それぞれの夜3
次回は明日か明後日に投稿いたします!
お待たせいたしました…ここからはあまり間を開けずに投稿していきたい所存です。
包丁を作り続けて数時間。
日も落ちかけたところで火事場を貸してくれている職人と、リトルレッドからほぼ同時にストップがかかり、腑に落ちない物を感じながらもナナシノは帰路に就いた。
以前はおっかなびっくりと歩いた街中だが、今では何の感慨もなくその場のただ一人として風景に溶け込むことができていた。
(言っておくけど目立ってないと思ってるのアンタだけだから。髪くらい何とかしなさいよ)
ナナシノの全身を覆うほど長く伸ばされた髪はそれだけでどうしても人目を引いてしまう。
ただしそのことについて本人がどこまでも無関心なために、改善もされないのだが。
「切っても伸びるんですよ。髪だって私の身体判定なので」
(ああそう…でも結ぶとかできるでしょうよ。私も身なりにそこまで関心があったわけじゃないけど、今のあんたよりはちゃんとしてたわよ?そもそも包丁作ってる間は結んでたじゃない。なんで戻したのよ)
「燃えると熱いので」
必要があれば結び、なければ結ばない…できれば結びたくない。
謎のポリシーのようなものがそこにはあった。
(…そういえばさ、あんたの不死身の身体のことだけど…その理由に気が付いている?)
「ええまぁ…この能力は「私」に備わった生まれつきのもの…そう思っていましたがどうやら違うようですね」
ナナシノは先日の話し合いにて戦うリトルレッドの姿を見た。
その場にいた他の者たちはその戦いの異常さやスノーホワイトとリトルレッドという人物のことに意識を向けていたがナナシノが真っ先に思ったことはリトルレッドに自身と同じ不死性が備わっていないことに対する疑問だった。
自分とリトルレッドと名乗る人物の同一性…そんなものははっきりと明言されるより前から気が付いていて、だからこそ実際に目にした違う運命を辿った自分は戦いのさなかで一度も傷が回復している様子を見せなかったことがただただ不思議でならなかった。
(そう、私にあんたみたいな不死の力なんてない。そもそもそんな力が発現していること自体、最初は知らなかった)
「つまりこの力は私…私たちに最初から備わっていたものではなく、あなたが過去に戻ったことによって生じた現象である可能性が高い」
(でも過去に戻った私にはその力は発言していない。でもほぼ間違いなくその不死性はこの「私」の能力によるもののはず…なら考えられることは自ずと限られる)
「私が思うに…」
ナナシノは隣にふわふわと浮かぶ半透明のリトルレッドを仰ぎ見た。
フードで顔は隠されているけれど、その姿は現在のナナシノより少しばかり大人びている。
(思うに?)
「おそらくは確定している運命…というものが悪さをしているのではないでしょうか。あなたの力はそれ単体では運命から逃れることはできない…あなたの未来で起こったことは形を変えて結局こちらでも起こる。ならば私は少なくともあなたと同じ年齢までは生きて…そして成長して同じ能力を発現させる、いいえさせなければいけないはずです。それが運命というものですから」
(…なるほどね。私が能力を使って運命を巻き戻した…その事実はこの巻き戻った世界では最も否定されてはならない事象…ならこの運命そのものが「私」に追いつくまで「あんた」を殺させない…そういうことね)
「おそらくそういうことでしょうね。致命傷は言うまでもなく、小さな擦り傷一つでも人は死ぬときは死にます…だから私の身体についた傷はすべてなかったことになる。能力がどうこうではなく、それがルールとでも言うのでしょうかね。そしてそれは…私のこの肉体が当時のあなたに追いつくまで続く…そんなところですか」
全ては憶測にすぎない。
しかしそれで間違いないとナナシノは確信していた。
それが分かったところで何かが変わるわけでもないし、何かができるわけでもない…だが、それを理解したからこそ、ナナシノの中で変わってしまったものが一つだけあった。
それは──
「…」
(なに神妙な顔してるの?だいたいいつまで「愛しのユキノさん」から逃げ回ってるつもりなの?)
「…逃げ回ってなんかいません。包丁を作るのに忙しいだけです。ユキノさんも久しぶりにお母様と再会したばかりでいろいろと忙しいでしょうし」
(私のくせに情けない言い訳しないでよ。だいたいなんのために包丁なんて作ってるの?)
「それはさっきも言いましたよ。私は──」
(それが無理だって理解してるくせに。無駄だってわかってるくせに。私そう言うの大っ嫌い。それが他の誰でもない私自身なんてもっと許せない。言いたいことは言わなくちゃ伝わらないし、後々拗れることを先に持ち越しても状況が悪くなることはあっても好転することなんて一切ないのよ。私を見なさいな、独占欲丸出しでユキ…スノーホワイトにいつ何時もべったりしてたんだから。隠し事もしたことないし、あの子が他の女と喋ってたら威嚇したし、男と喋ってたら実力行使をしたわ)
「それでも拗れてたじゃないですか」
スノーホワイトとリトルレッド…その二人が迎えた結末を想えば、口を噤むべきとも思ったがナナシノはあえて茶化すようにそう言った。
自分たちに引きずられて…落ちていくのを未来の自分は望んではいないと思ったから。
(うるさいわね。そこまでしても拗れたのよ。だから…あんたのそれは余計におかしな方向に向かうだけって忠告してあげてるの)
「そうですか。でも…私にはそんな忠告必要がありません。私のこれは…自己満足ですしユキノさんとこの件についても話し合うつもりはありません。だってこれから先…私たちにはいらない物ですから」
無意識のうちにナナシノは荷物の中に紛れている作りかけの包丁を握りしめる。
(まさかあんた…)
「そのほうがあなたも望むところでしょう。同じ運命を繰り返したくないというのなら」
(呆れた。やけくそじゃない…でもまぁ、それもいいのかもね。あんたがそうしたいって思ったのなら私は止めない。そんな権利もないしね…でもどんな結末になろうともそこに後悔が残ればそれ以外は何もなくなるわよ。アンタにしろユキノにしろね…私がそうだったから)
「…でもこんな時…私が読んできた物語の登場人物たちはこう言いますよ」
──それでも。と
────────
時間は夕暮れ時…賑わう街中は夕飯を、またはその食材を求める者たちで埋め尽くされていた。
そんな雑踏の中でナナシノは聞き覚えのある声を聴いた気がしてふと足を止める。
(どうしたの?)
「いえ…今確かに…」
きょろきょろと周囲を見渡すてナナシノは人の海の中、ぴょこんと出たり下がったりを繰り返す小さな手を見つけた。
「あ、あの!その安売りの!お肉を、ひ、ひとつ~!あ、ここに!います!」
どうやらその手は肉屋の安くなった肉を求めているようだが、人ごみに押し流されてなかなかたどり着けずにいるようだった。
それでも負けじと前に進んでいたが…ついにははじき出されてナナシノの前でその人物は尻もちをついた。
「あう…どうしよう…このままじゃ…」
「あの、スカーレッドさん。なにかお困りですか?」
「え…?」
声をかけたナナシノに涙をためた瞳を向けてきたのは…真っ赤な髪が特徴的な幼い少女…スカーレッドだった。
出会いし小さきものたち。
スカーレッドちゃんさんが130あるかないかくらいでナナシノさんが140くらいです。
ナナシノさんが小さいのは栄養失調がかなり長く続いたからで、リトルレッドさんは150ちょっと程あります。スカーレッドちゃんさんはなんか小さいです。




