無駄撃ち
次回は日曜までに投稿します!
乾いた破裂音と共にアリスの手の中の銃から弾が放たれ、カララの髪を掠めて背後の壁にひびを入れる。
かたや銃弾を躱したカララはナイフを握った手に力を込めて拳をそのままアリスの腹に叩き込む。
「っは…っぐ…!」
「あはっ、ざっこ」
「まだ…ま、だぁ…!」
腹部への圧迫から呼吸が一時的に止まるも、アリスは銃を構えてカララの脇腹に銃口を向けて引き金に手をかける。
しかしその指をひくよりも先に先ほどの拳の一撃と全く同じ場所に今度は右膝を勢いよく叩き込みアリスの軽い身体が衝撃から宙に浮き…さらにそのまま器用に浮いた身体を蹴り飛ばした。
「だっさ。やっぱ口だけ…」
カララが嘲笑を口にしようとした瞬間に発砲音…そして左腕に強烈な熱を感じて反射的に左腕を抑える
蹴り飛ばされながらも引き金を引いたアリスの銃弾がカララの左腕を掠めていた。
直撃こそしていないが抑えた指の隙間からは血が流れており、カララは確かにダメージを負っていた。
「この…!」
「…ぶ、部下に…口だけ、とは…いわせられない…からね…」
地面に身体を削られながらもなんとかアリスは立ち上がり、薄く笑って見せるも、今の一瞬の攻防でアリスが受けたダメージは見た目以上に深刻なものだった。
的確に二度も内臓を打たれ、吐き気が止まらず…さらには無茶な体勢で銃を撃ったためただでさえ虚弱なアリスの身体は反動に耐えられず右肩を少し動かすだけでも激痛が走るようになっていた。
それでも、それらを一切悟らせずアリスはしっかりとその両足で立って見せた。
そうして走る激痛のなか銃を構える。
「ちっくしょうが!おい!子リス、大丈夫なんか!?」
「うん、問題ないよ。にーねー様…あとアトラくんも余のことは気にせずに生き残ることを優先しておくれ」
この瞬間も大量の魔物に囲まれネフィリミーネとアトラは手が塞がっていた。
さらにゴッドブレイカー・レクイエムが作り出したドーム状の空間はアレンのような転移の能力があるならばいざ知らず、普通は外から誰かが侵入することもできない。
援軍や加勢は期待できず、たった一度の攻防で満身創痍まで追い込まれた。
アリスに勝ち目など考えられない状況だが…しっかりと握られた銃の銃口はまっすぐとカララに向けられている。
「…どこまでもアタシを馬鹿にして…問題がないですって?いい加減にしないと本気で殺しちゃうわよ?」
「なんど同じ問答をさせるつもりだい。やれるものならやってみろと答えを変えるつもりはないよ」
「あっそう!じゃあ…もう死ねよ!」
カララが駆け出し、その瞬間に合わせてアリスも発砲する。
アリスの右腕は反動に悲鳴を上げて狙いはぶれてカララの左肩の上を素通りしてどこかに消えていく。
そして距離を詰めたカララの蹴りがアリスを捉え、反射的に左腕で防ごうとしたが勢いのついた蹴りの衝撃はアリスの細い腕で受け止めきれるものではなく、アリスの左腕が何かが砕けるような異音を立て、そのまま脇腹を蹴りぬかれた。
「っ…うぉぇ…」
ダメージに倒れると同時に堪えて堰き止めていたものが決壊し、アリスが大量の吐しゃ物を口から吐き出す。
それでも激痛の奔る腕を動かし、引き金を引き発砲…しかし銃弾はあらぬ方向へ飛んでいき、そもそも銃口をカララに合わせられてすらいなかった。
「あーあ、だっさ。やっぱり口だけのお嬢様じゃん。アンタさ自分でわかってんでしょ?結局アンタにできることなんてなーんにもないのよ。だからアタシらみたいなどうなってもいい捨て駒が必要だったんでしょ?何もできないアンタの代わりにがしゃがしゃ働いてくれる奴隷がさ!」
苛立たし気にカララがアリスの腹を蹴り上げた。
まるでそういう玩具のように再びアリスの口から吐しゃ物を漏らしながら再び銃が発砲された。
その一発は蹴り上げられた衝撃でとっさに指に力を入れてしまったのかまたもやあらぬ方向に発射され、カンッとどこかに反射したような音を立てただけで消えていった。
「ざーこ!ざこざこざこざこざこ!何もできないくせに、いっちょ前にかっこつけてんじゃないわよ!何もできないんだからおとなしくベッドの上で寝てればいいのよ!」
「…それは…でき、な…いね…」
吐しゃ物と…同時に吐き出してしまったのかわずかな血にまみれた顔をあげて震える手でアリスが銃を持ち上げる。
そして一発…ただ立っているだけのカララの横をすり抜けて空間の境目にぶつかって消えた。
「寝てろって言ってんのよ!」
「…できないと…言っている…余…わた、私が…ひとり、で…何もできないなんてこと…言われるまでもなく…私がいちば…ん…よ、く…知っている…でもそれは…一人で何もできないという事実は…何もしなくていいと…いうことへの…免罪符では…ないんだよ…」
生まれたての動物のように脚を、全身を震えさせながらアリスは立ち上がる。
だがすぐに口から胃液を吐き出しながら倒れた。
そしてまた…立ち上がる。
「っ…!き、きもいんだって!もううざいから寝てなさいって…本当に頭がおかしいんじゃないの!?」
「い、いや…私は…当然のことしか…してない…一人で何もできなくたって…私は…できるんだって…言える自分でいたいって…手だって…足だって動く…ならやれるんだ私は…」
アリスが哀れなほど震える手で銃を握りしめカララに向ける。
カララはナイフを握った拳をさらに強く握りしめ、怒りに任せてアリスの顔面を殴り飛ばした。
「ほら何もできないじゃない!無駄なのよ全部!…アンタが…アンタがさ!努力をしてるのは知ってんのよ!でもそれが何!?叶いもしない夢に向かって馬鹿みたいに努力して…でも結果が出なければ全部無駄じゃない!今だってアタシに一方的にボコボコにされて…惨めにどれでも立ち上がって…それでそんなに頑張ってなんになるのよ!目の前にある結果が全部なんだよ!アンタのやってること無駄なことしかないんだよ!」
「…そ、うかも…しれないね…世の中なんて…結果がすべて…そこに付随する努力なんて…何の価値もないものかもしれない…でも…」
何度も何度も失敗しながら、アリスは立ち上がり…そして何度でも銃を構えなおす。
「でも…「努力をした」って…自分に胸を…張ることはできるだろう…ほかの誰に見向きもされなくても…自分が…ほかならぬ自分自身に…「がんばったね」って…言ってあげることができるじゃないか…」
「は、はぁ…?」
「…結果が出なかった、何もできなかった自分は無価値だと…自分を見捨ててしまえば…そこで全部終わる…誰に認められなくても…何もできなくても…自分くらいは…何かができたんだって…自分を認めてあげたいじゃないか…そうしないと人は前に進めない…失敗を次の糧にはできない…トライアンドエラー…人の歴史の積み重ねはその繰り返し…何もできなくたって…何かができるっていえない人間は…それこそ何もできないじゃないか…うっ…おぇ…」
「ご高説どうもありがとうございます~。でもさアンタ忘れてない?失敗がどうのって…こっちは失敗できねぇって言ってんだよ!…まぁいいわ。ならアンタも思い知ればいいのよ…取り返しのつかない失敗ってやつを。アタシはアンタを殺さない…そうして自分の母親が死んだって報告を聞かせてあげるわよ。そうすれば私の気持ちもわかるんじゃない?世間知らずのお嬢様?」
その言葉にアリスが銃を真横に向けて発砲した。
乾いた音が周囲から一瞬だけ他の音を奪って静寂をもたらす。
「…余、はキミが思うほど…世間知らずではないよ…まぁ私自身が思うよりかは世間知らずなのだろうけどね…それと…これ、っ…また…何度も言うが…計画が失敗するのは…うぉぇ…キミたちのほうだ…あの母が…私がまだこうして立っているというのに、あの偉大な母が…死ぬはずがないのだから…だからその大きな背に…負けないよう…私だって寝てはいられないんだ…さぁカララくん続けよう…覚えているかい?最初に何発と言ったか…そして何発残っているか…」
「…最後の一発で何をしようっての?」
「覚えていたか…困ったね…でも…やることは、かわら…ない…残っている弾で…決着だ。キミのいう何もできない私がキミを降す…それでこの件は終わりだ」
アリ虐を書くのはこの小説を書いていて楽しい事トップ3に入るくらいには楽しいですね。




