二つの欠片4
次回は年明け2日か3日に投稿したい気持ちです。
「ちょっと待ってよ…なんなんですかその村…それに両親って」
アトラの語った内容にユキノは絶句するしかなかった。
ユキノの育った村では考えられない事だったからだ。
「わ、私のいた村では…そんな事ありませんでした。私は皆に避けられていたけれど…みんな自分の子供の事は大切にしていたし、私のおかあさんだって私の事…!」
──愛してくれていた。
その言葉までつなげることが出来なかったのは少しだけ確証が持てなかったから。
断言できるほどにユキノは母との思い出を持っていないからだ。
だがそれでも酷い事をされたことはなかった。
だからアトラの話を信じられなかった。
「実はその村がとてもダメなところでしてぇ~とある犯罪組織が人身売買のために子供を育てていた村だったわけですねぇ。あえて悪い言葉を使うのならば…人間の飼育所とでも言ったところですかね。美味しいエサを与え育てて、丸々と太ったところを出荷する。そんなところですぅ」
「ねぇ…その犯罪組織って」
「いえいえ違いますよ?断じてうちではありません~。むしろこちらと敵対していたところですねぇ。ずっとそこの資金源を探していたのですが…ようやくその正体を知れたのですぅ」
「証拠は…?」
「証拠と言われると難しいのですがぁ~…うーん、ほんとうにちがうのですよぉ~我々は確かに悪い事もいっぱいしていますよぉ?密輸に違法物の売買…強盗に殺人とフルコースの満漢全席ですぅ。でもですねぇ?一応タブーがありましてぇ~一般人に対する「お薬」と「人身」は売買しないという事になっているのですぅ。それが地雷になってる人がいましてぇ~えぇはい。綺麗事や正義感などを語るつもりはないですがぁそこは絶対ですぅ」
アトラのいう事は何も証明できるものがない。
全て彼女の話だけだ。
だからユキノとしては全てをそのまま信じることなどできないが、まだ話は終わっていない。
ならまずは全ての話を聞くべきだと判断して続きを促す。
「…それでどうなったんですか?その双子は」
罪のない兄妹を襲った不幸な運命…その結末を聞きたくはなかった。
しかし欠片が絡んでいる以上は聞かねばならない、改めてユキノは自分が引き受けた仕事がどれだけの事なのかを実感していた。
「ある時、我々の元に正体不明の大爆発が起こったと報告が入りました。あれは本当に運がよかったのですぅ。帝国より先に私たちがその情報を掴むことが出来た。何の変哲もない…深い森の中で爆発なんて起りえない。突如として妙な力を持った魔物が現れたか、もしくは…という事で何人かがすぐに駆け付けたわけですが蓋を開ければずっと追っていた犯罪組織の村があり、そこにいたのが件の双子。そこで眠っているカルヘンさんと白い部屋のほうにいるセルヘンさんだったのですぅ」
「双子が爆発を起こした?」
「そうですそうですぅ。たぶん極限状態に置かれたことで内なる欠片が目覚めてしまったのでしょうねぇ。双子は自分達に迫る魔の手から逃れるために爆発を起こしたのですぅ」
「…待ってよ。あの女の子は水を出す力で、そこの男の子は火の玉?みたいなのを操ってたよね?それで爆発?」
村が水没した、森が全焼したならまだわかる。
でも爆発というのはよく分からない。
そんなユキノの疑問にアトラは難しい顔をしつつも話を続ける。
「水蒸気爆発というらしいです。水が高温の何かに接触することで爆発を起こす…なんか膜がどうやら蒸発がどうやらと説明をされましたが私には詳しいことは分かりません~。ただそういう現象が実在するという事で、それがあの村で起こった爆発の正体ですぅ」
「女の子の水と男の子の火が混ざって爆発が起こるって事?」
「もっと細かく水蒸気爆発が起こる条件というのはあるらしいですがそれらを全て無視してあの双子はそれを起こせる…いや起こってしまうようです。それが双子を今引き離している理由なのですが…肉体的接触をすることで水蒸気爆発が自動的に起こるというのが欠片が二人にもたらした力のようですね。水と火はその副産物ですぅ」
「そんな事が…」
「当然我々としても無視できるわけもなく、双子を保護して引き離しました。丁度そのあたりでセルヘンさんが元々身体が弱かったこともあり、能力の過剰使用で意識を失っていまい…とりあえず保護をして今に至るという状態ですぅ。納得してもらえましたかねぇ?」
「少しだけ…ちなみにその後は村はどうなったの…?」
アトラは首を動かしカルヘンが眠っているのを確認し、視線を数度泳がせた後に観念したようにため息を吐く。
「もちろん跡形もなく潰しましたぁ。村自体も…組織も、人もですぅ」
「アトラさんがやったの」
「いえ、私は殲滅戦は得意ではないので~そういうのはカララさんに任せているのですがちょっと色々ありましてねぇ~クイーンという我々の一応は上司にあたる人が外部に依頼しましたぁ」
「外部?」
「えぇ~裏の世界で「万魔の妖精」と呼ばれている方ですぅ。ユキノさんも知っていますよねぇ?」
「…だれ?」
そんな名前にユキノは聞き覚えがなかった。
だが言葉の意味を少し考えてみると一人だけそんな異名がついてもおかしくないであろう女性の顔が浮かんだ。
「アマリリス・フランネルと表では名乗っている人ですねぇ。その人に我々の「ボス」が依頼して…結果全員死にました。組織もきれいさっぱりです」
「アマリリスさんがそんな事を…?」
「表のあの人しか知らないのであれば驚くのかもしれませんがぁ~裏ではそうとうに恐れられてる人ですよぉ~ぶっちゃけ何人殺してるのか分からないくらいのヤバイ人ですぅ」
「…」
嘘だと否定したかったが、ユキノ自身アマリリスから優しさだけでない何か得体のしれない物を感じていたのも事実だ。
「…もしかして以前にもアマリリスさんに依頼をしたことがあるんですか?あなた達は仲間なの?」
だから気になったことだけを質問した。
もしそうならばアマリリスは皇帝とその娘と親しくしているにもかかわらず、帝国で暗躍している秘密結社に通じていることになる。
それはきっと何か恐ろしい事を引き起こす予感がした。
なによりアマリリスが皇帝やアリスを裏切っていることになる…それはユキノには受け入れがたい事だった。
「仲間ではないですね。できれば関わりたくない存在の筆頭と言ってもいいですぅ。百害あって…二、三利拾えれば儲けものという感じの相手なので今回は本当に偶々ですぅ。そもそも依頼をしたとしても基本的に自分の意思以外では動かない人ですからぁ~色々なところから接触を受けているでしょうにどこにも属していませんからねぇ彼女」
「その話が本当ならどうして今回はそういう事になったの?おかしいじゃん」
「先ほどうちに薬と人身売買に地雷がある人がいるという話をしましたが、今回もそれに似たケースという事ですねぇ。「万魔の妖精」にとってあの村でのことはそこに属する者たちを皆殺しにするほどの許せない何かがあったという事でしょう~」
「アマリリスさんの許せない何か…」
「その場にいたうちの構成員はその時の光景がトラウマになって使い物にならなくなってしまった人もいるくらいですぅ。よっぽど怖かったのでしょうねぇ…なんでも「血が繋がっていない私をママたちは本当の娘として愛して育ててくれたのに、血が繋がっているはずの子供にどうして酷いことが出来るのかな?おかしいよね?親だと思っていた人に愛されないのかもしれないと絶望する気持ちが分かる?お腹の中身を全部吐き出してしまうほど泣いてしまう苦しみが分かる?あなた達は「親」じゃない」だそうですぅ」
「…」
姉妹で自分だけが血が繋がっていない。
以前そう言っていたアマリリスの顔がユキノの脳裏に浮かんでいた。
「ま、触らぬ神に祟りなしということで触れないほうがいいですねぇ。人の地雷なんて踏み抜いていい事はないですからねぇ…まして相手は人智外の化け物ですからぁ。もしお友達のユキノさんが死んでしまったら私はとっても悲しんでしまいますよぉ?…話がそれましたが事情はそんなところです。それでどうですか?私のお願いを聞いていただけますぅ?」
「…」
「正直、己の意志ではコントロールできない力なんて力とは呼びません。欠陥ですぅ。ましてあの二人は双子でありながら手をつなぐだけで周囲を爆発で吹き飛ばす「世界にとって害」と呼んでいもいい存在になってしまっていますぅ。それが今の状態で外に知れたらどうなるか…それも考えてあげて欲しいですぅ」
ユキノはたっぷり数十秒、目を閉じた。
そしてその時間でとにかく色々な事を考えて…目を開きゆっくりと頷いたのだった。
中途半端ではありますが今年最後の投稿でした。
前作からもしくは今作からでも今年一年お付き合いいただきありがとうございました!
来年も是非ユキノやナナシノ、その他のキャラの行く末を見守っていただければと思います!
繰り返しになりますがありがとうございました!




