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カカナツラ3

明日はお休みです。

次回は月曜か火曜日投稿予定です。

「スカーレッドちゃんのいた場所では…いたるところから子供が集められていたの」


ぎゅっとエンカさんのマフラーの端を握りしめたスカーレッドちゃんが話し始めたのを私たちは静かに聞いていた。

その震えているような声以外はレイリさんが片づけをしている音とリコちゃんがアリスちゃんの首に吸い付いている音しか聞こえない。


「他の子がどうやって集められたのか…詳しくは分からないけど誘拐とか、孤児院から連れて来るとかしてたみたい…スカーレッドちゃんは孤児院から連れてこられたの。みんなで普通に暮らしてたら…ある日突然変な人たちが押し入ってきて…当時10歳から下の子だけ連れて行かれて他はみんな殺された」


子供を攫って目撃者は殺す。

大胆だけど、子供を集めるのなら一番簡単で確実な方法だ。


「そして連れて行かれた場所でスカーレッドちゃんたちは…何かを注射されたの。みんな…縛り付けられたベッドの上で苦しそうに悲鳴を上げて暴れまわった。スカーレッドちゃんもあそこで死ぬんだって思った。いたくてくるしくて…まるで身体の中身を全部全部…無理やり入れ替えられてるみたいな感覚だったの。皮膚から順番にベリべりってはがされていって…次に筋肉、神経、血管、内臓…全部無理やり入れ替えられる…とっても怖かった」


手に力が入ってしまっているのか、スカーレッドちゃんが握っているエンカさんのマフラーがビリっと音をたてて少し破れた。

元々すこしボロボロになっているようなマフラーだったけど、エンカさんは何も言わなかったしマフラーを取り上げるようなこともしなかった。


「そしてみんな死んだ。隣に縛られてた子も、上にいた子も下にいた子も…みんなみんな死んだ。スカーレッドちゃんと同じ孤児院にいた子も死んだ。全身から血や…「中身」を噴き出してぐしゃぐしゃになって…死んでた」


私は何も言えなかった。

年齢を高めに見積もっても10代前半程度にしか見えないスカーレッドちゃんの口から説明されている状況だとは思えなかったから。


「でもスカーレッドちゃんは生き残った…生き残ってそして…剣になれる力を使えるようになってたの…」


そこまで話すとスカーレッドちゃんは口を閉じてしまった。

悲しいのか…辛いのか…。

強く握りしめたマフラーの端だけがプルプルと震えていてとても痛々しく見えた。


「スカーレッド。僕のマフラーを掴むな。汚れるし破れる。何か握っていないと喋れないのならタオルでも握ってろ」

「あ、ごめん…」


エンカさんがスカーレッドちゃんの手からマフラーを引きぬき、ぶっきらぼうに荷物から取り出した厚めのタオルを投げ渡した。

もう少言い方があるんじゃ…と思ったけれど、一瞬見えたスカーレッドちゃんの手のひらは血が滲んでいた。

おそらく強く握りしめすぎてマフラー越しに爪が食い込んでしまったのだろう。

それに気がついてのエンカさんの優しさなのか…まだこの人との付き合いが浅い私にはわからない。

その後、また沈黙に包まれそうだった場の雰囲気をアマリリスさんが指先でコンッとテーブルを叩いて切り替えた。


「それで続きは?あなたを剣に変えた組織がその「カカナツラ」って事でいいの?」

「あ…そうじゃなくて…」

「その組織自体は「カカナツラ」じゃないし追うまでもなく既に存在しない。この僕が跡形もなく滅したからだ」


「じゃあどっから「カカナツラ」って名前が出て来るのさ」

「下部組織というやつだ。いろいろと情報を探っていた過程でスカーレッドを囲っていたような人体実験を主としている組織が多数存在することが分かった。そしてその大本が…」


カカナツラ。

言葉にはされなかったけれどこの場の全員におそらく伝わったと思う。

スカーレッドちゃんの言葉を全て信じるのならば、幼い子供に平気で非道の実験とやらを行い簡単に命を奪う組織。

…ナナちゃんと同じ名前の。

私は…最低かもしれないけれどスカーレッドちゃんの境遇に対する同情心な悲しみより…そんな組織とナナちゃんに関りがあってほしくないという気持ちの方が強かった。

どうか関係ないと否定して。

そう思いながらいつの間にか私の手を握っていたナナちゃんの方を見る。

ナナちゃんは…俯いて震えていた。


「ナナちゃん…?」

「っ…ゆ、ユキノさん…たぶん間違いないと…思います…私がいたところです…そして…」


震えていて、しかも小声だったけれど、静かな図書塔の中ではナナちゃんの声は皆の耳に届いていた。

エンカさんもスカーレッドちゃんも静かにナナちゃんに注目していた。

そして…。


「たぶん指示を出していたのは…そちらの方たちが追っている組織を統べている人は…私の父だと思います…」

「父?お父さんって事…?」


「そうです。ただ…向こうが私を子供だと思っているかは分かりませんけどね…いえ、きっとあの人にとっては私も実験用の動物と違いはなかったのだと思います…それも高望みが過ぎますかね。あの場所で私は…化け物だと呼ばれていましたから」

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― 新着の感想 ―
[一言] 親がそんなだから尚更ユキノちゃんに依存しちゃうわけですねぇ 愛着障害克服の取っ掛かりみたいな
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