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結果と被害

ユキノがナナシノを救出して二日。

アラクネスートの拠点となっている屋敷内で目元に隈を作ったアトラは机の上の書類を睨みつけながらカリカリと一心不乱にペンを動かしており、その周囲を大量の書類を抱えたアラクネスートの構成員たちが慌ただしく走り回っている。


「あ~こんなのいつまでたっても終わるわけがないですぅ~。ちょっとそこのあなた~カララさんがどこに行ったかご存じないですかぁ~」


書類から視線をあげずにアトラは近くにいた部下の一人に話しかけるも、フルフルと首を横に振られ盛大にため息をつく。

その瞳の奥で揺らめく怒りの炎はその勢いを増していき、やがて来るカララの末路を暗示していた。


「うぇ~ん~こんなの私の仕事じゃないですのにぃ~だいたいこういう書類仕事がしたくないって普段から言ってるんですよぉ私はぁ~実働面でも今回ほとんど現場に出てたの私だけなのにな~んで報告書まで書かないといけないのですぅ~?いやぁ現場を見たんだからそれを報告しろと言うのは分かりますよぉ?でもこの量はさすがにあんまりですぅ~こんなことが続くのなら敵対組織に寝返りますよぉ」


あまりにも愚痴が止まらな過ぎて爆弾的発言まで飛び出したアトラの様子に周囲の部下たちは冷や汗を流し、しかし今ヘタに話しかけてしまったらアラクネスート内でトップの戦闘力を持つ彼女にどういう目にあわされるか分からないという理由から屋敷の一室にはアトラののんびりとした口調とは裏腹のピリピリとした空気が充満していた。

そんな中、部屋に踏み入って来た男が書類を手に新たに机についた。


「おやぁ?アレンさんじゃないですかぁ~」

「どうも。大変そうですので少々お手伝いを」


「おぉ~それはありがたいですねぇ~しかしいいのですかぁ?そっちの方も大変なのではぁ?」

「帝国の方ならご心配なく。私が居なくても諸々回るように騎士達には教育を施していますので」


「むむ~?それじゃあまるで我々が部下の教育をうまくできていないみたいな言い方じゃないですかぁ~?」


アトラの言葉に周囲の構成員たちがぎくりと動きを止める。

現在アトラの機嫌はすこぶる悪く、サンドバッグもといカララも近くにいないため、アレンの返答次第では何人かの構成員が涙を流すことになる事態が予想された。

しかしアレンはそんな彼らに不憫そうな視線を向けた後にペンを手に取って書類に対峙しながらも口を開く。


「そういうわけではないですよ。ただ今回の問題は…むしろ上が優秀過ぎるのとその彼女が一人で抱え込んでしまうのが原因なわけですしね」

「いやぁ全くその通りですぅ~少しは私以外の下の人に仕事を回してあげなさいよぉ~って口を酸っぱくさせて言っているんですよぉ?…なのにいつもいつも一人で仕事しちゃうからこういうことになるんですぅ~ほんとにクイーンは~まったくもぅ~」


「…クイーン嬢の容体はいかがですか」

「倒れたっきりですねぇ。薬も使って眠らせてるのでしばらくは起きてこないかと思いますがぁ~クソ真面目の優等生ちゃんなので~意地で起きてきちゃうかもですねぇ~」


「…私がついていながら申し訳ない」


アレンがペンを置いてアトラにゆっくりと頭を下げた。

それを受けたアトラもペンを置き、書類から顔をあげてアレンと向き合う。


「いえいえ~お気になさらずぅ~。ただ詳しくお話をお聞かせ願いますかぁ~?昨日は一体何があったんです?」


それはアトラがユキノとナナシノの二人を発見し、状況から一応の作戦終了を仲間たちに伝えた後の話だった。

アトラとカララが拠点に戻るとクイーンの姿がなく、どこに行ったのかと連絡を取ろうとしたところで激しく取り乱したクイーンを抱えてアレンが現れたのだ。


「わぁ!アレン様!きてたんですねっ…ってちょっとクイーンどうしたの!?」


ガタガタと体を震わせて、目元に涙を浮かべながらクイーンは何かを呻いていた。

普段の気丈な彼女から想像もできないようなその状態にアトラとカララも普段のふざけた様子は控えて駆け寄る。


「説明は後で!今はとにかく彼女を休ませてあげてください」


そう言い残し二人にクイーンを引き渡すとアレンは急いで屋敷を飛び出した。


「クイーン?ちょっとクイーンなにがあったのよ!」

「た、たべ…」

「たべ~?」


「人が…ぐちゃって…!いやぁあああああああああ!!!」


まるで会話にならず、とにかく取り乱しているクイーンの様子に今は話を聞くのは無理だと、いつぞやの様にアトラとカララは二人がかりでクイーンを眠らせた。

そして組織内の事務処理や書類関連などの仕事をほぼ一手に引き受けていたクイーンが使い物にならなくなっているために現在アトラがカカナツラに関する一連の残務処理に追われている状態だった。

いい加減何があったのかを教えて欲しいと、アトラはアレンに険しい視線を送る。

丸眼鏡の奥のたれ目がその内気そうな見た目とは裏腹に押しつぶしそうなほどの圧をもってアレンに叩きつけられる。


「実は…うちの姫がアマリリス嬢に今回の件で協力を求めたのは御存じでしょうか」

「うぅ~?断られたとは聞きましたけどぉ?」


「ええ本人には断られたのですが…どうも直接手を出すことは出来ないが協力者を派遣してくれるという話になったらしく…」

「なるほど~?それでぇ?」


「そこまで言えばクイーン嬢がどう行動したのか分かるのではないですか」

「まぁそうですねぇ~クイーンがあのアマリリスさんの手の者を手放しで信用するはずありませんよね~もちろんうちのボスも~」


「はい。というわけでちょうど姫様とアラクネスート…双方からも私がこっそりと手を貸してほしいと頼みを受けていたのもあり向かっていたところクイーン嬢と合流しましてその協力者の元に向かったのです」

「…そこで何かを見たと」


アレンはアトラの言葉にこくりと頷いた。

心なしかその顔は青ざめているようにアトラには見えた。


「その協力者はアマリリス嬢とアリス様の取り決めにより見つけ次第カカナツラの拠点を襲撃していくという事になっていたのですが私たちが見たのはそんな生易しい物ではありませんでした」

「ふーむ?」


アトラは思わず首をひねった。

いくら事務作業が基本とはいえクイーンもそれなりに犯罪組織に身を置くに足る経験をしている。

そんな彼女が敵対組織の襲撃現場を見たからと言って取り乱すだろうかと。

当然ながら死体を見たくらいで今さら取り乱すはずは無く、凄惨な拷問を受けた無残な死体など見慣れていると言ってもいい。

ならばクイーンが取り乱したのは襲撃という行為ではなく…その協力者のほうにだ。


「で?「なに」がいたんですぅ?」

「…メイドでした」


「…はい~?」

「客観的に見て可憐だと言える容姿をした褐色のメイドがいたんです」


ふざけているのかとアトラは言葉が喉元まで出かかっていたが、語るアレンの表情は真面目そのもので…念のためにアトラは周囲の部下に休憩を言い渡して部屋から追い出したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだかんだ言ってしっかり仕事するアトラさん、やはり戦ってないときは常識と良心の民(ただし比較対象はヤバい女とする) たべ…食べ? メイドってどのメイドだろうと思ってたけどもこれは確定かな…
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