神へと至る不死
次回は未定です。
明日~火曜日のどこかで投稿します。
あまり描写をしていませんが若干ゴア的な描写がありますのでご注意ください。
四肢のうち右腕と右脚を失ったナナシノは白衣を着た男たちに持ち上げられ、ガラスのような壁に囲まれた小さな部屋の冷たく硬い銀色ベッド…否、台の上に縛り付けられ、ナナシノの周囲には数人の男たちがおり、せわしなく何かを準備していた。
そしてそんな様子を壁の向こう側から見つめる男の姿があった。
「当主様、今回はどの部分を「採取」いたしましょうか」
当主と呼ばれた男は少しだけ悩むそぶりを見せるとゆっくりとナナシノの左脚を指差す。
「脚だ。また逃げられては面倒だからな。万が一にでもそんな事が起こらないように切れ。そうだな…もし右と残った部分の長さが同じならあの化け物の事だ…ヘタしたらそれで歩き出すかもしれないから切り口の長さは右より短くしておけ」
「かしこまりました」
当主からの指示を受けた男がガラスの部屋の中にいる者たちに指示を出し、その数分後にそれは始まった。
男の一人が取り出したのは赤黒く錆びた細かい外向きの刃が円状に連なることで出来ている円盤がついた器具だ。
「準備出来ました」
「よし、起動しろ」
器具を手にしていた男が魔力を流すと刃のついた円盤が高速で回転を始め、そして…。
「切除開始」
刃がナナシノの左脚に押し当てられた。
「──────────!!!!!!」
瞬時にガラス張りの壁が飛び散った赤で汚れていく。
赤の向こう側ではブチブチブチブチと何かが千切れながら切断されていく音とけたたましく鳴り響く回転する刃の音…そして口を塞がれてなお漏れ出るナナシノの悲鳴が絶えず聞こえており、ガラス越しにそれらの音を聞きながら当主は大きく舌打ちをした。
「ちっ!耳障りな音だ。どうにかならんのか」
「申し訳ありません。いかんせんもう刃がだいぶ錆びついておりまして…一応研いではいるのですが切れ味がなかなか…」
「それは仕方がないだろう。あの刃を新しく作り直すには時間がかかる…まだ切れるのだからそこに文句は言っていない。私が言っているのはあの化け物の声の事だ。黙らせられないのか。耳触りが過ぎる」
「口は塞いではいるのですが…」
「それなら喉を切れ」
「…喉の傷はすぐに治ってしまいますので」
「ちっ!どこまでも忌々しい化け物だ」
言葉通り忌々し気に当主は壁を睨みつけ、拳を握り叩きつけた。
壁はびくともしないがどれほど当主が苛立っているのかは見て取れる。
「相変わらず怒りっぽい男だ。何がそんなに気に入らないの?」
突如背後から投げかけられた声に当主は鋭く血走った目を向けたが、その声の主の姿を認識した瞬間に全ての怒りを押し込めて、その顔に笑みを張り付ける。
「これはこれは…まさかこんなところにご足労頂けるとは思いませんでした」
「きたら迷惑だった?」
それは女だった。
血で汚れたような赤いフードで顔を隠した女。
そのため容姿は分からないが声や背丈から若い女のように感じられたが、当主は驚くほど腰を低くして赤いフードの女に接していた。
その様子には普段の横暴その物とでもいうべき当主の姿を見ている部下からしたら驚くべき光景だ。
「いえいえ!そんなことはこれっぽっちも!ただこのような急ごしらえの拠点に連れてきてしまって申し訳ないという私めの心配にございまして」
「そう。そんなことはどうでもいいよ。なに故そんな怒っているの?」
赤いフードの女はもはや赤で全体が覆われて中がほとんど伺えなくなっている壁に触れた。
その向こうからは未だに「音」が鳴りやまずにいる。
「ははは…これはお見苦しい所を見せてしまいましたね。いやなに、ただこの向こう側にいる化け物が私は心底嫌いだと言うだけの事なのです」
「そう…でもあなたの「娘」じゃなかったの?その化け物は」
「…生物学上はどうなりますね忌々しい事に。しかしあれは化け物です。私はあれを娘などとは思いません」
「ふーん。そこがよく分からないのだけど…あの子は私の…「あの方」があなた達に命じた「課題」に最も近いものであるのも確かでしょう。何が気に入らない?それともあの方の言葉を忘れちゃった?」
「忘れるなどとんでもない!我々「カカナツラ」にとってあの方の言葉こそが全て!もちろん与えられた命題に今この瞬間も全力で取り組ませてもらっているところです!…そう、「我々の手で神を作る」という命題を」
当主の顔がキミの悪い笑顔で醜悪に歪む。
赤いフードの女は少しだけ当主に顔を向けた後、すぐにガラスの壁に顔を戻した。
「わかってるのね。「あの方」の出した課題は神を作り出すこと…そしてあなた達カカナツラは永遠の命をもって神となると定義した。ならばあの子は神という事になるのでは?」
「はははは、面白い冗談ですね。あれは化け物ですよ…確かにあれは死にはしない…ですが完璧な不死ではありません。その証拠にあれの身体は成長をしています。つまりは不老ではなく…細胞分裂を起こしているという事はおそらくですが傷に対する不死身性も完全な物ではない。そんなもの神の真似をした醜悪な化け物としか呼べないでしょう」
「ふーん?じゃあその醜悪な化け物になぜ執着する?わざわざ危ない橋を渡ってまで逃げた彼女をどうして捕まえたの?」
「利用価値があるからです。あなたも言っていた通りあれは化け物ではありますが…それ故に神に近いともいえます。だから化け物らしく我々人間様のためにその身体を提供してもらっているのですよ。不完全であっても殺すことが出来ない程度には不死…その身体を調べ、仕組みを解明できれば私の頭脳であれば必ず神を…完全な不死を実現することが出来ます!」
狂気に染まった瞳で唾をまき散らしながら当主は叫ぶように話し続ける。
カカナツラと言う組織のその目的を。
神…すなわち完全な不老不死を実現する。
そんな馬鹿げた理由のためだけにカカナツラは存在していた。
ナナシノを切り刻むのも全てはそのため…当主にとってはただ近しい場所にちょうどいい実験動物がいた。
それだけの事でありナナシノに対して親としての情など小指の爪程にも持っていない。
そしてそれら全ては「あの方」のために。
「あーあー、もういいよ。よく分かった。それで?これからどうするの。魔物を放しちゃったんだしすぐに追手が来るよ。この場所は帝国の首都から近すぎる。魔物の進路を辿られたら一発だ」
「心配には及びませんよ。もう少しで移動準備も整いますし…それに何よりあんな化け物が居なくなったことに気がつく者などいやしませんよ。人との交流など化け物にできるはずありませんから」
「そう、なら私はもう行くわ。頑張ってね」
「勿体なきお言葉…ぜひ「あの方」にもよろしくお伝えください。リトルレッド様」
去り際にかけられた言葉に赤いフードの女…リトルレッドは振り返ることはせず片手をあげて答えた。
いつまでも耳障りな音が鳴り続ける施設から出たリトルレッドはフードを脱ぎ去り、振り返る。
「化け物が居なくなったことに気がつく者なんていないね…そんなんだからあなたは「ここまで」なんだよ」
そう呟くリトルレッドのフードの下に隠されていた長い髪が風に揺られて舞い上がる。
「あなたが食べたのは真っ赤な毒林檎…安らかに眠れる棺を奪われた眠り姫はもうじき血の雨を降らすわ。だって怖い狼が来るのはまだ先なのだから」
長い髪を束ねて再びフードを被りなおし…リトルレッドは闇に消えていくのだった。




