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悪のありか

次回は明日か明後日に投稿します!

 冷風に煽られた深紅のマフラーが雪を受け流しながら翻る。

それはまさに正義の証であり、エンカにとっての正義であることの象徴だ。

エンカの私服はすべて黒一色であるが、マフラーだけは血のように深く、燃え上がるように鮮やかな赤なのだ。


「ふざけた格好にふざけた言動…何もかも意味が分からぬが一つだけ理解できたぞ。いまお前はこのワタシ様を「悪」だと言ったのか?」

「ああそうだ。お前は僕が倒すべき悪だと…風が教えてくれている。この僕に正義を成せと闇が囁いている」


「ふざけたことを。よいか?貴様ら下民がなぜか理解できない心理というものをこのワタシ様がありがたくも口にして教えよう。感謝にむせび泣きながら聞くのだ。この無数に存在する世界においてワタシ様こそが正しいのだ。他の何でも、他の誰でもなく…ただ一人の唯一であるワタシ様だけが正義なのだ。故に悪とはこの偉大なるワタシ様に愚かしくも刃を向ける貴様たちのことを言うのだ」


狼が氷の上からエンカに指を突きつけて不敵に笑った。


「ふっ…語るに落ちたな。自らを正義と名乗るものは正義足りえない。なぜならば正義とは行動に対して後からついてくる評価であり、同時に正義に敵対するからと言って悪とは呼べはしない。なぜならば正義に相対するのはいつだって別の正義だからだ」

「…いや、自らを正義と名乗ったのも、ワタシ様を指さして悪と言ったのもお前が先なのだ」


「僕は自称などではない。闇より使命を授かり、そして遂行する…僕こそが正義であり、正義こそが僕だ」

「なるほどわかったぞ」


狼はくるりと振り返って氷に包囲されて身動きの取れなくなっている皇帝に目を向ける。


「さては力ではワタシ様に勝てないと精神攻撃用の仲間を連れてきたのだな?ワッハッハッハ!地を這うしかできぬ木端は大変だなぁ。寛大にも下々の物と会話をしてやれるワタシ様のやさしさに付けこむしかできぬとは…同情すら感じるのだ」

「いや…さすがにそう思われるのは心外が過ぎるんだが…つかこのガキ!何をしに来やがった!遊びじゃねぇんだ帰れ!」


皇帝は狼と氷柱を挟んでいるために姿は見えないエンカを怒鳴りつけたがそれに対してエンカは何の反応も示さず、その目は狼にじっと向けられている。


「む…精神攻撃ではない?むむ?…まぁなんでもいいのだ。どちらにせよ殺すには変わりなし。この世界の命はすべて喰らうのだ。それが遅いか早いかの違いだけ…何も変わらぬのだ」

「悪に僕を倒すことは叶わない」


「言うではないか。ならばその言葉が妄言か大言か…見せてもらうではないか」


パンっと狼が手を鳴らし…地面が爆ぜて氷柱がエンカに向かって襲い掛かる。


「っ!おいエンカ!そいつに絶対に刺されるんじゃねぇ!一瞬で氷漬けにされるぞ!」

「無駄なのだ。貴様も身をもって体験しただろう?ワタシ様の「牙」から逃れられるものなどおらぬ」


もはや狼はエンカに目もくれず、背を向けて皇帝のほうを見下ろしながら会話を続ける。

狼にとって神に連なる力すら持たないエンカなど片手間すらかける価値もない相手なのだから。


「…何回言わせるんだよ。そう言うのが油断だって言うんだよ」

「そちらも一度で理解するのだ。これは余裕というのだ」


「…じゃあちょっとでいいから後ろ見てみな」

「む?」


まるで見た目通りの無邪気な子供のように狼は後ろを振り向き…今まさに狼が足場にしている氷柱に上ってきていたエンカと目が合った。


「は…?」

「エンカ!そのままそいつを突き落とせ!投げてもいい!」

「…」


狼が呆気に取られていたその隙にエンカは狼の服を掴んで氷柱の上から投げ飛ばす。

すると今まで狼が立っていた足場や、皇帝を取り囲んでいた氷柱がわずかに崩れだしていく。


「よくやった、なんでここに来たのかは後で話を聞かせてもらうが…今はいい仕事だったぞ」


地面に光の刃を突き刺し、それを足掛かりにして皇帝は飛び上がり…周囲の氷柱を利用して空中に投げ出された狼に肉薄する。


「なぜ…あいつからは特別な力を何も感じなかった…なのになぜワタシ様の「牙」を…」

「ああそうだ、あのガキは正真正銘普通の人間…血筋的には変なのが混じっちゃいるが、人間と言ってもそこまで問題はない。だが、なんか知らんが昔から妙に身体能力が高くてな、勘もいいから戦闘センスという点では我に迫る勢いだ。それを舐めたお前の落ち度だ」


皇帝がさらに作り出した光の刃を振るい…それを狼が手で受け止める。

その腕は氷に覆われ、鋭く美しい獣の腕のような形をとっていた。


「なるほど、こちらの世界の木端どもは思ったよりはやるようだ。だがそれではまだワタシ様には届かぬぞ?」

「はっ!なら意地でも届かせて見せようじゃねぇかよ!」


閃光と氷が一般人では目に追いえないほどの速さでぶつかり合い、雪の降る曇り空の中で流れ星のように瞬く。

狼は近接戦闘において皇帝の想像以上に手強かった。

その見た目からは想像もつかない高いレベルで皇帝と戦いの演武を繰り広げている。

その身のこなしは皇帝をして「身体の使い方を理解している」戦い方だと思わせるもので…しかし、それでも途方もない時間を積み上げてきた皇帝には及ばない。

拮抗しているように見えた戦いも、すぐに皇帝有利に傾いていき…皇帝の刃が氷を砕いた。


「ちっ…!」

「今度こそ、もらったぞ狼」


一太刀必殺の剣閃が狼の胴体を切り裂いた。

その身体から吹き出した血は返り血として皇帝の顔にも降りかかり…その血は冷水のように冷たかった。

エンカくんが妙に強いのには実はちゃんと理由があります。

犯人はとにかく何かをやらかすことに定評のあるあのラスボス系人形さんです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 嗚呼…おつむもちょっとぐらい強化してくれればこんなことには… 循環論法vs循環論法の地獄絵図だよ!
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