私の覚悟3
次回は火曜日までのどこかで投稿します!
私の右腕…そこに宿った力。
自分の身体のことだから実感としてわかる…まだそこにはあの異形の力が残っていた。
力の源だったスノーホワイトは消えてしまったけれど…私が「器」の中に受け入れていた分の力は残ってしまったらしい。
そしてもう一つ…最近は穏やかだった私の心の中にざわざわと波打つものも感じる。
ずっと…最近は手放してしまっていたけれど、長年付き合ってきた衝動を。
「これから先、それと付き合っていくのは少し大変でしょう?いろいろと解決してもらったし、私もユキノちゃんのそれを解決してあげたいなって」
確かに…それが可能ならそうしてもらったほうがいいのかもしれない。
実際出来るのだろうし…一番平和に終われる提案だと思う。
でも…それでも私の答えは。
「…せっかくですけどお断りさせてください」
「うーん…一応理由を聞いてもいいかな」
「それが私の覚悟ですから。スノーホワイトも…そして狼の力も全部全部…私が抱えていくべきだって思うんです…終わった物語かもしれないけれど、だからって忘れたくはないですから」
「そっかぁ」
「それにやっぱりどれだけ嫌でも…苦しくても私の物ですから。ずっと…私と一緒にあった大切な私の一部です。だから最後まで付き合っていきたいんです。これを含めて私ですから」
右腕に残ったスノーホワイトの中に冷たい氷の力も感じる。
それはつまり私の中にあの衝動が…人を殺したいという衝動が戻ってきているという事だ。
いつも捨ててしまいたいって思っていたそれだけど、今は不思議とそうじゃない。
色々あったけれど、この力があったからこそ…私はたくさんのつながりを得て、ナナちゃんとも出逢えたのだから。
いまさら用済みだからって手放したりはしたくない。
それに…もう去ってしまった誰も知らない物語の中の人たちが確かに存在していて、怒って悲しんで泣いて…そして笑って生きていた証でもあるから。
「…綺麗事を言うのは簡単だけどね、本当に大丈夫?覚悟はある?それが残ってるとどれだけ生き辛いかっていうのはあなたが一番よく知っているでしょう?現実をちゃんと見てる?感情だけじゃ、想いだけじゃ人は生きていけないんだよ?」
「生きて見せます。どれだけ不合理だって言われても…でも手放せないものですから。想いや感情だけで生きてはいけないとしても…現実だけ見ててもやっぱり生きていけないと思いますから」
リリさんは顔に浮かんでいた笑みをさらに深くしてパチパチと嬉しそうに手を叩いた。
「うん、いい答えだね。はなまるあげちゃう。いやぁ…意地悪したくなっちゃって想ってもないこと言っちゃったよ!…あのねユキノちゃん。覚えておいてね?この世界で一番大切なのは…愛。人は愛のためならなんだってできるし、なんだってしなくちゃいけないし、何をしたって許されるの。その結果何がどうなったっていいんだよ。最後に大切な愛がたった一つ残っていれば…どんな状態にあったって幸せなんだから」
「そうかもしれませんね」
私はきっとそこまで割り切ることはできないだろうけど…でも今だけは…大切な人のことを想えばなんだってできるような、そんな気がした。
「でもそれで大変なことになっちゃったらどうしようね?氷の力は一部だけだけど残っちゃってるし…変に暴発されても困っちゃうなぁ」
「それじゃあその時になったら助けてください。今回のお礼はそのときにいただくという事で」
「…なんかずるくない?」
「ダメですかね」
「ダメというか難しいんだよね~あとめんどくさい。ほら時間のずれとか、私があんまり手を出しすぎたらそれはそれでめんどくさいことになるとか…でもそれはその時に考えればいいかぁ~。うん、引き受けるよ。ユキノちゃんがその力を抱え込めなくなったらこっちで改めて回収する。どっちにしろユキノちゃんが寿命だとかで死んじゃったら回収はするつもりだったしね。氷の力自体がほんとに一部しか残ってないみたいだし何とかなるでしょ」
「お願いします」
ぺこりと一度頭を下げる。
これで本当にもう不安は全部なくなった…あとはもう一度だけ勇気を振り絞るだけだ。
「ユキノちゃん。改めてありがとうね。大丈夫…こんだけ頑張ったんだもん。きっとうまい方向に転がるよ。頑張った人は報われてほしいなんて夢物語かもしれないけれどさ、それでも人は生きていればいい事の一つや二つ起こるんだよ。これは実体験だから信用していいよ。世界って言うのは宝石みたいにキラキラとはしてないかもしれないけれど、でもさ泥団子を丸めて誰かと綺麗だねって笑いあえるくらいには楽しいはずだからさ」
そう言って手を振るリリさんの姿を最後に意識が遠くなっていく。
これできっと…長く続いてしまった夢は本当におしまい。
氷の眠り姫が見た…寒くて悲しい夢は終わったんだ。
そして…目が覚めた先でまた新しい物語が始まる。
「ユキノさん…」
目が覚めると仰向けに倒れこんでいた私の顔をナナちゃんが覗き込んでいた。
手を伸ばしてその頬に触れると柔らかいぬくもりが伝わってきて…この子を殺したいってそう思った。
でも同時に…ずっと一緒に歩んでいきたいとも。
まだどうやってこの感情に折り合いをつけていけばいいかなんてわかってない。
すべてはここから…夢から覚めたばかりのここから本当の私の人生が始まるんだ。
だからまずは最初の第一歩…ここで崩れちゃったら始まったばかりの物語はすぐに終わっちゃうけれど…でも踏み出さなければいけない最初の1ページ。
「ナナちゃん…大好き」
この一言のために300話かかりました。長かったですね!
残りおそらくあと数話ほどですが最後までお付き合いいただけると幸いです!




