醜い到達点
次回は明日か明後日に投稿予定です。
「ふ、ふぅ…」
ユキノさんと言葉にしようとしたが口に嵌められた拘束具のせいで声は出すことが出来ず、細く空気が漏れるだけだった。
対するユキノはナナシノの姿を見るとピタリとその動きを止め、笑みが浮かんでいたはずの顔から一切の表情が消える。
「ナナちゃん…?」
ユキノはフラフラと今にも崩れ落ちてしまいそうな足取りで人の形のままの白い左腕をナナシノに伸ばし、その頬に触れる。
「ふー…ふっ…」
「…」
茫然とその場に立ち尽くしているユキノをしり目に、男たちは状況が理解できないながらもその場から逃げ出そうと音をたてずにゆっくりと移動をしようとした。
しかしそれを許さないとばかりにユキノからもっとも近くにいた男に向かって異形の右腕が振り下ろされ、鎌の様な鋭い五指がその身体をズタズタに切り裂き、同時に放たれた無数の雷が空中を奔り、逃げ出そうとしていた他の男たちを貫く。
男たちは致命傷を負いながらもまだ息があり、ユキノは最初に切り裂いた男を異形の腕で掴み、持ち上げる。
「…」
ただひたすらに無表情で男を見つめ、そんな様子に全身からどくどくと血を流しながら男は恐怖に顔を歪めた。
だがそれも一瞬、次の瞬間には異形の腕が触れている部分にまるで異常な高温に熱せられた鉄を押し当てられているような肌が爛れて焼け焦げていく激痛が襲い、やがて全身を炎が包み込んだ。
そしてユキノは火の塊と化した男を、他の男たちがうずくまっている場所に放り投げ、巻き込むようにして全員が燃えていく。
火に炙られることで身体がねじ曲がり、まるで踊るような奇妙な動きで全身を焼かれていく男たちに興味も見せずにユキノはナナシノの元に駆け寄り異形の右腕でナナシノが囚われている壁を殴りつけた。
どうやら鎖には魔法的な処置が施されていたようで、ナナシノの全身を絡めとる鎖はユキノから逃げるかのように外れ、身体を支えていたものが取り除かれたことでナナシノ本人の体重により杭から身体がひとりでに抜け落ちた。
「ナナちゃん!」
ユキノは硬い地面に激突する寸前にナナシノの身体を受け止め、その衝撃で切り取られた手足を塞いでいた蓋が外れて転がる。
「ゆき、の…さん…」
二人の視線が交わり、ユキノが口を開きかけたその時だった。
「待てぇぇぇこの化け物がぁ…!」
もはや入口という概念ごと破壊されているかのような部屋の前に、腹から血を流したレシーダが目を血走らせた状態で立っていた。
「お、とう…さん…」
「は?」
ユキノはレシーダの事など気にも留めていなかったが、ナナシノが口走った言葉によりグリンと首を回してレシーダを無表情で見つめる。
「黙れ化け物が!お前に父などと呼ばれる筋合いはない…!化け物が化け物を連れてきやがって…!このクソどもが!」
「ねぇナナちゃん…ナナちゃんをここに連れて来たのはあの人?ナナちゃんをこんな目に合わせたのは…あの人?あれは「カカナツラ」の人なの?」
ナナシノはレシーダとユキノに交互に視線を向け、そして力無く頷いた。
それを受けたユキノはナナシノを地面に優しく寝かせると「少しだけ待っててね」と言い残して立ち上がり、レシーダに向き合った。
「なんだ、化け物が…!この俺に歯向かうつもりかぁ!俺を誰だと思っている…!」
「…」
無言でユキノが異形の右腕を持ち上げると反射的にレシーダは身体をビクッと震わせ、それを自覚すると羞恥とプライドからくる怒りに顔を歪め、拳を握りしめる。
「ち、調子に乗るなよ化け物が!この俺を馬鹿にしやがって…!!絶対に殺してやる…お前のやったことを心底後悔させてやるぞぉ!」
勢いよく懐からレシーダは毒々しい液体の入った注射器を取り出し、自らの首に針を突き刺して中の液体を注入した。
ゴボゴボと泡を立てる液体が注射器の中からレシーダの体の中に全て移動すると赤く血走っていた目が瞬時に紫に染まり、レシーダは「ぐがぁああああああああ!!!」と叫び声をあげながらうずくまった。
そしてさらに異変は起り、腹に開いていた穴を紫色の繊維のようなものが身体の内側から湧き上がるようにうじゃうじゃと現れて塞いでいく。
変化はそれだけではなく、レシーダの見えている肌の部分にまるでミミズのようなものが内部を這いまわっているかのように線状に膨れ上がり、やがてそれは全身に回ってその身体を肥大化させていく。
そうして出来上がったのは全身が醜くはれ上がった紫色の怪物だ。
全長は3メートルに及び、身体には絶えず腫瘍のようなものが膨れがってひとりでに潰れ…ぶちゅっと紫の液体をまき散らしたのちに傷口が再生されてまた膨れ上がる…と見ているだけで嫌悪感を覚えるようなものだった。
しかしそんな姿に変貌してしまったレシーダは見た目とは裏腹に「ギャハハハハハ!!」と笑い声をあげていた。
「どうだ見たか!そこにいる化け物と魔物の力を掛け合わせた俺の最高の研究成果だ!ひゃははははははははははははははははは!!!これが俺の辿り着いた「神の力」!あの方に献上する俺の力だァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「…」
狂ったように笑い続ける怪物と化したレシーダをユキノは冷めた目で見ていたのだった。
巨大化は敗北フラグ。




