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真実

次回は水曜日までのどこかで投稿します。

 帝国の一角…皇帝の住まう城の会議室に人が集められ、これから大きな話し合いが行われようとしていた。

集められたのはアリスにリコリスとネフィリミーネを含むアラクネスートの面々にアレンとユキノにその母親…そしてナナシノにエンカ。

さらにアレンの隣には身体を鎖で雁字搦めにされた状態で人形の男が座っていた。

そして最後に皇帝が入室し、椅子に腰かける。


目を見開いたネフィリミーネの額から汗が零れ落ちる。

アレンは激しく呼吸を乱して今にも倒れてしまいそうなほどになっており、アリスは心臓を抑えた。

三人がそんな反応を見せているのには理由があった。

先日の戦闘の後遺症…ではなく、ありえない事態を目にして恐怖が心を覆ったから。


彼女たちの視線の先…真剣な顔をして椅子に座る皇帝が服を着ていた。


「ま、マジかよ…」

「陛下が…そんな馬鹿な…」

「どうやら…今回は笑っていられる隙間がないらしいね…」


そんな反応を受けて不機嫌そうに皇帝は舌打ちをし、着ている服に手をかけるが…脱ぎ去ることはなく、姿勢を正して座りなおす。


「な、なぁ婆さん…ほんとにどうしちまったんだよ。アンタらしくねぇじゃねぇか…服を着てるなんてよ」

「お前は我を何だと思っている」


「露出狂」

「ぶち殺すぞクソガキ」


心外とばかりにネフィリミーネを睨みつける皇帝だったが、その場のほぼ全員がネフィリミーネに心の中で同意をしていた。

しかし皇帝とて理由なく服を着ているわけではない。

皇帝は常日頃から裸であることを迫られた際に「見られて恥ずかしい身体はしていない」と返していたが、現在まだ先の戦いで負った傷が塞がり切っておらず、無理して身体を動かした弊害もあっていまだにぼろぼろと言ってもいい状態だった。

そして何より…首筋や背中に他人に見られると非常に恥ずかしい思いをする痕をとある女に付けられていた。

故に皇帝は今回ばかりは服を着るほかなくなってしまったというわけであった。


「ま、まぁその話は置いておいて…母…陛下。今日はどういう話し合いなのだろうか。その…一応区分的には一般人にあたる人も一定数呼ばれているみたいだけど…」


アリスがアラクネスートのメンバーたちを見ないようにしてそう言った。

ネフィリミーネを除いてアラクネスートは一般人…犯罪者ではあるが、存在は皇帝に隠しているはずだった。

その彼女たちもこの場に呼ばれていることにアリスは一抹の不安を感じた。

皇帝はアリスを見つめるだけで、問いに対して答えは返さない。

だがその一瞬でアリスはすべてを理解する。


(そうか…完全に出し抜けるとは思っていなかったけど…全部最初からバレていたんだね)


皇帝にただ見逃されていたという事実にアリスは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「…別に何か他意があるわけじゃねぇ。そこのカララとかいう女は今回の事件の参考人の一人で…そんでこの話をするにあたって、少しでもかかわったやつらは全員呼べとどっかの馬鹿の言伝があったらしい」

「言伝?婆さんにか?いったい誰がそんな…」


「少し待ってろ。あと少しでもう一人来る。話はそれからだ」


それからは誰も話さなかった。

それぞれが言いたいこと、聞きたいことが無数にあったが皇帝から放たれていた圧がそれを許さず…そして控えめなノックののちに「もう一人」が会議室に現れた。

人目を惹く、恐ろしいほどに可憐なメイド服を着た褐色の少女。

その姿を認識した瞬間にクイーンとアレンが用意されていた席から跳ね上がった。


「お前ら座れ」

「クイーンくんにアレンくん…いったいどうしたと」

「ぼ、ボス!このメイド…人喰いの…!」


人前でアリスのことをボスと呼ぶ失態を侵したということにも気づかずクイーンが叫ぶ。

それでアラクネスートの面々はすべてを理解した。

以前カカナツラの拠点にクイーンとアレンが出向いた際に遭遇したという人を喰う化け物…それが目の前にいると。

アレンはともかくクイーンはしばらく人が食べられていくその光景が脳裏から離れずに寝込んだほどのトラウマを受けていた。


「おいおい婆さん…一体どういうことだ。なんでそんなもんがここにいる」


その場のほぼ全員が一人のメイド服の少女に警戒をあらわにし、睨みつける。

しかし敵意を一身に受ける本人は気にした様子もなく、かわいらしく微笑んで綺麗に一礼するのみだ。


「…落ち着けガキども。お前らが束になってもその女には勝てん。もし何かあった時は我がどうにかしてやるから全員座ってろ。メイラもそれでいいな、大人しくしていろよ」

「もとより暴れるつもりはありませんよ」


メイド服の少女…メイラはほとんど靴音をさせずに会議室の中を進んでいき、皇帝の隣まで来ると再び一礼をする。


「皆様ほとんどの方は初めまして、メイラと申します。本日は我が主人の命によりこの場にお邪魔することになりました。どうぞよろしくお願いいたします」


シーンと会議室は静まり返った。

人喰いの化け物をおいそれと歓迎できるはずがない…誰もがどうすればいいのかと口をつぐむしかなかったなか、アリスの隣にいたリコリスが手を振りながら声をあげた。


「メイラちゃんー」

「あらリコリスちゃん、久しぶりですね、お元気ですか?」


「うんー」


親し気に会話をする二人にアラクネスートの面々はメイラは「触れてはいけない存在」であることを理解し、母を問い詰めようとしていたアリスもその考えを捨てた。


「…それで婆さん。一体何の話を始めよって言うんだ」

「決まっている。現在起きている一連の事件、帝国と王国の戦争…もっと言えばリトルレッドという女とスノーホワイトという存在についての情報共有だ」


皇帝の言葉と共にメイラがこぶし大の水晶を中央のテーブルの上に置く。

そこに映し出されるのは戦争の最中に行われていた知られざる戦い…リトルレッドとスノーホワイトの戦いだった。


「これは…」

「とある馬鹿がこれを見たうえで…これから起こることについて対処しろと言ってきた。どうも天の上に胡坐をかいた神様のやろうは今の状況がお気に召さないらしい…そんで、お前はなんだ」


皇帝がユキノの隣にいる母親に目を向けた。


「あらごめんなさい、私はユキちゃん…ユキノの母親でトウカ・ナツメグサと申します。皆さん初めまして娘がいつもお世話になってます。私は…スノーホワイトとあなたたちが呼ぶ人について事情を知っているものです…なのでお話を聞いていただければと」

「ほう…母親な。間違いないのかユキノ」

「あ、はい…正直記憶がおぼろげだけど…間違いなくこの人はその…私のお母さんです」


疑ってはみたが皇帝の目にもトウカとユキノにはお互いに血縁だと思わせる面影があった。

どれだけ皇帝が調べても出てこなかったユキノ…いやナツメグサという家系…その秘密がスノーホワイトにつながっているというのならと奥底もそれ以上は追及しない。


「ならば話してもらおうかトウカ。お前が知っているスノーホワイトという存在についてのすべてを」

「待ってほしい皇帝よ」


流れを遮って声をあげたのはアレンの隣に居座っている人形の男だった。

皇帝によってバラバラにされたはずの身体はすでに修復されており、下手なことをしないようにと全身を縛られている。


「なんだ」

「その人の話の前に…私の話を聞いてほしい。私とてすべてを知っているわけではないが…それでもこの場の誰よりも一番事情を知るのは私だ。リトルレッドとスノーホワイトの因縁も…なぜ今こんな状況になっているのかも知りたいことは大体話せると思う。そのあとで補足として別の情報を保管していくという流れにしてほしい」


「お前はリトルレッド側だろうが。それがなぜ情報を話すなど自分で言いだす?」


皇帝は話の途中で男に情報を吐かせるつもりではいた。

手荒な手段や口説き落とし…使える手は全部使うつもりだったがまさか自分から話すと言い出すとは思わず面食らう。


「負けたのだからせめて潔くありたいと思うじゃないか。それにね…私としてもこうなってしまっては話すのが一番だと思うんだよ。勝手な言い分と思われるかもしれないが私は彼女を…リトルレッドを一方的な悪者だとは思ってほしくない。彼女が何を考えて…そしてこうなるに至ったのかを歪みなく知って、そして話し合ってほしい…。それでなお彼女が許されない悪というのならそれでいいんだ。ただ誤解なく知ってほしい…そして考えてほしいこれからのことを、なにより私自身…彼女が救われるというのなら救われてほしいと願っているのだから」

「はっ、本当に勝手を言いやがる」


「ははは、それに私が話せば我が親愛なる友、アレンの心証がよくなるかもしれないだろう?なぁアレン?」

「やめろ自分は男に迫られる趣味はない」


「ははは、私は大局的に見れば無性だ。キミが望むのならば女性用のボディーに換装すれば済むだけのことだよ」

「…」

「いちゃつくなら他所でやれ。おい、人形…話すというのなら話せ。すべてはそこからだ」


皇帝に促されて男は一度だけ必要のない深呼吸をして見せた。

そして白と赤の戦いを映し出す水晶に視線を注ぎながら口を開く。

ここに語られるのは…まだ誰も覚えていない御伽噺。

二人の少女が登場する…世界を救った勇者と、世界を滅ぼそうとした魔王の物語。

「皇帝とて理由なく服を着ているわけではない」という自分で書いててよく意味の分からなかった文字列。

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― 新着の感想 ―
[一言] 理由がない限り服を着ないんなら露出狂の誹りは回避不能ですよコウちゃんさん! 原則服を着ない皇帝 大体リコさんがくっついてる娘 足して二で割ったら丁度いい塩梅になる…かと思ったけども 最悪全…
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