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禁忌と獣3

次回は明日か明後日投稿します。

「どちら様?」


アマリリスさんがさりげなくレイリを背に隠しながら不審者さんに尋ねた。

すると不審者さんは小首を傾げ、合点が行ったように腰に手を当てて胸を張った。


「すまないね!今の自分の格好を失念していた!余だ!偉大な帝国皇帝の血を引くフォルレントさん家のアリスだ!シュコー」


不審者さんの正体はアリスらしい。

そう言われれば仮面の奥から聞こえてくるくぐもった声はアリスのものに聞こえなくもない。


「アリスちゃん?どうしたのその恰好は」

「うん、ちょっと問題があってね!アマリリスくんに相談させてもらえればと思ったのだが…取り込み中だったかな」


アリスは私とレイリを見てそう言った。

ただ私としてはアリスが来てしまった以上アレンさんの話をしてもいいのかどうか判断がつかないわけで…それにアリスもなんだか大変そうというか、明らかにおかしなことになっているので「私は大丈夫」と伝えた。


「そうか!ありがとうユキノくん!それでアマリリスくんはどうだろう?時間はいいだろうか」

「いいよ。とくに来客の予定はないし。相談って?」


「ありがとう、リコ!おいで」

「あーい」


やはりというかなんというかリコちゃんも来ているようで、アリスちゃんが呼ぶと小走りで図書塔の中に入って来た。

しかしいつもとは違ってリコちゃんはその腕に小さな毛玉のようなものを抱えていた。

黒くてモコモコの毛玉だ。

大きさは手のひらサイズとまではいわないけれど、とても小さい。

スノーホワイト基準で考えるなら手のひらサイズ以下だ。

なんなんだろうあれ?

不思議な毛玉をじ~っと見ていると毛の奥からガラス玉のようなものが二つ現れた。

いや違う!あれ目だ!黒い毛玉から目が出てきた!…なんてはずはなく、どうやら毛玉は何らかの動物らしい。


「猫だ。珍しいね、どうしたのその子?」


アマリリスさんが立ち上がり、リコちゃんに抱えられている動物を撫でながらそう言った。

猫!噂には聞いたことがある。

獣ながらも小型で一部貴族の間でペットとしてじわじわと流行りだしているというあの…!

詳しくは知らないけれど最近見つかったらしく、その可愛らしさから人気があるらしい。


「えっとね~朝にアリスちゃんのお屋敷の隅っこで寝てたのみつけた~」

「へぇ~そうなんだ。飼うの?」


「飼おうと思ったんだけど…」


リコちゃんは気まずそうに不審者スタイルのアリスを見た。


「コホー。いやなに、リコが連れて来た猫を余も意気揚々と飼おうとしたのだ。猫は可愛いからな。しかし猫と触れ合ったその瞬間…驚愕の事実が明らかになった」

「驚愕の事実…?」


アリスのシリアスな雰囲気に私はつばを飲み込んだ。

猫は最近見つかった種らしくまだあまり生態が分かっていない。

まさかなにか恐ろしい事実が判明してしまったとかだろうか…?


「うむ…実はな」

「実は…?」


「余は猫アレルギーだったようなのだ。シュコー」

「猫アレルギー…」


何だろうそれは。

全く知らない言葉だ。


「つまりそれは…?」

「猫の毛を吸い込んだり触れたりすると咳や鼻水が止まらなくなる。いやはや屋敷で咳をし過ぎて吐いてしまったよ。だからこんな装備をつけて自衛をしているというわけだ、ははははは」


アリスは堂々と胸を張って笑っていた。


「うん、安定と信頼のアリスちゃんだね。リコほどじゃないけどこの先ちゃんと生きていけるのか心配になっちゃうよ」


アマリリスさんの言葉にリコちゃんはうんうんと頷いて、私もさすがに心配になって来た。


「とはいうがねアマリリスくん。アレルギーというものは健康に自信あり人類でも思わぬものを持っていることがあるのだぞ。余は無理してやれることなら無理してでもやるが信条だがアレルギーに対しては無理しない。うん」

「いい心掛けだと思うよ。健康第一」


そんなこんなで閑話休題。

私たちは本題に戻ることにした。


「それで?猫を連れてきて何の用なの?」

「うむ。だから当初は余とリコで面倒を見ようと思っていたのだが猫アレルギーが発覚してしまったのでそうはいかない。なればこそ一度は拾った身として責任をもって里親を探してあげるのが筋だと思ったのだ」

「だからアリスちゃんと二人で猫ちゃんの事面倒見てくれる人を探してるの~」


なるほど、そういうことだったのか。

確かにあんな小さな生き物が野良で強く生きていけるとは思えない。

なんなら触れるだけで死んじゃいそうだ…ちょっと触ってみたいけど。


「なんだい、物珍しそうに見てるじゃないかユキノくん。シュコー、コホー。どうだろう少し触ってみないかい?」

「え、いいのかな」

「いいんじゃない?もし懐くようならユキノちゃんが飼えば?サポートくらいはしてあげるよ」


そうは言うけれども家にはナナちゃんもいる。

いや、ナナちゃんを小動物の様に思っているわけじゃなく…なんやかんやで毎朝ご飯を作ったりナナちゃんの髪を梳いてあげたりお風呂に入れてあげたりとお世話をしている中で猫とやらの面倒も見ることが出来るだろうか?うーん…。

待てよ。

猫ちゃんがいればナナちゃんもお世話をしてくれて、あの隅っこで丸まっているだけの状態から脱却してくれるかもしれないし、一人でも寂しい思いをさせなくて済むかもしれない。

うん、なかなかいいんじゃいかな?

ちょっと乗り気になってきたので恐る恐るだけど猫に触ってみることにしたのだけど…。


「ふしゃーー!!!!しゃーーーー!!!!!ふーーーーーーっ!!!!!!」


私が触ろうとした瞬間に猫が荒れに荒れた。

それでもめげずに触ろうとしたところで暴れ出したので肩を落として諦めた。

手を引っ込めてとぼとぼと距離をとったところで猫が落ち着いたのでどうやら私はとっても嫌われているみたい。


「ユキノちゃんはダメみたいだね」

「ねー。すっごい嫌われてる~おもしろ~い」


フランネル姉妹に笑われてしまった。

とても悲しい。


「といったところでアマリリスくんはどうだろうか?猫嫌いかな?」

「うーん…別に好きでも嫌いでもないけれど私は難しいかなぁ。出張が多いし…もし仮に私が猫にぞっこんになっちゃったらたぶんお姉ちゃんが凄い事になると思うよ?」


「…うむ、確かにそうかもしれないな」

「…うん。リフィルねぇはアマねぇの事になると凄いから…」

「わははははは。まぁリコ相手でも同じことになりそうな気はするけどね」


「リフィルねぇのそれってアマねぇと私じゃ違うじゃん~じゃないとアリスちゃんも今頃大変な事になってるよ」

「いや…実は一度大変な事になりかけたことはあるんだがね…コホー」


詳しくは分からないけどリフィルさんはアマリリスさんの事になると凄いらしい。

あの虫刺されと関係あるのだろうか。


「うーむ。じゃあアマリリスくんたちは厳しいか…学園のみんなに聞いてみるのもなぁ~面白半分の人とかには渡せないからなぁ」

「ねー」


う~んう~んとアリスとリコちゃんは頭を悩ませているなかアマリリスさんはじ~っとレイリさんの事を見ていた。

そして、口を開いた。


「レイリはどう?」

「む?」


「この子なら一日中ここに居るし、私がいる時はほぼ暇なはずだからちょうどいいんじゃない?」

「なるほど?しかし余はそのレイリくんの事を概要しか知らないのだが大丈夫なのかい?」


「大丈夫だよ。別に気性が荒いわけじゃないし…大丈夫だよね?レイリ」


アマリリスさんが問いかけるとレイリさんは少し間を開けた後にゆっくりとぎこちなく頷いた。


「ほら大丈夫だって」

「いやいやのようにも見えたが…ふむ、物は試しか。リコ」

「あい。ほらおいき猫ちゃん」


リコちゃんがレイリさんに猫を差し出すと…猫はぴょんと腕から抜け出して自分からレイリさんの元まで歩いた。

そして猫がその場に座るとレイリさんも向かい合うようにして座り、一体と一匹はひたすら無言で見つめ合っていた。


「大丈夫そうじゃない?」

「シュコー。どうだろう?メンチをキリ合っているようにも見えるが。コホー」

「少なくとも触ろうとしただけで威嚇された人よりはいいと思うよー」

「うっ…あのあの、でもアマリリスさん。ここで猫を飼うって大丈夫なんですか?」


「掃除は大変になっちゃうかもだけど大丈夫でしょ。魔法でささっと出来るし。まぁレイリの躾次第だね」


そんなわけで暫定だけど猫の飼い主に選ばれたのはレイリさんだった。

それからしばらく、私は当初の目的は完全に忘れ去り、雑談に勤しむのだった。


─────────


ユキノたちが会話に花を咲かせている間、レイリと猫はひたすら見つめ合っていた。

お互いに一歩も引かず、瞳にお互いの姿を映し続ける。


「…」

「…」


そんな時間が永遠に続くかと思われた瞬間だった。

ポンっといった軽い音と共に黒い光が子猫から発せられたかと思うと…そこに黒い毛玉はいなくなっており、頭に黒い耳、腰から黒い尻尾の生えた黒髪の幼女が現れたのだ。

幼女は最近流行しだしている着物と呼ばれる服を着ており、見た目は魔族還りを起こした人間のようだが、明らかにサイズが小さかった。

人間の赤子より小さく、そう…まるで手のひらより少し大きなあの猫と同じくらいの大きさだ。


「…」


レイリはその光景に目を見開いてきょろきょろと辺りを数度見渡して、再び幼女に視線を戻した。

するとそこに幼女などおらず、ちょこんと黒い毛玉が鎮座しているだけだった。

ホッと胸をなでおろし、一度目元を拭って再び目を開くと…やはり幼女がいた。

幼女はその小さな足で立ち上がり、てちてちとレイリの元まで来ると、座っていたレイリの膝をこれまた小さな手でたしたしと叩く。

何が起こっているのかレイリには分からず、再びきょろきょろと顔を動かして話に夢中になっているアマリリス達に手を伸ばした。

するとカタカタと関節が動く音に気がついたアマリリスがレイリの方を振り向いた。


「なに?どうしたの」

「…」


レイリはひざ元の幼女を拾い上げ、掌に載せてアマリリスに見せつけた。

しかしそこにいたのは…。


「にゃーん」

「!?」


そこにいたのはやはり黒い毛玉だった。


「おーおー、なんだか知らないけど仲良くやれてるじゃない。エサとかおトイレ用の砂とか必要なものは後で買ってきてあげるからそのまま静かに遊んでるんだよ」


そう言ってアマリリスは再び会話に戻ってしまったのだった。

レイリは視線を恐る恐る手元に戻すと…ポンっと毛玉は幼女の姿になり、そのままレイリの掌の上で丸まってしまった。


「…」


どういう感情からなのかカタカタカタカタとレイリはただただ震えていた。

謎の猫ちゃんの正体はおいおいで、次回から本編に戻ります。

なお今回辺りからユキノに心の余裕が出来たという事でいわゆる心の声が若干明るめになりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] レイリ、存外表情(?)豊かですねぇ かつてどこぞの誰かの指示で動いてたときはロボットめいた印象だったけども
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