再会と抱擁
次回は明日か明後日に投稿します!
まだいろいろと整理ができていない頭を抱えて身を起こす。
丁寧にかけられていたシーツが私の身体に沿って落ちていき、衣擦れの音を立てた。
「あ…ユキノさん…起きたのですね」
声の下方向に少しかすむ視線を向けるととてとてとナナちゃんが小走りで駆け寄ってきて、むぎゅっと抱きしめられた。
身体の動きを見るにどうやら本当に無事らしくスノーホワイトはちゃんとやってくれたらしいとホッとする。
それでも心配なので一応ナナちゃんチェックを挟むことにした。
体温…いつも通り。
抱き心地…む、また少しお肉が落ちてきてるかもしれない…あとでお肉とか食べさせないと。
心臓の鼓動に呼吸音…うん、いつも通りだ。
香り…いつも通りのいい匂い。
怪我…見る限りないように見える。
あ、でも髪が少し痛み気味かも?あとでちゃんと洗ってあげないと。
総合的に見て無事と言えたので今度こそ本当に安心した。
「おはようナナちゃん…えっと、私どれくらい…寝てた?」
「2週間くらいです」
思ったより寝ていたみたい。
どおりで喉が渇いてるしお腹がすいているわけだ。
身体もバキバキになってて痛いし…私がスノーホワイトに身体を乗っ取られてから何があったのか聞かなきゃいけないと思うけど、それよりもまず私自身の体調を整える必要がありそう…。
「あ、そうだユキノさん」
「なぁに?」
「えっと…あちらの方が」
ナナちゃんが私から視線を外して明後日の方向に顔を向けた。
その動きを追うと部屋に備え付けられている椅子に誰かが座ってこちらを見ていた。
柔らかい雰囲気の笑みを浮かべた女性だ。
一瞬だけ私はその人が誰かわからなかった。
だけど…その女性の顔は激しく記憶を刺激してきて…懐かしいという感覚に包まれる。
間違いない…この人は…。
もう会えないと忘れ去っていた…忘れ去ろうとしていた人。
遥か昔の…幼い日の記憶の中で私の手を引いて今みたいな笑顔で話しかけてくれていた人…。
それは──
「お…かあさん…?」
「…久しぶり…ユキちゃん」
──────────
ナナちゃんが注いでくれたお水を飲みほしてテーブル越しにお母さんと向かい合う。
一度気が付けば間違いがないと確信ができた。
突然いなくなったと思っていたお母さん…その人が私の目の前にいる。
「…」
ただどうすればいいのかわからない。
何を思って…どういう感情を抱いて…どう言葉にすればいいのか全然わからない。
会えて嬉しいのか…突然いなくなられて悲しかったのか、それすらもわからなくて…感情の持って行き場がないとでもいうのだろうか?
とにかくお母さんが目の前にいるという状況が飲み込めなくて、それに付随するはずの気持ちが宙ぶらりんになっていて掴めない。
「ユキちゃん」
「え、あ、うん…なに?」
「元気だった?」
「う、うん…元気…だよ?」
今はどちらかと言えば元気じゃない気もするけれど…話を広げていいのか戸惑ってしまう。
そんな私の様子が伝わっているらしくお母さんは困ったように笑う。
「いきなりだし驚いたよね」
「うん…」
「ごめんねユキちゃん…でも、いいかな?」
そういってお母さんに抱きしめられた。
ナナちゃんとは違う…ふわふわしたような、包み込むような抱擁で…遠い昔にこうされていたなととても懐かしい気持ちになった。
あぁやっぱりこの人は本当にお母さんで…その身体を抱きしめ返すと自然に言葉が口をついた。
「今まで…どこに行ってたの…」
「…」
「なんで…突然いなくなったの…」
「…」
「どうして…私を置いていったの…私を一人にしたの…」
今が悲しいわけじゃない…でもあの時は悲しくて寂しかった。
何もわからない子供だったのに…突然お母さんがいなくなって世界が暗闇に包まれた。
あの村には私の味方は誰もいなくて…それでも生きていくためにがむしゃらになったけれど…それでもずっとずっと寂しかった。
だから私は…幸せだったころを思い出さないようにいつの日かお母さんのことを考えなくなった。
そんなものをいまさら掘り起こされて…どうしろというのだろうか。
今は…何もわからない。
「ごめん、ごめんねユキちゃん…ちゃんと理由はあって説明もしなくちゃいけないと思う…でも何を言ってもあなたに酷いことをしたのは変わらないと思うから…だから今は謝らせて」
「うん…」
そのまましばらくお母さんと抱きしめあって過ごした。
ナナちゃんを一人放置しちゃってまずいかもと一瞬だけ正気に戻りかけたけど、視界の隅で包丁を研いで満足そうにしていたのでたぶん大丈夫だと思う。
「それで…お母さん。ちゃんと説明してくれるんだよね?」
「もちろんよ。でも…これはきっとユキちゃん以外にも話さないといけないことだから。たぶんもうすぐ…」
その直後、部屋の扉が数度ノックされた。
「来たみたいね。行きましょうユキちゃん…全部を知りたいのなら、いえ…あなたは知る必要があるから」
お母さんに手を引かれて扉に向かう。
私たちの扉をノックしたのは…なんとアレンさんで、皇帝さんが私を呼んでいるという話だった。
そして…私は真実を知ることになるのだった。
親子の再会の裏で包丁職人の匠の技が光る。




