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赤い眠り姫4

──オリジナル魔法カオススフィア。

全属性の上級魔法を同時に発動、圧縮し混ぜ合わせることで崩壊という概念を内包した何かを生み出すという、魔法のようで厳密には魔法とは呼べない代物だ。

オリジナルの名を冠しているが最初にこの魔法を使ったのはアマリリスではなく、彼女が魔法を使うようになったきっかけを与えた人物が使用していた魔法だ。

理論自体は難しいものではないがその難易度はけた違いであり、使うだけで名の知れた魔法使いが数日ほど魔法が使えなくなるほどの魔力を必要とする上級魔法…それを全属性同時に発動する魔力と、それを固定し圧縮する精密性が必要であり、混ぜ合わせる際にほんの少しでも操作を誤ればその場で暴発を起こすなど問題点しかなく、実用できる者など常識の範囲内では存在しない。

そんな常識外れの魔法だが、その威力はすさまじく…かつてこの魔法が原因で地形が変わったり万以上の命が失われたという話があるほどだ。

そしてその魔法を片手間で扱えるアマリリスは…当然ながら常識外の存在だという事になる。


異常という言葉だけでは表せないほどの魔力。

ありとあらゆる魔法を記憶している頭脳。

ユキノの右腕も、ズタズタにされたリッツにも驚いた様子を見せない胆力。

…街中で威力を抑えているとはいえ危険どころではない魔法を放つ精神性。

アマリリス・フランネルは決して可憐なだけの美女ではない。


まごうことなき異常性を持った女だ。

そして今、異常と異常がぶつかり合った。

解き放たれた崩壊の概念が空気を空間を、その場の全てを飲み込まんと荒れ狂い、それを赤黒い異形の腕が掴み上げる。


「うぅっ…ん!!なにぃこれ…【スノーホワイト】で消せないなんてぇぇ!!」

「いいや、消えてるは消えてるね。何もできていないのならとっくにユキノちゃんごとこの辺り一帯くらいは飲み込んでいるはずだから」


スノーホワイト。

ユキノがそう呼ぶ異形の腕にはその見た目以外にも特別な力があった。

魔法という自然では起こりえない現象を無に還す力が。

しかしその能力を詳しく調べたものがいたわけではなく、また説明できる者もいないため単純にユキノがそう思い込んでいただけで、魔法ではないリッツの雷をも消すことが出来た。

しかも魔法を消した時とは違い、雷の力を奪うというおまけ付きでだ。


「やっぱり普通じゃないよね。魔法の類じゃないし、リッツくんみたいに「欠片持ち」なわけでもないみたいだし…そもそも雷の力を使えているのはどういう理屈なのかな?もし「欠片」に干渉できているというのなら…うーん」

「うわぁあああああああああああああ!!!!!」


ユキノが叫び声をあげて思考の海に沈みかけていたアマリリスの意識が浮上する。

異形の腕はその半分ほどが崩れ落ち、流れ出る血や剥がれた肉片はカオススフィアに飲まれて消えていく。


「あーちょっと見誤ったかな?死んじゃったらお姉ちゃんに怒られるかも?しょうがないかぁ」


アマリリスがカオススフィアを消そうとした時だった。

ぼやっとした何かがユキノの背後に現れた。

それはやがて人の…女性のように見える形を取り、ユキノの身体を抱きしめるように形を変えた。

それにユキノは気がついていないようで、少しも後ろを振り向くことはなかった。

やがて女性の身体が溶けるように消えると異形の腕は逆再生をしているかのように傷を修復し始め、数秒で元の形に戻った。


「眠り姫…」


ぼそりとアマリリスが呟くと同時に、カオススフィアが握りつぶされた。

衝撃が辺りを伝い、空気を震わせる。


「あはぁ…はぁ…あははっ!あははははははははは!できた!出来ましたよアマリリスさん!これで…これでぇ!」


間髪入れずユキノが走り出し、その爪をアマリリスの肌に突き立て…。


「…」

「う、ぐ…くっ…」


ピタリと触れる寸前で動きを止めた。


「どうしたの?ユキノちゃん」

「に、逃げて…ください…」


ユキノは全身から汗を流し、震えていた。


「勝ったのはユキノちゃんだよ?」

「なんでも…お願い事を聞いてくれるのなら…逃げて…私は…殺したくない…!でも殺したい!!…お願いします…私が自分の衝動を抑えられてるうちに…」


「ふぅ…ごめんね。少し意地悪しちゃったかな。お姉ちゃん、いるんでしょ」


どこにでもなくアマリリスが話しかけると誰かがユキノの肩を叩いた。


「え…」

「「おやすみ」」


その声を聴いた途端にユキノの意識は闇に飲まれた。


────────


意識を失ったユキノをアマリリスが抱きかかえ、現れた人影に向かい合う。


「やっぱりいたんだねお姉ちゃん」

「うん!アマリ久しぶり!」


夜の闇において薄まることの無い存在感を醸し出すその少女はあまりに特徴的な多数の色を持つ髪を揺らしながらアマリリスに笑いかける。


「久しぶり。見てたのなら早く止めてくれればよかったのに。わざわざこの周辺を世界から遮断してまで見たかったの?」

「だってアマリがなんとなく楽しそうだったからさ!」


「否定はしないけど。久しぶりにカオススフィア使えたし」

「うんうん!それでどうだった?その子!面白いでしょう?」


「そうだね。もしかしてようやく見つけられた感じなのかな?」

「たぶんね。あの「欠片持ち」の人間から完全に「欠片」を取り除けてるから」


人影…ユキノが女神と呼んでいた少女がいつの間にか意識を失っているリッツに目を向ける。


「…そう。私はとりあえずユキノちゃんを連れて帰るね。こうなっちゃったらコーちゃんにも話をしないといけないし。お姉ちゃんはどうするの?」

「私もすぐにそっちに行くよ~…その前にやることがあるから先に行ってて!」


ニコニコと笑いながら女神は動かないリッツに歩み寄っていく。


「お姉ちゃん。リッツくんは死なれちゃ困るよ。それでも帝国に出資してるところのお坊ちゃんだから。それに「欠片」がどうなってるのかも調べないと」

「「欠片」は完全になくなってる。それは間違いないよ~」


「お姉ちゃん」


歩みを止めない女神にアマリリスが再び声をかけるもやはり女神は動きを止めない。


「だーめ。アマリ、この子はね?もうね?ダメなんだよ」

「…はぁ。あとでコーちゃんに怒られても知らないからね」


「んふふふふふふ!だいじょーぶ、だいじょーぶ!」


ため息を吐き、アマリリスはユキノを抱えたまま夜の闇に消えて行った。

残された女神はリッツの前でしゃがみ込むと、優しく透き通るような声で意識を失ったリッツに話しかける。


「「起きて」」

「…んぁ…?」


大きな声を出したわけでもないのにもかかわらず、リッツは女神の言葉通りに意識を取り戻す。

いったい何が起きているのか、寝起きでうまく働かない頭のままリッツは女神を見上げる。


「…美しい…女神…?」


リッツを見下ろして、あまりにも美しく微笑む女神だったが…その真っ赤な瞳にはひとかけらの優しさも宿ってはいなかった。

リッツくんの命運やいかに。

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― 新着の感想 ―
[一言] 百合の間に挟まろうとするだけでも重罪なのに よりにもよってそれが邪神様の御座す場所だからね…
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