闇色の書物
明日はお休みです。
次回は明後日投稿予定です。
「いらっしゃい。初めましての人かな?」
アマリリスさんがにこやかにコートの人に微笑みかける。
コートの人はずんずんと歩いてきて、アマリリスさんの正面まで来ると一枚の紙をバン!と受付の机に叩きつけた。
「この本を探している。ここには世界中から本が集まると聞いたが…果たしてこの知識の迷宮に僕の魂が求めし闇色の書物が存在しているのか…答えろ迷宮の主よ」
「…うん?」
やっぱり私はコートの人の言葉がよく分からなかった。
アマリリスさんも首をひねっているところを見ると、アマリリスさんも知らない地域の言葉っぽい?
しかしアマリリスさんは置かれた紙を手に取ってそれを見ると何かを理解したかのように頷いた。
「ああ、なるほど…そういうアレね。はいはい。これね、あるんだよね実は」
「なに?本当か?それはどこにある」
コートの人が身を乗り出してアマリリスさんに迫った。
えっと…確か闇色の書物とか言ってたよね?何か危ない本とかかな…?
だとすればそれは一般人が立ち入りできない場所に収められているんじゃないだろうか。
「あっちの棚の下から4段目」
アマリリスさんが指さしたのはナナちゃんが読んでいる本がある棚の近くだった。
まさかの一般向けの本だったよ闇色の書物。
ただこの場所にあるのは一般向けであっても流通自体はほとんどしていないというものもあるので珍しいけど、そこまで危険じゃない魔法が記された本…という可能性もあるのかもしれない。
「…それを読むことは可能か」
「お好きにどうぞ~帝国の住民証明書はある?」
「闇に生きる僕に定住の地などありはしない」
「じゃあ1時間で銅貨一枚ね。とりあえず一時間分の金額は前金でもらうから。延長したら最後にその分も請求で貸し出しは出来ないからよろしく」
「いいだろう。対価を受け取るがいい」
コートの人がどこからともなく取り出した銅貨を親指ではじく。
ピンと小さな音がして空中で回転しながら銅貨はアマリリスさんの差し出した手のひらの上に落ちた。
…どっちも器用だなぁ。
「はい確かに。ごゆっくり~」
コツコツとブーツを鳴らしながらコートの人が本棚に向かおうとして…私に気がついた。
「お前は…」
「どうも…」
「ふっ…やはり僕と同じ波動を持ちし者か。お前も闇色の書物に魂が引かれてきたのだな」
「えぇ?」
「だが「アレ」を先に読むのは僕だ。安心しろ、中身を知らせるなどと言う無粋な真似はしない…知識とは自らで焼き付けることに意味があるのだから」
「は、はぁ…」
謎の不敵な笑みを残してコートの人はアマリリスさんに教えてもらっていた本棚に向かって行った。
私はすかさずアマリリスさんに近づいて小声で話しかける。
「あ、あの…あの人の言葉ってどのあたりの方言なんですか?」
「方言?」
「はい、あの意味がよく分からなくて会話が微妙にできなくて…実はさっき危ないところを助けてもらったのでちゃんとお礼を言いたいのですけど…」
「ふーん?でもあれは方言じゃないからねぇ」
「違うんですか!?」
びっくりしてつい大声を出してしまったので慌てて口を塞ぐ。
しかし方言じゃないとするといよいよ意味が分からなくて…どうなっているんだろうと言う私の疑問に答えたのは近くまで来ていたアリスだった。
ちなみにリコちゃんは受付の内側にもぐりこんでいてアマリリスさんがしまっているお菓子を勝手に食べていた。
「ふふふ…面白いだろう?名前はエンカくんというらしい。いやはやエンカくんは本当に素晴らしいよ」
「素晴らしい?」
「ああそうだとも。ユキノくんはエンカくんの言っている言葉がよく分からないと言っていたが…あれはとある特殊な力を持つ者だけが操ることのできる言葉でね。それは本来誰もが持っているものなのだが、大人になるにつれて無くしてしまう。しかしエンカくんはそれを今も持ち続けている」
「誰もが持っている特殊な能力…そんなものが…?」
「うん。その様子だとユキノくんはそれを自覚のないまま大きくなってしまったようだね。ならば教えよう。エンカくんが持っている特別な力…その名は」
「その名は…?」
「じゃ──」
「エンカくんどこーーーーーーーーー!?」
バーン!とアリスの言葉を遮るように図書塔の扉が勢いよく開かれ、赤毛の少女が飛び込んできた。
なんで誰もかれも扉を勢いよく開け放つのか。
結構年季が入っているように見える扉なのだけどいつか壊れないか心配でしょうがない。
というかあの女の子…確かコートの人…エンカさんを引きずっていってた子だ。
「む?どうした少女よ。迷子なら余が…」
「あ、あの!ここにエンカくん来ませんでしたか!?全身黒い服着ててマフラーだけ赤いみたいな馬鹿みたいな恰好をしてるんですけど!」
「あぁエンカくんの連れなのかな?あの人ならそこに」
アリスが真剣な様子で闇色の書物を読んでいるエンカさんを指差す。
すると赤毛の少女は大急ぎでエンカさんの元まで走り出した。
「もー!エンカくんびっくりするから一人でどこか行かないでって言ってるでしょー!?スカーレッドちゃんもいい加減泣いちゃうよ!」
「…」
「無視ー!?ねー!いいのー!?スカーレッドちゃん本気で泣いちゃうよ!?わき目も振らずに全力で泣いちゃうよ!?」
「…」
「ふーん…いいんだ…いいんだねエンカくん。いいよじゃあ見せてあげるよ!このスカーレッドちゃんの全力の大泣きを!すぅ~~~~~」
赤毛の女の子…たぶんスカーレッドちゃんという名前なのかな?が息を吸い始めたところでアマリリスさんが手元にある鈴を弾いて鳴らす。
「そこ~あんまり騒がしくすると追い出すよ~。ここはいちおうは本を読むところだからね~。完全に沈黙しろとは言わないけど常識の範囲でね~」
「ご、ごめんなさい…」
笑顔でありつつも謎の圧を放つアマリリスさんの言葉にスカーレッドちゃんは顔を青ざめさせながら謝った。
たしかにちょっと騒がしかったかもしれないね…私も気をつけよう。
あ、そういえばナナちゃんは怖がっていないだろうかとその姿を探すと、あんまり気にしていないようでちょこんと椅子に座って本を読んでいた。
よく見ると猫がレイリさんから離れてナナちゃんの正面に寝っ転がっていて、時折ナナちゃんは猫を撫でている。
うん、微笑ましい。
私はしみじみとそう思うのだった。




