衝動の向かう先
イチャイチャ回です。
「おぶ…ぶ…ぉ…」
まだ口から水をゴボゴボとこぼしている変な肉塊を無視して私は待たせていたナナちゃんに駆け寄った。
まだ少しぐったりとしていたけれど、ナナちゃんの身体はさっきまでの痛々しいものではない綺麗な状態にまで回復していた。
あんなに身体が欠損した状態なんて見たことなかったからもしかしてナナちゃんの能力でもどうにもならないんじゃないかと心配していたけれど杞憂だったみたいで心底安心した。
「ナナちゃん」
「ユキ、ノ…さん…」
ナナちゃんが最期に見た時より細くなった気のする腕を振るわせながらも懸命に私に伸ばしてきた。
「きて…くれた、んですね…わた、し…ユキノさんに…あいた、くて…」
「うん…私も会いたかったよナナちゃん」
会いたくて逢いたくてあいたくてどうしようもなかった。
こうしてナナちゃんの姿を見るまでの私が何をしていたのかすら思いだせないほどにただ会いたかった。
欠けてしまった私の大切なもの…私の一部。
私が私でいることを許してくれるナナちゃん。
その彼女が私に会いたかったと手を伸ばしてくれているのが涙が出そうになるほど嬉しい。
「よかっ…た…」
「うん、よかったよ…本当によかった」
あぁ大変だ。
ナナちゃんは今にも崩れ落ちそうなほど震えながらも必死に手を伸ばしてくれている…それほど私に会いたかったのだから私だってそれを返してあげないと。
だから私も手を伸ばさないと。
「あはっ」
「ユキノ…さ…ん?…っぁ!!!」
私はナナちゃんに手を伸ばした。
右腕のスノーホワイトを。
ナナちゃんの身体に深々と刺さった爪からその肉の柔らかさと温もりが伝わってくる…それはとっても気持ちがよくて心地がいい。
そうだこれだよ…この感覚だよ。
ナナちゃんがいなくって今日までずっとずっと足りなくなっていた何かが戻って来た。
なんとなく記憶に残っている気がするけど魔物を殺しても悪い人を殺してもこれっぽちも満足できなかった…それが今、こんなに私の中を暖かいものが満ちていく。
だから今までできなかった分を取り戻すようにもう一度、そしてもう一度…ううん、何度だってナナちゃんの身体に夢中で爪を振り下ろす。
途中で後ろから「ひぃぃいいいいいい!!!」という変な泣き声みたいな声と生肉を引きずるような音が聞こえてそのまま遠ざかっていったけれどそんなことどうでもいい。
私は今この瞬間が何よりも大事なんだ。
──────────
ぐちゃぐちゃグチャグチャとスノーホワイトの爪がナナシノの身体を切り潰していく。
小柄な少女がミンチに変えられていく異常な光景でありながらもユキノは恍惚の表情で笑い続けていた。
「あははははははは!あはぁっ!!どこ行ってたのナナちゃん~!ナナちゃんがいなかったから私はこんなに「溜まっちゃって」たんだよ!あはっあ!もっともっともっといいよねいいよね!?ずっとずっとお預けされてたんだもん!気持ちいいよぉ!あははははははははははははっ!!!あははははははははははははは!!ちがぁぁぁあぁぁああうぅぅぅぅうううううぁぁぁぁぁああああ!!!!」
喜々とした表情でスノーホワイトの爪を振り下ろしていたユキノだったがスイッチが切り替わったように突如としてスノーホワイトを解除して頭を抱えてその場にうずくまる。
その表情は先ほどまでの笑顔とは違い、涙でぐしゃぐしゃになって後悔の表情が浮かんでいた。
「ちがう…ちがうのにぃぃぃぃぃいいい…わた、私はナナちゃんを助けに来たのに…なんで…なんでぇ…もう嫌だ…なんでこうなっちゃうの…もう嫌だよ…ごめん…!ごめんなさいナナちゃん…うわぁぁぁああああああああ!!」
まるで先ほどまで爪を振り下ろしていた動作をまねるように、ユキノは何度も何度も自分の額を床に叩きつける。
ゴンゴンと鈍い音をさせながら血を滲ませ、なおも自傷を続ける彼女を止めたのはナナシノだった。
無残なミンチ状態から回復したナナシノは優しくユキノの身体を抱きしめる。
その顔は安心したかのように微笑んでいた。
「謝らなくても大丈夫ですよ。なにもユキノさんが謝ることはないのです…だってあなたは私を殺していい人なんですから」
「でも…でもぉ…!助けに、わ、私助けにっ、きたのにぃぃぃいい…」
「はい。ユキノさんはこうしてちゃんと来てくれました」
「だけど酷いことしちゃった!!助けに来たのに…抑えられなかった…ナナちゃん酷い目にあってたのに、なのに私…!!」
「そうです、ね…ここに居た間はとっても苦しかったです…ユキノさんのところに帰りたいって…思ってました。正直少しだけさっきはびっくりしてしまいましたけど…でもユキノさんに痛い事をされるのは私は不思議と嫌な事だとは思いませんでした。むしろ私を…必要としてくれるんだなって思えて…何といえばいいのでしょうかこの気持ちは…えっと…嬉しかった?でいいのでしょうか?とにかくそんな気持ちになりました。だから謝らなくていいです」
「うぅぅぁぁあああ…でも、でも…」
「ユキノさん、少しだけ気を確かに持ってくださいね」
「え…?うっ!!?」
ユキノの脇腹に鋭く激しい痛みが奔る。
ふと見てみるとナナシノが自らの身体を貫いていた杭を持ちユキノを刺していたのだ。
「ユキノさんが自分を許せなくても、こうして私はあなたの全部を許します。そういう約束じゃないですか私たち…だからいいんです。私はあなたが来てくれて…そして殺してくれて嬉しかった。それが全てです」
「な、な、ちゃん…」
ぎゅっとユキノがナナシノの身体を強く抱きしめる。
「お願いナナちゃん…もっと…痛くして…私を許して…」
「はい…どこまでもお付き合いします」
杭はさらにユキノの体内を深く貫いていく。
そして同時にナナシノは杭の反対側を自らの腹に突き刺した。
二人を繋ぐ杭はお互いの抱擁が強まるにつれてより深く、二人の腹に沈んで行き、やがては流れ出る血さえも一つに溶け合う。
「ナナちゃん…ナナちゃん…もうどこにもいかないで…私が守るから…ずっと一緒に居て…」
「はい…ずっと一緒に居ます…もう攫われたりしないように気をつけます。ユキノさんと一緒に居たいです」
トクントクンと揃うお互いの鼓動を感じながら広がっていく混ざり合った血の海の中で二人はゆっくりと眠りについたのだった。
純愛です、通してください。




