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姫の暴論3

次回も明日か明後日に投稿します!

「おかーさんがくるってー」


ある日突然何の脈絡もなく、リコリスが人の指を齧りながらそんなことを言ってきた。

本当にいきなりだったので言葉の意味が頭に届いて認識するのに時間がかかってしまい、しばしフリーズしてしまう。


「…おかあさん?」

「そうー、マミー」


「マミー…」

「ままー」


何度も言い直されて結局何と呼んでいるのかさっぱりわからないけれど、別に意味が分からなかったわけじゃなくて突然すぎただけだだよと言いたかったけれど、そこを突っ込んでもおそらく意味はないと口にはしない。

しかし当然のことではあるのだけど、私はリコリスに母親という存在がいることに少しだけ驚いてしまった。

いつもここにいたし、初対面の時も保護者のような人は近くにいなかった。

いや先日自分の母親からリコリスは友達の娘という話は聞いていたので理解はしていたはずなのだけど…なんだか妙に現実感がなかったというか話の中だけで現実と認識していなかった。

でもその人がやってくると聞いて一気に話が現実を帯びたのだ。


「…いつ?」

「いまから」


「え!?いまから!?」

「うんー」


「突然すぎるよ!おもてなしの準備とかなにもできてないし、そもそも来てもらってどうすればいいの!?何しに来るの!?」

「さー?」


可愛らしく頭をこてんと倒して再び人の指を齧りだすリコリス。

いやいや「さー?」じゃあないよ「さー?」じゃ!リコリスが母親に伝えているのかわからないけれど、長い間勝手に住み着かれているとはいえ、娘さんを預かっているのだしなにか説明しないとだよね!?でも今からくるって何の準備もする暇もないし…。


「そうだ母上に話をしてみよう」


友達らしいし、それに母上は天下の皇帝の妻…こういう時の対処法も心得ているはずだよね。

普段ならすぐ思いつきそうなことを名案だとばかりに思い付いてしまったことから自分がどれだけ混乱しているのかがよくわかる。

私は指に噛みついているリコリスを引きずりながら、部屋の扉を開けて飛び出そうとした。

飛び出そうとして、慌てて止まる。

なぜ止まったのか?それは扉を開いたその先…すぐ目の前に人がいたからだ。

それは同性ながら息をのむほどきれいな女性だった。

地面につきそうなほど長く伸ばされた青みの混じった深く暗い黒髪に、作り物のような完璧な美しさ、バランスでパーツが配置された顔。

あまりにも…人離れしている容姿の女性だったが、それよりも気になったことがあった。

その女性は…黒く彩られた着物を…和服を着ていたのだ。

前世で自分が着ることはなかったが、存在は当然知っていた。

きれいだなと…一度は着てみたい、成人するまで生きられれば…着ることができるだろうか?と秘かに夢見ていた着物。

正確になんという名称がついているのかはわからないけれど、それでも明確に和服だとわかる服。

まさかこの世界で目にすることができるとは思わなかった。

そして…それを認識すると同時に頭に痛みがはしった。

なんだろう…なにかを忘れているような…?


「こんにちは」


女性はニコニコとした表情で私を見つめながら挨拶を口にした。

ズキッとまた頭が痛む。

同じ光景を…前に見たことがある…?いや…経験したことがある…?

そんなデジャブを感じながらも帝国の姫としてどんな時でも最低限の礼儀は守らねばならないとこちらも挨拶を口にする。


「こ、こんにちは…」


その時だった。

一瞬だけいままでのよりも強く頭痛がしたかと思うと私の頭の中で蓋が開いたかのように記憶が流れ出してきた。

そうだ…この女性を私は知っている。

この人は…私をこの世界に連れてきた神様だ。


「やっほー久しぶりだね。元気だった?」

「あ…」


なんでこの人がここに…そんな疑問は私の隣にいる少女によって晴らされる。


「おかんー」

「リコリスも久しぶり。元気?」


そう…この人がリコリスの母親だったのだ。


──────────


そこからはとにかく大変だった。

しかし辛いという大変ではなく、面白いという大変だ。

リコリスの母親…リリという名の天上の神様の話はそのすべてが面白かった。

ただ時折明らかに価値観が違うというか何か一つ…踏み外せばすべてをひっくり返される。

そんな怖さを感じさせる人ではあった。

実際後ほど母親にこれからもリリさんと関わるのであれば決して地雷を踏みぬいてはならないと耳に胼胝ができるほど言い聞かされた。

ただそれを補って余るほど私は天上の神が語る冒険譚に心を奪われたのだ。

私もこの人みたいに…なにかを成し遂げることのできる人になりたい。

そう強く思いを新たにしたほどに。

今が何もできない…気を使われるだけの存在であることを歯がゆく思うからこそ、絶対にやって見せるのだと。

それからしばらくして夜も遅くなり、母とリリさんは話が盛り上がっているようで、友達同士ゆっくりとさせてあげようと私はリコを連れて部屋に戻った。


「それにしても、まさかの時の余に会いに来るかもしれない子というのがリコリスだったなんてな~」

「むふん」


こちらに転生してくるときリリさんと会話をした最後の瞬間、確かにそのようなことを言われたはずだった。

すっかりと忘れていたのだけれど、宣言通り人間に転生した私のもとにあの人は自分の娘であるリコリスを送り出したらしい。


「その時に言ってくれればよかったのに」

「だってアリスちゃんすぐしぬとおもったもんー。じっさいしんでたしー」


「…生きてるが?縁起でもないこと言ってはいけないぞ。余はキミの意地悪を回避して見事に生き抜いたのだ。おとなしく負けを認めたまえっ」

「ははーまけましたー。がぷり」


華麗な手際で服の下に潜り込まれて脇腹を噛まれた。

とても痛い。

最近いつかほんとに食べられてしまうのではないかとちょっとだけ不安になってきていているよ私は。

ところで私は思い出した記憶の中で一つ気になることがあった。

それはリリさんはあの時、「下の子」と言っていたことだ。

リコリスも「ねえ達」という言葉を使っていた気がする。

つまりは…。


「もしかしてお姉さんがいる?」

「うん二人いるー。リフィルねぇとあまねぇー」


「やっぱり!…お願いがあるんだけど、どこかで紹介してくれないかな?」


私はこの家族にとてつもない興味を持ち始めていた。

神様の家族たち…そんなすごい人たちに改めて話を聞きたいと。

リコリスはリリさんとは仲がよさそうに見えたし、話を聞く限り姉妹仲も良好なようで、頼めばすぐに紹介してくれるのではないかと思っていた。

だがリコリスは少しだけ「むー…」と悩むような…難しい顔を見せた後、両手を大きくクロスさせて×の字を作って見せた。


「…ダメなの?」

「だめー」


「少しだけ話を聞きたいだけなんだ。迷惑はかけないようにするから」

「うー…んとねー、あまねぇならいいけどーリフィルねぇはダメー。でもあまねぇ呼んだらリフィルねぇも絶対にくっついてきちゃうからーダメー」


「えっと…?」


なんでもリコリスたち三姉妹の中で、どうしても長女には会わせたくなくて次女にならばいいという話なのだが、長女と次女はリコリスをして「ぺたぺたしすぎー」とのことらしく…片方を呼べば間違いなくもう片方もやってくると。

だから紹介はできないと何度頼み込んでも断られてしまった。

当時は肉体年齢に引っ張られていたのか、幼さ来る頑固さが備わっていた私は諦めきれず、リコリスではなくこっそりとリリさんに合わせてくれないかと頼んだ。

するとあっさりと「いいよ?」と承諾されて私はリフィルさんとあまねぇことアマリリスさんに出会い…そしてその後、階段を降りようとして体重をかけた手すりがなぜか破損し…そのまま下まで転び墜ちるという「事故」に見舞われてしまったのだった。

好奇心は姫をも事故らせる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死んでなければ即死だった… いつ如何なる時も挨拶を忘れない良い子です
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