二つの欠片5
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!
次回は明日か明後日に投稿予定です。
ユキノの頷きを見てアトラはニッコリと親しみを感じさせる顔で微笑んだ。
やはりユキノはこの内気そうにも見える少女と殺し合ったという事実が信じられなかった。
「ありがとうございますぅユキノさん。あなたなら引き受けてくれると思ってましたぁ」
「引き受けるしかないじゃんそんなの」
「そうですかぁ?引き受けても引き受けなくてもユキノさんには何の関係もないのですしぃ無視してもよかったと思いますよぉ~。まぁそれはともかく善は急げという事で早速お願いしていいですかぁ?」
「いいけど…でもすぐには出来ないよ」
「およ?」
「私はスノーホワイトを使うと殺人衝動を抑えられなくなる…だからせめてナナシノちゃんがいないと」
そこでユキノは「しまった」と慌てて口をつぐんだ。
しかしすでに遅く、アトラはきょとんと不思議そうな顔をした後に意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「ほほう~なるほどですねぇ~あんなに熱く殺し合ったのに殺したくないとか言うのでどういうことかと思いきやそれを抑えてくれる誰かがいるという事なのですねぇ~お家にお伺いした時にやけに素直についてきましたねぇと思ったのですがぁ~なるほど合点が行きましたぁ~。いつかご紹介いただけますぅ?」
「ダメ。無理に押し入ったりしたら許さないから」
「うふふふのふ~いいですねぇ~ユキノさんが怒ったらまた殺し合いをしてくれますかねぇ?」
「あなた本当に…」
ユキノが睨みつけるも、アトラは微笑み全てを受け流す。
ここでまた戦うことになるのかとユキノが身構えかけたところでアトラが両手をあげた。
「冗談ですぅ。私は本当にユキノさんの事をお友達だと思っているのでぇ~嫌がることは「あんまり」したくないのですぅ。今は信用がないみたいですがいつか紹介してくださいね。さてさてでは後日?という事で今日は解散しますかぁ?」
「そうだね…あともう一つ不安があるんだけど」
「セルヘンさんの事ですかねぇ?」
「そう…身体が弱いって話だけど耐えられるのかな?欠片を壊すのにスノーホワイトでどれくらい傷つければいいのかはいまいちわかってないから…先日のランさんくらいの傷は負ってもらうことになるかもしれない」
「ランさんはお肉が抉れるくらいには傷を受けていましたからねぇ~確かに何か手段を考えないとセルヘンさんは死んでしまうかもしれませんね」
「うん、だからなんとか…」
ユキノとアトラが話を進めようとした時だった。
二人の間を炎の柱が通り過ぎ、部屋をかこっていた壁にぶつかり溶解させた。
再び部屋の温度が急上昇を始め、じりじりとした熱がユキノの全身を蝕んでいく。
慌てて立ち上がったユキノを庇うようにアトラが前に出て、その炎の出どころに丸眼鏡越しに見つめる。
「起きていたのですねぇ~カルヘンさん」
「お前たち…妹に何をするつもりだ!」
「落ち着いてくださいぃ~誤解ですよぉ。私たちはあなた達を助けようと…」
「殺すって言っていたじゃないか!」
「言っていませんよぉ。死ぬかもしれないと言ったんですぅ。それにそうならないように方法を話し合おうと」
「ふざけるな!妹は…あいつは俺が守るんだ!」
カルヘンが叫ぶと直後その周囲に炎が渦巻き始め、カルヘンが乗っていたベッドが溶けていく。
燃えるではなく溶けるだ。
いや、燃えてもいるのだがカルヘンの炎に触れた全てがマグマの様に液状に燃え溶けていくのだ。
「冷静に、冷静になってくださぁい。今のあなたではセルヘンさんに近づくことすらできません~何度も説明していますが我々はあなたの敵ではないのですぅ」
「うるさい!!」
まさに火に油。
アトラがどれほど説得を試みてもカルヘンは聞く耳を持たず、部屋中が溶けたマグマに変わっていく。
「アトラさん!このままだとまずいんじゃ…」
「おかしいですねぇ…確かに長時間能力の火を出し続ければ扉を焼き切るくらいは出来ていましたが耐熱加工が施された部屋中を瞬時にドロドロにしてしまうほどの力はなかったはずですぅ」
「力が強くなってるって事…?」
「ですねぇ。それに…カルヘンさん聞いてくださぁい~どこから聞いていたか知りませんが勘違いしないでくださいぃ~今のままじゃセルヘンさんが危ないという話をしていただけで安全にあなた達からその力だけを取り除く方法はありますぅ。あのままだとあなたが守ろうとしているセルヘンさん自身が危ないというのは説明しましたよねぇ~?」
「黙れ!誰も…もう誰も信用なんかするもんか!!」
マグマが二人に襲い掛かり、アトラがユキノを庇うように大剣を盾にしたが、マグマを受け止めた部分が多少だが溶け落ちる。
「まずいですねぇ…欠片による精神汚染も始まってますねぇ」
「精神汚染!?」
「あぁ~欠片持ちが狂暴になったり傲慢になったりするのを我々は精神汚染と呼んでいるのですぅ。あの頑なすぎる思考…おそらくもう説得は無理ですねぇ。どうしたものかぁ」
「とにかく逃げないと!」
「それはダメですぅ。これでも幹部ですので部下を先に逃がさないとですのでぇ~それに今の状態のカルヘンさんを放置しておくのは危険すぎますぅ。周囲を瞬時にマグマに変えられるのですよぉ?いくら何でも外に出せるはずもないですしぃ~セルヘンさんと接触された場合どれほどの規模の爆発を起こされるのか想像もできません~まぁユキノさんには関係ないので逃げてもらってもいいですができれば手伝ってほしいなぁと思ったり思わなかったりぃ~」
「手伝うって何を…」
その瞬間、放たれた炎が二人の間を走り抜け、アトラとユキノを分断した。
燃え盛る炎は天井までを貫く壁となり、床をドロドロに溶かしながら周囲の温度を異常なほど上昇させていく。
炎の壁を通り抜けて合流するのはあまりにリスクが高いように思えた。
「アトラさん!」
「ユキノさん~お手数でなければセルヘンさんを連れて逃げてくれませんかぁ?」
「私が…?」
「はい~とりあえずは私がカルヘンさんを食い止めておきますぅ。その間にセルヘンさんを連れて逃げてくださぁい。とにかく二人を接触させてはダメですぅ~一番いいのはセルヘンさんの欠片を壊してもらう事ですが…できませんよねぇ?」
「…」
「あぁごめんなさぁい。嫌味だとかを言うつもりではないんですぅ。純粋な確認でぇ~とにかく今は逃げ──」
ゴウっと炎が吹き荒れる音がしてアトラの声が聞こえなくなった。
ユキノはアトラに対して好意的な感情を持っているとは言い難いが、それでも食事を共にして話をした相手が命を散らすのはとても後味が悪いものだと感じていた。
(どうする…?スノーホワイトならもしかして…ううん、スノーホワイトは魔法や欠片の力は消せても発生している熱やマグマを消すことは出来ない…)
ユキノがどうするべきか悩んでいる間にも床を侵食するマグマは広っていき、どちらにせよ部屋からは出ないと危険なほど追い詰められていた。
だが確かに炎と床のマグマは広がってきてはいるがカルヘンが炎の壁の向こうからやってくる気配は感じられず、それはアトラが食い止めてくれているからだと信じることにしてユキノはセルヘンが眠る部屋に向かうことにした。
すでに施設内の温度は通常では考えられないほどに上昇しており、少し走るだけで汗が吹き出し全身を濡らしていく。
辺りにはどこから発せられているのか騒々しく耳障りな警報音が鳴り響いており、どこにいたのかローブに身を包んだたくさんの人がユキノの横を通り過ぎるように走り抜けていく。
(アトラさんの仲間達?結構数が多い…ここは施設の一つだって言ってたけどどれだけ大きな組織なの…?)
アラクネスートの組織としての大きさに若干の恐怖を覚えつつもユキノはセルヘンの眠る部屋にたどり着き、扉に手をかける。
しかしその扉は固く閉ざされており、開く気配がなかった。
「鍵がかかってる!?そんな…!」
ユキノは扉を殴りつけるもびくともしない。
「ここまで来てこんな!スノーホワイトを使う?でも…」
力を使ったとしてもこの扉を破れるという保証はなかった。
スノーホワイトをは確かに発動と共にユキノの右腕を異形のそれに変えてしまうが、その力のほとんどは爪に集約している。
研ぎ澄まされた刃物のような切れ味に、魔法等の力を無効化し欠片を破壊する力。
それが全てであり、切断力はともかく打撃の威力がそこまで上昇するというものでもない。
むしろ腕自体が異形化し、サイズが大きくなる都合上、近くのものを殴るという行為は普段よりも難しくなるともいえる。
誰かに開けてもらうという事も考えたがすでに逃げてしまったのかアラクネスートの構成員は近くにおらず、手が出せない状況に追い込まれた。
そして焦りから扉を叩きつけるユキノは背後から迫っていた炎の柱に気がつくことが出来なかった。
「え…」
全てを焼き溶かす炎がユキノの脇腹を貫き、その向こう側にあった扉をもドロドロに溶かした。
扉への道を開けるように左向きにユキノの身体が倒れ、ピクリとも動かなくなる。
炎が抉り取った脇腹はあまりの高温によって抉られたまま傷が焼き塞がれており、そこにあったはずの血も肉も内臓も全てが消失していた。
ユキノの背後からは炎を纏ったカルヘンが虚ろな目でゆっくりと歩いてきており、一歩ごとにカルヘンが踏みつけた床はどろどろのマグマ状に溶けていた。
「い、ま…俺が行くから…セルヘン…おれが…まも、る…」
溶けた扉にカルヘンが手を伸ばした。
その瞬間、鋭い刃物のような爪がその腕を斬り飛ばした。
「…」
カルヘンは光の宿っていない目で斬り飛ばされた腕を見つめる。
手首から下が切り離され、とめどなく血が流れ落ちているが痛がる様子も驚いた様子も見せず、ただただぼ~っと腕を見つめている。
そんなカルヘンの視界の端で倒れたはずのユキノがゆっくりと身を起こした。
その腕は…スノーホワイトに変化していた。
「…泡となり我が身を癒せ【ヒールペイン・マーメイド】」
ゆらりと立ち上がったユキノの脇腹は綺麗に修復されており、破れた服の隙間から真っ白な肌が覗いていた。
ヒールペイン・マーメイド。
それはランの欠片を破壊した際に習得した新たな力だった。
他人を癒し、精神に毒をばらまくランの力とは違い、獲物と定めた命を確実に刈り取るためにどれだけ傷ついても自らの傷を癒す力へと変貌している。
その力はユキノの意志とは関係なく発動され、致命的なダメージを受けた場合は瞬時に傷を修復してしまう。
そしてそれはつまりスノーホワイトの強制的な発動を意味していた。
「ねーねーねー!私が頑張って抑えてたのにさぁ…死にたいのかなぁ?ぼくぅ?」
「…」
思考の切り替わったユキノの言葉にカルヘンは反応を示さず、自ら纏う炎に腕の切断面を押し付けて止血をし、ユキノを無視して部屋の中に入ろうと試みた。
すかさずスノーホワイトの爪がカルヘンに襲い掛かる爪が切り裂いたのは炎のみで、飛び散った火の粉が施設内の火の手をさらに広げていく。
「大人しくしてようよ!大丈夫だよ、ちょっとだけ引っ搔かせてくれればそれで終わらるんだから。それであなたの能力はきれいさっぱり消えてなくなる。それでいいでしょう?ねぇ?あんまり長引かせるとどうなるか分からないよ?」
スノーホワイトの発現によってユキノの思考は殺意に傾いているが、それでも完全に理性を失ってはない。
不条理な目にあった幼い双子を手に掛ける事への抵抗は殺すことへの快楽よりわずかに上回っていた。
故にできるだけ殺さないようにという思考がまだできている。
だがそれとは反対にカルヘンはもはや思考自体が出来てはいない。
ただ妹の元に、それを阻むものは全て燃やし尽くす。
それが今の全てだ。
「ウゥゥウウウアアァアアアアアアアアア!!!」
まるで獣の尾のようにカルヘンの周囲の炎が無数の鞭のように変化し、振り回される。
炎の尾が触れた部分は燃えて溶けてその原型を崩壊させる。
「このっ…!」
炎の鞭はスノーホワイトによって消すことが出来るが燃え落ちる壁や、溶解した地面に阻まれユキノはうまく動くことが出来ず、炎を躱すことで精いっぱいだった。
これがただの戦いならば一瞬で決着をつけることが出来る。
スノーホワイトに宿る雷の力を解放し、炎の隙間からカルヘンの身体を撃てばそれだけで小さな命は燃え尽きるだろう。
しかし今のユキノにその選択は出来ない。
そんな時だった。
ユキノの背後からか細く、今にも消えてしまいそうな声がした。
「おに…い…ちゃん…」
「!!…せる、へ…ん…」
眠っていたはずのセルヘンが周囲に水の塊を漂わせながらフラフラとした足取りでカルヘンに向かって歩いていた。
「ダメ!」
咄嗟にセルヘンに駆け寄ろうとしたユキノだがカルヘンから発せられた炎に遮られ足を止めざるを得なかった。
「お兄ちゃん…きてくれたんだ、ね…」
「せるへん…せるへん…」
歩くのが辛くなったのかセルヘンは崩れ落ちた扉に手をついて肩で息をし、カルヘンは虚ろな目のままセルヘンに手を伸ばしながらゆっくりと近づいていく。
そしてユキノは二人が接触することで起こると聞かされた現象を思い出し、駆け出す。
スノーホワイトに宿った癒しの力は強力ではあるが万能ではない。
身体の一部分の欠損程度なら修復は可能だが、それが広範囲に及ぶと回復に時間がかかるうえに回復にはユキノの生命力や気力が必要だ。
日に何度も使えるものではなく、致命傷から回復を果たした結果、自らの力によって衰弱してしまう可能性もあった。
しかし今はそんな事を気にしている場合ではないとがむしゃらに手を伸ばした。
狙いはカルヘン…その身体に宿る欠片の破壊。
それさえ果たせれば最悪の事態は防げるはずだからとユキノを意識の外に追いやっているカルヘンにスノーホワイトの爪を向けて…。
「…お姉さん…ごめんなさい」
「え…」
爪がカルヘンに触れるその瞬間、セルヘンが兄を庇うようにその身をスノーホワイトの前に晒した。
もはやユキノは身体を止めることは出来ず、命を切り裂く異形の五指がセルヘンの身体を貫き…やせ細りただでさえ幼く身体の小さなセルヘンの身体からは爪が飛び出してもう一歩でセルヘンに触れれる位置にいたカルヘンの身体をも貫いた。
「な、なんで…」
困惑するユキノをよそに、スノーホワイトに貫かれた双子は血と臓物を零しながらお互いを抱きしめていた。
二人が触れ合う…その条件が達成されているにもかかわらず爆発は怒らなかった。
「お兄ちゃん…やっと…こうすることが出来たね…」
「セルヘン…おれが…安全なところに…連れて行ってやるから、な…二人で幸せになれる場所…に…」
「うん。一緒に行こう…お兄ちゃん…ずっと一緒だよ…」
「ああ…」
絡み合った二人の身体がひとりでに爪を滑り落ちて炎の海に沈んだ。
骨の一片すら残さずに…双子の身体は燃え尽きてしまった。
「ち、ちがっ…私…殺すつもりじゃなくて…ただ…」
スノーホワイトが解除され正気に戻ったユキノが膝をつく。
そんなユキノの上の天井が炎によって崩れ、火を纏った瓦礫がユキノに襲い掛かる。
「危ないですぅ!」
下敷きになりかけたユキノを引っ張り、助けたのはアトラだった。
服はところどころ焼け焦げ、大きな丸眼鏡にはひびが入っていたが目立った外傷はなく、なんとかカルヘンから逃げのびて合流を果たしたのだ。
「ユキノさん大丈夫でしたかぁ?一体何が…」
「いやぁああああああああああああああああ!!!!!!」
─────────
顔を抑えて叫び続けるユキノを半ば無理やり眠らせ、アトラは燃え尽きていく施設を大きなため息とともに外から眺めていた。
「はぁ~…絶対に怒られますよねぇこれぇ~…どうしましょうかねぇ~…ユキノさんにも悪い事をしてしまいましたしぃ~つくづく厄日ですぅ」
上司にどう報告したものかと頭を悩ませるアトラの元に一人のローブを纏った男が近づいた。
「状況は?」
「んん~?あぁようやく来てくれましたかぁ~遅いですよぉ」
「こちらにも都合がある。むしろ早く来れた方だという事を分かってもらいたい」
「冗談ですよぉ冗談~。状況も何も見ての通りですぅ…何とかなると思ったんですけどねぇあの双子。もう三年もあんな状態でしたし色々と限界だったのでしょうね。悲しい事ですぅ」
アトラは燃えていく施設に向かって両の手のひらを合わせて目を閉じた。
「それは本心か?」
「さぁ~?どうでしょうねぇ~どちらにせよ我々の駒にはならなかったのだからお金をかけたのに思惑通りにならなくて悲しいという気持ちに偽りはないでしょぉ?」
「…それでこれからどうする?」
「私は戻ってクイーンに報告をしてきますぅ。あなたはユキノさんを家まで送り届けてくださぁい。謝罪には後日伺いますのでそれ以外は何もしなくて大丈夫ですぅ。もし目を覚ましたらいい感じにあなたの事は誤魔化しておいてください~…アレンさん」
「こちら側にいる時は不用意に名前を呼ばないでもらいたい」
「すみませんねぇ~つい~」
ローブの男アレンは眠るユキノの身体を抱き上げるとその場を立ち去った。
アトラの欠けた眼鏡のレンズにはその後もしばらく燃えていく施設が映りこんでいた。
─────────
「という事でしてぇ~まことに申し訳なくぅ~」
報告を終えたアトラはクイーンに対して改めて頭を下げる。
カララは腹部へのダメージが酷かったのか途中でトイレへと消えた。
「…話は分かったわ。先走り過ぎたのと報告不足、それが引き起こした事態と言いたいところだけど…あなたの言う通り限界だったのでしょうねあの双子は」
「ですぅ」
「…わかりました。とりあえずアトラへの罰はまた後日決めるとして…あのユキノという子に接触するのはやめなさい」
「えぇ~」
「えぇ~じゃない。どこかで聞いた名前だと思ってたから少し調べたんだけどあのユキノって子…以前うちからスカウトが行っていたレベルの子みたいよ」
「ほぇ~そうなんですかぁ?というかスカウト担当はクイーンじゃないですかぁ~忘れてたんですぅ?」
「違う。私じゃなくて…」
「ああ「中ボス」ですかぁ?」
アトラの発した中ボスという言葉にクイーンは痛む頭を抑えた。
「とにかくあの子とは出来るだけ関わらないほうがいい。「あの人」もそう言ってるわ」
「えぇ~」
「えぇ~じゃない。あんたそんな真面目そうな風貌してるくせに誰よりも我が強いの本当に辞めてくれない?」
「えぇ~」
「ぶっ飛ばすわよ」
「わぁこわぁい」
「とにかくそういう事だからわかったわね」
「はぁい」
そういうアトラの頭の中では次はいつユキノの家に行こうかと謝罪の手土産等も含めてのスケジュールが組まれていくのだった。
─────────
そしてユキノの方もナナシノに自分の身に起こったその事件の事を話していた。
図らずも奪ってしまった命の感触が消えてくれないと顔を覆った。
「ユキノさん…」
ナナシノはそれがどれほど辛いのか理解は出来ていなかった。
常識も倫理観も学んでいない彼女にはそれが分からない。
ただユキノが苦しんでいるという事は分かったから、その身体をそっと抱きしめた。
「ナナちゃん…」
「大丈夫ですよユキノさん。私はあなたのその気持ちを理解してあげることは出来ないですけど…でもあなたが辛くなくなるまでこうしてあげることは出来ますから。だから自分を責めないでください。私がどんなあなたでも許してあげますから」
「うん…ありがとう…」
「はい。だから絶対に私の所に帰ってこないとダメですよ?家を空ける時は絶対に教えてください。いつ帰るかも言ってください。そして時間通りに帰ってきてくれないとダメですよ…あなたが帰ってくる場所は私の所です。そうですよね」
「うん…何があってもナナちゃんの所に帰るよ」
「はい。なら私は他に何も望みません…あ、でも胸は触らせてください」
そうしてナナシノはユキノの胸の膨らみを鷲掴みにしてふにふにと揉み始めた。
ユキノは困ったような表情を浮かべつつも、大人しくされるがままで…むしろ夢中なその姿が可愛らしくさえ思え自然と頭を撫でた。
揉んで撫でる。
この不思議な光景はやがて日常の光景の一つに組み込まれるのだった。
新年一発目に重めな話をお送りしてしまいました!
次回はアマリリスメインの平和な日常回になります。
というか微妙にお正月ぽい話と言えなくもないのでそれをやりたくて今回の話は3話分の長さになってしまいました。
読みづらかったら申し訳ありません!
この後は少しだけ日常回が続いた後に新章突入です。
ユキノちゃんがナナシノという自分を肯定してくれる依存先を見つけたことでこれまでのやや後ろ向きな思考は薄れていくかと思います。
そんなわけでよろしければ今年も是非当作品をよろしくお願いいたします。




