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最初で最後の敗北は重すぎた。

こういう話が読みたかったので書きました。例によって趣味と癖が全開です。今回はプロローグです。

 世界には2種類の生物がいる。<魔力を持たない者>と、<魔力を持っている者>だ。植物、動物、魚、人間、生物であるならどちらかに分類される。魔力とは体内で生成される一種のエネルギーのようなもので、炎を生み出すとか、速く走れるようにするとか、様々なことに変換できる。魔力を持つ生物は、種族に関係なく「魔族」と呼称され、異様な力を使えるからと忌み嫌われていた。


 どちらであるか見分けるのは簡単で、魔力がある生物は体表に魔力巣(まりょくそう)と呼ばれる、魔力が生成される器官を持っている。体表に出ている事もあって、手触りは硬い。頭部についていることが多いから、「(つの)」なんて呼ばれることもある。これが大きかったり複数あるとそれだけ持てる魔力も多い。だから見た目で、どの程度の魔力を持っているのか判断できるし、多くの魔力を持っている人ほど「魔族」であることを隠すことは難しい。


 そんなわけで、魔族の殆どは街に隠れ住むなんてことはせずに外に出る。人間の魔族は多くないけれど、逃れた魔族はなんとなく助け合うように集まって、不毛の地に「魔族の砦」を建てた。動物すら殆どいない住みにくい土地だけど、だからこそ魔力の無い人間は寄り付かない。そして砦に住む魔族達を束ねて守っているのが、「魔王」であり、私が就いている役職だった。

 こんな場所に住んでいても、何が気に入らないのか魔力無しの人間達は定期的に騎士団を送り込んでくる。それは魔族を討伐するため。討伐なんて聞こえがいい言葉を使うけど、砦に住むのは魔力があるだけの人間だから、殺人と何ら変わりない。

 幾ら武装した魔力無しがいようと、大した脅威ではなかった。私一人が外に出て、手を振るだけで簡単に片づけられるから。魔王になってから、何十、何百回とそうして退けてきた。そうして、平穏を続けていたのに。


 それが、その日は違った。


 端正な顔立ちの女騎士は、自身を聖騎士と名乗った。私の攻撃を魔力ごと手にした大剣で切り裂く。油断も手加減もしていない。たった一人、されど一人。目の前の存在は、今までとは違って確かに強者だった。魔王である私の魔力で作った盾さえ壊しそうな騎士に、私よりも魔力が少ない、砦に隠れている皆に助力は頼めない。戦いの末、先に膝を着いたのは私の方だった。


「そんな……魔王様、嘘、嘘ですよね?」


 遠くから聞きなれた同胞達の声がする。額から伝う血が、視界を濁らせる。頭上に掲げられた白く輝く大剣の光がぼんやりと見えて、最後の時を悟った私は、惨めにも首を垂れて言葉を絞り出した。


「ごめん、皆──…、負けて、守れなくて。ごめんね。」


 最初で最後の敗北は、重すぎた。


 ……

 ………

 …………


「じゃあそろそろ行くから。昼ごはん冷蔵庫に入れておいたから、ちゃんと食べてね。」

「あー、はいはい。そんなこと気にしなくていいから。学校、遅刻しちゃうよ。」


玄関の前の姿見で制服の乱れを整えながら、見送りに来た同居人に声をかけた。鏡に映る自分の頭部には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。数年経っても、それには少し慣れない。ついでに髪先を適当に撫でつけて、靴を履く。


「じゃあ行ってきます。」


 魔族なんて存在していなくて、剣で戦うような国でもない。そんな世界に生まれ変わってから、15年と少し経って──どういうわけか私は前世の記憶を、魔王だった時の記憶を覚えていた。

逆異世界転生的なやつ。

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