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コロニー

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

 30分近くバイクを走らせて、ようやく中枢地区のコロニーが見えてきた。それまでは住む人がほとんど居ない静かに朽ち続けている廃墟のような街が続いていた分、コロニーの威容はいつ見ても眼を見張る。


 巨大なドームに覆われて街全体が紫外線や空気中の細菌、ウイルス、さらにはまたいつ何時照射されるか解らない宇宙放射線の驚異からも守られている。街区をすっぽりと覆った、全方位型のシェルターがその全容だ。


 カヲリのバイクがそのシェルターの300メートル程の距離まで近づくと、早速オートドローンが出迎えにやってくる。出迎えと言ってもそんな温かいおもてなしを受けるわけではなく、有り体に言えば監視の目だった。


 例えコロニー外の住人であっても、コロニーに一度でも来たことがある人間であれば個人を識別される。防護服のフルフェイスのヘルメット越しに瞳の虹彩で判別するそうだ。この段階で何かしら”問題がある人物”だと判明すれば、コロニーへの入り口は固く閉ざされるか、犯罪者の指名手配がかかったほどの要注意人物であれば、捕縛ロボットにより即座に拘束される。以前に偶然その様子を目撃した時は、無人ロボットたちのあまりの即座の連携にものの10秒ほどで為す術なく御用となった男を見て、どんな犯罪を犯したのは知らないが、逆に憐れみさえ憶えるほどだった。


 カヲリは何度もコロニーへ来ているので、ドローンは何もしない。その代わり、ずっと着いてくる。用事を済ませてコロニーから出て、周囲の外壁からちょうど300m以上離れるその時まで。


 カヲリはドローンを伴いながらコロニーの無人駐車場にバイクを停めた。ここは無線充電スポットにもなっているので、自然とバイクのバッテリーへと充電が始まる。もちろん、無料サービスだ。コロニーを建設しているテクノロジストの義勇団体「ノア」の取り決めたルールに従い、それに逆らいさえしなければどんなサービスも無料で受けられるし、ものも手に入れられる。


 こんな便利な場所からわざわざ遠く離れた場所に住み、重苦しい防護服を来てバイクに乗ってやってくるのかと、不思議がられるのも解らなくはないなと、カヲリはいつも思う。


 ガサゴソと防護服が擦れる音を立てながらコロニー内部へ通じる入り口へと向かい、外界の細菌やウイルスを絶対にコロニー内部に入れないように設けられた3重のクリーンセキュリティーを通って、ようやく中へと入れる。


 2重目のクリーンセキュリティースペースで、重苦しい防護服を脱いで専用ロッカーへとしまう。タンクトップにカーゴパンつといったラフな出で立ちの自分の姿が施設のミラーに映し出される。化粧っ気はないものカヲリの肌艶はよく唇も健康的に潤っていた。はカヲリは今29歳。20代の若々しさは汗を玉のようにして弾く肌つやの良さからもまだまだ健在だ。父親譲りの長いまつ毛も以前友達からは羨ましがられ、密かに自慢だった。その友人のほとんどは、もうこの世に居ない。


 3重目のクリーンセキュリティーで最後の除菌エアシャワーを浴びれば検疫クリアとなる。ここまでするのは、たとえ宇宙災害の生き残りの人たちであっても、自然免疫の異常を少なからず抱えている人が多く、旧世界では問題とされなかったただの風邪のウイルスであったり、どこにでもあるカビのような細菌類が、時にそのような人たちの命を奪ってしまうことがままあるからだ。


 なんという息苦しい世界だろう。でもそれももう馴れてしまった。


 カヲリが16歳の時に世界の悪夢は訪れた。ある日を境に周囲の人が次から次へと倒れて帰らぬ人となっていった。そして自分以外の家族は皆居なくなり、友人も大多数を失った。自分だけがなぜか理由もわからないが免疫異常の程度が少なく、他の生き残りの人と同様に、偶然に生き残っただけだった。それから13年。まだまだ子供だったカヲリは、生き残った周りの大人たちに助けられながら何とか自分の住まいでの生活の基盤を築いていった。5年程経つと、コロニーが機能し始め、あっという間に周りの人達はこの中枢地区へと移り住んでいった。


 でも、カヲリにはそれが出来なかった。


 今でも、家で待っていると家族が帰ってくるかもしれないという淡い期待が心の何処かにあった。丁度その宇宙災害が起こった時、カヲリの実の父は仕事で海外に赴任しており、日本を離れていたのだった。母や兄、弟の死はこの目で見てきたけれど、父がどうなったかは解らなかった。当時の宇宙放射線によって、しばらくは世界中の通信網も大打撃を受けて、それまでのほとんどの連絡手段を失ってしまったのだ。


 連絡手段を失った中で、カヲリと同じように家族の帰りを待っているという人も結構居ると聞いたことがあった。しかし、徐々に皆諦め、中枢地区の夢の楽園のような暮らしに惹かれて移り住んでいったようだ。カヲリもこれまで移住を全く考えないわけではなかった。そのような快適な暮らしは良いなと思うし、人が多い場所の方がきっと寂しくないし楽しいのかもしれない。しかし、家族と暮らした懐かしい記憶が色濃く残った住まいに後ろ髪を惹かれるように、もう少しだけ父を待ってみようという言い訳を心の中に秘めながら、少しずつ先延ばして来たのだった。


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