勝手に入れるな」

「俺が? 入れたのお前だろ?」

「入れていない」

「言ったよ? 偽物じゃ不満足って」

「それで何で酷くなる」

「まぁ、俺は酷いと断定したいけど、客観的でも、けち臭いっていうか自分勝手っていうか、狭量じゃあるよな?」

(たばか)られて肚立てるから?」

「其処迄いったら、酷いと言って良くない?」

「迄じゃなくても酷いのか?」

「客観的には以下略だって」

「不満に感じるだけでか?」

「そ」

「理由を」


お読みくださり有難うございます。

束の間且あなたの貴重なお時間の、暇潰しにでも成れたら幸いです。


承後2

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