勇者と魔王の御伽噺2
次回は月曜日までのどこかで投稿します。
家が燃え尽き、父親が亡くなった。
幼いカナレアにその事実は本来ならとても大きな傷として刻まれる事柄であったのかもしれない。
しかし炭となり、風に煽られて崩れ落ちていく家を見ても…父親だった炭の塊を見てもカナレアの心には些細な波風すら起こることはなかった。
カナレアは幼いながらも既に大人と同程度の思考力を身に着けており、様々なことを考えた。
虐待されていたとはいえ親の死に涙を流せない自分はどこかおかしいのではないか。
周りは自分を天才だと持て囃すが、ただ異端なだけではないのか。
他にも、他にも…と自身に対する疑問が浮かんでは心にこびりついていく。
だからカナレアはこの機会にとことん自分に向き合ってみることにした。
幸い彼女は村中から持ち上げられていたので、住むにも食うにも困ることはなく…勉強をする場所が欲しいと言えば勝手に誰かが住処を用意し、お腹がすいたと言えば食事を運んできた。
そんな村人たちに内心では冷めた視線を注ぎながら、表向きは子供らしく笑顔でお礼を言う。
そして勉学に励んで魔法を磨き…壁にぶつかって砕けた。
「カナレアちゃんはこの村始まって以来の天才だ」
「きっといつか世界中に名前が轟くようになる」
「そして天才を送り出したこの村の名も広まって俺たちを豊かにしてくれる」
そんな一方的な期待を受けてもカナレアは気にしなかった…しかしそんな言葉の中にこんな言葉が混ざることがあった。
「あの有名な帝国の魔女を凌ぐに違いない!」
「万魔の妖精なんかめじゃないわ!」
帝国の魔女、万魔の妖精。
それらは同じ人物を表す言葉で、勉強のためにと取り寄せてもらった本に名前が載っているほどの有名人で、少し調べればその人物の情報が簡単に出てくる。
だから調べて…そして折れた。
「馬鹿じゃないの…こんなの…できるわけがない…」
カナレアは間違いなく天才だ。
頭がよくて魔力量も多く、呑み込みも早い。
しっかりとした教育を受けて表舞台に立てばそれなりの地位を約束されたのは間違いない。
だが…いいや、だからこそ彼女はそびえたつ壁の、その高さを理解してしまった。
たどり着けるはずがない、並び立てるはずがない、追い越すことなんてできるわけがない。
あまりにも異常で、隔絶されたその力に恐怖して挑戦する気すら沸かない。
だから話はそこで終わりで、自分は人よりは少し賢い程度の凡人なのだとそう結論付けた。
だというのに村人の反応は変わらず、どれだけ説明をしても「謙遜しているだけ」「あなたは天才なのだから」「あんな眉唾な話しか聞かない女より上に行ける」と過度な期待を押し付ける。
姿を見れば目線を合わせてそんなことばかり言ってくる大人がうっとおしくて仕方がなくて…カナレアはいつしか目線を遮る大きなフードで顔を隠し始めた。
そんな行動さえも村人たちは「天才のすることはやっぱり一味違う」と褒めたたえた。
暴力もない。
睡眠も食事も許されている。
だというのにカナレアは父親に虐待されていた時と同等の息苦しさを常に感じるようになっていた。
苦しくて息ができなくて、どうもがけばいいのかもわからなくて。
どうしようもなくなった時、やっぱりあの声が聞こえてくる。
「かーなーちゃーん。あーそーぼー」
悩んで苦しんでいるカナレアとは対照的に何も悩んでいないかのような呑気なユキの声。
ただ本当にお友達を遊びに誘いに来ただけの、なんの裏もない子供の行動。
それがカナレアには何よりも救いになっていた。
何でもできる天才ではなくて、カナレアという少女として接してくれるほぼ唯一の相手…それがユキだったから。
カナレアはいつの日かほとんどの時間をユキの家で過ごすようになった。
ユキの母親もカナレアに対して特別な対応はせず、ただ普通に迎え入れてくれて、ただ普通に接した。
それが心地よかったから…。
しかし村人たちはそれを面白くは思わない。
落ちこぼれが天才に悪影響を与えないかと身勝手な杞憂を抱き、実際にそれをぶつけた。
ユキが一人でいるところを見れば「あの子はお前とは違うのだから変に関わるな」と囁き、ユキの母親には明確な村八分という形で悪意をぶつけた。
村人たちにとってはそれは善意だったのだろう…しかしそんなもの到底カナレアに納得できるものではなく、いっそのこと取得した魔法で村を吹き飛ばしてしまおうかと幼心ながら思ったりもした。
だが思いのほか二人は強かったようで、大人に何を言われてもユキはケロッとした顔でカナレアと遊びに赴き、母親も村人たちが取引に応じてくれないのも関わらず、どこからか食料や生活必需品を調達してきた。
そうしてカナレアは…ようやくただの子供として過ごせる居場所を見つけた。
「ねーユキちゃん」
「ん~?なにカナちゃん」
「私ね今からユキちゃんのことユキって呼ぶから、私のことも呼び捨てで呼んで」
「え~なんでー?」
「なんでもいいから!これ「めーれー」だから!私の言うことはぜったい!ほら呼んで!ユキ!早く呼ぶ!」
「えー…えーと…カナ?」
そもそも愛称で呼ばれていることなど忘れてカナレアは満足そうに笑い、その腕に抱き着く。
これは自分のものなのだと主張するように。
「動きづらいよー」
「いいの!これくらい我慢するの!」
「えー」
「えーじゃない!私は賢いからユキは私の言うこと聞いてればいいの!絶対にいいことになるから!」
「なるのかなぁ」
「なーる!」
カナレアは上機嫌でユキの腕に絡まってすりすりと頬を押し付けていたが、不意にユキがカナレアを抱き寄せて自由な方の腕を背後に伸ばす。
「え、なに…?」
「へびー」
ユキの手には大きな蛇が頭を握られていて、それから逃れようと暴れていた。
それはこの辺りでは数は少ないが噛まれたらほぼ助からないとまで言われている有名な毒蛇で…ユキは器用に蛇のしっぽを掴むと近くの木に向かって鞭を扱うように叩きつけ、そのまま遠くに放り投げた。
「だ、大丈夫なの…?」
「うん、だいじょうぶだいじょうぶ。カナは私が守るぞ。だからだいじょーぶ」
「…ありがとー。これからもしっかり守ってね、約束だよ」
「うんーまかせろー。カナは大切だからぜったいにまもるぞー」
そうやって二人はずっと一緒にいた。
まるで姉妹のように、あるいは…恋人のように。
そこからやがて10と数年…成長して子供とは呼べなくなっても二人はずっと一緒だった。
──そして狼がやってきた。
壊れていることが分かっている関係を描写していくスタイル。




