闇の中、手を伸ばして2
次回は金曜日までのどこかで投稿します!
「作られた魔王…なにそれ…?」
スノーホワイトの秘密…それを語ったリリの言葉にリトルレッドは全く聞き覚えがなかった。
来るべき日のために様々な知識を詰め込み、情報を収集してきたはずだが引っかかるものが存在せず…意味が分からないという意味で思わず聞き返した。
「ね!なにそれ!って感じだよね~カナちゃん。なんでこの程度のことをユキちゃんはそんな必死に隠そうとしてたんだか不思議だよね」
「ちがっ、そういう意味じゃなくて…そもそもの意味が分からないって言ってるのよ!」
「およ?…あ~でもそうか、そういえば魔王云々のことはそっとしておいてほしいって言われたからあんまり話してないんだったっけ…え、あ、これもしかしてあとで怒られる…?どどどどどどどうしよう!?」
突如としてリリは何かにおびえるようにして肩を抱き、周囲をキョロキョロと見渡し始める。
先ほどまで余裕の笑みで圧倒的な力を見せつけていた超常の存在にしてはあまりに人臭いしぐさにリトルレッドは呆気にとられた。
どれだけ望んでお手に入らない強大な力を手にしてなお、何を恐れるというのかと。
そして不意にリリはスッと顔をあげて数度首を振った。
「…ま、今は気にしても仕方ないか。なるようになるよ、うん。まぁそんなわけで…説明してあげようと思っては見たものの、正直私もよく知らないんだよね。当事者じゃないし…でも頑張って説明してみるとすれば…カナちゃんは魔族は知ってるのかな?」
こくりとリトルレッドは頷いた。
魔族…それはかつて存在していたと言われる人に近い見た目をしていたという種族だ。
地上の支配権をかけて長年人族と争っていた…と言われているがすでにその存在は御伽噺にうたわれるものとなっており、今ではそのような種族は存在しておらず、ただ人同士の争いの歴史が歪んで伝わっているだけと唱えるものさえいるほどだ。
だが一部の者は知っている。
魔族は実際に存在していたということを。
「どれくらい知ってる?」
「…魔王と呼ばれる存在を頂点として武力で地位を定めていた種族で…人との戦争に敗れて滅びたと…」
「40点!いや39点!赤点だね。力こそすべて~みたいな思考だったのはあってるけど、他は全部違うかな?まず魔族を滅ぼしたのは人じゃなくて私…と私のお嫁さんね」
「え…」
「あと魔王を頂点とはいうけど、実はそこが少し罠でね~実は魔王っていうシステム自体がこれまた私が激闘を繰り広げたこの世界…この世界というのは私たちが今いるここね?ここを支配していた神様が魔族を利用するために作り出したものでね?」
「え…ちょっと…あの…話についていけないというか…」
何かすごい話を軽く話されている。
リトルレッドはそれだけは理解したが、それ以上先に思考が進まない。
「それをここで細かく話すのは違うかなって思うから省略です。まぁ簡単に言えば魔王って実は量産型だったんだよね。でねでね私の最強にかわいいお嫁さんがねその魔王だったんだけど、いろいろあって魔族滅ぼすか~ってなって滅ぼしたんだ。そんなわけで私のお嫁さんが最後の魔王なわけなんだけど、先代の魔王たちとはいろいろあったみたいでね…おせっかいかなと思ったんだけど私がその魔王たちの魂をこっそりと回収して世界に流したんだ~…と言っても悲しいことに歴代の魔王たちはその…なんていうかその出自に加えてひどい経験をしたせいで魂が摩耗しててさ…残ったものを全部集めて固めてやっと一つ分の大きさだったの」
リリはリトルレッドに対して手で大きく丸を描くようなそぶりをして見せる。
それが魂の大きさ…というわけではないだろうが、改めて目の前の…自分たちが喧嘩を打った存在のスケールの大きさを思いしらされる。
そしてリトルレッドは…話が始まって一言も発しないスノーホワイトのことが何よりも気になった。
「それでねそうやってできた魂は流れに流れて…やがてまたこの世界に戻ってきた。そして新たに命となって…「ナツメグサ」という家の女の子として生を受けた」
「ナツメグサ…まさかそれが…」
リトルレッドの視線がスノーホワイトにゆっくりとむけられた。
その表情はうかがい知れないが、人形に絡めとられながらも何かを堪えるかのようにスノーホワイトはこぶしを握り締めていた。
「そうだね、先代の魔王たちの魂がまとまって一つなった新たな命…それはユキ・ナツメグサという名前の一人の少女としてこの世界に生まれ落ちた。ね?なんでもない事でしょ?」
「…」
確かに何でもないことと言えばそうなのかもしれない。
いたことすら不明瞭な魔族の王…その生まれ変わり。
それを告げられたとして…驚いたりはするかもしれないがそれ以上に何かがあるのかと考えると、ない…と答えるしかないとリトルレッドは思った。
だがスノーホワイト本人はそうではない。
「それを…何でもないと言い切れるのはアンタが当事者じゃないからだ。私は…誰からも落ちこぼれだと後ろ指をさされた。母さんと…カナ以外はみんな等しく私を蔑んだ。それに必死に目を背けて…仕方がないと受け入れて気にしないふりをして…それでもずっと悔しかったし…歯がゆかったし…辛くて悲しかった」
「ユキ…」
リトルレッドから見てスノーホワイトは…幼いころから何も考えていないような…緩い空気を纏っていたように見えた。
しかしそれは…すべて虚勢だったのだ。
心を刺し傷つける悪意から身を守るため…柔らかい心を演じていただけ。
すがれるのは母親と…たった一人の幼馴染だけ。
だからこそスノーホワイトはたった一人のために世界を救う決心をしてしまったのかもしれない。
「本来人が持っているはずの魔力を持たず、物覚えも悪い役立たずの落ちこぼれ…母さんにも肩身の狭い思いをさせたし、カナも本当は私といるのが恥ずかしいんじゃないかって何度も思った。私は…人に比べて大したことのない存在だった」
「そんな卑屈にならないでもいいのに。実際にほらユキちゃんにはとってもすごい力があったじゃない」
「あったから!…余計に惨めなんじゃないか。摩訶不思議な超常の力があって…それでも私は何もできない落ちこぼれだった。母さんの、そしてカナの後ろに引っ付いていることしかできない…それでさらに私に特別な出自があったなんて話になったら…それをもってなおこんなな私は…あまりに惨めだ」
スノーホワイトが、ユキ・ナツメグサがずっと抱えていた…いや、植え付けられていたコンプレックス。
どこまでも自分の存在を否定され続けた少女の肥大化した自らの卑下。
誰にも吐き出せずにいたそれを…運命が巻き戻ったこの場所で初めてスノーホワイトは口にした。
「そんなの考えてるのはユキちゃんだけだよ。ねー?カナちゃん」
「あ、当り前よ!なんでそんな…!あんな大人たちが何を言ってもそんなのどうでもいいじゃない!だってユキは私が──…っ!」
私が守ってあげるから。
そう口にしようとしてリトルレッドは慌てて言葉を飲み込んだ。
その言葉こそが…さらにスノーホワイトを追い詰めるものだと理解ができたから。
「…」
「…」
「あらら二人とも黙っちゃった。まだまだこれからじゃないのさ~。もっと掘り下げていこうよ、面白くなるのはこれからなんだからさ。さてさて、そうやって卑屈になっていく日々の中でユキちゃんはある日ひっそりと自分の中にある力に気が付くことになったんだよね。あの時はユキちゃんずいぶんと動揺してたよね~」
それは妙だとリトルレッドは困惑した。
スノーホワイトとリトルレッドは暇さえあればお互いの時間を共有し、共に過ごしていた。
その営みの中でユキの様子が明確におかしくなったことなどあった記憶がない。
抱えていたものに気が付けなかったけれど…それでもなにか変化があれば絶対に気が付く。
リトルレッドはそう確信していた。
だからこそわからない…リリの言う力に目覚めた時というものが。
「…あの時カナは本国のほうに呼ばれていたからな。知らなくても当然だ」
「あ…あの何度もついてきてッて頼んだのに結局最後まで来てくれなかったあの時…?」
パン!とリリが手を叩いた。
「そうそのあたり!そこで実は「こっち」のほうで問題が起こってさ~それがユキちゃんとうまいこと噛み合っちゃったんだよね。まぁさすがにそれに関しては私のほうも不可抗力って感じなんだけど、でも悪いことしちゃったかな?とも思ってみたり」
「何の話…?」
「いやぁお恥ずかしい話さ、私のお嫁さんって贔屓目なしで世界一かわいいのね?世界だよ世界。地上を超えて、空を通り越して、銀河を突き抜けて世界。なんであのかわいさを表す言葉としてかわいい以上のものがないのか世界の不条理を嘆くくらいにはかわいいのね?わかるかな?わかるよね?ほら想像してみて?カナちゃんとユキちゃんが今まで出会った人の中で一番かわいい人…その9兆6千億倍かわいいのが私のお嫁さんなの」
「「はぁ…?」」
二人を困惑させながらもしゃべり続けるリリの左手の薬指には、闇の中でもきらりと光る指輪がはめられていた。
シリアスな世界観、状況下においてシリアスをやらない女…こんなのが主人公の小説がry




