殺意の衝突
夜の闇の中に爪と剣がぶつかる火花が閃光の様に飛び散る。
不思議な大剣はアトラさんが軽々と振るっているものだから実は軽いのかもしれないと思ったけれどスノーホワイトを通じて感じる衝撃は見た目相応…いや、それ以上に重く感じる。
それでいて腕を振るっている私とほぼ同じスピードで振るっているのだから恐ろしい筋力だ。
顔も喋り方もふわふわのんびりと言った印象なのに、中身は魔物もびっくりな事になっていてギャップが凄い。
「うふふふふ!いいですねぇ~ユキノさぁん。私とこの剣相手に正面から打ち合える相手なんてなかなかいないからとっても新鮮で楽しぃですぅ~」
「それはどうも、だけど楽しいなんて言ってないでほどほどにしておかないと…私はあなたを殺しちゃうよ!」
「出来るものならどうぞぉ~そっちの方が楽しいですからぁ~」
「あはっ!言ったなぁ~!」
タイミングを見て振り下ろされた大剣をスノーホワイトで掴む。
どれだけ大きかろうと私のスノーホワイトの手は爪まで合わせると掴んで余りあるほどに大きい。
「おやおやぁ」
「このまま握り砕いてあげるっ!」
「それは困りますねぇ一応実験機なので壊すと大目玉食らってしまいますぅ~…な・の・で」
アトラさんが服の隙間?から何か長方形の箱のようなものを取り出し、大剣の背の部分にガシャン!と差し込む。。
すると片刃が赤く発光しだした…いやそれだけじゃない、刃が異常なほどの熱を持ち出してスノーホワイトでも耐えられない。
「っ!」
慌てて手を離すと、にやりと笑いながらアトラさんが大剣を振りかぶる。
ダメだ、あの一撃を受け止めるのは絶対にまずい。
刃の熱はその温度をさらに上げているらしく、刃がぶれて見えるほどになっていて受ければただでは済まない気しかしない…!
「はぁい、ば~~~~~ん!」
縦に振り下ろされた大剣を身体を横に捻って何とか躱す。
わずかに顔をかすめていかれた瞬間、とんでもない熱さを感じて思わず小さく悲鳴を上げてしまった。
更に地面に激突した刃はまるでバターが溶けたかのようになっていて、草や落ち葉は燃えるどころか瞬時に焼け焦げて炭の様になっていた。
「こわっ。凄い剣だね~」
「えぇ~今初めて使った機能なんですけどぉ~私もびっくりしてますぅ」
「なんじゃそら!」
大剣を振り下ろしている今がチャンスだと、気を取り直してスノーホワイトをアトラさんの顔に向けて繰り出す。
もうこの時すでに私はアトラさんが死んでもいいと…殺してしまおうと思っていた。
「いいですねぇ~とぉ~っても心地のいい殺気ですぅ」
アトラさんは身体を後ろに倒して爪を避けると、そのまま大剣ごとバク転して距離を取った。
本当にどうしてあんな重いものを持ったままそんな動きができるのか不思議でしょうがない。
「なにかカラクリがあるのかな~?明らかに動きがおかしいよね?よね?」
「うふふ~乙女の秘密ですぅ…っと」
突然ぶしゅぅう~!とアトラさんの持つ大剣から煙が出たかと思うと、おそらくさっき差し込んだであろう長方形の箱が飛び出して…何と爆発を起こして粉々になってしまった。
いきなりでびっくりしたけど、なぜかアトラさんも驚いているようで目を丸くしていた。
「何今の」
「え~属性ガジェットは10秒ほどしか使えないのですぅ~。それで使用後は本体の安全のために自動排出されて、その後は技術流出を防ぐために自動で処理される機能が付いているとは聞いていたのですがぁ~まさか爆発するとは思いませんでしたぁ~「クイーン」もちゃんと教えておいてほしいですぅ~試運転するにしてもそこら辺が分かってないと大けがしちゃいますよねぇ~」
意味がほとんど分からなかったけれど、雰囲気的にどうやらアトラさんはあの不思議な大剣の試運転?をしているらしい。
つまり私は実験台にされているんだ。
「ん~?でもさっきその大剣と正面から戦える人はいないみたいなこと言ってなかった?初めて使ってるのそれ?どっち?」
「この剣自体とはそこそこの付き合いなのですぅ~。つい先日さきほどのガジェットの機能を実装されて使う機会がなかったというだけの話ですぅ~。それだけユキノさんが強いってことですので喜んでもらって大丈夫ですよぉ?」
「あはっ!それは光栄だなぁ…じゃあ代わりと言ってはなんだけど私も同じようなものを見せてあげようか?」
「ですぅ?」
貰ったのならお返しを。
目には歯を。
襲ってくるのなら対価に命を落とせ。
「閃光を束ねあなたの命へ届け。【ライトニングヴェイン・ラプンツェル】!」
瞬間、スノーホワイトから血のような赤い液体が溺れ落ち、同時に目を焼くような黄色い閃光が溢れ出す。
あの時スノーホワイトに宿った雷の力が完全に私に溶け込んで新たな形となってここに現れた。
「殺気が強くなりましたねぇ~それにとっても眩しいですぅ。それでどうするつもりですかぁ?」
「こうするんだよ」
私は一歩を踏み出した。
それだけで私の身体はスノーホワイトから漏れ出る雷に運ばれて瞬きをするような速さでアトラさんの元まで肉薄した。
「わぁ!?」
「アトラさんの血は…どれくらい綺麗な赤なのかなぁ!」
私は血の色が好きだ。
人の命が消えるその瞬間…正確には人の命を奪う瞬間とその手ごたえが好きだ。
だけど決して人を痛めつける趣味があるわけじゃない。
だから命を奪う時は特に障害がないのなら二撃だ。
傷つけて血を見てから…次で命を奪う。
今回はでもそうは言ってられないのでまっすぐと心臓を狙う。
「させませんよぉ~私の命なんてなんぼの価値があるかなんて知らないですけどぉ~まだ死にたくないのですぅ~ユキノさんと出会えたのですからぁ!」
アトラさんは無理やり身体を捻ってスノーホワイトと身体の間に大剣を差し込み、私の攻撃を防いだ。
だけど今はそれだけでは私は止められない。
雷はスノーホワイトの全体からずっと放出されている。
例え爪を防いだとしても、飛び散る電撃が私以外の全てを傷つけて焼いていく。
「うふっ!うふふふふふふふふ!最高ですぅユキノさぁん!私の殺意を受けて殺意で返してくれて…しかも一筋縄では壊れない!こんなの初めてですぅ!楽しい!私は今この瞬間が人生で一番楽しいですぅ!もっともっと私と遊んでくださいなぁ~!」
「あはっ!何を言ってるのか全然わかんない!私は早く死んでほしいなぁ!」
「そんな殺生なこと言わずにもっと楽しみましょぉ~?」
再びアトラさんが服の隙間から長方形の箱を取り出し大剣の背に差し込む。
また熱?でも今スノーホワイトを受け止めているのは大剣の腹の部分だ。
刃に熱が灯っても何の関係もない。
「今度は「ブレイズ」じゃなくて「フリーズ」の実験ですぅ!」
大剣の刃が白く光ってキィィィィン…と静かな耳鳴りのような音を発しだす。
すると大剣が刺さっている地面が霜が振ったようになり凍ってしまい、さらにスノーホワイトまで浸食してくる。
爪が、指が凍って動きが鈍くなる。
先ほどから思っていたのだけどスノーホワイトは魔法を切り裂く力がある…それなのにさっきから熱も冷気も通っているのはどういう理屈なのだろうか。
分からないけれど、今はそんな場合ではなく…たまらずスノーホワイトを引き戻し大剣ごとアトラさんを殴り飛ばした。
「うっ!」
うまく空中で体勢を立て直して着地したアトラさんだけど、その口の端から血がつーっとこぼれている。
そしてさっきと同じように大剣から勢いよく煙と共に箱が飛び出して爆発した。
「…おかしいですねぇ。ブレイズはともかくフリーズは人が触れれば瞬時に凍り付いて砕けると聞いていたのですがぁ~微妙に効きが悪い感じですかぁ?それとも故障?サンプルが少なすぎて判断できないですねぇ~」
どうやら私に対して満足いく効果が出ていないらしい。
という事はやっぱりスノーホワイトが魔法を消している?でもこっちも全くのノーダメージというわけではないのでやはりよく分からない。
「まぁ今はいいですぅ。もっともぉ~っと私と遊んでくださぁい…あら?」
アトラさんが持ち上げた大剣から妙な音がした。
それを確認したアトラさんが首をひねりながら大剣を叩いたり振ってみたりしているけど何をしているのだろうか。
「どうしたの」
「ん~?何か様子がぁ~…あ!そういえばブレイズの後に間を開けずフリーズを使うと不具合が起こる可能性があるからダメってクイーンに言われてた気がしますねぇ~。これはさすがに欠陥ですぅ~…む~こんな状態じゃあ殺し合いを楽しめません~」
なんだかわからないけれどどうやら大剣がうまく使えなくなってしまったようだ。
それはいい。
もうあのへんてこな力に邪魔されなくて済むのだから。
「あはっ!じゃあもういいかな?いいよね!」
「うーん…よくないと言ったら見逃してくれますかぁ?ユキノさんももっと万全の私と遊びたくないですぅ?」
「なぁあい!私は殺し合いなんて好きじゃなくて…殺すのが好きなのー!!あはははははははははははははははは!!!」
「ひぇ~驚くほどにサイコですぅ。でもそんなところも素敵ですねぇ~うふふふふふふふふ!」
闇夜の殺し合いはまだ終わらない。
イチャイチャが書きたい(発作)。




