捜索
明日もお休みです。
次回は水曜か木曜日に投稿します。
半ば泣きながらナナちゃんがいなくなり、図書塔以外に行きそうな場所に心当たりもないし一人で出歩くような子でもないという事をアマリリスさんとアトラさんに説明した。
冷静さを欠いている私に代わって二人はとても素早く動いてくれてアマリリスさんはどこかに連絡をして、アトラさんは私の手を引いて図書塔から家までの道を歩いてくれた。
「まずは目撃者がいないか探してみましょう~。幸いお店が多い通りですし顔見知りの所とかないですぅ?」
「…何件かあると思う」
「では聞き込みですぅ」
結果は惨敗だった。
いや…確かに目撃情報自体はあった。
よく立ち寄るお菓子屋さんや本屋さんの人がナナちゃんが歩いているのを見たそうで…それによるとやはり図書塔に向かっているようだったけれど途中からナナちゃんの目撃情報が無くなった。
誰に聞いてみてもある地点の人たちからは見てないの一点張りで…もしかしたら家に引き返したのかもと戻ってみてもやっぱり家には誰もいなかった。
心配で気が気じゃなくて頭が働かず、気がつけば私は図書塔にいた。
どうやらアトラさんが連れてきてくれたらしいけど、自分がどうやってここまで来たのか分からない。
「ユキノちゃん大丈夫?」
アマリリスさんが心配そうに声をかけてくれるけど返事をする気力もない。
「…あのね、よく聞いて。アリスに連絡を取って色々調べてもらったの。騎士や軍人さんにもアリスから声をかけてもらって目撃情報を集めてもらったけど…ちょうどこことユキノちゃんたちの家の間くらいの場所でぷっつりとナナシノちゃんの痕跡が消えてる」
「…」
「こう言っちゃなんだけどナナシノちゃんって結構悪目立ちする容姿だからさ、知らない人でもすれ違ったりすれば印象に残るとは思うの」
ナナちゃんは確かに特徴的な容姿をしている。
全身を覆い隠してしまうほどの長い髪…一目見ればしばらく忘れる事なんてできない程度にはインパクトはあるはずだ。
「なのにプロが聞きこんでもどこに行ったのか分からない…これは最悪の事態を考えたほうがいいかもしれない」
「最悪…?最悪って何ですか。ナナちゃんに何が起こるって言うんですか!」
「それは余から話そう」
図書塔の扉をゆっくりと開いてリコちゃんを伴ったアリスが私の元まで歩いてきた。
「アリス…」
「すまないユキノくん…後でちゃんと話そうとは思っていたのだがナナシノくんは「カカナツラ」に拉致された可能性がある」
「カカナツラって…一体どういうことなの」
「実はユキノくんに依頼した仕事の件なのだが…あの時話していたカカナツラという組織に関係している」
もう叫ぶ気力もなくて私は静かにアリスの話を聞く事にした。
ただどれだけ話を聞いても全部全部「らしい」だとか「かもしれない」とか「可能性がある」とか…何もかも曖昧だ。
「どうだろうそこの…えーっとアトラくんは。アラクネスートの持っている情報と余の持つそれに差異はあるだろうか」
「んーと…言ってもいいんですぅ?」
「…いや、余に聞かれても。そちらの判断でいいと思ったのならいいのではないか?」
「…まぁ間違っては無いと思いますぅ。最近我々の縄張りでちょろちょろしているネズミが居ましてねぇ~それを地道にプチプチと潰していたらできた名前が「カカナツラ」。そして彼らの拠点の一つと思わしき場所からバラバラにされた人間の遺体と…檻に繋がれた大量の魔物を発見していますう。なにか個体を識別するためなのかは知りませんがぁ~「カカナツラ」に囚われていた魔物には身体のどこかに刻印が刻まれていてぇ~近頃大量発生している魔物にも同じものがある事を確認していますぅ~だからこそ~」
「アラクネスートとしては魔物騒動の主導者は「カカナツラ」で間違いないと見ていると」
「ですぅ」
アリスとアトラさんの話は続いていく。
たぶん頭のいい人たちや難しい事を考えないといけない人たちはこうやって情報を詰めていくのだろう。
だけどそんなもの私には関係ない。
「あのさ…そんなことどうでもいいんだよ今は。私が知りたいのは、」
「待ってくれ。これは余の個人的な推測だが…もしかすればそれが「カカナツラ」の目的なんじゃないかと思っているのだ」
「なに?もうそんなもったいぶったのいいからさぁ…結論だけ話してくれない?」
「…うむ。「カカナツラ」はおそらく事故や事件ではなく故意に魔物を放っている。それは何故か…おそらく帝国に害をなそうとしての事ではない。この国は…何より我が偉大なる母は魔物を数万連れてこようとも決してビクつくことすらないからだ。ならばなぜわざわざ身バレするリスクを負ってまで捉えていた魔物を放つ?それは存在が表に出ることを天秤にかけてもメリットになる何かがあるからだ。そしてそれこそがおそらくアラクネスートの縄張り荒らし…邪魔な同業の動きをそれで封じようとしていたという事だ」
たぶんわかりやすいように説明をしてくれようとしているんだろうけど…正直そんなものは求めていない。
詳しい説明何かいらない。
私が聞きたいのはたった一つの簡単な事だけなのに。
「お姫様ぁ~そのお偉いさま特有のもったいぶった言い方どうにかしないと割と本気でそろそろユキノさんが激おこしてしまうと思いますよぉ」
「いやそんなつもりはないのだが…さらに簡単にか…ふむ…。つまり「カカナツラ」としては魔物を放つことでアラクネスートの動きを封じ込め、その間に帝国に滑り込んできたんだ…おそらくはその理由がナナシノくんではないかと思っている」
「…」
「彼女…聞けば「カカナツラ」から逃げてきたのだろう?もしかすればこれら全て余の妄想かもしれないが…手元にある情報だけで考えるのなら目的は間違いなくナナシノくんだ。「カカナツラ」はナナシノくんを確保するために邪魔なアラクネスートに混乱をもたらし、帝国に侵入し…そしていよいよ彼女の身柄を抑えた…と考えたわけだがどうだろう?」
アリスが同意を求めるように皆を見渡した。
アマリリスさんは話し合いが始まってからというもののずっと何かを考え込んでいるようだったし、アトラさんは何故かずっと居心地が悪そうに目を泳がせている。
そして私は…。
「ねえアリス」
「なんだ?」
「どうでもいいんだよそんな事全部」
「む…?」
「誰がどんな目的で、魔物だとかなんだとか全部知ったことじゃないんだよ私は。それで?「私の」ナナちゃんはどこなの?どこに行けば会えるの?ナナちゃんをさらったのは誰?私が殺すべきその人はどこ?」
「いや、それは…」
「それこそ魔物を殺していけばいいんじゃない?」
今まで口を閉じていたアマリリスさんが突然そんな事を言った。
「魔物をですか?」
「そう。囚えられている魔物を放してるんでしょ?なら魔物を逆にたどっていけば魔物がいた場所にたどり着くじゃない」
「…理論上はそうだが魔物が規則的な動きをするわけではないからな…正確には難しいかもしれない。それに拠点は一か所でないから辿った先にナナシノくんがいるかは…」
「でもいるかもしれないんですよね。じゃあ行きます」
どうせここに居ても私の知りたい情報はもう出てこない。
なら身体を動かしたほうがきっと早いだろう。
「ま、待ちたまえユキノくん!」
「いや、いいんじゃない?ナナシノちゃんが消えたのはそれほど前じゃない。煙のように消えたと言ってもお姉ちゃんみたいに瞬間移動が使えるわけでもないだろうしまだ近くにいるかもしれない。危ない橋を渡ってまで取り返したナナシノちゃんを置いておく場所の警備が薄いわけはないだろうし…案外うまく見つかるかもよ」
「…そうですか、じゃあそういうことで」
私はまだ何か言いたげなアリスを無視して図書塔から出た。
ナナちゃんが最後に目撃されたところに怪しい人がいたという情報はない。
という事はナナちゃんを攫った奴らは人目がつかない場所を通ったという事だ…そういう場所を辿っていってもしも魔物や怪しい人がいればそれは…。
「待っててね私のナナちゃん。今行くからね」
だいぶイラついてしまっているユキノさん。
果たしてこの子は主人公としての好感度を稼げているのだろうかと不安になってきますが主人公です。




