それぞれの夜5
次回は明日か明後日に投稿します!
「…少し落ち着きましたか?」
「うん…ぐすっ」
道ゆく人たちから少しだけ気にされながらも数十分。
ようやく話せるくらいには落ち着いたスカーレッドにナナシノは飲み物を飲ませていた。
すでに日は暮れて夜の闇が周囲を包み込んでいる。
「それで…つまりスカーレッドさんは剣になれなくなった…ということでいいんですよね?」
「うん…目が覚めたら…なんだか身体に違和感があって…でも体調は今までにないくらい良くって…でもこの前エンカくんと歩いてた時にお婆さんから荷物を取ったひったくりがいて…ナイフを出してきて…でもその時剣になれなくって…」
「なるほど…それでまさかエンカさんは怪我を?」
「うん…スカーレッドちゃんが…剣になれなくて…反応が遅れちゃって少しだけエンカくんが怪我をしちゃって…ひったくりは捕まえられたけど…うぅ…!あ、そうだ…ごはん…ご飯買わなくちゃ…」
ふらふらとスカーレッドは立ち上がり、先ほどの肉屋がある方向に歩き出したのをナナシノが慌てて腕をつかんで引き留める。
「あそこはこの時間もう閉店してますよ…たぶん食材を買うタイプの露店も同じく。それにそんな状態でお買い物は…まずは顔を洗ったほうがいいともいますし」
「で、でも…だって…ちゃんとしないと…エンカくんに捨てられちゃう!!」
振り向いたスカーレッドの瞳は幼い少女が見せるにはあまりにも色濃い絶望が浮かんでおり、溜まり切れなかった涙が再び零れだしていた。
「そんなことは…」
「そんなことあるよっ!!だって…だってエンカくんがスカーレッドちゃんといたのは…あそこから連れ出してくれたのは私が剣だったからだもん!…それがなくなったら…必要がなくなっちゃったら捨てられちゃうもん!エンカくんしかいないの…スカーレッドって…名前を付けてくれたの…スカーレッドちゃんにはエンカくんしかいないの…!!」
悲痛な叫びをあげながらスカーレッドがへたり込む。
大粒の涙が地面にシミを作り、少しずつ広がっていく。
「…」
そしてその叫びは…ナナシノの心にも深く突き刺さった。
一緒にいてくれたのは…必要としてくれる理由があったから。
それがなくなれば一緒にいる理由はなくなる。
なら…捨てられるしかない。用済みになった道具は…いらないのだから。
「…っ」
パチンとナナシノが自らの頬を力いっぱい叩いて底に落ちてしまいそうな思考を振り払った。
そしてスカーレッドに手を差し伸べる。
泣いている幼い少女に対して同情めいた何かを感じたから…そして同時に今目の前に浮かんでいるその理由を…認めたくなかったから。
「スカーレッドさん…あなたはエンカさんからそう言われたのですか?あなたは必要ないからいらないと」
「…言われてない…言われてないけど…」
「ならまだ決めつけるのは…」
「もう二日も!…もう二日も帰ってきてない…エンカくん…全然借りてるおうちに帰ってきてくれなくて…だからご飯作ったら戻ってきてくれるかもって…」
本当にスカーレッドを捨てたのならばご飯を作ったところで戻ってくるはずがない。
そもそもどうやって作って待っているということを知ることができるのか…自体が全て最悪ならばスカーレッドの行動にはすでに何の意味もなくて…だとしてもじっとしていられないのだ。
そうしなければ恐怖に飲み込まれてしまうから。
「…探しましょう。諦めてはいけません。直接話を聞かないと何もわからないじゃないですか」
「…でも…でも…直接あって…やっぱりいらないって言われたらどうすればいいの…?」
「それは…でも、聞かなければ何も始まりません。ずっと…怖がりながら待ち続けるだけです」
「…ぐすっ」
「私はあの人のことをよくは知りませんが…でも不義理をするような人には見えませんでした。考えてみてくださいスカーレッドさん。エンカさんは…泣いている小さな子供を放っておくような人ですか?あなたに何も言わず…必要ないからと平然と別れるような人なのですか?そんな悪い人なのですか?」
「ち、違うもん!エンカくんは悪い人なんかじゃないもん!」
「なら…探しましょう。私もお手伝いしますので。エンカさんを探して…直接話を聞きましょう。泣くのも諦めるのも…それからでも遅くはない…と思います」
「うん…ありがとうナナシノちゃん…」
スカーレッドがナナシノ手を掴んで立ち上がり…乱暴に涙をぬぐう。
ナナシノは少しだけ目に光の戻ったように見えるスカーレッドの様子にホッと一息つき…背後から向けられた冷めたような視線に気が付いた。
気が付いて…気が付かないふりをした。
その視線の主が…リトルレッドが何を言いたいのかなんてわざわざ聞かなくてもわかったから。
先ほどナナシノが口にした耳障りのいい一連の言葉…それらすべてを言ってほしいのは…ほかならならぬナナシノなのだから。
「それでは行きましょう。どこか…エンカさんの行きそうな場所に心当たりはありますか?」
「…わかんない…武器屋さんとか古い骨董品?みたいなのが置いてあるお店にはよく行ってたけど…」
「…なるほど。もう閉店していそうな感じですね。しかしそうなると…あ、そうですあそこに行きましょう」
「あそこ?」
そしてナナシノはスカーレッドの手を引いて歩き出す。
やがて二人がたどり着いたのは…。
「あのねナナシノ・カカナツラ。ここは曲がりなりにも秘密結社という肩書を秘かに掲げながら活動してる組織の秘密の隠れ家なの。それを子供を連れて遊びに来られてもね?困るというかなんというかね?わからないかしらね?」
秘密結社アラクネスートの拠点の一つだった。
突如として内部の者しか知らないはずの転移の魔法陣から現れたナナシノに呆れたような顔で言い聞かせるようにクイーンが対応していた。
「そもそもどうやってここに来たの…あなたここへの道なんて知らないでしょうに」
「転移の魔法陣が設置してある場所はなんとなくわかったので」
「なんでよ。一応あなたたちが出て行ってから全部設置し直したのだけれど?」
「それでも傾向は分かりますから。クイーンさんの「くせ」とでも言うのでしょうか…そういうところにも気を使ったほうがいいと思います」
「…ご忠告どうもありがとう。それで何をしに来たのかしら?まさか本当に子供を連れて遊びに来ただなんて言わないわよね?」
「ええ、実は人を探しているのです…どうにかしていただけないかと」
頭が痛むのか難しい顔でクイーンが頭に手を添える。
ただでさえ今は忙しいのになぜこんなことになるのかと改めて組織運営の難しさに直面したクイーンなのであった。
「ウチは便利屋ではなくってよナナシノ・カカナツラ…はぁ、まぁ知らない仲でもないし忠告をくれたお礼ということで話は聞いてあげるけど…誰を探してるの?わざわざうちに来るってことは面倒な案件なのかしら?」
「いえ、別に面倒というわけではないですね」
「じゃあなんでうちに来たのよ。そこらへんに騎士の方とかいるでしょうが」
「…おぉ」
その手があったかとナナシノは手を打った。
いまだ常識が馴染み切っていないナナシノにクイーンはどっとした疲れを感じて肩を落とす。
それと同時に懐に入れていた小型の通信機が振動して連絡を告げた。
「ん…ごめんなさい少しだけ待って頂戴ね…ボスから?」
通信機はその向こうにいる相手がクイーンたちのボスであるアリスからのものだと告げており、緊急の案件かもしれないとナナシノたちに断りを入れてから通信を取った。
「はいもしもし…えぇ大丈夫です。はい…え?あぁ先ほどの…はい、はい…人探しを…?ボスもですか?いえこちらの話で…あぁ…それはタイミングのいいことで…」
クイーンは意味ありげな視線を二人…いやナナシノの背後にいるスカーレッドに向けた。
「えぇそういうことみたいですね。わかりましたこちらから…えぇはい、では」
通話が終わったようで、クイーンは通信機を再び懐にしまって二人に向き直る。
「あなたたちが探しているのはもしかしてエンカ・ダークハートかしら?」
「え、ええそうですけど…」
「っ!エンカくんどこにいるか知ってるの!?」
「そうね、知ってるというかなんというか…とにかくメモを書くからそこに…いや、この時間に子供だけで出歩かせるのはちょっとね…近くまで転移で送ってあげるから少し待って頂戴」
そうして二人が送り届けられた先は…帝国軍隊の中の治安組織の駐屯地…その取調室だった。
困った時の秘密結社。




