禁忌と獣2
次回は明日か明後日投稿します。
「ユキノちゃんは禁忌魔法って知ってる?」
アマリリスさんが手を貸してくれて起き上がった後、「こうなったら仕方がないなぁ」と言ったボヤキと共にアマリリスさんが話を始めた。
それを用意された椅子に座って聞くことにしたけれど、あのレイリという名前の人…?もアマリリスさんの隣に座って微動だにせずどこかを見つめている。
そして禁忌魔法…あまり聞きなじみのない単語だ。
そもそも私は魔法というものがいまいちわかっていないので禁忌魔法だとか言われてもピンとは来ない。
それを伝えたところアマリリスさんはゆっくりと頷いて話を続けた。
「昔々ね当時の…当時のとか言ったらちょっと笑っちゃうんだけどとにかく当時の皇帝が世界統一を成し遂げた時に偉い人が集まって色々とルールを決める話し合いが行われたの。でも皇帝はあんまりそういうのに興味がなかったからあんまり口は出さずに好きにしろってスタンスだった。でもね、いくつかこれだけは絶対に飲み込めって言う決まり事を作ったの。世界を支配しちゃった皇帝の言葉だからもちろん当時の人は逆らわずにそれを了承したんだよ」
「そうなんですね」
なんとなくだけど私の脳裏には今の皇帝さんが浮かんでいた。
話を聞く限りのイメージだと当時の皇帝さんもああいう人だったみたい?
「それでね、その皇帝が決めたことの一つが禁忌魔法という括り。それに分類された魔法は帝国内だけでなく世界全体で使用を禁止するっていうやつだね。ここまではいい?」
「はい大丈夫です」
「その禁忌魔法の一つにパペット召喚という魔法があるの。やり方さえ知っていれば物心ついたばかりの子供でもできるような簡単な魔法でパペットと呼ばれる人形の見た目をしたモンスターを飛び出す魔法なの。知ってる?」
それはさすがの私でも聞いたことがあった。
というかそれは私の認識が間違っていなければ一般常識に分類されるものだ。
パペットと呼ばれるモンスターはいかなる場合でも召喚してはいけない…魔法の難易度自体が簡単なため面白半分で使われないようにかなり重い罰になるというアレだ。
もっとも今ではその方法を知ること自体も難しいらしいけど。
「それくらいなら」
「だよね。ちなみに召喚してはいけない理由は100年と少し前に帝国が世界統一をするに至った世界中を襲った大災害…それを起こしたのがパペットだとされているからなの」
「え!?それは初耳です…そんなに恐ろしいものなんですか…?」
複数の国が滅び、死者数など数えることもできないほどの大災害。
それを起こしたのが子供でも出来る簡単な魔法で呼び出されたモンスターなんて私には衝撃の事実すぎた。
今さらながらこれって私が聞いていい話なのだろうか?
「そして、はいこちらにいるレイリちゃんはなんとその禁忌の存在であるパペットなんです」
アマリリスさんはレイリさん?の肩を掴んで私に見せつけるようにして押し出した。
「え…」
びっくりして何も言えずにいるとレイリさんはぺこりと頭を下げて、同時にやはり何かが軋むようなギギギギギという音が聞こえて来た。
「まぁ言われても信じられないだろうし…ほら」
続いてアマリリスさんはさらにレイリさんの全身を隠している衣服をところどころめくりあげ、その素肌を見せてきたのだけど、腕や足…そして指はかなり特徴的な…球体関節というのだろうか?人ではありえない見た目をしていた。
「ほ、ほんとうに…?」
「ほんとほんと。しかもね?このレイリはその問題の大災害の一端を担った恐ろしい子なの。なんとなんとたった数時間で数十万を殺した冗談抜きで危ない子なの」
「…へ?じ、冗談ですよね…?」
「冗談じゃないって言ってるじゃない。まぁその大災害の事をあんまり詳しく話すつもりはないけれど…とにかくこのレイリは世界中で禁止されてるパペットで、しかもその中でも存在自体がアウトもアウトのまさに禁忌の存在って事」
私の目の前にいるこの綺麗な少女の見た目をした人形が数十万の命を奪った存在…?
現実味がなさ過ぎてうまく理解ができない。
「でも安心して。今はほとんどの力を封じてる状態だから。ほら」
アマリリスさんが今度はレイリさんの首元に巻かれていたリボンを解いた。
すると喉の部分に大きな穴が開いているのが見えた。
穴の周囲はひび割れていてなんとなく痛々しい。
「これのおかげで喋れないしほとんどの力は使えないからそこまで害があるってわけじゃないから大丈夫。それでも人間じゃ勝てないくらいの力はあるけどね」
「それは何も安心できないのでは…というか色々と大丈夫なんですか!?」
「何も大丈夫じゃないよ?だからこの話を聞いた時点でユキノちゃんも法律・条約違反の犯罪者。パペットに関してはその存在を秘匿すること自体が罪だからね」
「ちょっ!?」
「だから前から関わらないほうがいいよって言ってたんだよ。この子がここに居るって知られたら本当に大変な事になるから不用意に外に漏らしちゃだめだよ?ユキノちゃんの人生もそこそこ詰んじゃうからね」
「関わらないでって…さっきは完全な事故じゃないですか!?」
あまりにも理不尽だ!断固として抗議したいと思うのは自分勝手な事じゃないよね?
「でもたまに話しかけようとしてたし遅かれ早かれじゃない?」
確かに少し挨拶をしたほうがいいのかもしれないとは常々思ってはいたけれど、それがこんなことになるなんて想像もできるはずがない。
確かにアマリリスさんからずっと止められてはいたけれど…う~なんか納得がいかない。
「皇帝さんはこのこと知っているんですか…?」
「知ってるよ勿論。だけどいろいろ事情があってね~どこかに置いてはおかないといけないから私が預かってるの。バレたらユキノちゃんが考えてる数十倍は大変な事になるからね?本当に。コーちゃんも責任を問われちゃうし、国際問題…ひいては戦争まで行っちゃうかもね。帝国の一強になってる今の情勢をよく思っていない国は多いから」
「あは、はははは…」
私は笑うしかなかった。
元凶であるレイリさんは相変わらずどこを見ているのか分からない目でぼ~とどこかを見つめているだけだし…。
アレンさんの事なんかもうどうでもいいからナナちゃんと一緒にベッドにダイブして眠りたい。
…あ、そうだアレンさん!衝撃の出来事に覆い隠されていたけれど、こうなったら現実逃避も兼ねてやっぱりちゃんと相談するべきだ。
「あのアマリリスさん!」
今度こそはと立ち上がった瞬間、ばーん!と図書塔の扉が勢いよく開かれた。
「たのもう!」
扉を開けて入って来たのは不審者だった。
いや、ほんとうに不審者としか呼べない出で立ちの…多分女性。
豪華なドレスを着ていて…それはいいのだけど、その顔が頭全体を覆う仮面?のようなもので覆われていて時折「シュコー、コシュー」とおそらく呼吸音が聞こえている。
不審者としか言いようがないよね…?




