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姫の暴論7

次回は月曜日までのどこかで投稿します!

「おいおい…何を言い出してんだ小リス。そいつはやめとけ。どう考えても頭のどっかがプッツンしてるタイプだ。面倒にしかならん」


私がアトラに差し出した手をにーねー様が掴み上げた。

確かににーねー様の言う通り、彼女を連れ帰ったとして面倒になることはきっと多いだろうし、おそらく私を心配してくれているのだろう。

でも私には彼女が必要なのだと直感がそう告げてきている。

まだ形にもなっていない…私がやるべきことにきっと必要な人材なのだと。


「それでも余は彼女が欲しい。必要なんだ」

「どう見ても頭がおかしい奴だぞ」


頭がおかしい…結構じゃないか。

私からすればこの世界は何もかもが違っていて…言ってしまえば何もかもがおかしな世界だ。

それならばきっと…おかしい人こそまともという事もあるのではないだろうか?

…さすがにこれは厳しい理論だったかもしれないけれど、だけどきっと間違っていない。

私は…この状況でほかならぬ私が感じた直感を大切にしたい。


「私が欲しいのなんの、って、プロポーズ?子供に興味はないないのーなっしんぐーなんだけど~?」

「そんなものではないよ。いや…スカウトもある意味でプロポーズに近いのかもしれないけれどね。ただ先ほどキミから持ち掛けられた話…雇ってほしいという話を受けようと言っているんだ」


「んー…でもあなた、人さらいじゃないみたい。悪い人じゃないぽいし、私が必要なこと、ある?私が売り込むことなんて「これ」しかないよ?」


アトラが今しがた馬車の中から手に入れた白い刀を振って風を切り…私にその切っ先を向けてくる。

子供の身体には大きく、そして相応に重たいはずだが彼女はそれを難なく、そしてさまになるように片手で振って見せている。

どれだけ体を鍛えても模造剣すら持つことのできなかった私にはできない芸当だ。


「…それ以外は何もできないと言うのかい?」

「お前はどうか、しらない、けれど私はこう生まれた以上は、こうでしか生きられないし生きるつもりもないないナイトメアーなんで」


「…そう、ならますますキミは余とくるべきだ。後悔はさせない…誓うことは難しいかもしれないけれど最大限の努力はして見せる」


そう生まれたからには…そうとしか生きられない。

私はかつて病人として生まれて、病人として死んだ。

なら今は?帝国の姫として生まれた今…私はその名に恥じないように生きようとしていた。

だが…それは誰に強制されたことでもない。

そう生まれて、そう生きようと思ったから。


「だから余と一緒に来てくれ。キミのその力が…存分に発揮できる場所を提供できると思うから」

「小リス。もしもだがあいつを見て憐れみだとか、同情だとかそう言うのを感じていて言ってるんならやめとけよ。この世の中あんなのはいっぱいいる…いや、あんなのはそこまでいないかもしれんが、似たような境遇なんて掃いて捨てるほどいるんだ。そいつら全部に声をかけていくつもりなのか?」


にーねー様の言う通り、これが同情ならば…目につく人すべてに手を差し伸べなければ不公平だ。

どん底にいる人間を気まぐれに引き上げることができるだけの力を持つからこそ…その力を奮うには相応の責任が求められる。

でも今回はそんなものではなく、純粋な「打算」だ。

彼女の力は確実に私にとって必要だから…なによりこの気持ちが上から目線の哀れみだとしても…。


「それでもあの母のもとで生まれたからには皆を救う努力はしなければと思うよ。そして彼女は…そのための足掛かりだ。一緒に来てくれるかい?アトラくん」

「まぁー戦ったり殺したりしていいのならー」


「うん…でもしばらくはダメだよ。大人しくしていてほしい」

「うー?」


「まずは生活基盤というものを組み立てないとね」

「はぁ…俺様はどうなっても知らんぞ」


そうしてアトラを引き連れ私たちは帝国に戻った。

後ほどにーねー様から騎士たちに連絡してもらい、それとなく時捕らわれていた子供たちを救出してもらったけれど…残念ながらいい結果にはならなかったらしい。

もう少しだけ…早くあの現場に立ち会えていたらと意味もない「もしも」を考えてしまうけれど…アトラを拾った以上は過去を悔やむのではなく未来に目を向けなければいけない。

すでに私は行動を起こしたのだから。

時間はいつだって進む…人生に後戻りという選択肢はないのだから。


「それで今度はこんなところか…いい加減俺様を便利に使いすぎじゃねぇか?小リスさんよぉ」


アトラを拾って数か月。

住まいとお金を用意してまずは生活を安定させてほしいと頼んだところアトラは意外と大人しくしてくれていたので、私は本来の目的通りにリフィルが訪れた別の場所にまた足を運んでいた。

当然にーねー様の力を借りて。


「ごめんね。でもにーねー様に頼むしかないからさ。頼れるのはあなただけなんだ」

「別のことで頼られたかったぜ全くよぉ…にしてもここも散々だな」


今回訪れたのは…いわゆるスラム街といった場所だった。

アトラを拾った場所に比べれば渦巻く死の香りは薄いが…しかし空気が腐っているような、生々しい淀みがとても色濃い。

空は晴れているはずなのに…曇り空の中を歩いているような暗さがあった。

そんな中を前だけ見て進んでいく。

少しでも脇に目を反らせば…そこにいるものが目に入ってしまうから。


「いいか、絶対に目を合わせるなよ。死体を見ても近寄るな」

「…うん」


道端に座り込むやせ細った子供たちに、ぎらついた視線を向けてきている者たち…つい反射的に上から目線でなにかせめて食べ物を…と思ってしまうがこの場所でそんなことをすれば悲劇しか起こらない。

子供に食べ物を渡せば…きっとそれを力の強いものが子供殺してでも奪い取る。

大量のそれを用意したとして結果は変わらないだろう。

そもそも甘えを見せれば食い物にされるのはこちらだ…今この瞬間でここにいるものすべてを救えるのなら、解決するのだろうけど私にはその力はない。

だから…何も見ないふりして進むしかない。

それに…やはり私の身体は情けないことにこの環境に耐えてはくれない。

吐き気と頭痛が今この瞬間も襲い掛かってきている。

それでも…何もできないとしても私は進まないといけないのだ。

この先に…なにか答えがある気がしたから。

そうしてたどり着いたのは…つい最近崩壊したと思われる真新しさを感じさせる大きな建物だった。

どうやら孤児院…だったらしい。

床に散らばった木材や屋根の板…それらが積み重なった場所で乾いた血だまりのような痕が不自然に存在していた。


「まさか…」

「ああ、下敷きなってそのまんまなんだろうな」


これも邪神がもたらした滅びの一種なのだろうか。

この孤児院にリフィルが訪れたらしいと、リコリスが言っていたのでおそらくはそうなのだろう。


「…」


明確な死という現象を目の当たりにして、いつのまにか別の思考ができるようになっている自分に驚いた。

麻痺しているのかもしれない。

人間慣れてはいけないことでも気が付けば慣れてしまっているものなのだなと思った。

そしてその時だった。

物陰からギシッと床板が軋むような音が聞こえたかと思うと、その音は人が駆ける音に変わり…私に近づいてきた。


「っ!」

「大丈夫だ、動くな小リス」


その言葉通りその足音の主は私に近づく前ににーねー様によって組み伏せられていた。

そしてそれは…鋭い目つきの少女だった。

今回もリコリスを置いてきているので噛み痕が残るくらい後ほど噛まれます。

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[一言] パートナーが自分を置いていった上に にーねー様をして「あんなのはそこまでいない」と言わしめるヤバい女まで拾って帰ってこられたリコさんの心境や如何に…
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