二つの欠片3
次回投稿は未定です。
明日から年明けの2日までくらいには投稿します。
汗がユキノの頬を伝い、床に落ちた。
室内の温度の上昇はとどまることを知らず、すでに真夏日のような蒸し暑さを感じるほどにまでなっていた。
「あぁ~もう…めんどくさいですねぇ。暑いのは嫌いなんですよぉ~おっぱいに汗が溜まって汗疹になっちゃったりしますからぁ…どう思います?カルヘンさん?」
「なっ!?ばっ…!」
アトラが衣服の襟元に指をひっかけて胸元を少しだけ見せると、それまでアトラを睨みつけていたカルヘンと呼ばれた少年が顔を赤くして分かりやすく動揺を見せた。
それを見逃さずにすかさずカルヘンとの距離を詰めたアトラが大剣の柄頭でカルヘンの腹を突き、意識を奪い、崩れ落ちる身体を抱きとめると小脇に抱えた。
「ちょっアトラさん子供相手に…」
「先ほどの力を見ましたでしょう~?見た目が子供というのは危険を見逃す理由にはならないのですよぉ~。欠片なんて摩訶不思議で常識の通じない物を相手にするのでしたらそういう心構えも持っておかないといつか足を掬われますよぉ」
「…」
「とりあえず行きましょう~。こちらに別の部屋があるのでそこでお話をさせてくださいなぁ」
カルヘンを抱えたアトラの先導のもとユキノが案内された部屋は先ほど少女が眠っていた部屋とはうって変わり、鉄のような材質の壁で四方が囲まれた部屋だった。
おそらく扉がついていたであろう場所は何故かドロドロに溶けていた。
「はぁ…出たいと誰かに言ってもらえれば普通に開けますよっていつも言っていますのにぃ~高いんですよこの扉ぁ。まぁたクイーンにいろいろ言われちゃいますぅ」
アトラは溶けた扉に触れないように気をつけながら部屋に入り、ユキノもそれに続く。
扉を横切った瞬間にユキノはじりじりとした熱を感じ、異常な高温で溶かされたということが伺えた。
部屋に入るなりアトラは備え付けられていたベッドにカルヘンを放り投げて自らは椅子に座り、ユキノにも着席を促した。
「さて…つまりこういう事ですぅ」
「いや、何もわからないよ」
「ですよねぇ。先ほど私たちを襲ってきたそこの男の子…カルヘンさんと言うのですが見ての通り欠片持ちでしてぇ~そして先ほどの白い部屋で眠っていた女の子の双子の兄だそうですぅ」
「つまり兄妹そろって欠片持ち…?」
「ですですぅ。それで話はここからで女の子が眠っている理由なのですがぁ~」
アトラは語る、とある二人の兄妹にまつわる凄惨な事件を。
とある小さな村、今現在二人を隔離しているこの施設がある集落やユキノが生まれ育った村のような質素な村にその兄妹は生を受けた。
両親はその新たな命の誕生を大層喜び、決して裕福ではない家庭だったが両親は双子をそれはそれは精一杯育て、二人もそんな両親に報いようと幼いながらも兄は父の仕事を手伝い、妹は身体が多少弱かったが一生懸命母の手伝いをし、お金はなかったが幸せな家族…そのお手本のような光景がそこにはあった。
ただ一つ、兄には気になることがあった。
それは村にいた子供たちが年々居なくなっていくこと。
大人たちに聞いても彼らはは外の世界に勉強をしに行ったと口をそろえ、寂しいなとは思いつつも村にとっては大切な事なんだと納得した。
しかしそれが…いや、兄妹が信じていた全てが嘘だと分かったのはそれからすぐの事だった。
夜中にトイレに行きたいと目を覚ました妹とそれに付き添っていた兄が二人でトイレに向かっていた時だ。
灯りの漏れていた両親の部屋から話し声が聞こえた。
「あの子たちももうすぐ10歳ね」
「ああ…ここまで長かったなぁ」
「ええ本当に…何度も心が折れかけたけど二人とも無事に大きくなってくれたわ。一安心」
「ほんとになぁ。だがその苦労もようやく報われる時が来た」
「もう「売り先」は決まっているのよね?」
「もちろん。先方が視察に来てくれた際に兄は鉱山の掘り起こしなんかをさせる力仕事用の奴隷に、妹の方は王国の好色家の方に買われる…いや、飼われるそうだ」
兄妹はそんな両親の会話に尿意も忘れて立ち尽くした。
母と父が何を言っているのか理解できない。
いや、したくない。
だが両親はそんなこと露知らず、笑みを浮かべながら会話を続けた。
「あらあら、それは目一杯お金をはずんでもらわないと」
「はははそうだな。一生モノの奴隷と可愛らしいペットを育ててやったんだ。存分に金を貰わないとな」
「向かいの家の夫婦は子供は一人だけだったのに王国に移住できるほど貰ったのですって!私たちは二人なんだからもしかして帝国とかにも行けるんじゃないかしら!」
「だなぁ、楽しみだ…しかしギャンブルで破産した時は人生終わったと思ったが…まさか村に移住してガキをこさえて育てるだけで借金ちゃらどころかやり直すための金まで貰えるってんだからラッキーだったよな。こんな「子供を売るために作らせる村」なんてもんが妄想の類じゃなく実在しているのには驚きを通り越して笑っちまったが」
「ちょっと、私は死ぬほど痛かったのよ?一人でも嫌だったのに二人もできちゃってさ。なんで私があんなガキのために腹を痛めなきゃならないのよって」
「そういうなって。もう少しで全部報われるんだから」
「他人事だと思って…まぁいいけどさ。金が手に入れば何もかも精算できるものね」
「おうよ」
「あはははははははは!」
「がはははははははは!」
卑しく笑う両親の姿にこの人たちは誰だと兄は思った。
自分が知っている母と父じゃない…まるで悪魔に身体を乗っ取られてしまったような変貌に恐怖で足が震える。
「おにいちゃん…」
しかし同じように震えながら自分の手を握る妹の姿を見て平静を取り戻す。
(父さんと母さんの話が本当なら…俺達は知らない人に売られる…近所に住んでた兄ちゃん姉ちゃんも売られてしまったんだ!逃げないと…俺が…妹を守らないと…)
とにかく逃げなければ。
兄の思考はそれで埋め尽くされた。
それは子供故の無知さからなのか、それとも恐怖に突き動かされたからなのか何の準備もせず兄は妹を連れて直ちに村を出て行く決心をした。
妹の手を引き、靴を履いて家を飛び出した。
そしてただただ走る。
これからどうするのか、どこに逃げるのか…何も考えず走り続けた。
しかし身体が弱い妹は長時間走ることは出来ず、顔色を悪くさせ足を止めてしまった。
「お、おにい…ちゃ、ん…」
「あっ!?ご、ごめん!少しだけ休もう」
「うん…ごめんね…」
「馬鹿、謝るな!安心しろ絶対に兄ちゃんが守ってやるからな」
「ほーう、誰が誰を守るんだ?」
兄妹の背後から聞きなれた声がした。
身体を硬直させ、それでも兄は恐る恐る振り向く。
…そこには兄妹の父親が立っていた。
いや、父親だけじゃない…母親や村の大人たちと大勢の大人がいつの間にか兄妹を囲むように立っていた。
「な、なんで…」
「馬鹿かお前らは。あんなに物音をたてながら正面口から家を出たら嫌でも気がつくわ!…さてその様子からだと話を聞いていたな?痛い目にあいたくなかったら大人しく戻って来い。優しく言ってやるのは一回だけだからな?」
ボキボキと腕を鳴らしながら父親は見たこともない表情で兄妹に近づいていく。
──絶対にダメだ。
兄の中で何かが警戒を発し、とっさに妹を庇うように前に出た。
瞬間、父親の拳が兄の顔面にめり込んだ。
「お兄ちゃん!!」
妹の悲鳴のような叫びが辺りに響き、兄は鼻から血を流しながらうずくまった。
「ちょっと!あんまり傷物にしたら価値が下がっちまうよ!貰える金が少なくなったらどうするの!」
「あぁ?ちっ!めんどくせぇな…でも兄の方はどうせ奴隷だろ?なら関係ないんじゃないか?」
そう言いながら父親…父親だった男は兄の腹を蹴って身体を転がした。
血の混じった吐しゃ物を吐き出しながら兄は妹の側に転がる。
「お、おにいちゃ…」
「に…げ…ろ…」
絞り出すような兄の言葉に妹は首を振る。
「お兄ちゃんを置いていけない!」
「いいから…いけ…」
妹は首を振り続ける。
だがどちらにせよ結果は変わらないのだ。
周りを大人に囲まれて齢10に満たない少女にできることなど一つもない。
ここで兄を見捨てる選択をしたところで逃げられるはずがないのだ。
覆ることの無い運命を悟った幼い兄妹はせめて離れたくはないとお互いの手を伸ばしたのだった。
今年中にシリアスを終わらせて日常回をやりたかったのですが忙しくて無理でした…。
一応お正月と言えない事もない日常話があるのですがさすがにこの流れの中投稿は出来ないので時期ズレてるじゃないか!となる前にはそこまでたどり着きたい気持ちです。




