名無しの少女4
年末のあれこれで明日もお休みです。
次回は火曜には投稿したい気持ちです。
ふと温かさを感じて目を開く。
だけど視界は開けていなくて、目の前には白くて柔らかい何かが広がっていた。
まだわずかに微睡んでいる中、その柔らかなものに頭を押し付けると面白いようにそれは形を変えながら沈んで行き、それがとても気持ちがよかった。
そして冷静になってハッキリとしてきた頭でそれがユキノさんの胸だと理解した。
どうやらあの後で私たちは抱きしめ合ったまま眠ってしまったようで…私は剥き出しのユキノさんの胸を枕にしていた。
「柔らかくて暖かくて気持ちがいい…」
顔に伝わるその感触がなんとなく気に入ってしまって何度も何度も頭を、頬を押し付けてみる。
ふにふにでぽかぽかだ。
「あの、えっと…ナナちゃん…さすがに少し恥ずかしいというか…」
「あっ」
頭の上から戸惑ったような声が聞こえてきて、目線をあげるとやはり困ったような顔をしたユキノさんと目が合ってしまった。
どうやら起きていたみたいで…とても恥ずかしかった。
「…」
「…」
お互いに目を反らしてなんとなく気まずさを感じながら無言になる。
それでも私たちはお互いを抱きしめたこの状態を解くことはなかった。
ユキノさんがどう思っているかは分からないけれど、私はこのぬくもりを手放してしまいたくなかったから。
そのまま数分が経ち、先に口を開いたのはユキノさんだった。
「…身体…洗おうか」
「あ…そうですね」
気にしていなかったけれど私たちの状態はそれはそれはひどく…流れた血や涙が身体中に付着し、時間が経ったことでパリパリのべとべとになってしまっている。
私はそれほど気にはしないけれど、ユキノさんにしたら不快もいいところなのかもしれない。
まぁそういう私も汚れているよりは綺麗な方がいいのは当然なので体を洗うことに賛成です。
「あっでもお湯を炊いてないです…」
そうか…こういうことがあるかもしれないからユキノさんがいないときは私がお風呂の用意をしておけばよかったんだ…。
あらためて自分が何もやっていない事実に肩を落とす。
「…たぶん大丈夫だよ」
「え?」
「きて」
ユキノさんに手を引かれてお風呂場にやってくる。
家にお風呂があるというのは少し前までは考えられなかったけれど、最近になって普及して来たらしいです。
お水を汲んできて、専用の魔道具で温める…ちなみにこれも私は使い方すら知りません。
そんなにすぐにお湯になるものなのだろうか?
いや、そんな事よりこの機会に私もお風呂の湧かせ方くらい覚えておこう…そう思ってじっと見守っているのだけどユキノさんは備え付けてある魔道具には触れようともしない。
「ユキノさん?」
「…」
ユキノさんは静かにお湯を貯める桶に右手をかざした。
何をやっているんだろう?と思ったその瞬間、一瞬だけユキノさんの右腕が異形の腕に変化し、それと同時に桶の底から水が湧いて出た。
「え!?」
「…」
さらに再びユキノさんの腕が一瞬だけ変化すると、今度は水だったはずのそれがボコボコと泡を立てたかと思うと暖かな湯気が立ちのぼる。
一瞬で水が湧いて…一瞬でお湯になった。
これも私が知らないだけで普通に起こりうることなのでしょうか…?普通ってすごい。
「っは!…はぁ~…一瞬だけならスノーホワイト使っても割と正気でいられるね…うん、今までやったことなかったけれどいい事発見したよ」
「えっと…?」
「とりあえず…入ろうか。先にいいよ」
「あ、お先にどうぞ…私はそこまで気にはならないので」
お互いに見つめ合い再び無言になる。
私は何というか…ユキノさんより先にお風呂に入るのは気まずい。
でもそれは何故かユキノさんも同じようで沈黙が続き、やがて…。
「…一緒にはいろうか」
「…はい」
───────
身体に張り付いた血や汚れを洗い流し、二人で入るにはやや手狭な浴槽に向かい合うようにつかる。
意図せず喉の奥からため息がこぼれて、それと一緒に疲れとかモヤモヤしたものとかも湯に溶けていくようだ。
…ただ私はもう癖になっているので無意識でいつものように膝を抱えるような体勢で座っていけれど、そうするとユキノさんは私の足が邪魔で自らの足を閉じることが出来ず…なんというか目のやり場に困るような姿勢になってしまっています。
人の裸なんて興味も無いはずなのですが…何故か不思議とドキドキしてしまう。
お風呂の熱のせいでしょうか。
「…」
「…」
ぽちゃん…と水滴が落ちる音がやけに大きく感じる。
この特殊な状況にも数分もすれば慣れてきて、そうなると私の興味は別のところに移った。
「あの…ナナちゃん」
「はい」
「その…そんなにえっと…私の胸ばかり見てどうかしたの…?」
「いえ、ちょっと興味深いなと」
私の胸はお世辞にも大きいとは言えない。
大中小で表すのなら小の中だ。
それに比べてユキノさんのそれは中々に大きく、大の小くらいはあるように見える。
そしてそれがぷかぷかと湯船に浮いているのだ。
とても不思議で興味深いです。
先ほどの頬で感じた柔らかさが思い起こされる。
あんなにただただ柔らかい摩訶不思議な物体が、これまた摩訶不思議に湯に浮かんでいる。
不思議としか言いようがない。
「あのユキノさん」
「な、なにかな」
「ちょっと触ってみてもいいですか?」
「…胸を?」
「胸をです」
「…いいけど」
許しが出たのでこれ幸いとばかりに手を伸ばしてその二つの実りを掴む。
凄い…私の片手では掴みきれません…!
そして頬で感じるよりもはるかにその柔らかさ、重量、存在感を感じることが出来る。
お湯につかっているからなのか熱を帯びていて触っているだけでポカポカとしてくる。
「お、驚くほど遠慮がないね…」
「だめでしたか?」
「ううん、いいけどさ」
「ではさらに失礼して」
それからはひたすらユキノさんの胸を揉み続けた。
揉みに揉み続け、ユキノさんがのぼせてきたから…と止められるまでただただ揉み続けた。
胸って凄い。
私はさらに一つ物事を理解できたのでした。
────────
お風呂から上がって着替えを済ませ、ユキノさんが急いで用意してくれた軽食で小腹を満たす。
そこで数日家にいなかったことを謝罪され、ご飯は食べてた?と聞かれたので少しだけどう答えるべきか悩んで…結局素直に伝えることにした。
ユキノさんは泣きそうになりながら「ごめん」と謝ってくれて、その姿に少し罪悪感を覚えたけれど…もしかすればこれからは早く帰ってきてくれるかもしれないと思うと少しだけ…変な気持ちになった。
そして色々あったけれど、まだまだ闇が支配する深夜です。
詳しい話や掃除は明日にして疲れを取るためにちゃんと寝ようという話になりました。
「ねえナナちゃん」
「なんでしょうか」
「その…ちゃんとベッドで寝るようにしない?いつも端っこの方で丸まってるだけだからさ気になってて…」
「…」
私がベッドを使わないのはちゃんと理由がある。
ここに来る前にいた場所…そこで私は身体を切り刻まれるときはいつだって身体を固いベッドに縛り付けられていた。
だから平らな台の上で横になるという事自体が好きではないのです。
でもユキノさんは私を心配していってくれているわけで…ここで断って嫌われたくない。
どうすれば…。
そこで私の目にあるものが飛び込んできた。
そうだ…これならいけるかもしれない。
「あのユキノさん…一つお願いしてもいいですか?」
「え?う、うんいいよ」
「じゃあ…私と…一緒に寝てくれませんか?」
「え…一緒に?」
「はい…そうしてくれるのなら…ベッドでも眠れそうな気がしますから」
「…わかった、いいよ」
少し考えた後、ユキノさんは優しく微笑みながら了承してくれた。
そうして私とユキノさんは同じベッドの上で一枚のシーツを共有し横たわる。
やっぱり少しだけ怖い…だから思い切ってユキノさんの身体にしがみつく。
そしてその胸に顔を埋めた。
そうこれだ、この感触。
柔らかくて暖かい…そしてトクン…トクン…となにか鼓動のようなものも聞こえる。
「ナナちゃん…?」
「こうしていると…安心できるんです…どうかこのままでいてくれませんか」
包み込まれるような安心感。
それが私の中の恐怖を薄めてくれる。
これなら…眠れそうです。
「うん、おやすみ…ナナちゃん」
「はい…おやすみなさい、ユキノさん」
胸に甘える私をあやすようにユキノさんの手が私の頭を優しく撫でる。
そしてそのまま私の意識はまどろみに落ちていくのでした。




