魔剣スカーレッド4
明日はお休みです。
次回は水か木曜日に投稿します。
「くそっ!なんでこんなことに!」
その男、組織「カカナツラ」のリーダーにしてとある国の没落した貴族の最後の当主であるレシーダ・カカナツラは焦っていた。
当時のカカナツラの当主が事業に失敗し、多額の負債を抱えた結果、住む場所も今日の食事も何もかもを無くし絶望の淵に立たされていたところをある人物に拾われた。
その人物の特徴を一言で表すのならば…とにかく人間味がなかった。
不気味であったり、神秘的だったりという事ではなく…人の姿をしているはずなのに人でない何かと相対したかのような感覚を覚えた。
その人物はレシーダに優しく微笑みかけると手を差し伸べて彼に向かってこう言った。
「もしよければ私たちの事を手伝ってはくれないかい?」
藁にもすがる気持ちでその手を取ったレシーダの判断は正解だったと思えた。
なぜならその人物はレシーダの事を全面的に支援し、豪華な住処に使いきれないほどの金を渡してきたのだから。
そしてその人物がレシーダに求めたことはただ一つ…「神に至る何か」を作り出してほしいという事だけだった。
最初は何を言われたのかさっぱりわからなかなったが、その人物にまで見捨てられるわけにはいかないと文献をあさり、怪しげなまじないに手を伸ばしと知らないなりに努力をしていたところ、その人物の部下と名乗る赤いフードの女がレシーダの元に現れた。
その女は自らをリトルレッドと名乗り、一つの助言を残す。
「子供を一人作りなさい。それがきっとあなたにとって何より必要なものをもたらすわ」
何もかもが怪し気な女の言葉であったが、あの人物の部下を名乗っている以上レシーダに拒否するという選択肢はないに等しく、適当な女性を孕ませ子を産ませた。
そして誕生した女の子は…なんと異常ともいえるほどの不死性を持って生を受けたのだ。
「まさかこの子供が神なのか…?」
「いいえ違うわ。その子供はあの人の言う神ではない。でも…もしかすれば神に至る道しるべにはなるかもね」
そう言い残したリトルレッドの言葉に天啓を受けたかのようにレシーダは行動を始めた。
神へと至る道しるべ…言ってしまえば実験用のモルモットである子供には名を与えず…いつの間にか「ナナシノ」と呼ばれるようになったその存在をひたすら切り刻んだ。
神などと言う大層な存在であるならば不死の存在であることは間違いがないはずだ。
だから身体を切り落とし、どうやって再生するのかその仕組みを観察した。
神という存在が病にかかることなどないと不衛生な環境に置き、汚物を啜らせ、細菌を体内に注入した。
どれだけ血肉を削ぎ落し、全身を病に蝕まれようともナナシノは死ぬことはなく…そしてナナシノが苦しむ度に様々なデータが集まっていく。
同時にレシーダは魔物という存在にも目を向けていた。
あの人物やリトルレッドから魔物という存在の成り立ち…かつて存在していた神の力の一端である「欠片」の存在を聞かされ、それを利用できないかと考えていたのだ。
それを話すとリトルレッドから魔物を捉えることのできる不思議な魔道具を与えられ、部下に命じてひたすら魔物を捉え、ナナシノと同じように解剖した。
時にはナナシノに魔物の肉を食わせたり、組織を身体に移植したりなどの邪法にまで手を出した。
子に愛情など無く、このままいけば神へと至る研究を完遂し、あの人物の寵愛を受けることが出来る…レシーダの頭の中にはそんな事だけしかなかった。
──そんなある日、突如としてナナシノが研究施設から消えた。
「探せ!何をしてでもすぐに探し出せ!!」
全てが順調であったはずなのに、逃げることなどできるはずがないナナシノが逃げ出すというありえない事態にひたすら取り乱し、発狂しかけていた。
「酷い顔ね」
「リトルレッド様!?こ、これは…その…」
「大丈夫。あなたに協力するために私は来たのだから」
そしてレシーダがやってきたのは帝国だった。
かつてカカナツラ家が没落する原因を作った憎き国…。
カカナツラ家が事業を立ち上げたタイミングで帝国がほぼ同じかつ数段上を行く事業を始めたがため完全に喰われる形となってしまったという逆恨みにも近い因縁を抱えながら潜入した帝国で無事にレシーダはナナシノを回収し、あとは撤収するだけ…そう考えていたのだがリトルレッドがとある提案をしてきたのだ。
「ねぇ帝国に一泡吹かせたくはない?」
「は…それはどういう…」
「この国はとても広い。国というものは大きくなればなるほど末端には手が届かなくなる…高いところから小さなものは見えなくなる。わかる?つまりは…」
「小さな集落や村ならば「実験材料」を調達してもバレないと…?」
「その通り。実際にあなたのところに下ろしている実験用の子供もこの国に根を下ろしている別の組織から流されたものだしね」
「なるほど…それは良い考えかもしれませんね」
そしてレシーダは帝国に残ることを選択し…結果、気がついた時には追い詰められていた。
いつの間にか複数の拠点と連絡が取れなくなり、放し飼いをしていた大量の魔物が殺された。
それも恐ろしいほどの速さでだ。
「なぜだ!なぜこんなことに…!!」
うらみごとを口の中で噛み殺しつつもレシーダは残った拠点に赴き、撤収の準備をさせ帝国から逃げ出そうと走り出していた。
「とにかくあの化け物だけは回収せねば…!くそっ!無能な部下共のせいで!おい!次の拠点まではあとどれくらいだ!」
レシーダが背後の部下に声をかけながら振り向いたその時だった。
その部下の首が放物線を描きながら宙を舞っていた。
「は…?」
闇の中に一瞬だけ見えたのは流れるような深紅。
漆黒に包まれた夜の世界においてもまるで燃え盛る炎の様に存在を主張するそれは真っ赤なマフラー。
正義の象徴たるそれを翻し、レシーダの前にそれは立ちふさがった。
「お前がこの地にはびこる悪か。頭が高いぞ、頭を下げて道を開けろ。僕が通る」




