姫の暴論
次回は明日か明後日に投稿します!
異世界への転生を果たし、アリスという名をもらってから5年。
不思議な少女に死を宣告され…意地で最後の力を振り絞ってみたけれど、どうしようもない確実な死を意識した。
絶対に死んでやるもんかと死ぬ気で…いいや、生きる気で抗ってみたけれどどうにもならなくて…すべてが黒か白かもわからない「無」に塗りつぶされていく。
以前一度味わった死という感覚…それを今一度無念の中で味わって…目が覚めた。
それからいつの間にか私に与えられた城にその少女…リコリスが住み着くようになった。
さすがに素性も身元もわからない少女に居つかれるのはどうなのだろうかと思ったけれど…どうにか帰ってもらおうとしてもリコリスは聞いてくれず、追い出しても気が付けばまた入り込んでいた。
少しだけスキンシップが激しい気もするが、ただ何か危害を加えてくるわけでもないし、何より…彼女と一緒にいるととても身体の調子がいいということもあって次第に私はリコリスのことを受け入れるようになっていて…。
「がうっ」
「いたっ…噛まないでっていつも言ってるだろー」
ふいに指を嚙まれても軽く注意をするだけで特に気にも留めなくなってしまっていた。
リコリスは噛みつくのが好きなようで、何も言わないと際限なくどこかしらに噛みついてくる。
一応は甘嚙みなのでそこまで痛くはないのだけど…たまに本気でやってくるときもあるので痛くないときでも痛いと言ってボーダーラインを探らせないようにしている。
「かむっていっつもいってるもんー」
「えぇ…」
そんな感じで言ってもやめてくれないのでこれも最近諦め気味になってきているし、一度首筋に噛みつかれたときはさすがにびっくりして叫んでしまった。
完全な急所…本気で噛まれたら死んでしまうような場所はさすがに恐怖が勝るので、そこを噛まれるくらいなら腕や指くらいはいいか…と許してしまっているのはリコリスの作戦勝ちということになってしまっているのかもしれない。
そうして妥協していると今度は夜に寝室に入ってくるようになり…その次はお風呂。
最初は週に一度、たまに二度…気が付けば常に三度で何かがおかしいな?と思った時には毎日に。
じわじわと、しかし確実に日常が侵食されていき…何をするにでも常に視界にリコリスがいるようになった。
しかしすでにそれをそこまで不快だとは思わなくなっていた。
それはリコリス自身がとても美しく、そして愛らしい容姿をしているからというのもあるのかもしれない。
まるで絵にかいたような…かわいいという概念を現実に出力したかのような顔立ちに嫌でも目に入る頭部の大きな獣の耳。
それらが相まってじゃれついてくること自体に不思議な高揚感を覚えるのもまた事実だった。
「リコリスは…魔族還りというものなの?」
質問をして、少ししまったと思った。
いつからかか人の世には魔族還りと呼ばれる者たちが現れるようになった。
身体のどこかに普通の人間とは違う部位や器官をもって生まれる者たち…それが魔族還り。
本当に何の脈絡もなく生まれるそうで、魔族帰りではない両親から生まれた子供でも角や鱗をもって生れ落ちるらしい。
私自身にそんな気持ちはないし、帝国でも問題にはなっていないけれど、よその国では魔族還りに対する差別や迫害が問題化している国もあるらしい。
だから純粋な好奇心で質問をしてしまったけれど、もしかしたらリコリスにとっては嫌な話題だったかもしれない…そう思ったけれど、本人はケロッとした顔で耳をピコピコと動かしていた。
「んー?わたしは違うよー」
「…そうなの?じゃあその耳は?」
「みみはみみだよー。触ってみるー?」
「…いいの?」
「ままとねぇたちにしか触らせないけどーアリスちゃんにならとくべつー」
「ありがとう」
恐る恐る触れてみると心地よい感触が手の中に広がった。
ぱっと見は髪と同化しているように見えるけど、触ってみると髪とは全然違ってもふもふだ。
こちらの世界ではペットを飼う…という文化はあまり根付いていないらしく、前世での夢だった動物とのふれあいというものはあまり達成できていない。
まぁ以前ハムスターのような生き物を触ろうとしたときにありえないくらいにアレルギーが出たのでどちらにせよ…という話だけどね。
そういうのもあってか夢中でリコリスの耳をもふもふしてしまい…指を噛まれた。
「痛い!」
「むー!さわりすぎー!なんかむずむずするーからもうおわりー」
へそを曲げられてしまったのかその日はいつもより激しく噛みつかれてしまった。
そうやって日常にリコリスという存在が食い込んできたころ…私の母…こういう時なんと言い分けるのが正しいかわからないが皇帝ではないほうの母が家に転がんできた。
理由は教えてくれなかったが、なんでも皇帝である母と喧嘩をしてしまったらしく…しばらく家において欲しいとのことだった。
私としては断る理由もないけれど…きっとその理由は私自身なのだろうなと少しだけ悲しくなった。
私を産んでくれた大切な両親…その二人が私のせいで喧嘩をしてほしくはない。
でも今の私に何ができるのだろうか…母が、皇帝が私に関してなにか思うところがあるのは分かっている。
だからこそ…私という存在に気を割かなくていいと頑張ってきたけれど…正直手詰まりだ。
そんな風に気落ちをしていたところ、母親が来てくれたことで…このリコリスという少女の正体も明らかになるのだった。
まだ急所に噛みつかれるのに抵抗があったうぶな頃




