闇の中、手を伸ばして1
次回は水曜日までのどこかで投稿します!
閉じられた闇の世界に炎の柱が噴出す。
真っ赤に燃え上がる炎は痛いほどはっきりと視認できるのに、世界を満たす闇は一片たりとも照らされることはなく…その場所が異常だけで作り上げられたものだとわかる。
「昔々あるところに二人の女の子がいました」
その闇の中心で、人形の神がニコニコと笑いながら炎の隙間を優雅に歩きながら物語るを語る。
「一人は才能に恵まれた二色の瞳を持つ女の子。もう一人は魔力を持たない黒髪がきれいな女の子」
炎に交じって雷が束となって横に奔るが、それリリはを虫を払うかのように片手であしらう。
「二人はとっても仲良しでいつも一緒…様々な困難に立ち向かって乗り越えて、絆を深めていく」
左からスノーホワイトがその拳を突き出し、リトルレッドがナイフを振りかぶる。
それを両手で難なく受け止め、なぜか楽しそうに神は笑う。
「うんうん、素敵だね。綺麗で尊くてとっても面白い物語だ」
「だから人の人生を…」
「勝手に楽しむな!!」
二人は怒りに任せて吠えるが、それでもリリの腕は少しも動かない。
あまりにも圧倒的すぎる力の差…それを見せつけられてなお、二人は怒りを収めることはできなかった。
「楽しいものは楽しいもの。仕方ないよ~」
「私たちは…これでも必死なのよ!どうしようもなくて、どうすることもできなくて…それでもここまで来たのに…!」
「それをつまらないからと邪魔されてたまるものかよ!私たちの歩んできた道は…物語なんかじゃない!」
「物語だよ。「上」から見てると世界なんてたくさんの物語が紡がれていく大きな本みたいなものなんだからさ」
「フィクションじゃないのよ、ここで生きてるのよ私たちは!」
「フィクションだって生きてるよ。そこで頑張って生きている人たちはたとえ物語の中でも生きてるんだよ?それを否定しちゃだめだと私は思うな」
そういいながら二人を簡単に投げ飛ばし、やはり何が楽しいのかニコニコと笑い続けるリリに空からスノーホワイトが産み出した魔神の巨大な拳が降り注いだ。
重い音と共に衝撃波が周囲を駆け抜け…さらに炎が吹き上がる。
「そうやって上からしたり顔で見下してばかりだから…上がおろそかになる」
巨大な魔神による一撃…それはスノーホワイトが現状持ち得る最大級の瞬間火力をもった一撃だった。
「やったの…?ユキ…」
「いや…倒せたとは思わないほうがいい。それでも傷一つくらいは…」
いまだに天井が見えない理不尽を相手にこの程度で勝利できるとはスノーホワイトはもちろんリトルレッドも思ってはいない。
しかし、これで終わってくれとそれこそ神にも祈る気持ちがなかったと言えば嘘になる。
そして…。
「少し前から思ってたけど、その「やったの」とか言わないほうがいいと思うんだよね私」
その理不尽は汚れ一つない涼しい顔でそこにいた。
リリを押しつぶしたかのよう見えた拳はその寸前で止まっており、炎に紛れていたが目を凝らすと無数の真っ赤な糸が魔神を絡めとり、その動きを封じていた。
「フラグって言うんだよ。わかるかな?…それにしてもうまく使いこなすよね「コレ」。やっぱりあなたと親和性が高いのかな?」
糸に絡めとられた魔神を気にもせず、リリはスノーホワイトに目を向ける。
「神を産む力。さすがに元のそれと同じようにとはいかないみたいだけど、それでも便利に使ってるよね。まさかこんな風に使えたなんて私もびっくりだよ」
「…」
「ユキ…あの人何を言ってるの…?もしかしてアンタのその変な力って…」
「ユキちゃんのそれは私由来じゃないよ~。何でもかんでも私とは思わないでほしいなっ!ていうか…カナちゃんは何も知らないんだね?どうして教えてあげないのさ?自分が何者なのか」
「やめろ!」
怒鳴り声をあげてスノーホワイトが駆け出した。
レイリの身体のスペックに身を任せ、荒々しいばかりの拳を、蹴りを繰り出していくがそのすべてが簡単にいなされていく。
「うーん…そんな感じか~じゃあまずはそこからやっていこうか~」
スノーホワイトの腕を掴んで投げ飛ばし、なおも向かってこようとするスノーホワイトの足首を誰かが掴んだ。
最初はリトルレッドだと思ったがすぐにおかしいことに気が付いた。
足首を掴もうとするのなら人は這いつくばらなけばならないから…リトルレッドがいきなりそんな体勢をとる意味はない。
なら何が?恐る恐ると下を見る。
そこに顔のない人形がいた。
「っ!!?」
「ユキ!」
慌てて人形を振り払おうと足をあげようとするとさらに腕が伸びてきて膝を、太ももを掴まれる。
いや、それだけではなかった。
闇の中から何本もの人形の腕が伸びてきてスノーホワイトの身体を掴む。
そしてリトルレッドにも同様のことがおきていた。
「こいつら…どこから…!」
「どこからでも出てくるよ~この闇の中にはね、私の人形がいっぱいるから…そこに闇があればどこからでも出てくるの」
「闇の中ならどこでもって…」
どこを見渡しても闇、闇…そして闇。
遠くを見渡しても、手元を眺めてみても、そこにあるのは闇だ。
ガシャ…ガシャ…。
ギィィィィィイイイ…キィ…キィ…。
作られた関節が軋む音が闇のなかを覆いつくし、伸びてくる手が二人を絡めとる。
「さて…少しだけ大人しくなったところでまずはユキちゃんがひた隠しにする秘密をカナちゃんに大暴露しちゃおうかな!」
パン!と手を一度叩いてリリが笑う。
「ふざけるな!何の権利があってそんな…!」
「でもあなたのそれは私に直接関係があるわけじゃないけれど、無関係ってわけでもないからさ?私にだって話す権利はあると思うんだ。それにさ?ダメだよ、大切な人なら隠し事なんてしちゃ~。なんでも言い合って吐き出して…それでも大切だっていえるからこその大切でしょ?カナちゃんだって気になるでしょ?落ちこぼれのユキちゃんが、いったいどうして突然不思議な力を手にしたのか…」
「…」
「耳を貸すなカナ!そんなのキミには関係な──」
「関係なくなんてない!!!!!」
その様々な激情が込められた声は周囲の人形たちを、闇をも揺らした。
「カナ…」
「…」
「そう、関係なくなんてないよね。わかるかな?ユキちゃんはそこがダメなんだよね。一方的すぎるよね。今時さ?片方が何かを抱え込んで、それでお互いが大切だなんて成立しないんだよ。相手に言いたくない何かを抱えたまま…それで大切ですなんて誰の胸にも届くはずがないよね。だから私が全部言ってあげる…だいたい私からすればなんでそれ隠してるの?って感じだし…やっぱりカナちゃんも聞きたいもんね?」
いつの間にかリリは人形にからめとられているリトルレッドの隣にいて、その頬を撫でながら耳元でささやく。
それに対してリトルレッドは返答することも、頷くこともしなかったが否定をしないというのが答えでもあった。
「アンタにはどうでもよくても…私には大切な…!」
「だからそれはさ?ここにいるカナちゃんよりも大切なことなの?」
「っ」
「優先順位…間違えちゃだめだよね?この世界で一番大切なものはなに?お金?命?プライド?違うね、違う違う…この世界で一番大切なもの…それは愛だよ。愛のためなら人はなんだってできるしなんだってしなくちゃいけないでしょ?その前にはさそれ以外のことなんて等しく「どうでもいい事」なんだよ。それこそユキちゃんが私の大切なお嫁さんの仲間…かつて存在していた作られた魔王たちの生まれ変わりだなんて気にするほうがおかしいと思うよ?」
あっさりと、本当に何でもないことのように…ただ日常に流れる雑談をするような気軽さでリリは言い放ったのだった。
この戦えばホラーになり、デリカシーというものが感じられない女を主人公にした小説が400話近くも続いていたらしいです(宣伝)




